120、デランの酒場
レイド―は側近のバルバと共に別の宿にいた。
「バルバよ。本当にカリア姫とライドロを結び付ければ、物語の英雄になれるのか?」
「う~ん、もしかしたら、逆かもしれませんね」
「逆?」
「今はデラン王ヒュンダス様の時代。国王のために働くことが栄誉ある行為です。ここはヒュンダス様のために、ライドロというカリア姫をたぶらかす男を捕えて国王の前に引き出すほうが栄誉ある行為かもしれません」
「なるほど、行為の評価は評価する者によって変わるというわけだな」
「おっしゃる通りでございます」
「よし、情報収集だ、酒場に行くぞ」
外はもう日が沈みかけていた。
レイド―とバルバは大通りの酒場に入った。中では多くの人々が酔い、喋り、笑っていた。
レイド―とバルバはカウンターの席に座った。
「マスター、ウイスキー、ロックで」
「私も同じものを」
ふたりはウイスキーをちびちび舐め始めた。
隣の男ふたり組が喋っているのが聞こえた。
「しかし、ザザック、ドラゴンの秘宝が仮に手に入って、願いが叶うとして、アトリフは何を願うんだろうな」
「うむ、不老不死とかか、やっぱり」
「不老不死か・・・」
その言葉を聞いてレイド―は隣を見た。すると見覚えのある男の顔がそこにあった。
「あ!お、おまえは!」
ラレンはそう言うレイド―を見て言った。
「あ!レイド―!」
「な、なに?」
ザザックは立ち上がって剣の柄に手を置いた。
レイド―も立ち上がった。
「貴様はラレン。やはりドラゴンの秘宝を求めて、西へ旅しているのか?」
「そうだ」
レイド―はザザックを顎で指して言った。
「この男は何者だ?」
「剣士ザザックだ」
「剣士か。私を斬ろうと言うのか?」
ザザックは言った。
「おまえ、剣の腕は大したことないな」
レイド―は笑った。
「ふふん、試してみるか?」
バルバは笑って言った。
「ザザックとか言うお方よ。レイド―様と戦えば一瞬であなたは死にますよ」
「なにをふざけたことを、俺から見たら隙ばかりじゃねえか」
バルバは笑った。
「レイド―様は時を五秒間止められます」
「なに?」
さすがのザザックも驚いた。
「レイド―様はその五秒間で敵を殺します。あなたは敵になりたいですか?」
「はったりじゃないのか?」
ザザックがそう言うと、レイド―は右手にグラスを持っていた。
「これは何だ?」
「ワインじゃないか、それがどう・・・」
ザザックは自分のカウンター席を見た。そして肝を冷やした。
「俺のワイングラスか?」
「ふふ、そういうことだ」
ザザックは席に座った。
「よこせ」
レイド―の手からワイングラスを受け取り、ワインを飲んだ。
ラレンも席に着いて、カクテルを飲んだ。
「ところで、ラレン、ザザック、おまえたちはこの国の第四王妃の娘カリア姫の恋人ライドロを知らないか?」
「ライドロ?誰だ、それは?」
「知らないか。マスター、あんたは知らないか?」
「さあ、私は今日、カリア姫が城に戻ったことを聞いたばかりです。号外が出たのを見ませんでしたか?」
「号外?新聞か?」
「もちろん、号外と言ったら新聞でしょう?」
「マスター、持っているか?」
「はい、これです」
そこには「王女、王都に帰る」と大きく書かれてあった。写真はこの世界にはない。
ラレンとザザックはニヤニヤしながらグラスを傾けた。
「そいつはニセモノだよ」
そう思いながら酒を飲むのは愉快だった。
ラレンはレイド―に訊いた。
「あんたはその姫の恋人を探してどうするつもりなんだ?」
「王に差し出すのさ」
「差し出す?」
「王女をたぶらかした男は王に処罰されねばならないだろう?」
すると、マスターが言った。
「明日、西の大国、ハインからカリア様の婚約相手の王子様がここへ来るそうですよ」
「なに?それは本当か?」
レイド―はそう言って、考え始めた。
「どうすればこの件で私の名声を挙げることができるだろう。ライドロ捕獲・・・できれば結婚前に成し遂げたいものだ」
ラレンとザザックはレイド―を怖れてすぐに店を出て別の居酒屋に入った。




