1119、ふたりの世界征服への思い
チョロは逃げようとした。
しかし、背後からガランの腕がカエルの舌のように伸びてきて捕まってしまった。
ガランはチョロを自分の顔の近くに持ち上げて言った。
「貴様には何度か出し抜かれている。殺してもいいが、死にたいか?」
チョロは震えて言った。
「死にたいわけがないだろう」
「兄者、おまえはこいつを殺したいか?」
ゼランは答えた。
「なぜ、そいつを殺さねばならない。おまえの好きにするがいいさ」
ガランはチョロの顔を見て言う。
「おまえ、今、何か隠しているな?」
チョロは強がって笑った。
「何だと思う?」
ガランは言った。
「ドラゴンの秘宝か?」
「そうだ」
「そいつをどうした?」
「俺の仲間が持っている。俺を殺せばそいつは現れない。そうなればおまえの世界征服もない」
「く、こいつめ」
「とにかく、この俺を握っている手を離した方がいいと思うぜ?」
「ちっ」
ガランはチョロを床に降ろした。チョロはすぐに王座の横へ行き、ふたりの魔王から距離を取った。
ガランは心臓をひとつ潰され、苦しんでいた。
ゼランは笑う。
「苦しいか?弟よ」
「ふん、何が弟だ?そんなふうに思ったことはないくせに」
「母さんはおまえと俺がふたりで世界を統治することを望んだ。しかし、それは俺の千年を否定することになる。俺はずっとあの狭い場所で、この世の王となることだけを考えてきたのだ」
「それならば、ドラゴンの秘宝を手に入れたいのだな?」
「ガランよ。本当にその秘宝は世界を手に入れる力があるのか?」
「あるはずだ。そして、その力を発動させることができるのは空中神殿のレセンに違いない。今この城は月に向かって飛んでいる。月が空中神殿なのだ。そこにレセンがいる。そして、今、三人の王子が聖剣をそれぞれ持って月への階段を登っているはずだ。見ろ、あそこにある光の階段を」
ゼランは窓の外の夜空を見た。たしかに北の方に光の階段が見える。しかし、それは途中で消えていた。チョロもそれを見た。
「途中で消えているではないか」
ゼランは言った。
ガランは笑って答える。
「空間操作の魔法があるだろう?あの階段の消えた場所から、それ以上登ると、そのまま月に出るだろう。ただし、俺たちはこの城にいるまま、月まで飛んでいく」
ガランは天井を見て言った。
「そうだろう?母さん!」
「ええ、そうよ」
ゼランは言う。
「なんだ。母さんは理性がないのではなかったのか?」
「もうこれは母さんじゃない」
「じゃあ、なんだ?」
「城の姿をしたドラゴンだ」
「ドラゴン?親父は人間をドラゴンに変える魔法を持っていたのか?」
「親父は偉大なドラゴンの魔王だった。だが、人間の女と結婚したためにその息子である俺たちは親父と比べ魔力が弱くなってしまった。俺たちが純血のドラゴンだったならば、もっと強力な魔法が使えたはずだ」
ゼランは言う。
「今のままで充分だ。俺には剣技がある。白熱の剣を取り戻したい」
「剣技だけで世界は手に入らないぞ?」
「世界征服の過程が面白いのではないか?」
「俺は征服したあとの暮らしに興味がある」
「しょせんおまえは権力欲だけの野獣に過ぎない。俺のように世界制覇のロマンを知らない」
「ふん、人間はバカだ。夢だとかロマンに人生を捧げるなどくだらん」
「俺にはおまえが楽をして世界を手に入れようとしているのがくだらんと思えるぜ」
「おまえはバカな人間に過ぎない」
「いいや、俺は魔王だ」
いきなり、鋼鉄の腕とドラゴンの爪の戦いが再開された。
チョロはただ見ているしかなかった。
床では老ドラゴン・アンジが倒れている。
そこへ、秘宝を持ったネズトスが王座の左の入り口から入ってきた。
「ガラン!俺の主ベラン様の仇を取りに来たぞ!」
それを王座の右の入り口に逃げたと思わせていたネランが覗いていた。
「本当に来やがった」




