表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/17

第3話 エルゼルガ王国の神殿へ

翌日。

この日は、朝から少し曇っていた。


3人は朝食を食べると身支度を済ませ、宿屋を出た。

イベルガ山へは麓の町まで馬で行き、そこからは歩きで山登りする。


(このまま、晴れれば良いんだが)

ベルゼーラはそう思う。

こういう時の曇り空は、何か嫌な気がしてならない。


無事に行けるよう、気を引き締めないと。


▪▪▪


麓の町に、何事も無く着いた。

そこも、数日前から首都に避難するよう指示があったと聞いている。


町には、宿屋の主人と馬屋の店主、警備の国家剣士(ネルシェガー)だけ残っている。

酸素ボンベを携帯しながら過ごしていると、警備している剣士から話を聞いた。


「まさかあの、ベルゼーラ殿がエルゼルガに。本来であれば剣士(われわれ)がやらなければいけない事案ですが」

話を聞いた、若い剣士がそう付け加えた。


「剣士は本来警備やら忙しいのは、重々承知ではある。それを見越して、自分のところに話が来たのだ。……今は、この事は任せて欲しい」

そうベルゼーラが言うと、その剣士は頷いた。


「どうか、よろしく頼みます」


▪▪▪


神殿への道のりは、軽く整備してある。

歩いていけば、約15分で着く計算だ。


(空気がさらに薄くなりつつあるな……)

歩きながら、ベルゼーラはそう思う。


これは、休みながら行かなければならない。

予定よりも少し遅れそうだ。


道中、雨が降ってきた。


「……あ、あの洞穴に入りましょう!」

チアがそう言う。


3人が入れる程の丁度いい洞穴だ。

休憩も兼ねて、雨が止むのを待った。


「………」


その休憩中、チアは小さな巾着袋を見つめていた。


「なあ、チア。その巾着袋はなんだ?前から大切そうに持っているが」

ベルゼーラは気になって、聞いてみる。


「……これ、お父さんの形見なんです。お守り石が入っていて」

チアはそう返す。


「お父さん、実は戦地医術師(ロイトジェン)をやっていて、あの反乱で殉職したんです。その前に、『母さんの大切なもんを、チアに託す』と言って、渡してくれたんです」

更に、こう付け加えた。


それを聞いたベルゼーラは、自分の記憶が正しいと悟った。

やはり、医師の子だったのか。


「それで、孤児院の出身だった訳だな。色々と、辛かったろう」

ベルゼーラが言うと、チアは首を横に振る。


「ベルゼーラさんは、私にとって第二の親です。……それに、過去は消せないけど、前を向いて生きなきゃ天国に居る両親に恥ですから」


その時、晴れ間が見えた。

スコールだったのか、天候は一気に回復した。


「お守り石のお陰ですかね」

アシラが横から言う。


「そうだな。じゃあ、再度出発しよう」


▪▪▪


歩き始めて20分弱。

ようやく、難所の『滑らせの崖』までやって来た。


岩肌は滑らかで、普通に登るのは難しい事でその名が付けられた。

……のだが、掴めるポイントは少なからずあり、赤い印が付いている石を掴めば登れるという。


「俺が先に行って、命綱用のロープを大樹に取り付ける。その後に、二人は登ってきてくれ」

ベルゼーラが言うと、二人は頷いた。


ベルゼーラが登り始める。


「元剣士だけあって、軽々ですよね」

その姿を見ながら、チアはアシラにそう呟く。


「そうですね。今年で40歳とお聞きしたんですけど……鍛えていたから、でしょうね」

アシラはそう返す。


5分で、頂点まで登った。

一番の大樹にロープをくくりつけ、下に落とす。


「それをお腹に頑丈に巻いて、登ってきてくれ」

ベルゼーラがそう指示を出す。


次は、アシラが登ることにした。

少し手こずったが、何とか上まで登れた。


ここまで順調だったが、問題が起きたのはチアの番だ。


「……うう、緊張する」

命綱用のロープを巻きながら、チアはそう呟く。


「時間をかけて、ゆっくり登るんだぞ!」

ベルゼーラはそう、チアに言葉をかける。


チアは上を向いて、頷く。


ベルゼーラの言う通りに、チアはゆっくり登っていく。

……だが、半分を過ぎた時点で命綱のロープが切れた。


(朝、不吉な予感がすると思ったのは……これだったのか)

ベルゼーラはそう思う。


「……ううっ」

ロープが切れた反動で、チアは動揺している。


「大丈夫だチア、更に慎重に登れ。俺が最後に引き上げるから」

そう、ベルゼーラは手を出した。


手の届く範囲まで登り詰めた瞬間、チアは手を滑らせた。


「チア!」


ベルゼーラとアシラが身を乗り出して、身体を掴まえようとしたが……遅かった。


「きゃっ……」

チアは落下していく。


(くそっ!俺とした事が……!)


ベルゼーラがそう思った瞬間、甲高い鳴き声が鳴り響いた。

崖の上に居た二人がその方向を向くと、大きな鳥の姿が見えた。


そして、そこから黒い影が一瞬にして通り過ぎたと思ったら、崖の下にチアを抱きかかえた人が居た。


▫▫▫


「目を開けてください」

声がして、チアは目を開ける。


そこに、女性の姿があった。

チアは、彼女に救われたと悟った。


「お怪我はありませんか?」

その人が、優しい声で言う。


チアは、涙を目に溜めながら頷いた。


「よかった!それでは崖の上に行きましょうか」


彼女はそう言うと、口笛を吹いた。

その瞬間大きな鳥が、目の前に降りてきた。


「ひっ」


チアは驚いた。こんな大きな鳥を間近で見ることは、そうそう無いからだ。


「大丈夫よ、この子は見た目より大人しい子だから」

そう彼女が言うと、二人を鳥の背中に乗せて飛んだ。


一瞬で、崖の上に到着した。


「ありがとう、モチ!」

彼女が言うと、『モチ』と呼ばれた鳥は喉を鳴らした。


「……で、貴女は?」

ベルゼーラがそう聞く。


「ああ、申し遅れました。わたくし、これから皆様とお供します……ヴェルシア解放隊の国家監視課所属、メイリー・シェントと申します」


▪▪▪


彼女……メイリーに、どうしてベルゼーラ達のお供をするか聞いた。


「あの流れ星の件から、ヴェルシア解放隊の本部が騒がしくなっていまして。で、もしかしたら危険が迫るとデオロガ様から直々に」

と、メイリーは言う。


(それだったら)


首都の街で、自分達に矢が向けられた件をメイリーに話した。

それを聞いたメイリーは、青ざめた。


「……そうですか。もう少し、早く合流すれば良かったですね」

メイリーはそう言うが、ベルゼーラは首を横に振った。


「メイリーが側に居てくれるだけでも、十分心強い」


道中、メイリーに話を聞くと……彼女は元々解放隊の所属だったとの事。

あの反乱に関して疑問を持っていたらしく、解放隊とは決別すると決めたらしい。


「腕に、解放隊だった頃の紋章がありまして」


メイリーは、服の袖を捲った。

そこに、ヴェルシア解放隊の紋章が刻まれており、そこに三本の横傷がある。


「入る誓いを決めた人に、入れ紋章をするのが決まりになります。……で、決別するときにはその紋章に横傷を付けます」

そう付け加えた。


「……あれ?」


チアは指を前に向ける。

そこに、立派な建物が見えた。


「ここだな、神殿は」


登山を開始してから、30分。

ようやく、神殿へ着いた。


「中へ入ろう」


ベルゼーラが言うと、3人は頷いた。


▪▪▪


メイリー・シェント 22歳


ヴェルシア解放隊の国家監視課所属の女性。

元解放隊であり、身体能力は監視課の中では高い。

減少種である、トーネルオオトリのモチは相棒。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] (*´▽`*)堪能しましたー…… ドキハラ、ドキハラ、ドキハラしながら読みましたヨ [気になる点] ほらあ、やっぱなんか起きたジャン! いわんこっちゃないっ(;・∀・)ッ [一言] う…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ