102、ハイドロ軍集結
アトリフはデボイ伯爵を睨んだ。
「この子は、俺の妹だ。親などいない。違うか?ラミナ?」
ラミナは言った。
「そう、私には親はいない。私の家族はアトリフと五人衆だけ」
デボイ伯爵は言った。
「おまえの母親は、ハリミアじゃないのか?」
「そんな人知りません」
こんなやり取りをしている間もじつは朝からこの町には例のハイドロ軍が集合していた。鎧を着た兵が、次々にこの町にやって来る。ユリトスは彼らを見ていて、これは常備軍ではないな、と思った。ユリトスの目から見ると、この兵士たちは普段は一般の市民だろうと思われた。もちろん、訓練はされている。しかし、どこかにプロの兵士ではない感じがした。税として訓練し戦う兵士だろうと思われた。
アトリフはそんな町を見て言った。
「さあ、行こう。すまないが、デボイさん、あなたとは町内会が一緒だったが、それ以上の縁はない。俺の妹に関わらないでもらいたい」
アトリフたちは宿の前につないであった馬に乗って町を出て行った。
デボイ伯爵は項垂れていた。
ジイは言った。
「デボイ伯爵。まだチャンスはありますよ」
「ジイ殿、親子とは血でしょうか?それとも共に過ごした時間でしょうか?」
ジイは少し考えて言った。
「それは親子によって違うのではありませんかな?」
デボイ伯爵はジイの顔を見た。
「あなたには家族がおありか?」
「孫もいます。しかし、わしは多くの時間を共に過ごしていない。わしにはゴーミ陛下のほうが、お生まれになったときからの時間を多く過ごしている。だから、陛下はわしの孫のようなものじゃ。これはちと、僭越な言い方だがな」
「ふっ」
デボイ伯爵は顔をあげた。
「行きましょう」
ユリトスたちはケインの町を出発した。そして、森の中の道を進んだ。進むほどに兵士たちと多くすれ違った。
ポルトスはユリトスに言った。
「ハイドロ軍とは?」
「うむ、ここらの市民が狩りだされているようだ。いや、狩りだされているというより、皆、半ば常備軍だ」
「武器を持たない者もいます」
「魔法で戦うのかもしれない」
「魔法で?しかし、魔法で戦ったレイド―の軍はソウトス軍に敗れました」
「魔法使いの兵士も恐らくボールガンドが最強クラスだったかもしれん」
「たしかに彼はまともに戦えば勝てる相手ではありませんでした」
「攻撃に使える魔法とはどのようなものがあるのだろうな?興味があるな」
「戦見物でもしますか?」
「うむ」
ユリトスは立ち止まった。
「アラミス」
「どうしました?」
「私は戦見物をしにケインの町へ戻る」
「え?それは危険では?」
「ポルトス、おまえは一行を率いて、次の町まで行って欲しい。私は戦の状況を見て追いつく」
ポルトスは答えた。
「俺も見物したかったが、まあ、このメンバーを守るのにたしかに俺まで抜けると危険だ。先生、ご無事で」
「うむ」
ユリトスは馬に跨り、馬首を返しケインの町に向かって引き返した。
五味は不安になった。
「え?ユリトスさん、どこ行くの?」
「ケインの町だ、必ず戻ります」
ユリトスはそう言い残して森の中を駆けて行った。




