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1107、ネラン

チョロは言った。

「ポルトス!」

ポルトスの姿のネランは言った。

「おお、おまえたち、ここにいたのか」

チョロはこれがポルトスではないなどとまったく疑わなかった。

「ガランは俺たちを狙っている。俺たちは加須のいる礼拝堂には行けない。ポルトス、おまえがこのドラゴンの秘宝を持って行ってくれないか?」

「うむ、わかった。俺が持って行く。おまえたちは他の誰かが迎えに来るまでここに隠れていろ」

「ああ、わかった。頼む」

ネランはテーブルの上で激しく緑色の光を放つドラゴンの秘宝を手に持った。

ネランは思った。

「この秘宝で苦しむのは魔王の血が流れている者だけなのだな。俺が持っても苦しくもなんともない」

ポルトスの姿のネランは外へ出ていった。


礼拝堂ではまだ加須とアリシアは歌っていた。

ガランは言う。

「その歌をやめろ!」

加須とアリシアだけでなく他の人々も歌をまた歌い始めた。

ガランは腕を鋼鉄の剣に変えて、振り回した。

前にいた人々は斬られた。

しかし、倒れても歌える者は歌い続けた。

ガランは言う。

「なぜだ?なぜ、歌を歌う?死にたいのか?」

すると、斬られて倒れた老人は言う。

「歌うのをやめて魔王に屈服するよりは、死ぬまで歌い続けたほうがいい。それが人間の誇りだ。それをあのふたりは教えてくれた」

ガランは苦々しく祭壇前の加須とアリシアを見て、そのあと、その倒れた老人を殺そうと剣の腕を振り上げた。

その驚きで歌が止んだ。

そして、振り下ろした剣を防いだ者がいた。

ザザックだ。

ガランはザザックを見下ろして言った。

「貴様・・・、そうか、それは肥沃の剣か」

「ああ、そうだ。おまえが作った魔剣、豊穣の剣と対をなす剣だ」

「そうだ、今、トーマが持っているはず。そうだ、あいつは今・・・」

「外で倒れてるぜ。よっぽどラミナの一撃が効いたらしいな。しかも頑張って飛んだのがあだになったようだ。俺に簡単に殺されたぜ」

「なに?殺された?」

ガランが礼拝堂の出口を見ると、五味たちが並んで立っていた。

ザザックは言う。

「外に奴の死体は魔剣を握ったまま倒れてるぜ」

すると、五味たちの背後にこんな声がした。

「その魔剣とはこれのことか?」

五味たちが振り返ると、ポルトスが魔剣を右手に卵形の白濁した緑の石を左手に持っていた。

しかし、ポルトスはさっきから五味の隣にいる。つまり、現れたのは偽のポルトスだった。

ニセモノのポルトスは言った。

「ガラン様、これが何かおわかりですね?」

ガランは笑顔になった。

「おお、その声はネラン。声だけは元のままになるのだな」

「ガラン様、この剣をこのドラゴンの秘宝に充てたらどうなるか」

ガランは慌てた。

「まて、やめろ、そんなことをしたら、それは聖剣になってしまう」

ネランは言う。

「なってもいいじゃないですか」

「なに?」

「俺が使うんですから」

「どういうことだ?」

「魔剣のままでは、それの使い手はあなたの操り人形だ。聖剣ならば、持つ者の意志に答えてくれる」

「ふふん、わかっているじゃないか。つまりそれはまだ魔剣だ。おまえは俺の命令を・・・」

「もう遅い!」

ネランは魔剣をドラゴンの秘宝に充てた。すると、紫に光っていた魔剣は、その光の色を緑に変え、聖剣・豊穣の剣になった。

ガランは言う。

「ネラン、貴様は裏切るのか?」

ネランは言う。

「いいえ、ただ、あなたの操り人形は嫌でして」

「どういうことだ?」

「自由が欲しいのです。もうスパイダーズの生き残りは俺ひとり。ガラン様に忠誠は誓いますが、操り人形は勘弁して欲しい。俺にも意志がありますから」

「じゃあ、どうしてくれるのだ?その聖剣で戦ってくれるのか?」

「いや、逃げましょう。このドラゴンの秘宝を持って魔王の城へ」

「なに?逃げる?」

加須とアリシア、その他の住民は歌を再開した。

ガランは言う。

「ええい、そのうるさい歌をやめろ!」

加須は言う。

「聞きたくなければ去れ!」

ネランは言う。

「ドラゴンの秘宝はこちらにあります。ガラン様、退くのも・・・」

そのとき、礼拝堂の天井に大きな音がした。

人々はまた歌うのをやめた。

天井からバラバラと屋根の木材が落ちてきた。

天井が燃え始めた。紫の炎だ。

ガランはゾッとした。

「まさか、城が?」

ガランはついに翼を広げ飛んで五味たちの頭上を越え、礼拝堂を出た。ネランもドラゴンの姿になり、外へ飛び出した。彼は豊穣の剣とドラゴンの秘宝を持って行った。

加須は歌うのをやめた。

「みんな、逃げろ、天井が落ちてくるぞ!」

加須の言うとおり、天井が火災で落ち始めた。

五味たちも含め、人々は礼拝堂の外へ出た。

外にはすでにドラゴンたちはいなく、ただ、戦いで死んだ人間とドラゴンの死体が横たわっていた。その中にザザックが殺したトーマの死体もあった。

振り返ると礼拝堂の屋根は紫の炎で燃えていた。

五味は加須の背中の剣を見た。

「おい、加須、おまえ、その剣を抜いてみろ」

「え?」

加須は聖剣を抜いた。

それは緑の光をわずかに放つ、聖剣・白熱の剣だった。

「呪いが解けたのか?」

五味は言う。

「ドラゴンの秘宝と、三つの剣と、加須とアリシアの歌が揃うと、聖剣は力を発揮するみたいだ」

九頭は言う。

「じゃあ、三本の聖剣が揃ったならば、月の神殿に行こうぜ。月への階段が現れるはずだ」

オーリは言う。

「ドラゴンの秘宝はいらないの?」

九頭は言う。

「あれはガランが欲しがっていた『全てを手に入れる』ものだろ?俺たちに必要なのは、三本の聖剣だ。そして、月にあるという空中神殿に行って、レセンに転生予約してもらい、願いを叶えてもらうんだ」

オーリは言う。

「願いって?」

加須は言う。

「世界平和だろう?」

五味は言う。

「そうだ、人間もドラゴンも平和に暮らせる世界だ」

ジイは言う。

「ところでチョロはどこに行ったのじゃ?」

ラーニャは言った。

「そういえば、あのネランとかいうドラゴンはドラゴンの秘宝を持っていた。ということは、あいつに殺された?」

ポルトスは言う。

「いや、まて、あいつはなぜ、俺の姿をしていたんだ?あの姿でチョロとネズトスを騙したんじゃないか?」

アリシアは言う。

「じゃあ、生きているのね?」

ポルトスは言う。

「とにかく、探してみよう」

ラレンは言う。

「しかし、あの魔王の城は、どうする?怪物がこの町を破壊しようとしているみたいだぜ?」

ザザックは言う。

「また、乗り込むか?」

オーリは言う。

「あのゼランというお兄さんとガランは仲良くできるのかしら?」

ラレンは言う。

「仲が悪い方が好都合だ。あのふたりが力を合わせて、あの城と共に暴れられたら敵わんぜ」

五味は言う。

「それも俺たちの世界平和の願いで解決できるさ。だからガランたちは無視して、俺たちは月へ行くんだ」

ポルトスは言う。

「その前に、チョロとネズトスを探すのが先だ」

みんなはひとかたまりになって、チョロの名を呼んで探し始めた。

夜空にはときどき、魔王の城からの破壊光線が走り、町を燃やした。

チョロはなかなか見つからなかった。

ラレンは言う。

「これじゃ、埒があかない。一度、月の神殿に戻ろう。チョロが死んでいたとしたら、その死体を見つけるまで俺たちは延々と探すことになる。それよりは五味たちだけでも空中神殿に行ければそのほうがいい。とにかく、魔王の城を止めるのはドラゴンへの願いしかなさそうだ」

ポルトスは頷いた。

「そうだな。よし、月の神殿に戻るぞ」


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