1、最低な三人
五味と九頭と加須は中学二年生になり、三人揃って同じクラスになった。
この三人はなにをやってもダメな男たちでなんとか人生を我が物にしようと日頃から様々な努力をしていた。
五味は顔はダメ、体格もひょろひょろ、頭も悪い、運動もダメ、性格も暗い、だからモテない、人気がない、友達もいない。
九頭は顔はダメ、体格はチビでデブ、頭も悪い、運動もダメ、やっぱり性格も暗い、したがってモテない、人気がない、友達もいない。
加須は顔はダメ、体格は背が高いがデブ、頭も運動もダメ、だからモテない、人気がない、性格も暗い、友達がいない。
そんな三人が同じクラスに集まった。
しかもそのクラスには、出木杉という、顔よし、体格よし、頭よし、運動よし、性格も明るく、すべての人に好かれるタイプで、モテるし、先生にはよく褒められるし友達もたくさんいて、本当に素晴らしい男子がいた。
ついでに同じクラスには、出木杉をそのまま女子にしたらこんな感じかと思われるような、美好麗子という完璧な女の子がいた。
麗子は男子のあこがれの的、もちろん、五味も九頭も加須も彼女を狙っていた。
五味は美好麗子に告白したかった。しかし、勇気がないのでそれができなかった。それは九頭も加須も同じだった。
だから三人には作戦があった。美好麗子は優秀だから学級委員に選ばれるだろう。だから自分が学級委員に立候補すれば美好麗子と少なくとも半年は学級委員を一緒にやれる。そしたら、次第にふたりの距離が縮まって、しまいには、グフフ、などと三人は思っていた。しかし、問題は出木杉の存在だ。明らかにこいつは学級委員に推薦されてみんなの支持を得るに違いない。勝ち目はない。だから、三人は個々に最初の学級会が開かれる前に出木杉に「学級委員には立候補しないでくれ」と頼んでいた。
そして、学級会、担任の先生が司会をした。
「ではまず学級会の司会となる学級委員を決める。誰かやりたい者はいないか」
五味と九頭と加須は同時に手を挙げた。
三人だけだった。
三人はそれぞれ心の中で思った。
「なんであんな暗い奴らが立候補するんだ?頭も顔も性格も悪いくせに」
先生は言った。
「よし、では、三人の中から多数決で男子の学級委員を決めるぞ」
クラスはざわめいた。
「え?あんなダメな奴らが学級委員に?」
誰かが言った。
「先生、男子の学級委員は出木杉君がいいと思います」
先生は言った。
「だが、出木杉は立候補してないじゃないか。それに出木杉、おまえは学級委員をやりたいのか?」
すると出木杉は答えた。
「いいえ、やりたくないです」
先生は言った。
「ではこの三人の中から決める。俺が名前を言うからみんな挙手をしろ」
そして、選挙の末、男子の学級委員は五味に決まった。
五味はにんまりと笑みを浮かべた。
九頭と加須は呪いの目で五味を睨んだ。
先生は五味に司会進行を任せた。
五味は生まれて初めて学級委員になった、というかあらゆる意味でリーダーになったのは初めてだった。
五味は黒板の前に立ち、小さな声でこう言った。
「女子で学級委員になりたい人はいますか?」
五味は美好麗子を見た。
だが、彼女は手を挙げなかった。
その代わり、別のひとりが手を挙げた。それは学校一のブスと評判の部佐育子だった。五味はぎょっとした「他に立候補者はいませんか?推薦でも誰か他に・・・」。すると先生が口を挟んだ。
「五味、立候補者がひとりいるんだから、これで決まりだろ?」
「そんなぁ・・・」
九頭と加須はクスクス笑った。
部佐育子は黒板の前に五味と並んで立った。
「では他のクラス委員を決めようと思います」
育子がそう言ったとき、また先生が口を挟んだ。
「そうだ、生徒会役員に立候補する者はいないか?」
すると出木杉が手を挙げた。
「はい、立候補します」
クラスの生徒は拍手した。すると美好麗子も手を挙げた。
「私も立候補します」
クラスのみんなはまた拍手した。
五味はまた、ぎょっとした。
「え?なんか話が違うぞ。こんなはずじゃ・・・」
すると、九頭と加須が手を挙げた。
「ぼ、僕も立候補します」
するとクラスの生徒は拍手をせず黙ってふたりに注目した。
「あいつらが?マジで?」
九頭と加須はこんなに注目されたのは生まれて初めてだった。
先生は言う。
「じゃあ、この四人がうちのクラスから生徒会役員に立候補というわけか、こんなに立候補者が多いのはめったにない。まあ、四人とも選挙戦をがんばれ」
九頭と加須は驚いた。
「え?選挙戦って?」
先生は答えた。
「学校中の教室を回って自分が生徒会役員に選ばれたらこんなことをしますとか、演説するんだ。去年もやったろ?」
九頭と加須はうろたえた。
「そんな、だいそれたこと僕にはできません」
「僕もです」
先生は答えた。
「なんだ、じゃあ、立候補はやめるのか?」
九頭と加須は頷いた。
「はい・・・」
そして、選挙戦の末、出木杉と美好麗子は生徒会役員になった。
五味は呆然とした。
「なぜ、出木杉ばかりが・・・」
三人は、しばらくは教室の中の離れた場所から彼女を見ているだけだった。
彼らの教室は二階にある。その教室前の廊下の窓から、校門近くの大きな桜が見える。その花が散って青くなる頃には、出木杉と麗子が親しく話をしている姿が教室などで見受けられるようになった。
五味は恨めしい目で出木杉と麗子が話す姿を遠くから見つめていたら、同じように恨めしそうにふたりを見つめている九頭と加須の姿が目に入った。
五味は教室の後ろの出入り口付近にいたふたりに近づいた。
「なあ、ふたりとも、もしかして、出木杉と麗子さんの仲が気に食わない?」
九頭は答えた。
「あたりまえさ、出木杉の奴が恨めしいよ」
加須も言った。
「あのふたりは俺たちとは違う世界の人間なのかなぁ?」
五味は言った。
「そんなことはない、俺たちはふたりと同じ人間じゃないか。そうだ、三人で協力して、出木杉を俺たちのところまで引きずりおろさないか?」
「え?」
「そんなことができるかな?」
「三人で力を合わせればなんとかなるさ。三人寄れば文殊の知恵って言うじゃないか」
そして、三人は意気投合した。
三人は出木杉を麗子から遠ざけるための作戦を練るために、九頭の家に集まった。
九頭はふたりを自室に招いた。最初、三人はその六畳間の床に腰を下ろし、テレビゲームをやった。
格闘ゲームだ。
九頭と加須が対戦しているとき、五味は九頭の書棚を眺めていた。ライトノベルやマンガがたくさんある。ライトノベルは平凡な少年が異世界に転生して勇者として活躍するものが多かった。五味は書棚の下の方の目につきづらい所にエロマンガがあるのを見つけて、手に取った。
五味は言った。
「九頭、ティッシュないか?」
九頭は加須のキャラをKOしてから、言った。
「おい、まさか、やるつもりかよ」
五味は言った。
「もうビンビンなんだよ」
加須は五味の持っているものを見て言った。
「俺も立ってきた」
九頭は笑った。
「なんだよ、ふたりとも、人の家でやるのかよ。じゃあ、俺も」
五味と九頭と加須はティッシュを何枚か取って、パンツの中に手を入れた。
「お、おお」
「い、いい」
「いっちゃう」
「「「麗子さーん!」」」
三人は同時にうっとりとした顔になった。
しばらく三人は恍惚とした表情で黙っていた。
そして、五味が言った。
「って、俺たちは何をやってるんだ。こんなことをしている場合じゃないぞ」
加須も言った。
「そうだ、こんなことをしている間に、出来杉と麗子さんが付き合うようになったら・・・」
五味は言った。
「ふたりがキスする関係になったら・・・」
加須は言う。
「きゃー、嫌だな」
九頭は言う。
「おい、ふたりとも、俺は後悔している。おまえたちに自分の部屋でやらせたことに」
そう言って窓を全開に開けた。
「くせえんだよ。きゃー、嫌だ」
三人は笑った。
五味は言う。
「じゃあ本題に入るぞ。麗子さんから出来杉を遠ざける作戦を考えよう」
九頭の部屋は畳の部屋で、勉強机の他に、ちゃぶ台があった。そこで、三人は頭を突き合わせて相談した。
そして、作戦が決まった。美好麗子の靴箱に出木杉からのラブレターを入れる。もちろんラブレターの内容は、三人が考えたもので出木杉の人格を貶めるようなものだ。五味がちゃぶ台でそれを書いた。九頭と加須は左右からそれを覗き込んだ。
「麗子さん好きです。僕はあなたを愛しています。とくにあなたのお尻が好きです。今度触らせてください。おっぱいも好きです。揉んでみたいし、舐めてみたいです。一緒にスケベなことをしましょう。あなたも真面目ぶってるけど、ほんとはスケベなんでしょ?」と五味が便箋に書いた。
すると九頭がもうひと言加えるように言った。
「PS’あなたのウンコを食べてみたいです」
九頭はほくそ笑んだ。
「完璧だな」
五味は便箋を折って、封筒に入れた。
加須は言った。
「あとはこれを靴箱に入れるだけだね」
五味は笑った。
「これで、出木杉は麗子さんに嫌われる、うひひ」
翌日の放課後、みんなが下校したあとに、三人はこっそり誰もいない昇降口へ行って、美好麗子の靴箱に手紙を入れた。
五味は言う。
「これで、明日の朝、麗子さんはこの手紙を読む」
九頭は言う。
「そして、出木杉を嫌いになる」
加須は言う。
「そしたら、俺たちにも可能性が出てくる」
三人はワクワクして翌日を待った。
しかし、残念ながら三人の期待は外れることになる。
靴箱に手紙を入れるのを学校一のブスで五味たちと同じクラスの部佐育子が目撃していたのだ。
翌朝、美好麗子は学校に来ると靴箱に手紙が入っているのを見つけた。
麗子にとってそれは珍しいことではなかった。手紙を見た瞬間、麗子が考えたことは、どう断ろうか、ということだった。しかし、差出人が出木杉だったので、麗子は驚いた。
「出木杉君が私に手紙を?」
麗子は手紙を鞄に入れて教室まで歩いた。
教室にはすでに、五味、九頭、加須の三人が来ていた。他にも何人かの男女がいた。麗子はその中の親しい友達に「おはよう」と言った。もちろんその親しい友達の中に五味たちは含まれていなかった。五味たちは麗子があの手紙をもう読んだのか、それともまだ読んでいないのか、そして、読んでいたとしたら、出木杉に会ったらどんな反応を示すか、ワクワクして待った。麗子は教室の前の方にある自分の席に座った。
そこへ、部佐育子が現れた。
「ねえ、麗子ちゃん、靴箱に手紙が入ってなかった?」
麗子は頷く。
「うん、入ってた」
「それ、五味君か、九頭君か、加須君からじゃない?」
「え?出木杉君の名前が書いてあるけど」
「え?あたし、見たよ、昨日、あの三人があんたの靴箱に手紙を入れてるの」
「え?ほんと?」
「出木杉君に聞いてみたら?本人が手紙を出したのか」
「うん」
そこへ出木杉が現れた。
麗子は声を掛けた。
「あ、出木杉君、ちょっと」
「なに?麗子さん」
そう言って出木杉は麗子に近寄って行った。
それを教室の後ろの出入り口から見ていた五味と九頭と加須はワクワクしていた。
「もうすぐ、出木杉が破局を迎える」
五味たちには麗子と部佐育子の会話は聞こえていなかったのである。
「出木杉君、私の靴箱にこれ入れた?」
そう言って麗子は出木杉に封筒を見せた。
出木杉は言った。
「なにこれ?」
麗子は言った。
「知らないの?ほら、ここにあなたの名前が」
出木杉は否定する。
「なんだよ、これ?僕、こんな手紙出してないよ」
育子は言う。
「やっぱり、五味君たちのいたずらじゃない?開けて内容を読んでみたら?」
麗子は封筒を開けた。
それを教室の後ろの出入り口から見ていた五味たちは「いよいよだ!」と期待に胸を膨らませていた。
麗子は内容を読んだ。
「なにこれ!最低!」
麗子は叫んだ。
五味たちはその叫びを聞いてガッツポーズをした。
「「「よっしゃぁ!」」」
中間テストの時期が来た。
三人は常に学年トップを維持している出木杉のテストを妨害するために作戦を練った。
それは単純なものだった。
テスト当日、テストが始まると、五味は出木杉の斜め後方の席から消しゴムをちぎって出木杉の机に向かって投げた。執拗に何度も消しゴムをちぎって投げた。すると出木杉は手を挙げた。
「先生、五味君が消しゴムを投げてきて僕のテストを妨害します」
すると先生は五味のところへやって来た。
「本当か五味?」
五味は答えた。
「善良な僕がそんなことするわけないじゃないですか」
「じゃあなんだ、この机の上の消しゴムは?それに答案用紙は白紙じゃないか」
「いや、最初の問題が難しくて考え中なんです」
「五味、テストが終わるまで廊下に立ってろ」。
そして、秋になった。
校舎中庭の銀杏が黄色く色づき始めた頃だ。
ある日、教室で出木杉は麗子に話しかけた。
「今度の日曜、派手市に電車に乗って映画でも観に行かない?」
「うん、行きましょう」
「じゃあ、待ち合わせは九時に地味駅の改札口の前で」
その会話を五味はしっかり聞いていた。
そして五味は九頭と加須に相談して作戦を練った。
派手市とは地方都市で、五味たちの住むのはそのベッドタウンの地味市だった。地味市には映画館はなかったが派手市にはあった。
地味駅は東西に走る線路の南北に入り口が一つずつあり階段を登ると線路を跨ぐ上部に改札口がある。デート当日、出木杉は南側のロータリーのある入り口から階段を登って改札前に行くとそこには五味がいた。
「やあ、出木杉君、偶然だねぇ。あ、もしかして麗子さんと待ち合わせ?」
「うん」
「麗子さんなら、もう改札口を入ってホームのほうに下りて行ったよ」
「あ、そうなの?ありがとう」
出木杉は切符を買って改札口を通ってホームに下りて行った。
その頃、駅の北側入り口の階段の前で九頭と加須は麗子と話していた。
「やあ、麗子さん。出木杉が言ってたんだけど、あいつ、風邪をひいたらしいんだ。だから、代わりに僕らが麗子さんの相手をするように頼まれたんだ」
麗子は言った。
「そうなの?困ったな。私、映画のチケット持ってるの二枚だけしかないから・・・」
九頭は言う。
「じゃあ、今日はやめて、地味市内で僕らと遊ぼうよ」
麗子は言った。
「でもこの映画、今日が最終日なんだよね。もったいないから行きましょう。ひとりだけチケットを買わなくちゃならないけどそれは割り勘で」
そう言って麗子は階段を登り始めた。
九頭は焦った。
「え?待って。地味市で遊ぼうよ」
麗子は言う。
「どうして?せっかく映画のチケットがあるんだから派手市へ行こうよ。いやなら私ひとりでも観に行くよ」
九頭と加須は渋々、麗子のあとをついて階段を登った。
改札前には五味がいた。
「やあ、麗子さん、ついでに九頭と加須、偶然だねぇ」
などと五味が言っているとき、改札の中から麗子を呼ぶ声がした。出木杉だった。
「麗子さん!」
麗子は驚いて出木杉を見た。
「え?出木杉君?」
麗子は出木杉のほうへ近づいて行った。
「出木杉君、風邪じゃなかったの?」
「え?風邪?なんで僕が」
麗子は言った。
「九頭君、加須君、あなたたち騙したのね?」
出木杉は笑顔で言った。
「とにかく会えてよかった。さあ、切符を買って。ふたりで派手市に行こう」
こうして出木杉と麗子は改札の奥へと消えて行った。
冬が近づき、五味と九頭と加須は来たるべき校内マラソン大会に備えて作戦会議を始めた。
加須は言う。
「去年は出木杉が一位だったよね」
五味は言う。
「よし、出木杉が一位にならないようにがんばろう」
すると九頭が言う。
「じゃあ、毎日三人で走りこむ?一位二位三位を僕たちが独占だ」
五味は言った。
「君はなにを言ってるんだ?僕らが一位になれるわけないだろう。去年は三人でビリ争いをしたじゃないか。それより僕たちにとって現実的で堅実的なことは出木杉を貶めることじゃないか?」
加須も頷く。
「そうだよ、そのほうが現実的で堅実的だ」
九頭は訊く。
「じゃあ、どうやって出木杉を貶める?」
五味は答える。
「マラソンのコースの途中に釣り糸を張る。一位で来た出木杉を転ばせる。どうだ?いい案だろ?」
九頭と加須はその作戦に賛同した。
そしてマラソン大会当日。五味たち三人はマラソンコースの途中の狭い道の両サイドに身を潜めた。
五味は言う。
「いいか、あいつが来たら、膝の高さぐらいで釣り糸をピンと張るんだぞ」
「了解」
三人はブロック塀の陰に隠れて待った。そして、先頭集団が走ってくる姿が遠くに見えると三人はブロック塀に隠れて糸をピンと張った。足音が近づいてくる。どんどん近づいてくる。三人はワクワクしていた。そして、先頭のランナーが釣り糸に足を取られて転倒した。「やったー」。三人は歓喜の声を上げた。しかし、すぐに三人は顔が青くなった。転んだのは出木杉ではなかった。美好麗子だった。三人は計画が誤りだったことに気づいた。男子より先に女子が走ることになっていたのだ。美好麗子は立ち上がり、足を引きずってランニングを再開した。三人はあこがれの麗子さんを傷つけたことですっかり落ち込んでしまった。
時は流れ、五味たちは中学三年の終わりを迎えようとしていた。
もうすぐ公立高校の受験がある。
出木杉は県立の秀美高校を受験する。秀美高校は地元では最も優秀な生徒が行く学校として知られていた。中学の教師たちは出木杉が優秀だから秀美高校に合格し、そのあとは東京大学に行くだろう、というエリートコースを期待していた。だが、それを妬む者がいた。言わずと知れた五味、九頭、加須の三人である。三人は、集まって相談した。
五味は言う。
「絶対に、出木杉を秀美高校に行かせないぞ」
九頭は訊く。
「で、どうする?」
五味はニヤリと笑う。
「受験を妨害するんだ」
加須は言う。
「でも、その日は俺も他の県立高校の受験があるし・・・」
五味は言う。
「加須、俺たちにとっていちばん大切なことはなんだ?自分の将来か?そんな利己的でいいのか?自分がいちばんかわいいか?違うだろ、俺たちにとってもっとも大切なことは出木杉を落とすことだろ?」
加須は頷く。
「うん」
九頭は訊く。
「で、どうするんだ?」
五味は説明する。
「ここに拡声器がある。職員室から失敬してきた。これで試験当日の英語のリスニングテストを妨害する」
加須は納得する。
「なるほど」
五味は言う。
「よし、ふたりとも手を出せ」
「え?」
五味は言う。
「誓いを立てるんだ」
三人は手を重ねた。
「絶対に、出木杉を落とすぞ!」
「「おう!」」
そして、試験当日、秀美高校では入学試験が行われていた。
三階の教室で出木杉は試験を受けていた。
そして、英語の時間になった。放送でリスニングの問題が始まる。
「次の英会話を聞いて、以下の質問に答えなさい」
すると学校の外からこんな声が聞こえてきた。
「いしや~きいも、おいも、おいも、おいもだよ~。いしや~きいも、とってもおいしいよ~」
それは校門の前で五味が拡声器を使って叫んでいるのだった。九頭と加須もいた。
秀美高校の校舎は敷地内でも道路に近い方にあったため、この妨害で英語のリスニング問題を聞き取ることは不可能となった。
「いしや~きいも、おいも、おいも、おいもだよ~」
すると校舎から教師が出てきた。
五味は言った。
「やべえ、逃げろ」
三人は自転車に乗って逃走した。
三人はとにかくベストを尽くしたと思っていた。これで出木杉は落ちるだろう。
しかし、現実は甘くなかった。出木杉は合格した。なぜなら、リスニングを妨害されたのは出木杉だけではなくすべての受験生だったから、出木杉が点を落としても、周りも同じように点を落としていたからだ。
五味たち三人は落ち込んだ。
三人はまだ、進路が決まっていなかった。成績が悪いし、だいたい高校受験をしないで出来杉の受験の妨害などしていたので進学もできず、就職もできないでいた。
三人は思った。
「すべて、出木杉のせいだ」
ある日、三人は地元の神社に集まった。
その社の背後にある暗い森は過去に首つり自殺した人がいるという不気味で誰も来ない場所だ。
加須は言う。
「これは最後の手段だけど、俺、こんなの持ってきたよ」
それは藁人形だった。
三人は社の後ろの暗い森の中に行き、それぞれ藁人形に出木杉の名前の書かれた札を貼り、木の幹に当ててハンマーで釘を打ちつけた。
「オラオラオラ、死ね、出木杉!」




