114、メイデンの町に向かって
また、コツンと音がした。
それは石がぶつかる音だった。
加須は勇気を出して外を見た。すると下にユリトスとデボイ伯爵が立っていた。
加須はこの部屋が自分たちのいる部屋だとよくわかったな、と不思議だったが、それは窓際にいた加須の影がランプに照らされて窓にくっきり表れていたからだがそんなことはもうどうでもよかった。
五味も窓から外を見た。
ユリトスはまた石を投げた。石は部屋の中に飛び込んだ。九頭がそれを拾うと。石は紙にくるまれていた。
九頭が紙を広げると、「助けに来た」と書かれてあった。それを見た五味は部屋にあった羽根ペンで返事を書いて、石をくるんで投げ返した。ユリトスはそれを読むと、頷いて去って行った。
加須は五味に言った。
「おい、ユリトスさん帰って行ったよ。どうしたんだ」
「助けに来たらしいけど、今俺たちだけが助かると、カリア姫がナナシスだとバレるから、救出は後にしてくれ、って返事を書いて投げたんだ」
加須は「やっぱり五味は頭がいいのか?」と思った。
「でも、アラミスたちは逃げてないよな?」
五味は「確認して来る」と言って部屋を出た。部屋の外には見張りの憲兵がいた。
「どこへ?」
「アラミスたちの部屋だ」
「隣です」
五味はアラミスたちの部屋のドアをノックした。ドアはすぐに開かれた。
「ああ、アラミス」
五味は部屋に入りドアを閉めて声を潜めて言った。
「ユリトスさんたちがこの町に来ている」
「え?」
「でも、まだ、助けに来ないように伝えた。またチャンスのあるときにナナシスを連れて逃げよう」
「わかりました」
五味は再び廊下に出て、隣の部屋に戻った。
翌朝、マルデンの町をナナシスと五味たちは出発した。その後ろを追うように間隔をあけて、ユリトスたちが出発した。五味たちは馬車に乗っていたから、徒歩のユリトスたちよりは速かった。それでも、馬車はゆっくり進んだため、あまり差はなかった。なにしろ、ドラゴン街道という一本道をひたすら西に向かうので、迷うことはなかった。途中分かれ道があっても、そちらは明らかにドラゴン街道ではないとわかる、舗装のされていない道だった。
「オーリ」
ユリトスは言った。
「次の町は?」
ユリトスも調べてはいたが、オーリと確認することでより深く考えることができた。オーリの意見も参考になった。
「次の町はメイデンです。その次がデランの王都です」
「うむ。どれくらいで着く?」
「メイデンまでは一日かかります」
そこへ、後ろから馬を馳せる音が聞こえた。ユリトスたちが振り返ると二頭の馬が男を乗せてやって来る。
「どうどう」
その二頭はユリトスたちの前で止まった。
その馬に乗っていたのは名声王レイド―とその側近のバルバだった。
ユリトスたちは急に険しい顔をした。
「レイド―、ここまで来るとは何の用だ?おまえの町プキラは陥落したではないか?」
「陥落しても王は生きている。それにもう、私は王という地位に関心はない。権力よりも名声だ。今、ベインのハイドロの三男ライドロが行方不明ということだ。なんでもデラン王の娘カリア姫と恋仲にあるそうだ。私はその三男ライドロを見つけ、ふたりを結ばせようと思う。そうすれば私の名声もグンと上がるだろうからな。王女と王子の叶わぬ恋を叶えたキューピッド、デラン国民の間で私の功績が語り継がれていくだろう。お伽噺みたいにな。それを先に誰かにやられぬうちに、私がライドロを見つけなくてはならん。私はライドロの顔を知っている。隣国の王子だからな。じゃあ、お先に。ハイヤッ!」
レイド―とバルバは馬を馳せてドラゴン街道を西へ去って行った。




