初キスはいちごあめの味 ~ 大好きな幼馴染みに告白したら、いとも簡単に俺の初めてを奪われたけど幸せです ~
「このマンガ面白いな~。俺、単行本も買おうかな?」
「いいじゃん買っちゃえ買っちゃえ!んで、買ったら私にも見せて~!」
「…お前、それが狙いだろ」
昼休み。屋上で、幼馴染みの陽菜美と一緒に昼飯を食って。食い終わった後は、陽菜美が持ってきた昨日発売されたばっかの少年マンガ雑誌を読んでいた。
陽菜美とマンガの話をしていると。
「ゴホッ!ゲホゴホゴホ!」
「なぁに、風邪?朝から咳してるよね~」
「ん~…昨日、お風呂上がってからめんどくせーからって、髪の毛乾かさないで寝たからな~」
「も~!夏ならまだしも、今何月だと思ってるの?11月だよ?夜中とか結構冷えるのに…そりゃあ風邪引くわ」
しょうがないわね~と言いながら、陽菜美は自分のスクールバッグをがさごそと探り、がさりと何かを取り出した。飴の袋だ。
「何味がいい?って、未来はいちごあめだよね~」
「ま~ね~」
「未来って、男子のくせに昔から苺大好きだよね」
「苺好きに男も女もないだろ」
「ま~ね~」
「俺の真似かよ、うざ~」
「ま~ね~♪」
陽菜美は俺の言い方を真似ながら、個包装されたいちごあめをひとつ手のひらに乗せ、俺にくれる…と、見せかけて。
ピリッ、パクッ!
俺が、陽菜美の手からいちごあめを受け取ろうとした瞬間、陽菜美はその手を引っ込め、いちごあめの個包装を開け、自分の口にひょいと入れた。
「お前な~…」
「へへ~ん!くれると思ったでしょ~?騙されてやんの~」
「…お前、ムカツクな」
口の中でころころと飴を転がせながら、ケラケラと陽菜美は笑った。
「ったくよ~。病人(?)にそれかよ」
そう言いながら、俺が飴の入った袋に手を伸ばすと、陽菜美はその袋を奪い、スクールバッグに戻した。
「おま、ひとつくらいくれてもいいだろ!ケチか!」
「あげるよ、ほら」
陽菜美はそう言って、あっかんべーするように舌を出した。舌の上には、濡れてつやつやしたいちごあめが乗ってた。
「…あげるって、まさか…」
「はい、どうぞ」
陽菜美は飴の乗った舌を出しながら、俺の傍にぐいぐいと近づいてきた。
「ばっかおま…そっ、そんなもん食えるわけないだろ!」
「ほーはほーは」
そんなもん、食えるわけない。陽菜美の口からなんて…そんな。
だって、俺はもう10年も…陽菜美に片想いしている。そんな、キス…みたいなこと、付き合ってもないのにできない。
陽菜美とは5歳の頃からの幼馴染みで、高校生になった今でも、よく一緒にいる。だから、陽菜美はきっと兄弟感覚で俺といるんだろうけど…俺は、違う。俺は、陽菜美のことを異性として見てる。
陽菜美のことが…好きだ。
そんな、好きなやつの舐めた飴なんて、安易に食えない。食えるわけがない。
何故なら俺は…ヘタレだからだ。
「ほーは、早く食べなよ」
「くっ!食えねぇよ!お前の舐めた飴なんか汚くて食えねーよ!あっ…」
思わず、そう言ってしまったけど、もちろん本心じゃない。ドキドキしてテンパってしまって、つい言ってしまった。
俺がそう言うと、陽菜美は悲しそうな顔をし、飴を乗せた舌を口の中に戻した。
「あ…その…」
「…気持ち悪かったよね、ごめん」
気まずい時間が、俺と陽菜美の間を通りすぎる。すると、俺は…意を決した。
「あの、俺っ!その…」
ぶわああと、風が吹きすぎる。
暑くもないのに、冷や汗がだらだらと毛穴から滲む。
その…からの、次の言葉が中々出てこない。でももう、言うなら今だっ!と、内心で強く思い、そして。
「おぉおれはっ!もうずっと前から、ひっ、陽菜美のことが好きなんです!!」
バサササッ!と、屋上にいた数匹の鳩が、俺の声に驚いて飛んでいった。それくらい、大きな声で俺は陽菜美に気持ちを告白した。
すると──────
「んぅ…」
突然、呼吸がしづらくなった。
唇が塞がってる…陽菜美の唇、に。
キス…してる。初めてのキスを、しかも大好きな陽菜美としてる。
そして、俺の口の中に…濡れたあたたかいものが入ってきて、そのあたたかいものが俺の舌に触れると。
ころん。
甘くてまあるいものが、俺の舌に乗った。
いちごあめだ。
陽菜美は両手で俺の頬を優しく包みながら、いちごあめ味の舌を、ころころと俺の口の中で転がせた。
そして──────
ちゅぱっ。
俺の口の中からあたたかいものが離れ、水の弾ける音が唇の傍で響いた。
陽菜美は、怒ったような照れたような顔をしながら。
「…告白するの遅いよ。いつまで待たせんのよ…バカ」
俺は、そんなめちゃかわいい陽菜美の顔を見な が ら──────
バタンッ!!
「ちょっ、未来!?」
俺は、高熱を出して、その場でぶっ倒れた。
俺の初めてのキスは、いちごあめの味…だった。