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105、カインの町の夜

ユリトスがカインの町にいる五味たちのもとに戻ったのはその日の夕方だった。

宿で一同は食事をした。

「みんなソウトス軍はプキラに退却した。これで私たちは追われることなく、西への旅を続けることができる」

ユリトスがそう言うと、五味は言った。

「じゃあ、観光しながら行けるのかな?」

「いや、現在、我々はカネがない」

ユリトスがそう言うとチョロが言った。

「え?俺が百万ゴールドも持ってるじゃないか?」

「それは盗んだカネだろう?」

「盗みも立派な仕事だ」

チョロは胸を張って言った。

ユリトスは厳しい顔で言った。

「ダメだ。盗みは悪だ」

「なんだよ、じゃあ、この宿から出て行くか?俺のカネで泊まれるんだぜ?俺の仕事に文句言う筋合いはないだろう?」

「すまなかった。チョロ。しかし、我々は盗んだカネでいつまでも旅を続けるわけにはいかない。次のベインの町で、何か仕事を探そう。そして、カネができたらまた旅を続けよう」

「そしたら、俺はお払い箱か?けっ」

チョロは立ち上がった。

「俺は俺がこのグループにいる意義を収入源だと思っていた。おまえらは俺を都合のいいときだけ頼るんだな?それで、カネができたら俺は用なしか?」

五味は言った。

「そんなことはない。おまえは仲間だ」

「仲間?役立たずのか?」

チョロの言葉に九頭が返した。

「俺とゴーミ王とカース王は、王ではあるけど、役には立たない。戦えないし、魔法も使えない、旅の知識もない。ただ、一緒にいるだけだ。役に立たなくても一緒にいるのが仲間じゃないか?」

九頭の言葉にチョロは感激した。

「じゃあ、俺が盗みをしなくても仲間だと認めてくれるのか?」

九頭は言った。

「ああ、もちろんだ」

チョロは泣き出した。

「お、俺は、いま、すげえ、嬉しくて・・・すまん」

チョロはもう嗚咽して喋ることさえ出来なかった。

ユリトスは思った。

「クーズ王、それにゴーミ王、そして、カース王、やはり、なにか不思議な力を持っている」

一同は食事を終えると、部屋に入った。

久しぶりに、五味と九頭と加須は三人だけになった。

ベッドに寝転がった五味は天井を見て言った。

「俺たちが働く?できるのか?そんなこと」

九頭はベッドの端に腰かけて言った。

「無理だろうな。無職十五歳、いや、もうすぐ十六歳」

加須は窓辺に腰かけて言った。

「転生してから何日経ったか数えたか?」

五味は寝返りを打った。

「そんな余裕はなかったよ。何日って言うか、何か月ってくらいの長さだよな」

加須は窓の外を見て、次に部屋の中を見て言った。

「俺たちって本当に死んだのかな?」

九頭は即答した。

「死んだだろ?あの校舎の屋上から落ちたんだぜ?」

「じゃあ、ここにいる俺たちは誰なんだよ?」

そういう加須に五味は言った。

「俺たちは俺たちに違いはねえだろ」

加須は五味に言う。

「じゃあ、死んでないよな」

九頭は言う。

「だから死んだんだよ。あの時点で。それで転生してこっちの世界に来たんじゃないか?」

「ふふふふふ」

五味は笑いだした。加須はそれを見て言った。

「何がおかしいんだよ?」

「はっはっはっはっは。そういう話題は、俺たちが転生してすぐに話題にするべきだったと思った」

五味が腹を抱えて笑うので九頭と加須も笑った。

「はっはっはっは」

「俺たちは死んでないってことか?」

そう加須が言うと笑う五味は言った。

「そうだよ、間違いないよ」

九頭も笑って言った。

「そうだよな。これは死んだとは言えないよな。場所と立場が変わっただけで」

加須は言った。

「俺の尻のホクロまで前世と同じ位置にあったよ」

三人はまた笑った。

「「「はっはっはっは」」」

「夢でも見てんのかな?」

「夢にしちゃ、リアルだ」

「ああ、痛みとかもあるし、疲れも、腹が減るのも、ついでに性欲まである」

五味はガバッと体を起こして言った。

「ああ、性欲で思い出したけど、おまえら、元の城に戻って、ハーレムで遊びたいと思うか?」

九頭は天井を見て言った。

「そういや、思わねえな」

加須も頷いた。

「うん、たしかに。あそこは何でも手に入ったけど窮屈だった」

五味は笑顔で言う。

「俺さ、なんかこの旅、充実してるんだよな。怖いこともあるけど、ずっと続けたいくらいに思うよ」

九頭も頷く。

「俺も。でもユリトスさんは職探しをしろって言うんだろ?」

加須は言う。

「なんか、前世の日本で中学時代に就活しなかった俺らが異世界でするってのも不思議だよな」

五味は言う。

「働くって楽しいのかな?」

九頭は言う。

「楽しいわけがないだろう?」

加須は言う。

「いや、意外と楽しいのかもしれないぞ」

九頭は言う。

「何でそう思うんだよ?」

加須は笑った。

「崖から落ちて川に流されるよりはずっと楽しいだろう?」

九頭と五味は笑った。五味は笑いながら言った。

「そういや、加須は何回ボルメス川に流されたんだ?」

「ええっと、最初に逃げ出したときが最初で、次はキャドラの崖から飛び降りて、次はマヤメチュの手前で落とされて、三回だな」

「また、どこかで流されるかもな」

三人は笑った。夜遅くまで喋って笑った。


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