第5話 報告から次の国へ
麓の街へ無事に着いた。
日が暮れる前だったので、その街の宿で一泊することにした。
「……無事で、何よりです」
朝に話しかけた剣士が、ベルゼーラ達に会いに来た。
「国王にもこちらから話すが……神像が操られていたせいで、国の均衡が崩れたと分かった」
ベルゼーラがそう伝えると、その剣士が表情を曇らせた。
「どうかしたのだね」
「あの、大声では話せない事情ですが……どうやら、他の国でも妙な事が起きている報告があると、情報網で聞いています」
その剣士は、小声でそう言った。
「妙な事?」
ベルゼーラはその言葉に疑問を持った。
「私が聞いているのは、トルゼルガ王国では地面割れの被害が出ているらしいのです。……それで、もしかしたらと」
剣士がそう返した。
トルゼルガ王国の神のご加護は、地震や地割れなどの被害が無い事だ。
剣士が思うように、神像が絡んでくる可能性が高い。
「情報、ありがとう。ちょうど他の国にも行こうと考えていた所だ」
「そうでしたか。では……国王に謁見の際、この件を聞いたと申してください。国王から、あちらの国にこの事に関して速達電報を打つと思うので」
そう剣士は言うと、宿を出た。
▫▫▫
メイリーは、宿の部屋で一人考えていた。
あの反乱から10年が経った。
どうして、縮小傾向にある解放隊がまた国を脅かす行為をしているのか。
ナノゼルガ王国の前国王の首を取っただけでは、物足りなかったのか。
(1つ、思い当たる節があるとすれば)
かつての反乱で国家存続ノ罪に問われたボエルジーは、永遠刑 (無期懲役に近い刑) になっていた。
永遠刑は10年単位で仮釈放が出来る仕組みになっており、彼の仮釈放を解放隊から申請はされていて、受理されたと聞いている。
(……それを狙って、もう一度反乱を仕掛けるつもりなのかもしれない)
憶測だけど、最近の解放隊の動きの活発さを含めて、この異変や神像の腕にあった《印》の事、この案件を請け負っているベルゼーラ達に暗殺を仕向けたのを考えると筋が通る。
(これは、中々に厄介な事になりそうだわ)
▪▪▪
翌朝、ベルゼーラ達は首都の城へと向かった。
その道中、メイリーは昨日自分が考えたことをベルゼーラに話した。
「確かに、メイリーの言う通りかもしれんな。今は何としてでも、他の国の異変を食い止めなければ」
ベルゼーラがそう言うと、メイリーは頷いた。
30分程で、城へ着いた。
門番に声をかけると、謁見の間に案内された。
「ベルゼーラ殿、お待たせ致しました」
数分で国王が謁見の間に入ってきた。
「空気の圧が、元に戻りましたな」
国王は安心したようだ。
「あの、国王……実は――」
ベルゼーラは、剣士から聞いたこととメイリーの意見を述べた。
「……ふむ、バーデイトからあの件を聞いたのか……分かり申した、トルゼルガ王国の城へ速達電報を送るとしよう。ベルゼーラ殿もその同伴方も、気をつけて向かっておくれ」
「ありがとうございます、国王様」
ベルゼーラが言うと、国王は頷いた。
4人は外へ出た。
「さて、トルゼルガ王国へ向かうとしよう。まあ、メルシェ女王に向かうことを決めた件に関して、電報を送ってからだが」
ベルゼーラはそう言って、電報屋の方へ歩き始める。
「………」
「チアちゃん、どうか……した?」
不安そうな顔をしたチアに、メイリーは心配そうに聞いた。
「私……ベルゼーラさんに、着いてきたけど……良かったのかなって思って」
「あのね、ベルゼーラさんが言っていたのよ……『チアが一人で留守番していたら、もっと危険な目に逢うかもしれない』って」
「えっ……?」
思いがけない言葉なのか、チアは目を見開いた。
「朝、支度している時に私に言ったのよ……さっきみたいな事をね。下手をすれば誰かに拐われるかもしれない、とも言っていたわ。今までの経緯を考えると、解放隊の奴らに」
最後の『解放隊の奴らに』と言うのは、少し小さめな声で伝えた。
「ベルゼーラさんにとって、チアちゃんは娘みたいなものよ。だから、心配してくれているのよ。だからチアちゃん自身……心配しないで、着いていくといいわ」
▪▪▪
この後、国境付近の街まで降り、小さな港からトルゼルガ王国へ向かった。
約20分で、国境港がある街へ着いた。
門番に札を見せ、国の中へと入っていく。
「よお、ベルゼーラ!それに、メイリーも久しぶりだな」
聞き慣れた声がした。
声のする方を見ると……
「タツヤ!」
その声の主は、国家剣士の元同僚のタツヤ・ローだ。
ベルゼーラがまだ居た頃は、国境警備担当の剣士だったはずだが……
その旨を言うと、タツヤは物悲しい表情を見せた。
「俺はベルゼーラと共に、仕事をするのが生き甲斐だったからな。裁判で剣士剥奪をされたって聞いて、いてもたっても居られなくて……剣士を辞めたんだ」
今は、国家監視課でトルゼルガ王国に出張しているとのこと。
……道理で、メイリーの事を知っていると思ったが。
「そう言えば、どうしてタツヤが出迎えてくれたんだ?普通なら城側の人間が来ると思うのだが」
「……あのな、それは地割れの件が絡んでいるんだ」
そのまま、国境に位置する街の大通りへ出た。
「な、何だ……これは……」
4人は絶句した。
至る所に、地割れの被害があったからだ。
道路修繕師をが、ひっきりなしに修繕をしている。
「ここ最近、被害が酷くてな。その報告を国王が捌いていたんだが、激務で倒れてしまったのだ。今はトルゼルガの国家剣士のトップが代理で務めているんだがな。……で、速達電報で事情を知って、城側の人間は動けないから俺に話が来て出迎えた訳だ」
事情を知っているのなら、話が早い。
神殿までどれくらいの距離があるか、聞いてみる。
「それなら、確か……」
タツヤが地図を開く。
そして、南の方に赤ペンで印をつける。
「今、俺達が居るのは国境門を兼ねているミェンロン町だ。そこから、馬を使って約4時間程だな」
「じゃあ、ここで一泊した方が無難だな」
ベルゼーラがそう言うと、タツヤは頷いた。
「あと、トルゼルガ王国内では俺もお供する事になった。……解放隊に狙われていると聞いたからな」
「それは心強い。頼むぞ、タツヤ」
「おう、任せな」
二人は拳を合わせた。