1146、ふたつめのヒビ
九頭は涙を流しながらゼランと剣を交えた。
「くそ、アリシア、アリシア」
加須は寂滅の剣を地面に置いて、アリシアの体を抱いて泣いた。
「アリシア、アリシア、俺の、俺たちのアリシアが、死んじまった。もう、会えない。おまえは転生しても記憶が残らない。俺たちの記憶が残らないんだ。この世界での思い出が残らないんだ。そんなおまえを生まれ変わって見つけてなんになる?もう二度と話すこともできないんだ。死というのは心臓が止まることじゃない、愛する人と二度と会えなくなることなんだ。俺たちのアリシアは二度と俺たちの前で笑ったり喋ったり歌を歌ったりできないんだ。でも、俺たちの旅は本当に色々なことがあった。俺はアリシアがいてずっと幸せだった。もっと、もっと、歌いたかった。話をしたかった。それなのに、それなのに・・・うわあああああああ!」
オーリは言う。
「加須、今、ゼランは九頭と戦っているわ。あなたもその剣を持って戦って!」
加須はゼランと九頭の方を見た。
九頭は必死でゼランの剣を受け止めている。ときどきかすり傷を受ける。もういつ致命傷を受けてもおかしくない状況だった。
そして、ついにゼランは九頭の剣を弾いた。
真空の剣は九頭の手を離れ、空中に回転して飛ばされたあと、地面に突き刺さった。
ゼランは狂喜して、その剣に飛びついた。
「やった、真空の剣を手に入れたぞ。ガラン、卵をよこせ」
ゼランが弟のほうを向くと、ガランは地面に倒れていた。
「兄者、卵は盗られた」
「なに?」
ゼランが五味のほうを見ると、ネズトスが卵を両手で持って五味に向けてかざしていた。
五味は白熱の剣で、その卵を斬った。
すると卵の殻のヒビは大きくなった。




