1120、ネズトスの一撃
ガランはゼランと戦いながら言った。
「ネズミ、本気で俺を殺す気か?」
ネズトスは言う。
「このドラゴンの秘宝を見ろ。緑色の聖なる光を放っている。おまえにはこいつが効くはずだ」
「秘宝だけで俺を倒そうと言うのか?」
「秘宝だけじゃ足りないか?」
「魔王を斬るならば、寂滅の剣か真空の剣、あるいは白熱の剣でなければ致命傷は与えられないだろう。いや、そこにいるネランの持つ、豊穣の剣でもかすり傷くらいは与えられるかな?」
隠れていたネランはゾッとした。バレていた。魔王の目を欺くことはできないと思った。ネランはずっとスパイダーズとしてガランに仕えてきた。しかし、他のメンバーが死に自分だけになると、忠誠心も薄らいだ。ゼランが復活したことも理由にある。ネランは本当にガランにつくか、ゼランにつくかで迷ったが、秘宝を手にしたときから、自らが世界を手に入れたいと思う野心が沸々と煮えてきた。だが、こうして隠れているのがバレてしまうとは、さすがは魔王だと思った。勝てないと思った。
ネランは前に進み出て言った。
「この勝負に勝った方にネランはつこうと思います」
ガランはネランを睨んだ。
「強い者に従うというわけか?」
ネランは蛇に睨まれたカエルのように硬直して動けなかった。
しかし、そう言う、ガランも心臓をひとつ潰され苦しんでいた。
ゼランは言う。
「おとなしく負けを認めろ、ガラン。おまえは俺には勝てない」
「バカを言うな。これは事実上天下分け目の大決戦ではないか?」
「そうだ、ガラン、俺はおまえを部下にしてやる。世界を統一したら、おまえをドラゴンの王国の王にしてやる」
「ふん、すでに俺はドラゴンの王だ」
ネズトスは狙っていた。ガランに隙ができるのを。
ガランに隙ができれば、ドラゴンの秘宝とサーベルを持ってガランの懐に入り込み、心臓を一刺しするつもりだった。
「あいつはいくつも心臓がある。俺が刺しても死なないかもしれない。それならば何度でも刺してやる」
ネズトスは興奮していた。自分が世界の運命に重大な影響を及ぼす地点にいることに。
ガランは爪でゼランに襲いかかった。
ゼランは鋼鉄の腕でそれを受け止めた。
互いに打ち合いになった。それでも相手に傷を負わせることはできなかった。ただ、すでに心臓をひとつ潰されているガランは劣勢だった。
ガランはゼランから距離を取った。
「はぁ、はぁ、さすがに心臓が痛むわい」
ガランはチラリと秘宝を持つネズトスを見た。しかし、そこにネズトスの姿はなかった。
「逃げたか?」
「いや、ここだ!」
ネズトスの返答はガランの懐で聞こえた。
ネズトスはサーベルをガランの胸に刺した。
そこには心臓があった。
「ぐおおおおおおお」
ガランは大きな声で叫んだ。
「おのれ子ネズミ!死ね!」
ガランは爪で懐に入るネズトスを攻撃した。
しかし、ネズトスはその爪をドラゴンの秘宝で受け止めた。
ガランの爪は弾かれた。
「ぬおっ!」
ネズトスはもう一度ガランの胸を刺そうとした。
「あまいわ!」
ガランは足でネズトスを蹴飛ばした。ネズトスは王座の方に飛ばされた。
手から落ちたドラゴンの秘宝がチョロの前に転がった。
チョロは素速く、ドラゴンの秘宝とネズトスの体を拾い、王の間から逃げ出した。
ガランは怒鳴った。
「ネラン!奴を捕らえろ!秘宝を取り戻せ!俺のところに秘宝を持ってくればおまえの罪は帳消しにしてやる!」
ネランはチョロを追いかけ王の間から出ていった。




