1164、転生について
オーリは九頭の頭を抱いて泣いた。
「九頭、九頭ー!」
オーリは九頭の頬に自分の頬を重ねた。
「私は、私は・・・、アリシアは死んだ。死んで加須と同じ世界に生まれ変わる。でも私はまだ死んでいない。死ねば、九頭の世界に生まれ変わるかしら・・・?」
するとレセンは言う。
「死ねば異世界に生まれ変わることはあるが、それは時間も空間も飛び越えて生まれ変わる。今死ねば、九頭と同じ世界に生まれ変わるとは限らない。時差もある」
オーリは顔を離して、九頭の頭を持ってその眼を見つめた。
「死んでいる・・・」
すると、九頭の死体は忽然と消えた。
「え?」
オーリは辺りを探したが、今、腕の中にいた九頭はどこにもいなかった。
レセンが言う。
「マースが召喚送致した。彼の遺体はバトシアに戻った。その体にはクーズ王が転生して入るだろう」
オーリは訊く。
「転生とは意識は変わらずということですか?」
「九頭とクーズの場合はそうだ。それが私の魔法だ」
「普通の人も、死ねば転生するのですか?」
「そうだ。しかし、前世の記憶は残らない」
「じゃあ、何が転生するのですか?」
「魂だ」
「魂とはなんです?」
「魂は動力とでも言っておこうか」
「動力?」
「魂は輪廻転生する。その上に精神と肉体が乗る。肉体はどの世界にも同じものが存在する。その肉体に、時間と空間を超えて入り込むのが魂だ。肉体に魂が入れば生命となり、やがて精神が形成される」
五味は訊く。
「常に同じ肉体に生まれ変わるのか?」
「そうだ。どの世界にも必ず、おまえたちと同じ肉体は存在する。私の転生魔法はそれら同じ肉体同士の魂を入れ替えることだ」
ゼランはレセンに訊く。
「俺の体も同じものが異世界にあるのか?」
「ある」
「それはやっぱり魔王なのか?」
「いいや、この世界では魔王なだけだ」
「それじゃ、悪人も善人も同じように生まれ変わるのか?」
「そうだ」
「悪人は死ぬと地獄に落ちて罰を受けることはないのか?」
「悪人とは悪人であるというだけで、罰は受けている」
「どういうことだ?」
「悪であることが不幸であることに気づかないのが悪人だ」
「じゃあ、悪に怯える臆病な善人は幸せなのか?」
「臆病も悪だ」
「なに?」
「善人とは強く正しい幸せな者だ。臆病は善人の属性ではない」
「じゃあ、善人ってのは・・・」
「ゼラン、おまえの前にいる」
ゼランは五味を見た。
五味は刃を握っていた右手から血を流している。
「貴様が善人・・・!」
五味はゼランを見た。無相の瞳で。
「み、見るな。そんな眼で!」
ゼランは立ち上がった。
そのとき、彼はネランが真空の剣を持って、卵を持つネズトスに歩み寄っているのに気づいた。




