メモリ01.甘くない日常
初連載です
チャイムが鳴る。
ざわざわしていたおへやが、サッと静かになる。
立て付けの悪い戸が、キキイと耳障りな音を立てて開き、そこから先生がはいってきた。
「号令をしてください。」
前の席のリーダー、りせちゃんが
「起立!きおつけ!れい!」
と声を張っていった。そしてみんな一緒に「おねがいします」と大きな声で言う。
授業が始まる。
先生がカッカっとチョークを立てて、黒板に今回のじゅぎょうの題材を書く。粉砂糖のようなしろいチョークの粉が、ハラハラと落ちるのは美味しそうで仕方ない、
空腹をおさえながら黒板をみていると、先生が題材を書き終えたらしい。
『わたしのしごと』
「今回の授業は、皆さんが楽しみにしてた自分の仕事についての作文発表会です。楽しんで発表してください。」
淡々と述べる先生。ソワソワしているみんな。
それはわたしも例外ではない。
「ではまず、アイリさんからいきましょう。」
「はい!」と甲高い声をあげて立ち上がったのは、1番前の席にいる、あいりちゃん。
「私の仕事は…」から始まり、ましゅまろのようにふわふわした声で、発表していく。
ましゅまろ…お腹すいたな
みんないろんなむずかしい言葉を使っていたり、おててで表していたりと、十人十色、お菓子のような発表に聞き込んでいるうちに、もうすぐでわたしの番になっていた。
聞き込んでいる、と言ったが、みんなの発表の中であまいあまいお菓子に表現し難い、みんなおんなじで、とてもつまんない部分はあった。
なんたって、わたしたちはみんな、
「次、シナモさん」
なんて考えてると、いつのまにかわたしの番になっていた。
作文を手にして、みんなの方を向きながら声を出す。
「わたしのおしごとは、
『中立型あんどろいどとして、いろんな人のお手伝いをすること』です。」
わたしたちはみんな、アンドロイドだ。
この珈琲小学校にいる生徒、職員は全員アンドロイド、AI。
その中でも、かみさまの好きな戦争をより長続きさせるために、善側にも悪側にも貸し借りが許可されている最強特別アンドロイドが『中立型アンドロイド』
学ぶためのクラスが、この特別クラス。
わたしが発表を始めてもひんやりしていた雰囲気が、『中立型アンドロイドとして』『お手伝い』という言葉を述べるだけで、明るい雰囲気になった。
わたしがつまんないと思うのはこの部分だ。
みんなは「自分がいろんな人のお手伝いをできるアンドロイド」ということに対して、誇りを持っている。
しかし実際のところは、そんな設定をインプットした神様に操られている虚しいアンドロイドというだけであって、
それをあたかも誇りのように語っているみんなの発表は、
虚しく、
滑稽で、
味がない。
まあ、みんなと同じことを言っているわたしも、虚しいアンドロイドなんだけど。
―――――――――――
「これで今日の授業は終わります。明日はおゆうぎなので、早めにスリープモードに入ってください。」
そんなこんなで発表会は終わった。結局違うことを言っているアンドロイドは誰もいなかった。
やっぱりあまくない。
昔からみんなと違うわたしは、どこかの脳の機能が壊れてるのかもしれない。今日はもう遅いから、あしたメンテナンスにいってみようかな。
あした、なおったらいいなぁ。
―――――――――――
「では、帰りの会をはじめましょ──」
ガンッッ
おへやの外からそんな大きい音が鳴る。
先生も、みんなも、すこしびっくりしたようだが、何事もなかったかのように、帰りの会を始めようとする。
すると
バゴン
鈍い音と共に、窓ガラスが割れる。
一瞬だったが、窓ガラスが割れた瞬間、おへやから何かが飛んでいったように見えた。そして先生の方を見ると、そこには、
『先生だったもの』が首から太いケーブルを剥き出しにして突っ立っていた。
そして、その隣には不機嫌そうな表情をしながら、何かボソボソ呟く白髪の少年がいつのまにか立っていた。
ふわふわとした甘そうな白い髪、頬が淡い赤色に染まってるもちもちな肌、飴玉のようにきらきらつやつやな赤い瞳…。今まで見たことないほどにお菓子のような、アンドロイドでも人でもないその見た目。
いったい、なにもの?
みんなも不思議に思っているらしく、なにかを察した少年が、不機嫌そうな表情を神々しい笑顔に切り替えて、口を開く。
「今日からこのクラスに転校してきた、ゲイシャだ。一応…
『この世界の神をやっている。』
さっきの教師型AIは、脳の機能が壊れてたから処分した。これからよろしく。」