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1137、日本人

「「チョロオオオオオオオオオ!」」

五味と九頭は叫んだ。

チョロの首は無残にゼランの右手の鋼鉄の矛の上から血を垂らしていた。目玉はぎょろ目で、今まで生きていたチョロがしない表情をしていた。

五味は言う。

「俺たちの仲間がまた殺された」

九頭は真空の剣を握りしめた。

「こ、この野郎、・・・・」

九頭は恐怖と怒りで頭がおかしくなりそうだった。今にもゼランに斬りかかりたい気持ちだった。しかし、隣にいる五味を意識すると、殺したいと思う自分が未熟な者のように思えて、行動を自制していた。

「五味、ダメなのか?あいつを斬っては?仲間が殺されたんだぞ?」

五味は九頭の顔を見て、そして、チョロの顔を見た。

「俺も、正直、恐怖と怒りでおかしくなりそうだ。あれを見ると、平和主義が非現実みたいに思える。でも!」

五味は九頭の眼を見て言った。

「平和主義を貫いてこそ、俺たち日本人なんじゃないか?」

九頭は久しぶりに日本人という言葉を聞いて、五味の眼を見つめた。

「日本人・・・」

五味は言う。

「戦争に負けたとき、不戦を誓ったのが日本人じゃないのか?俺たちはそういう教育を受けてきた。バカな俺でもそれくらいわかる。平和主義は相手が戦争を仕掛けてこようとしたときこそ貫いて価値あるものになるんじゃないか?外国が攻めてきたら現実的でないと、不戦の誓いを捨ててしまうようでは、それは誓いとは言えないんじゃないか?」

その言葉は鳥居の下に出ていた加須にも聞こえた。

「そうだ、俺たちは日本人だ。戦争をしない日本人だ。平和を愛する日本人だ。五味、おまえはいいことを言う奴だ。もしかして、ずっと、それを意識して殺さずを貫いてきたのか?」

五味は加須を見る。

「当たり前だ。でも、俺たちはゲームの中で敵を殺しまくっていた。このドラゴニアの世界は、魔法使いもドラゴンもいる。ゲームみたいな世界だ。でも現実だ。俺たちが生きていた日本のある世界とは異世界だけど同じ現実であることに変わりはないんだ。世界が変われば、自分たちの思想も変わるようでは俺たちは生きているとは言えない。俺が思うのは、戦いはゲームやアニメやマンガの中だけでたくさんだということだ。現実に殺し合ってはいけないんだ。加須、九頭、俺たちは殺さずを貫くぞ。そうだ、今、ゼランが持っているドラゴンの秘宝を斬って、レセン三勇士のドラゴンを呼び出して願いを言おう。戦いのない世界を、という願いを」

ガランは笑う。

「バカめ、その秘宝を斬る聖剣の一本は俺が持っているのだぞ?」

ゼランは言う。

「俺にも一本よこせ」

ゼランは、矛になった腕を振ってチョロの首を投げた。その首は五味の足下に落ちた。

五味は首を見て、ゼランを見た。

ゼランは言う。

「なんだ?その眼は・・・?無相の瞳か?」

五味はゼランに言う。

「おまえは人間の王だろう?なぜ人間を殺すんだ?」

ゼランは言う。

「気に食わない奴は殺す。そのコソ泥は母さんを焼いて殺した。だから、殺した。人間として当たり前のことだ」

五味は大きな声で言う。

「当たり前じゃない!自分の母親が殺されたから、殺した人間を殺してもいい?違う!殺しはいけないから、殺しをやった人間を殺すというのは、殺しの無限連鎖の始まりだ。殺しがあってもそれ以上殺してはいけない!」

ゼランは言う。

「おまえの理屈だと、殺人犯は許されることになるな?」

五味は言う。

「許されない。殺人はいかなることがあっても許されない。だから、死刑もいけないんだ。『死刑にならない』イコール『許される』というのは間違った解釈だ」

「じゃあ、犯人をどうするんだ?一生独房にでも閉じ込めて置くのか?それとも自由に生きさせるのか?」

「俺はそこまでは考えていない。でもな、ゼラン。殺しは絶対にやってはいけない行為なんだ」

ゼランは言う。

「なぜ、いけないのだ?敵は殺す、当たり前じゃないか?」

「いいや、違う。敵のいない世界が本来あるべき世界なんだ」

五味の言葉にガランが言う。

「だが、現実にこの世界には人間とドラゴンがいる。ドラゴンナイトもいる。種族が違えば、戦うのは当然だろう?」

五味は首を横に振る。

「違う!種族が違っても仲良くやっていこうというのが、知性ある者の姿勢だ」

ガランは笑う。

「ふふん、出たな、知性。俺は知性がないドラゴンも同種族と見ている」

そこで言葉を挟んだのはワシレスだった。

「俺たちは違う。知性のないドラゴンなど俺たちとは種族が違うと見ていた。ガラン様、あなただけが、低脳なドラゴンを同種族と見ていた。俺たちはあなたがドラゴンの王であるから、それを受け入れていただけだ。人間と戦うのに、知性のないドラゴンを使うのは都合がいいからだった。でも、今、ここに来て、俺は悟った。俺たち知性あるドラゴンは知性のない野獣に過ぎないドラゴンよりも、よほど人間に近い種族だ。いや、姿は違えど、人間と同じだ」

すると、崩れ落ちるドラゴンの城から、翼をかろうじて広げたネランが降りてきた。ネランはワシレスの隣に立った。

「お、俺も、ワシレスと同じ意見だ。俺たちはドラゴンだが知性がある。あんな野獣たちと一緒にして欲しくはない」

ワシレスはネランを見た。

「スパイダーズのネランか?死にそうじゃないか?」

ネランは言う。

「ああ、俺はもうすぐ死ぬだろう。だが、ただでは死なないぞ。俺も願いを叶えるという野心がある」

そのとき、ドラゴンの城は完全に崩れ去り、月の上に瓦礫と化した。


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