124、結婚パレード
ナナシスはまだ、王城でカリア姫の姿でいた。
カリア姫はハイン王国の王子カルガンと面会した。
太った二十歳くらいのカルガン王子はカリアの美しさに大興奮だった。
「ヒュンダス陛下、私にこの子をくださると言うのか?」
「もちろんだ。ハイン国の皇太子よ」
「さっそく、結婚式を挙げよう。そして、寝よう」
王子はもうカリアを見て鼻息をフンフン言わせていた。
ヒュンダス国王はさすがに笑った。
「今すぐ結婚とは気が早いな」
「善は急げと申しましょう?」
ナナシスは思っていた。
「こいつが隣国の皇太子?俺を見て鼻息を荒げていやがる。おもしれ―。もうちょっとこの姿でいよう」
カルガン王子は言った。
「すぐに結婚式を挙げます。今日ここで、そして、今宵は新婚の夜を楽しむのです。もしそうでなかったら、この縁談はなかったことにする」
ヒュンダスは言った。
「それは困りましたな。今日と言われても準備ができていないでしょう」
「今日がいいのだ!」
ナナシスは思った。
「なんだ、この甘えん坊みたいな男は?」
ヒュンダスはその我儘に閉口し折れた。
「わかりました、簡略でよろしければ本日式を挙げましょう」
「やったー。こんなかわいい子とエッチができるぞー!」
王子の我儘ぶりを見てナナシスは思った。
「こいつバカか?カリア姫、どこにいるか知らないが、あなたは運がいいですぞ」
王都は大騒ぎになった。
「カリア姫が今日結婚式を挙げるってよ」
「大通りをパレードするそうだ」
「そうなると、やっぱり国王陛下もパレードするのかな?」
「いや、しないだろう。主役が一番目立たなくちゃ。国王はパレードが終わって、ふたりの結婚を認める儀式を行うんだ」
「え?となると、城の北西にある塔に閉じこもっている第四王妃ハリミア様も出席するのかな?」
「するかな?」
「しないだろう?鬱だから」
「さすがにするだろう。自分の娘の結婚式だぜ?」
この会話を近くで聞いていたユリトスとオーリは、その情報をしっかり頭に入れた。
デボイ伯爵の元妻、第四王妃ハリミアは、鬱で城の北西の塔に閉じこもっている。
ヒュンダスは、結婚式準備に王城と町が大騒ぎになっているとき、城の北西の塔の上にいる第四王妃ハリミアの居室を訪ねた。
「ハリミア、入るぞ」
ヒュンダスは中へ入った。ハリミアは窓際に椅子を置いて、外を見ていた。
「ハリミア、我々の娘が結婚するぞ。相手は西の大国ハインの皇太子だ。これで、我々はハイン王国の将来の王の義理の親になるのだぞ」
「くだらない」
「なんだ、これでも心を閉ざすか?なんなら、おまえを第一王妃にしてやろうか?」
「くだらない」
「なにをそう怒る?」
「カリアの気持ちはどうなのです?」
「喜んでおるぞ。なにしろ相手がハインの皇太子だからな」
「本当ですか?あの子が喜んでいる?」
「ああ、そうだ。おまえも自分で確かめるがよい」
「わかりました。気が向いたら行きましょう。陛下は下がってください」
「ほほ、ようやくここを出てくれるか」
ヒュンダスはハリミアの部屋を出て、自分の寝室に戻った。そして、正式な王の法衣を着て、王座に就いた。王城の中庭にはパレードに出席するために、ウエディングドレスを着たナナシスとモーニングを着たカルガン王子が屋根のない馬車に乗っていた。
王城の外では、パレードを群衆が待っていた。その中にユリトスたちもいた。
五味は言う。
「なにやってんだよ、ナナシスは。マジであのデブと結婚するつもりか?」
九頭は言う。
「あれか、カリア姫の美しい姿で、結婚式を挙げて祝福されたいとか思ってるのか?」
加須は頷く。
「そうだな、普通の人間じゃ、そんなふうに華やかに祝ってもらうことはないもんな」
すると、パレードが始まった。王城の東の正門から出て、ユリトスたちのいる角を右に折れドラゴン街道に出て街道を東へ走り、北に折れ、さらに大通りを西に折れて帰って来るというコースだ。
馬車の上の美しすぎるナナシスは沿道に向かって上品に手を振っていた。
五味と九頭と加須もつい手を振ってしまった。そして思った。
「なにをやってるんだ、俺たちは」
「あれはカリア姫じゃない。ナナシスじゃないか」
「ナナシスの奴も幸せそうだったぞ。まんざらでもないってことか?」
馬車は王城に入っていき、パレードは終わった。
そこへデボイ伯爵とモロスがライドロを連れて来た。
「ユリトスさん」
「おお、デボイ伯爵」
「あのカリア姫は?」
「もちろんナナシスだ」
「結婚するのか?」
「そうだ」
「今、王城の門は開いているな」
「うむ」
「乗り込む。私の迷宮魔法を使って」
「そうなるだろうと思った。あなたの妻ハリミアは北西の塔に閉じこもっているそうだ。そして鬱病であるらしい」
「鬱病?やはりヒュンダスの元にいて正気でいられるわけがない」
「本物のカリア姫はなぜかアトリフが連れていた」
「え?」
「北の森に行ったらしい」
「北の森?そこになにがあるのです?」
「さあな、その子がライドロか?」
「なぜそれを?」
「アトリフの情報だ。あなたが連れて来ると」
「どういう情報網を持っているんだ、あの男は?」
「そのアトリフが言うには我々がライドロを北の森に連れて来いと言う。私は奴が何を考えているか知らんが、その話に乗ろうと思う」
「アトリフと組むのか?」
「ヒュンダスと組むよりマシだと思うぞ」
「それはそうだが・・・ユリトス殿がアトリフと組むとは」
「組むのではない。これはカリアとライドロの恋の手助けを共同でやるということだ」
「わかりました。ライドロ君。この方はユリトスというロガバでは名の通った剣士だ。信頼できる人だ。ついて行きなさい。そこにカリアがいる」
「さっきの馬車に乗っていたのは?」
「ナナシスという我々の仲間の変身師だ」
「変身師?」
「カリア姫は北へ向かったそうだ。ユリトスさんたちについて行きなさい」
「デボイさんは?」
「私はハリミアとナナシスを助けるために王城に乗り込む」
「ひとりでですか?」
「私は迷宮魔法が使える。あの城を魔法で迷宮にする。あの城の中で迷わず移動できるのは私ひとりしかいなくなる。だから、ひとりで行く」
ユリトスは言う。
「そうだ、ここはデボイ殿ひとりの方がやりやすかろう。ライドロ王子よ、私たちについて来なさい」
「わかりました。デボイさん、ご無事で」
「うん」
モロスが言った。
「旦那様、私も置いていくので?」
「モロスもユリトスさんたちといたほうがいい。私はひとりで乗り込む。もしおまえと行くとしたら、おまえとはぐれたらと心配でならん」
「わかりました。ご無事で」
デボイ伯爵はひとりで城の方に歩いて行った。
「神よ、ドラゴンよ、我に力を与えたまえ。デランの王城を一日の間迷宮に変えさせたまえ!はぁっ!」
すると晴れた空から稲妻が城の上に落ちた。
デボイ伯爵は混乱する門番たちの間を抜けて城の中へ駆けて行った。




