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1、最低な三人

 五味(ごみ)九頭(くず)加須(かす)は中学二年生になり、三人揃って同じクラスになった。

この三人はなにをやってもダメな男たちでなんとか人生を我が物にしようと日頃から様々な努力をしていた。

五味は顔はダメ、体格もひょろひょろ、頭も悪い、運動もダメ、性格も暗い、だからモテない、人気がない、友達もいない。

九頭は顔はダメ、体格はチビでデブ、頭も悪い、運動もダメ、やっぱり性格も暗い、したがってモテない、人気がない、友達もいない。

加須は顔はダメ、体格は背が高いがデブ、頭も運動もダメ、だからモテない、人気がない、性格も暗い、友達がいない。

そんな三人が同じクラスに集まった。

しかもそのクラスには、()()(すぎ)という、顔よし、体格よし、頭よし、運動よし、性格も明るく、すべての人に好かれるタイプで、モテるし、先生にはよく褒められるし友達もたくさんいて、本当に素晴らしい男子がいた。

ついでに同じクラスには、出木杉をそのまま女子にしたらこんな感じかと思われるような、美好(みよし)麗子(れいこ)という完璧な女の子がいた。

麗子は男子のあこがれの的、もちろん、五味も九頭も加須も彼女を狙っていた。

五味は美好麗子に告白したかった。しかし、勇気がないのでそれができなかった。それは九頭も加須も同じだった。

三人は同じクラスになってからも、しばらくは教室の中の離れた場所から彼女を見ているだけだった。

彼らの教室は二階にある。その教室前の廊下の窓から、校門近くの大きな桜が見える。その花が散って青くなる頃には、出木杉と麗子が親しく話をしている姿が教室などで見受けられるようになった。

五味は恨めしい目で出木杉と麗子が話す姿を遠くから見つめていたら、同じように恨めしそうにふたりを見つめている九頭と加須の姿が目に入った。

五味は教室の後ろの出入り口付近にいたふたりに近づいた。

「なあ、ふたりとも、もしかして、出木杉と麗子さんの仲が気に食わない?」

九頭は答えた。

「あたりまえさ、出木杉の奴が恨めしいよ」

加須も言った。

「あのふたりは俺たちとは違う世界の人間なのかなぁ?」

五味は言った。

「そんなことはない、俺たちはふたりと同じ人間じゃないか。そうだ、三人で協力して、出木杉を俺たちのところまで引きずりおろさないか?」

「え?」

「そんなことができるかな?」

「三人で力を合わせればなんとかなるさ。三人寄れば文殊の知恵って言うじゃないか」

そして、三人は意気投合した。

三人は出木杉を麗子から遠ざけるための作戦を練るために、九頭の家に集まった。

九頭はふたりを自室に招いた。最初、三人はその六畳間の床に腰を下ろし、テレビゲームをやった。格闘ゲームだ。九頭と加須が対戦しているとき、五味は九頭の書棚を眺めていた。ライトノベルやマンガがたくさんある。ライトノベルは平凡な少年が異世界に転生して勇者として活躍するものが多かった。五味は書棚の下の方の目につきづらい所にエロマンガがあるのを見つけて、手に取った。

五味は言った。

「九頭、ティッシュないか?」

九頭は加須のキャラをKOしてから、言った。

「おい、まさか、やるつもりかよ」

五味は言った。

「もうビンビンなんだよ」

加須は五味の持っているエロマンガを見て言った。

「俺も立ってきた」

九頭は笑った。

「なんだよ、ふたりとも、人の家でやるのかよ。じゃあ、俺も」

五味と九頭と加須はティッシュを何枚か取って、パンツの中に手を入れた。

「お、おお」

「い、いい」

「いっちゃう」

「「「麗子さーん!」」」

三人は同時にうっとりとした顔になった。

しばらく三人は恍惚とした表情で黙っていた。

そして、五味が言った。

「って、俺たちは何をやってるんだ。こんなことをしている場合じゃないぞ」

加須も言った。

「そうだ、こんなことをしている間に、出来杉と麗子さんが付き合うようになったら・・・」

五味は言った。

「ふたりがキスする関係になったら・・・」

加須は言う。

「きゃー、嫌だな」

九頭は言う。

「おい、ふたりとも、俺は後悔している。おまえたちに自分の部屋でやらせたことに」

そう言って窓を全開に開けた。

「くせえんだよ。きゃー、嫌だ」

三人は笑った。

五味は言う。

「じゃあ本題に入るぞ。麗子さんから出来杉を遠ざける作戦を考えよう」

九頭の部屋には勉強机の他に、ちゃぶ台があった。そこで、三人は頭を突き合わせて相談した。

そして、作戦が決まった。美好麗子の靴箱に出木杉からのラブレターを入れる。もちろんラブレターの内容は、三人が考えたもので出木杉の人格を貶めるようなものだ。五味がちゃぶ台でそれを書いた。九頭と加須は左右からそれを覗き込んだ。

「麗子さん好きです。僕はあなたを愛しています。とくにあなたのお尻が好きです。今度触らせてください。おっぱいも好きです。揉んでみたいし、舐めてみたいです。一緒にスケベなことをしましょう。あなたも真面目ぶってるけど、ほんとはスケベなんでしょ?」と五味が便箋(びんせん)に書いた。

すると九頭がもうひと言加えるように言った。

「PS’あなたのウンコを食べてみたいです」

九頭はほくそ笑んだ。

「完璧だな」

五味は便箋を折って、封筒に入れた。

加須は言った。

「あとはこれを靴箱に入れるだけだね」

五味は笑った。

「これで、出木杉は麗子さんに嫌われる、うひひ」

翌日の放課後、みんなが下校したあとに、三人はこっそり誰もいない昇降口へ行って、美好麗子の靴箱に手紙を入れた。

五味は言う。

「これで、明日の朝、麗子さんはこの手紙を読む」

九頭は言う。

「そして、出木杉を嫌いになる」

加須は言う。

「そしたら、俺たちにも可能性が出てくる」

三人はワクワクして翌日を待った。

しかし、残念ながら三人の期待は外れることになる。

靴箱に手紙を入れるのを学校一のブスで五味たちと同じクラスの部佐ぶさ育子いくこが目撃していたのだ。

翌朝、美好麗子は学校に来ると靴箱に手紙が入っているのを見つけた。麗子にとってそれは珍しいことではなかった。手紙を見た瞬間、麗子が考えたことは、どう断ろうか、ということだった。しかし、差出人が出木杉だったので、麗子は驚いた。

「出木杉君が私に手紙を?」

麗子は手紙を鞄に入れて教室まで歩いた。

教室にはすでに、五味、九頭、加須の三人が来ていた。他にも何人かの男女がいた。麗子はその中の親しい友達に「おはよう」と言った。もちろんその親しい友達の中に五味たちは含まれていなかった。五味たちは麗子があの手紙をもう読んだのか、それともまだ読んでいないのか、そして、読んでいたとしたら、出木杉に会ったらどんな反応を示すか、ワクワクして待った。麗子は教室の前の方にある自分の席に座った。

そこへ、部佐育子が現れた。

「ねえ、麗子ちゃん、靴箱に手紙が入ってなかった?」

麗子は頷く。

「うん、入ってた」

「それ、五味君か、九頭君か、加須君からじゃない?」

「え?出木杉君の名前が書いてあるけど」

「え?あたし、見たよ、昨日、あの三人があんたの靴箱に手紙を入れてるの」

「え?ほんと?」

「出木杉君に聞いてみたら?本人が手紙を出したのか」

「うん」

そこへ出木杉が現れた。

麗子は声を掛けた。

「あ、出木杉君、ちょっと」

「なに?麗子さん」

そう言って出木杉は麗子に近寄って行った。

それを教室の後ろの出入り口から見ていた五味と九頭と加須はワクワクしていた。

「もうすぐ、出木杉が破局を迎える」

五味たちには麗子と部佐育子の会話は聞こえていなかったのである。

「出木杉君、私の靴箱にこれ入れた?」

そう言って麗子は出木杉に封筒を見せた。

出木杉は言った。

「なにこれ?」

麗子は言った。

「知らないの?ほら、ここにあなたの名前が」

出木杉は否定する。

「なんだよ、これ?僕、こんな手紙出してないよ」

育子は言う。

「やっぱり、五味君たちのいたずらじゃない?開けて内容を読んでみたら?」

麗子は封筒を開けた。

それを教室の後ろの出入り口から見ていた五味たちは「いよいよだ!」と期待に胸を膨らませていた。

麗子は内容を読んだ。

「なにこれ!最低!」

麗子は叫んだ。

五味たちはその叫びを聞いてガッツポーズをした。

「「「よっしゃぁ!」」」


五味と九頭と加須は他にもあの手この手で出来杉を麗子さんから遠ざけようとした。しかし、すべて失敗した。


そして、秋になった。

校舎中庭の銀杏(いちょう)が黄色く色づき始めた頃だ。

ある日、教室で出木杉は麗子に話しかけた。

「今度の日曜、派手(はで)市に電車に乗って映画でも観に行かない?」

「うん、行きましょう」

「じゃあ、待ち合わせは九時に地味(じみ)駅の改札口の前で」

その会話を五味はしっかり聞いていた。

そして五味は九頭と加須に相談して作戦を練った。

派手市とは地方都市で、五味たちの住むのはそのベッドタウンの地味市だった。地味市には映画館はなかったが派手市にはあった。

地味駅は東西に走る線路の南北に入り口が一つずつあり階段を登ると線路を(また)ぐ上部に改札口がある。デート当日、出木杉は南側のロータリーのある入り口から階段を登って改札前に行くとそこには五味がいた。

「やあ、出木杉君、偶然だねぇ。あ、もしかして麗子さんと待ち合わせ?」

「うん」

「麗子さんなら、もう改札口を入ってホームのほうに下りて行ったよ」

「あ、そうなの?ありがとう」

出木杉は切符を買って改札口を通ってホームに下りて行った。

その頃、駅の北側入り口の階段の前で九頭と加須は麗子と話していた。

「やあ、麗子さん。出木杉が言ってたんだけど、あいつ、風邪をひいたらしいんだ。だから、代わりに僕らが麗子さんの相手をするように頼まれたんだ」

麗子は言った。

「そうなの?困ったな。私、映画のチケット持ってるの二枚だけしかないから・・・」

九頭は言う。

「じゃあ、今日はやめて、地味市内で僕らと遊ぼうよ」

麗子は言った。

「でもこの映画、今日が最終日なんだよね。もったいないから行きましょう。ひとりだけチケットを買わなくちゃならないけどそれは割り勘で」

そう言って麗子は階段を登り始めた。

九頭は焦った。

「え?待って。地味市で遊ぼうよ」

麗子は言う。

「どうして?せっかく映画のチケットがあるんだから派手市へ行こうよ。いやなら私ひとりでも観に行くよ」

九頭と加須は渋々、麗子のあとをついて階段を登った。

改札前には五味がいた。

「やあ、麗子さん、ついでに九頭と加須、偶然だねぇ」

などと五味が言っているとき、改札の中から麗子を呼ぶ声がした。出木杉だった。

「麗子さん!」

麗子は驚いて出木杉を見た。

「え?出木杉君?」

麗子は出木杉のほうへ近づいて行った。

「出木杉君、風邪じゃなかったの?」

「え?風邪?なんで僕が」

麗子は言った。

「九頭君、加須君、あなたたち騙したのね?」

出木杉は笑顔で言った。

「とにかく会えてよかった。さあ、切符を買って。ふたりで派手市に行こう」

こうして出木杉と麗子は改札の奥へと消えて行った。


五味と九頭と加須は他にもたくさん出来杉を貶めるまねをしたが、すべて失敗した。


時は流れ、五味たちは中学三年の終わりを迎えようとしていた。

冬だ。

もうすぐ公立高校の受験がある。

出木杉は県立の秀美(しゅうび)高校を受験する。秀美高校は地元では最も優秀な生徒が行く学校として知られていた。中学の教師たちは出木杉が優秀だから秀美高校に合格し、そのあとは東京大学に行くだろう、というエリートコースを期待していた。だが、それを妬む者がいた。言わずと知れた五味、九頭、加須の三人である。三人は、集まって相談した。

五味は言う。

「絶対に、出木杉を秀美高校に行かせないぞ」

九頭は訊く。

「で、どうする?」

五味はニヤリと笑う。

「受験を妨害するんだ」

加須は言う。

「でも、その日は俺も他の県立高校の受験があるし・・・」

五味は言う。

「加須、俺たちにとっていちばん大切なことはなんだ?自分の将来か?そんな利己的でいいのか?自分がいちばんかわいいか?違うだろ、俺たちにとってもっとも大切なことは出木杉を落とすことだろ?」

加須は頷く。

「うん」

九頭は訊く。

「で、どうするんだ?」

五味は説明する。

「ここに拡声器がある。職員室から失敬してきた。これで試験当日の英語のリスニングテストを妨害する」

加須は納得する。

「なるほど」

五味は言う。

「よし、ふたりとも手を出せ」

「え?」

五味は言う。

「誓いを立てるんだ」

三人は手を重ねた。

「絶対に、出木杉を落とすぞ!」

「「おう!」」

そして、試験当日、秀美高校では入学試験が行われていた。

三階の教室で出木杉は試験を受けていた。

そして、英語の時間になった。放送でリスニングの問題が始まる。

「次の英会話を聞いて、以下の質問に答えなさい」

すると学校の外からこんな声が聞こえてきた。

「いしや~きいも、おいも、おいも、おいもだよ~。いしや~きいも、とってもおいしいよ~」

それは校門の前で五味が拡声器を使って叫んでいるのだった。九頭と加須もいた。

秀美高校の校舎は敷地内でも道路に近い方にあったため、この妨害で英語のリスニング問題を聞き取ることは不可能となった。

「いしや~きいも、おいも、おいも、おいもだよ~」

すると校舎から教師が出てきた。

五味は言った。

「やべえ、逃げろ」

三人は自転車に乗って逃走した。

三人はとにかくベストを尽くしたと思っていた。これで出木杉は落ちるだろう。

しかし、現実は甘くなかった。出木杉は合格した。なぜなら、リスニングを妨害されたのは出木杉だけではなくすべての受験生だったから、出木杉が点を落としても、周りも同じように点を落としていたからだ。


五味たち三人は落ち込んだ。

三人はまだ、進路が決まっていなかった。成績が悪いし、だいたい高校受験をしないで出来杉の受験の妨害などしていたので進学もできず、就職もできないでいた。

三人は思った。

「すべて、出木杉のせいだ」

ある日、三人は地元の神社に集まった。

その社の背後にある暗い森は過去に首つり自殺した人がいるという不気味で誰も来ない場所だ。

加須は言う。

「これは最後の手段だけど、俺、こんなの持ってきたよ」

それは(わら)人形(にんぎょう)だった。

三人は社の後ろの暗い森の中に行き、それぞれ藁人形に出木杉の名前の書かれた札を貼り、木の幹に当ててハンマーで(くぎ)を打ちつけた。

「オラオラオラ、死ね、出木杉!」


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