1138、願いを言う権利
ネランは言う。
「ワシレス。俺はこれからおまえと組んでいいか?」
ワシレスは言う。
「組む?どういう意味だ?」
「ガラン様の・・・いや、ガランから、寂滅の剣を奪う。そして、あの卵に一太刀入れるのだ」
「ガラン様と戦うのか?」
「おまえもまだ、奴に『様』をつけるのか?律儀な奴よ。もう自由になってもいいんじゃないか?奴ももう死にそうじゃないか。俺もだが」
ネランは血を吐いた。
ワシレスは言う。
「ネラン、大丈夫か?」
「大丈夫ではない。ワシレス、死ぬ前に、おまえに願いを託したい。俺たちの願いだ」
「なんだ?」
「ドラゴンと人間の和解だ」
「和解?」
「人間とドラゴンは共に生きていかなければならない」
ガランは言う。
「貴様ら、そのような願いを叶えたいと言うのか?愚かな。俺の願いはドラゴンの支配する世界だ」
ゼランは言う。
「俺の願いは、俺が再び人間の王となり世界を・・・」
ゼランは崩れ落ちた城の瓦礫を見た。その手前に夥しい知性のないドラゴンたちが犇めいている。
「母さん・・・!」
ゼランは左脇にドラゴンの秘宝、レセン三勇士の卵を抱えていた。
ガランは言う。
「兄者よ、その卵を俺によこせ」
ゼランは言う。
「おまえこそ、その寂滅の剣を俺によこせ」
ガランはニヤリと笑った。
「これでどうだ?」
ガランの寂滅の剣を持った手が空中で消えた。
そして、現れた場所はゼランの左脇だった。
その一太刀で卵にはヒビが入った。
ゼランは右手の矛でガランの腕を払ったが、もうすでに遅かった。
ガランは笑った。
「ははははは、これで三つの願いのうちひとつは俺のものだ!」
ワシレスとネランは悔しがった。
「あと聖剣は二本ある」
ワシレスは五味と九頭の聖剣を見た。
ザザックと、ラレン、ジイ、ラーニャ、アラミスが五味と九頭、それからポルトスに回復魔法をかけるオーリの周りに集まって防御の姿勢を取った。
ガランはもう満足していた。
「これで俺が願いを言う権利を得た」
するとゼランが言った。
「レセンよ。その鳥居の中にいるのだろう?聞きたいことがある」
鳥居の前には加須が立っていた。その後ろの鳥居はしばらく黙っていたが、中から声が聞こえた。
「なんだ?ゼランよ」
ゼランは言う。
「卵に一太刀浴びせた者が願いを言う前に死んだらどうなる?」
この言葉に一同は固まった。
ゼランはつまり、弟のガランを殺したら、その願いを言う権利はどうなるのかと言っているのだ。
「あ、兄者・・・」
レセンは答えた。
「そうなれば、その者は当然願いを言えなくなる」
ゼランは言う。
「それはわかる。だが、願いを言う権利はどうなるのだ?ガランを殺した者に権利が移るということはないか?」
レセンは言う。
「それはない。ただ、願いを言うべき者が死んだら、その権利も消滅する」




