123、ハイン王国カルガン王子の到着
翌朝、五味たち一行は大通りに出た。朝の市が立っていた。人々が大通りを行き交っていた。
ユリトスは言う。
「その角にカフェがあるから、そのテラス席で飲み物でも飲みながら、デボイ伯爵たちが来るのを待とう」
その角のカフェとは、王城前の大通りと、ドラゴン街道からの大通りが交差する角だった。一行はテーブル席ふたつを占領した。
そこへ、アトリフたちが通りかかった。
「む、アトリフ!」
ユリトスは立ち上がった。
アトリフはニヤリと笑った。
「いやぁ、ユリトスさんではございませんか?」
アトリフの後ろに隠れるようにフードを被った少女がいた。
ユリトスはそれを見て驚いた。
「む、その子はカリア姫!なぜ?」
アトリフは言う。
「俺たちはこれからこの王都の北にある森へ行く。おまえらも来るか?ライドロ君を連れてな」
「なに?ライドロ?私たちはその子と共にいないぞ」
「これから来るデボイ伯爵が連れて来る」
「なに?」
「俺たちは先に北の森に行く。カリア姫は連れて行く。おまえらがライドロ王子を連れて来れば、すべては丸く収まる」
「どういうことだ?」
「すべては北の森に行けばわかる」
そのとき、声を出したのはカリア姫だった。
「あの、アトリフさん」
「なんだ?」
「私をここに残してくれませんか?ライドロがここへ来るのでしょう?」
「あなたはここでライドロと会いどうするつもりです?ヒュンダス王に結婚を認めてもらうのですか?今日は西の国ハインから婚約者が来るそうじゃありませんか?ここは俺たちに任せた方がいいですよ」
「北の森になにがあるんですか?」
「俺の師匠がいる」
「それだけですか?」
「ラミナを拾った場所をラミナに見せたい。それから少し、俺は感傷に浸りたいのだ」
ラレンは、「アトリフが感傷に浸りたいなど珍しいものだな」と思った。
ポルトスとアラミスはこの会話が始まったときから、アトスを見ていた。
口髭を生やしたアトスは、エレキアの横に立ち、ポルトスとアラミスと目を合わせていた。
五味と九頭と加須はカリアとラミナの美しさに見惚れてしまい、エレキアの大人の女性の魅力にもうっとりしていた。
アトリフは言った。
「それでは、北の森で会おう」
アトリフたちは馬を預けてある場所へ向かって歩いて去って行った。
ジイはユリトスに言った。
「追わないのか?」
「追ってどうにかなるものではないでしょう。我々はここでデボイ伯爵を待ちましょう。彼とは別れたはいいが、再会場所を決めなかったのは失敗だった。ここまでデランの王都が大きいとは思わなかった。まあ、この角のカフェは人を待つには格好の場所だ」
すると、ドラゴン街道の方から楽隊の音楽が聴こえて来た。
人々は言った。
「あ、あれはハイン王国のカルガン王子の御到着だ」
ユリトスたちはカフェのテラス席に座ったまま、王子のパレードを見た。馬車に乗った王子カルガンは太っていて我儘なお坊ちゃまという感じだった。王子を乗せた馬車は角を曲がり王城の方へ行進していった。




