第4話 神殿に突入、それから
4人は神殿の中へ入っていった。
中は結構広く、そこに大きな神像が立っていた。
「……あれが、エルゼルガ神の神像ね」
チアがそう言う。
(至って普通で、特に違和感は無いが)
ベルゼーラはそう思っていた。
ある程度近づいた瞬間、鈍い音をしながら神像が動き出した。
「……チア、アシラ!下がれ!」
ベルゼーラに言われ、二人は入り口まで下がる。
そして、鞘から剣を取り出す。
「メイリー、手助け頼む」
メイリーは頷き、短剣を2つ出して臨戦態勢を取った。
神像は、ベルゼーラとメイリーに殴りかかる。
二人はその攻撃を避ける。
「……くそ、どうすれば」
唐突の事なので、ベルゼーラは対策を必死に考える。
この動いた事が、多分均衡が崩れた因果関係だと思うのだが……
▫▫▫
(……あれ、もしかして)
神像の真横に避けたメイリーは、ある『印』に気がついた。
それは 《禁忌ノ押印》と呼ばれる印。
かつて、ヴェルシア解放隊が石像等を動かせて攻撃する為に作った印だ。
(少しでも印の部分を削ったら、能力は失われるはずだったわ)
でも、一人だけだったら上手く近づいても削れない。
それだったら……
「ベルゼーラさん、神像を引き付けてください!」
それを聞いたベルゼーラは、眉をひそめた。
「どういう事だ?」
「神像は、ヴェルシア解放隊により意図して動かされています。その印が腕に刻まれていて、それを削れば止まりますから!」
その言葉で察したベルゼーラは「頼んだ」と言わんばかりに、頷いた。
神像が再び、ベルゼーラに殴りかかる。
その隙に、疾風の如くメイリーは神像に近づいた。
殴りにかかった腕が地面に叩きつけた時、メイリーは飛び上がって腕にしがみついた。
右手側の短剣で、印が刻まれているところを勢いよく当てていく。
石が割れる甲高い音が鳴り響き、その箇所が削れた。
そのままの体勢で、神像は動きを止めた。
薄くなっていた空気が、元に戻った。
こうして、エルゼルガ王国の異変は収まったのだ。
▪▪▪
「メイリーが居てくれて良かった」
事が終わった後、ベルゼーラはメイリーに言った。
「ベルゼーラさんが引き付けてくれたお陰です。私だけでしたら、近付く事しか出来ませんでしたから」
そうメイリーが返す。
そして、改めて動きを止めた神像を見た。
左腕に、メイリーが言っていた《禁忌ノ押印》が刻まれていた。
「ヴェルシア解放隊が関わっているのなら、他の国も同じような事が起きるのか……いや、もしかしたら起きているかもしれん。首都に戻ったら、メルシェ女王に他の国に行く事を電報を打とう」
ベルゼーラがそう言うと、3人は頷いた。
そして、4人は神殿を出た。
▫▫▫
「ああ、やはりあそこで奴を暗殺出来なかった事が駄目だったな。まあいい、計画は順調に進んでいると本部から聞いている。あと、メイリーが奴側と合流した。あの印を見破られたから、万が一も考えてメイリーも暗殺の対象をワンランク上げよう。たく、どうして育ててくれた父上に反抗心を持ったのか……」
▫▫▫
「ねえ、メイリーさん」
下山途中、チアはメイリーに話しかける。
「どうしたの、チアちゃん」
「メイリーさんって、どうしてヴェルシア解放隊に入ったの?」
それを聞いた瞬間、メイリーは悲しい顔をした。
「ごめんなさい、聞いちゃいけない事だったのかな」
チアはそう言うと、メイリーは首を横に振った。
「大丈夫よ。あのね、私……本当の両親は知らないのよ」
「えっ……知らない?」
「聞いた話しだけどね……両親が貧乏で私を育てられないって、解放隊のトップである、ボエルジーに預けたって聞いたの」
ボエルジー・ニザン、ヴェルシア解放隊のトップであり、育ての親であった。
彼に預けられたその頃は、まだヴェルシア解放隊は結成されていなかった。
それでメイリーが6歳の時に結成され、メイリーは次期解放隊の隊長としての資質を見込まれたのか……入隊を強制的にさせられたのだ。
「さっきも言ったけどね、私はあの反乱は国民の為にはなってないと思って、離れようと思ったのよ」
そう、メイリーは付け加えた。
「身体能力が高いのは、そういう事?」
チアが聞くと、メイリーは頷いた。
その話を聞いたチアは、自分から親が居ないことをメイリーに告げた。
―――反乱の事や、現在の事も含めて。
「……そうなの。だからベルゼーラさんの所に住んでいるのね」
メイリーは静かにそう言う。
「なんか、私とメイリーさんって似た境地ですね」
そうチアが言う。
(解放隊が犯した罪は、本当に重たいのかもしれない)
「メイリーさん、大丈夫?」
チアの声で、メイリーは我に返る。
「大丈夫よ。……ごめんね、反乱のせいでお父さんが……」
メイリーは言葉に詰まる。
「何を言っているの?メイリーさんは自分の意思で、反乱軍を辞めたんでしょ?それに、私を助けてくれた恩人だから……ね?」
チアはそう言って、笑顔を見せた。
(……ああ、私が解放隊を抜けたのは、本当に良かったのかもしれない)
その言葉を聞いたメイリーは、そう思った。
そうこうしている内に、山の麓にある街が見えてきた。
「もう少しだ。頑張ろうな、皆」
ベルゼーラがそう言うと、3人は頷いた。




