1168、ゼランの本当の願い
ゼランは再び五味たちが様子を見に来ている鳥居を潜り、赤いドラゴンの前に来た。
「おい、ドラゴン。弟は太陽になったのか?死んだのではないのか?」
赤いドラゴンは言う。
「太陽になったのだ。太陽は光。光は宇宙がなくなるその時まで消えることはない。したがって、あの者は、永遠の命、全ての生命を育む力、あらゆる生物の運命、そういったもの全てを手に入れたのだ」
「それはおまえの理屈だ。あいつはただ、世界の王者になりたかったのだ」
「それならば、なぜそう言わない。俺は願いを叶えてやったぞ」
「だから、それはおまえの理屈だろう?」
すると青いドラゴンが言った。
「おい、おまえは真空の剣で卵の殻を斬った者だな?それならば次男の俺が担当だ。さあ、願いを言え」
ゼランは言う。
「またひねくれた解釈をするんじゃないだろうな?」
「いいや、おまえの望み通りにしよう」
「じゃあ、俺をこの世の王にしてくれ」
ゼランがそう言うと、青いドラゴンはこう言った。
「それはおまえの本当の願いではない」
「なに?」
「アカの兄者はさっきの者の本当の願いを叶えたぞ。心の奥底に眠る願いだ」
アオのドラゴンはそう言った。
ゼランは言う。
「俺の心の奥底に眠る願い・・・?」
「ああ、そうだ。それがおまえの願いだ。俺たちはその者が本当に望む願いを叶える」
ゼランは下を向いて考えた。
「俺の本当の願い・・・」
ゼランは崩れたドラゴンの城の瓦礫の山を見た。
「母さん・・・?」
ゼランは青のドラゴンを見た。
「まさか・・・?」
青のドラゴンは言う。
「そうだ、それがおまえの願いだ。言うがいい。おまえの素直な心を。その気持ちを」
ゼランは鳥居の前で自分に注目している五味たちを横目で見た。
「俺の・・・俺の、本当の願いは・・・」
青のドラゴンは言う。
「本当の願いは?」
ゼランは呼吸を整えて言う。
「俺の願いは、母さんの所へ行くことだ」
青のドラゴンは眼を閉じて言った。
「わかった。その願い、叶えてやろう」
そして、青のドラゴンは、「えいやっ!」と言って眼を開けた。
すると、ドラゴンの城の崩れた瓦礫の上に鳥居が現れた。
ゼランは言う。
「あれは?まさか入るとガランのように燃え尽きるのではあるまいな?」
「いいえ、あなたはここに来ても燃え尽きません」
それはゼランの母親の声だった。
「母さん?」
ゼランは吸い寄せられるように瓦礫の上の鳥居に歩み寄った。
すると、驚いたことにその光る鳥居の中から女性の手が一本伸びてきた。
「さあ、掴まりなさい。私のいる世界に来なさい」
ゼランはその声を聞いて涙を流した。
「母さん。間違いなく母さんの声だ」
ゼランはその手を取った。
「母さん・・・」
「さあおいで、母さんのいる世界へ」
ゼランは優しく母親の腕に引かれて、鳥居の中に入って行った。
すると、鳥居は消えた。
そこに残されたものは月面の瓦礫の山だけだった。




