127、ダラントの村
アトリフたちは森の中を馬で歩いていた。
ラレンは訊いた。
「アトリフ、この森に何があるんだ?」
「言わなかったか、俺の魔法の師匠がいる」
「本当に森の中なのか?家があるのか?」
「正確に言えば、村がある。ダラントという村だ」
「ダラントか」
ラミナはアトリフに訊いた。
「アトリフの魔法とはどんな魔法なのですか?」
「知りたいか?」
「もちろん」
アトリフは言う。
「そのうち見せるさ」
しばらく馬で行くと、森が開けた。
「ここがダラントだ」
そこは廃墟のような村だった。村の中の道もほとんど誰もいなかった。
少数の村人が廃屋のような建物を修復してかろうじて住めるようにしている感じだった。
皆、馬で現れたアトリフたちを怖れているようだった。
アトリフは目を細めた。
「昔はもっと活気があった。これもあの男のせいだ」
アトスは言った。
「アトリフ、ここに誰か知り合いがいるのか?」
アトリフは答えた。
「俺を覚えていてくれる人がどれだけいるか。なにしろ、ずいぶん昔のことだからな」
そこへ、ひとりの村人が近づいて来た。腰の少し曲がった老人男性で頭が禿げあがっている。
「やあ、やあ、もしかしてアトリフか?」
「おう、カボンか、久しぶりだな。しかし、この村の様子は何だ?ここまで荒廃しているとは?」
「あの戦いのあと、もう、この地に住み続けようとしたのはわしら一族だけになってしまった」
「そうか・・・すまなかった」
「あんたが謝ることでもないだろう?」
「うむ。ところで見せたい者がいる。ラミナ」
「はい」
ラミナは前へ進み出た。
「カボン、あのとき私が拾った子だ。名はラミナ」
「おお、あのときの?大きくなったな。しかも美人だ」
「この子を拾った場所に行きたいと思うのだが、あそこはあの頃のままか?」
「川辺のことか?わしは長年ここで暮らしていているから、大きな変化があったとは思わん。しかし、あれからずいぶん経つ。あんたは久しぶりだから、ここも大きく変わっているように見えるかもしれん。まあ、行って見なさい」
「うむ」
アトリフは馬を進めた。ラミナたちはあとに続いた。
川辺でアトリフは馬を降りた。水は透き通った綺麗な川だった。
川辺には葦が繫茂していた。
「ここだ、ラミナ。俺がおまえを拾った場所は」
「え?」
「ここに籠に入れられた赤子のおまえは流れ着いていた。それを俺は拾って育てたのだ」
ラミナにとってアトリフは歳の離れた兄だったが、実際は父親だった。
ラミナは憂鬱だった。こんな自分の知らない自分の過去を知らされて憂鬱にならない者ははいない。
「よし、では師匠の所へ行こう」
ザザックやアトスはこれには強い関心があった。アトリフの魔法の師匠。どんな人物なのか。
アトリフは馬を進め、村から離れ森の中に入っていった。一行はそれに続いた。
「ここだ」
アトリフは馬を降りた。他の者も下馬した。
そこは森の中の墓場だった。そこにある墓石のひとつの前にアトリフは足を止めた。
「師匠」
ラレンは驚いて言った。
「え?師匠って、死んでるのか?」
「十五年前までは生きていた。ヒュンダスに殺されたのだ」
「え?」
「俺はまだ魔法を使えなかった。かといって剣で奴に勝てるとは思わなかった。師匠が俺を逃がしてくれた。そして、師匠はヒュンダスに敗れ死んだ。俺は森に隠れていて、戻って見ると師匠の死体がそこにあるだけだった」




