1118、ゼラン対ガラン
王の間の扉は開いていた。
その中からゼランとガランの声がする。
「ガランよ。おまえは北東に去れ。ここは人間の治める土地だ。つまり、人間の王であるこのゼランの土地だ。ドラゴンの王はドラゴンたちを連れて北東に去れ」
「ゼランよ。千年前、俺は確かに人間に負けた。それは人間の中に聖剣士がいたからだ。そいつはもともと、おまえの部下だった」
「ああ、そうだ。だが、奴は俺を裏切った。俺の白熱の剣を奪い金のドラゴンの神殿に封印した。そして、俺自身をこの城の牢に真空の剣で封印した」
「そうだ、そして寂滅の剣で俺を斬った。まこと憎い奴だった」
「しかし、あいつは世界を支配するでもなく、この城とドラゴンの大群を北東へ追いやると、姿を消した。人間界は王国が分立する世界となった」
「ああ、だから、俺はドラゴンの支配するひとつの帝国を作ろうと思ったのだ」
「俺は俺が統治する人間の帝国を作ろうと思った。だが、今、母さんはおまえと俺のふたりで、世界を統治しろと言う」
「母さんのことを信じるのか?もう耄碌しているぞ」
「耄碌などしていない」
「母さんは普通の人間だ。おまえのように魔王の血が入った超人ではない。千年も生きられるはずがないのだ。人間は持って百年。親父が魔法で母さんをこの城の魂にしたゆえに化け物として千年も生きることになった。もう、ボケている。考える理性などないぞ」
「いや、ある。俺は母さんと会話した」
「ふふん、それはな・・・おい、アンジ、説明してやれ」
王の間にいた老ドラゴン・アンジは言った。
「はい、この城の魂はたしかにまだ、おふたりの母君ですが、思考力はありません。だから、思考力があるかのようにするためにガラン様が魔法をかけたのです」
「なに?」
「つまり、この城は話しかけてきた者が望む言葉を返すのです。オウムのようなものです」
「バカな、さっきの会話がガランの魔法によるものだというのか?兄弟ゲンカはやめろと言ったのは俺がそれを望んでいるからなのか?」
「そうだ、兄さん。あなたがその気なら、俺だってふたりで力を合わせて世界を支配してもいい」
「ガラン・・・」
「兄さん握手をしよう」
ふたりは近づいた。
そして、握手をしようと手を伸ばした。
ゼランは人間の小さな手で、ガランは大きなドラゴンの手で。
その瞬間だった。
ガランの差し出された右手の爪がゼランの心臓を貫いた。
「バカめ!俺がおまえと仲良く手を組むと思うか?」
すると、ガランの懐のうちにもうひとりゼランがいた。ゼランは鋼鉄の腕でガランの心臓に突き刺した。
ゼランは言う。
「よく見てみろ。おまえが貫いたのは俺ではない」
ガランは自分の右手の爪が刺しているのを見た。それはゼランではなく老ドラゴン・アンジだった。
ゼランはニヤリと笑って言う。
「これが俺の魔法、身代わりの術だ。アンジ、長い間、ガランの世話、ご苦労だったな。俺の封印を千年間放置したことも感謝するぜ。安らかに眠れ」
アンジはガランの爪が胸に刺さった状態で血を吐きながら言った。
「おのれ、ゼラン・・・ぐぶっ」
ガランはアンジから爪を引き抜いた。アンジは床に倒れた。
ゼランは鋼鉄の腕をガランの体から引き抜いて言う。
「さて、おまえの心臓は何個だったかな?」
ガランはゼランを弾こうと腕を振るったが、ゼランは飛びさがって躱した。
この様子を覗いていたネランは思った。
「これは魔王と魔王の戦いだ。俺が太刀打ちできる相手ではない。ここに本当にドラゴンの秘宝を持ったあのネズミが来るのか?」
すると突然横にいたチョロが大きな声を上げた。
「ゼラン、ガラン、ここにおまえたちの部下のネランがいるぞ!」
ふたりの魔王は、チョロの方を見た。
ネランは怯えて逃げ出した。
ガランは言う。
「ネランめ、任務を放棄しよって」
ゼランは言う。
「任務?」
「あいつはおまえに不意打ちを食らわせるはずだった。そして、俺がトドメをと言うわけだった。あいつの臆病で作戦が失敗だ」
ゼランは苦々しく言った。
「あの二重スパイめ」
「なに?二重スパイ?」
「俺にも同じ約束をしていた。おまえの隙ができれば攻撃し、俺がおまえを殺すと」
ガランは心臓を刺された血の流れる胸を押さえて言う。
「がはは、お互い奴に騙されていたわけだな」
「あとで殺してやる」
ガランはチョロを睨む。
「で、おまえはなぜここにいる?」
チョロは身のすくむ思いがした。




