1133、ガランが鳥居を潜る
ドラゴンの城はズシーンと音を立てて月に降り立った。あたかも月全体が揺れたかのようだった。
聖なる光を発する寂滅の剣を持ったガランは言った。
「ははははは、ドラゴンどもよ、城から出て来い!暴れてやれ!」
すると、トカゲ型ドラゴンを中心に低脳な野獣のドラゴンたちが城の踵から津波のように出てきた。
五味と九頭は聖なる光を放つ聖剣を持ってポルトスに回復魔法をかけるオーリの後ろに立った。ドラゴンたちは五味たちに近づけず、遠巻きに囲んだ。
九頭は言う。
「よし、ドラゴンたちには聖剣の光が効いているようだぞ」
ガランはひとり寂滅の剣を握り聖なる光を押し殺そうとしていた。
「こいつさえ、こいつさえ、紫の光に変われば・・・」
加須とアリシアの歌は、鳥居の向こうから聞こえてきた。
ガランは言う。
「そうか、この歌だ。こいつを止めれば。歌っている奴を殺せば」
ガランは寂滅の剣を持ったまま、鳥居の方に歩き始めた。
ワシレスと精鋭部隊が、ガランの進行方向を塞ぐように立った。
「邪魔だ。貴様ら。裏切り者が!」
ワシレスは言う。
「ガラン様、あなたは俺たちをいつも裏切ってきました。俺たちは確かにあなたのために働いた。しかし、それは自分たちのためだと信じていた。しかし、あなたは本当に自分が世界を支配することしか考えていなかった」
「当たり前だ。俺はドラゴンの王だぞ」
ワシレスは言う。
「おまえたち、ドラゴンの王を殺せ、ドラゴンの歴史を変えるんだ!」
五人は一斉にガランに飛びかかった。
すると、ガランは聖なる光を発する寂滅の剣を振るった。すると、それはものすごい力を発揮し、精鋭部隊の五人を斬った。五人は地に倒れ苦しみ動けなくなった。
ガランは尚も、鳥居に近づく。
ワシレスの横に、ザザックとラレンが立った。
ガランは三人に寂滅の剣を振るった。その光は緑色に鋭く輝いた。
三人は聖なる光に吹き飛ばされた。
これに一番驚いたのはガラン自身だった。
「おお?俺が聖なる光で攻撃ができた。この剣を持っていると全身が痛いことには変わりないが、攻撃力は聖剣士と変わらないのか?」
ガランはついに鳥居を潜った。
そこには加須とアリシアが手を繋いで歌っていた。
加須とアリシアはガランが現れたことで身がすくんだ。しかも、相手は聖剣を持っている。
ガランは聖剣を振り上げた。
しかし、加須とアリシアは真っ直ぐにガランの眼を見て、歌い続けた。
ガランは叫んだ。
「その歌をやめろおおおおおお!」
しかし、歌声は続いた。
ザザックとワシレスとラレンが鳥居の中に入ると、いつの間に入ったのか、アラミスが、ガランの胸を刺していた。
アラミスは言う。
「加須、アリシア、ラレン、ザザック、遅くなった。すまん」
アラミスはその豊穣の剣をガランの胸から抜いた。
ガランは血を噴き出して倒れた。
「お、おのれ・・・四つ目の心臓が・・・」
アラミスは言った。
「おまえは何個心臓があるんだ?」
ガランは地に倒れたまま寂滅の剣を放さなかった。
「ふふふ、その質問の答え教えてやろう。俺は新たな心臓を意識して作ることができる」
アラミスはもう一度、ガランを刺そうとした。
そのとき空から声が聞こえた。
「まて」
それはレセンの声だった。
ガランは言う。
「これがレセンの声か?どこにいる?」
「私は時空だ」
ガランは驚いた。
「時空?やはり神か?」
「神ではない。ドラゴンだ」
「じゃあ、王である俺の下につくべき者だな?」
「そうではない。この世にいるドラゴンはおまえに従うドラゴンだけではない。そこにいるワシレスなど知能が高いドラゴンは本来おまえの下にある者ではない」
「なに?」
「おまえはただ野獣の王なのだ」
ザザックたちは加須とアリシアをガランから遠ざけていた。
ガランはひとり鳥居の側に倒れて寂滅の剣を握っていた。
レセンは言う。
「ガランよ。ちょうど聖剣を持っているな」
「それがどうした?」
「それで、ドラゴンの秘宝を斬ってみろ。生まれたドラゴンがおまえの願いを叶えてくれるぞ」
ラレンたちは呆気にとられ何も言えなかった。
なぜ?なぜ、レセンがドラゴンの秘宝の秘密をガランに言ってしまうのか、まったく理解できなかった。
ラレンは言う。
「レセン、なぜだ?なぜ、それをガランに教えてしまうんだ?」
レセンは言う。
「私は、ここに来た聖剣を持つ者に、このことを教える役割も担っている。聖剣を持つ者はみな同等に扱わねばならない」
ガランは笑った。
「ふははははは、がははははは。ついに、ついに、このときが訪れた。あとはガラン城の中にあるドラゴンの秘宝を斬るだけだ。それだけで俺の願いが叶う。世界の王になれるぞ!わっはっは」




