1102、ルナシルの町
ルナシルの町は北側を海に接していて、東側に大河ガンダリア川の河口を見る位置にある。南側には山脈地帯があり、西には海岸線に沿って沃野が続いている。
町の中央には礼拝堂と市庁舎があり、その前は広い広場になっている。
加須とアリシアはとりあえずこの広場に出た。
町には低脳なドラゴンたちが押し寄せてきていた。
町の住民は武器を持って戦っていた。
加須は言う。
「チョロは逃げのプロだ。普通に探していては見つからないだろう。おまけに空にはドラゴンの王ガランが眼を光らせている」
たしかに上を向くと、翼のあるドラゴンが飛ぶ中にひときわ大きいガランが翼を広げて飛んでいる。
「俺たちがチョロに居場所を教える方法、それは歌だ。でも、町の街路で歌っていてはガランに見つかる。じゃあ、どこで歌えばいいか?礼拝堂だ。あそこから歌声が聞こえても不自然はない。チョロならば俺たちだと感づいてくれるはずだ」
加須とアリシアは礼拝堂に入った。
礼拝堂には女や子供たち年寄りが避難していた。その人垣を縫って、加須とアリシアは祭壇に向かった。
一方、月の神殿では、ゼランが五味と九頭を人質にして待っていた。そこにはガランの配下でスパイダーズのひとり、ネランが同じように神官を人質にしていた。神殿の近くではまだザザックとトーマが戦っている。
ゼランはネランに言う。
「おい、おまえ、そうしているのでは退屈だろう?」
スパイダーズのネランは言う。
「退屈ですが、仕事です」
「では、俺が仕事をやろう」
「私はガラン様の・・・」
「ガランはもうすぐ死ぬ。俺の部下になれ。おまえはスパイだ。そして、変身師だ。命令をやる。ドラゴンの秘宝を持ってこい」
「は?しかし、それではガラン様と・・・」
「そうだ奴も秘宝を探している。そして、さっき魔剣を持って行った加須も秘宝を探している。ガランは空中から探している。あれでは見つからないだろう。そこで奴は加須の動きに注目するはずだ。あいつはあのコソ泥と仲間だ。コソ泥は当然あいつのところに現れるに違いない、とガランも考えるだろう。そこで、おまえがコソ泥に先に会い、秘宝を持ち帰るのだ」
「そのあとは?」
「そのあと考える。とにかく俺の手元に秘宝が来ればよい。ここに秘宝と聖剣二本が揃えばあとの一本は俺の魔剣。俺の命令で動かすことが出来る。奴はここへ帰ってくるのだ。そうすればめでたく全てが揃う」
「わかりました」
ネランは人間の姿になり神殿を出て行った。
外にはザザックがトーマと戦っている。その横をすり抜けネランは走って行った。
ザザックはネランに言った。
「貴様、どこへ行く?」
「ドラゴンの秘宝のところへ!」




