103、優雅なひと時
次の町までは湖に沿った岸辺の道を歩けばよかった。
木々が陰をつくり日差しを避けることができるし、湖からの風は涼しかった。この気候は、乾燥していて太陽光の暑さはあるものの、湿度はなかった。五味たちは日本の夏とは違うと感じた。
そして、湖に沿って左にカーブしている道の先には次の町が岸辺に見えていた。オーリが今朝買った地図によると、カインという町だった。ハイドロという首長の町は、カインから西へ坂道を登り峠を越えた向こうにあるベインという町だった。
「とにかく、カインまで行きましょう」
オーリは先頭に立った。
五味は思った。
「オーリは頭がいい。だから、ユリトスさんがいないときは、一番強いポルトスではなくて、オーリがリーダーになるのかな?まあ、戦いになったらポルトスだろうけど」
一行は、岸辺を歩いた。まるで戦争などがない気持ちの良い日和のようだった。湖には波がなかった。時折魚がはねた。水鳥が優雅に水上を泳いでいた。湖全体は森深い山に囲まれている。その湖の一番奥にカインの町はあった。
カインに着くと一行は三頭の馬を繋いだら、レストランに入った。
「ここでユリトス様を待ちましょう」
オーリはそう言った。
食事代はチョロが払うことになる。ポルトスなどはコソ泥チョロの収入で旅をするのに罪悪感を覚えていた。今朝もチョロは誰かから盗んだらしい。
五味たちは自分たちの食事ができることを優雅だと感じていた。これは城のハーレムで遊ぶことなどよりも、ずっと優雅であると、三人の意見は一致した。デボイ伯爵はひとり上の空で、食事中も手が止まり窓の外の湖をぼおっと見ていた。ナナシスはまだパン屋の太った女将さんだった。
いっぽう、ケインの町に戻ったユリトスは、高台に見物場所を見つけそこから町を見下ろした。この町が戦場になることは地形から見て間違いなかった。東にはドラゴンの神殿のある峠があるのだ。そこから降りて来たソウトス軍と一戦交えるならば、やはりこの町が戦場になるのは必至だった。それゆえ、町民は皆、カインの町に避難した。
そして、西はベインの町から、カインを通り、大将のハイドロ首長が多くの兵士に囲まれてやってきた。東はドラゴンの神殿から降りて来たソウトス軍が、町に近づいた。
ケインの町は一触即発の緊張感に包まれた。




