1110、光の階段を登る五味とラーニャ
五味はいつのまにかラーニャの手を引いて階段を登っていた。まるで、ラーニャと神の元へ行くつもりの覚悟があった。
なにしろ転生予約である。自分は死ぬのである。今後、近いうちに百パーセント、ラーニャとは別れなければならないのだ。
五味はラーニャの手の感触をしっかりと胸に刻んでおこうと思った。こんなことでも、彼の人生においては最も重要なことのひとつだった。
五味はラーニャの顔を見た。ラーニャはその目で五味の顔をしっかりと見ていた。もう五味にはラーニャの顔がブスには見えなかった。それは唯一無二のラーニャの顔だった。
思えばラーニャは最初、五味たちの敵の山賊の頭の娘だった。彼女もほとんど敵だった。しかし、冒険を続けて行くうちに五味はこの娘を深く愛するようになった。最初は腰の括れがいいとしか思っていなかった。しかし、共に旅をするうちに良い所がたくさん見えてきた。悪いところも見えたが、それも愛する対象になぜか入った。ラーニャは剣士だ。五味はその殺しを良くないと思った。しかし、ラーニャの存在それ自体はまったく否定し難いものだった。五味は、男は愛した女の欠点まで愛するようでなければダメだと考えた。もし、良い所だけを愛するならば、結局それは完璧な女しか求めないのと同じだった。
五味はラーニャと最後まで共に生きたいと思った。結婚?それが何を意味するか五味にはわからなかった。共に生きる覚悟ができればそれでいいのではないかと思った。五味には法律上の結婚にまったく価値を見いだせなかった。五味はこのドラゴニアの冒険で無法地帯を生きて来た。法律に守られた社会で、心まで法律が染みこんでいる愛の在り方は嘘くさく思えた。真実の愛は社会制度を超えると確信していた。




