第2話 出発
謁見の翌日。
エルゼルガ王国に向けて、3人は出発した。
(今回の旅は危険が伴うが喫茶店に残すのも悪いと思い、チアも一緒に連れていく事になった)
喫茶店は暫く臨時閉店にして、畑の管理はコヨモさんに頼んでいた。
「しかし、紅い流れ星とは不気味ですね」
国境門に向かう途中、ふとアシラが言った。
新聞に紅き流れ星のカラー写真が掲載されていたが、確かに薄気味悪い気はしていた。
エルゼルガ王国への国境門へ着き、門番に事情を話す。
「それなら、女王陛下より特別な許可を頂いております」
そう門番が言うと、小さな木の札を渡した。
そこには、国の国家印が彫られている。
「国境門などを通る時に、こちらを差し出してください」
ベルゼーラはそれを聞いて思い出した。
確か、特別な任務を任された国家剣士に渡す札だ。
国境を超える時に渡される札で、それがあれば手続き無しで国を出入り出来る。
「ありがとうございます」
ベルゼーラが言うと、門番は頷いた。
「任務、お気を付けて」
そう門番は言い、門を開けた。
▪▪▪
国境付近にある街で、山登りが得意な馬を借りた。
ここから、首都がある街まで3時間程の道のりだ。
その道中。
「……ベルゼーラさん、何だか空気が薄い気がするんですが」
アシラがそう言う。
「確かにな」
国それぞれ、『神の加護』と呼ばれるモノがある。
エルゼルガ王国の場合は、高い山々にある国だが空気の圧は地上と同じになっているはずだ。
「それ、ベルゼーラさんがあの時言った『均衡が崩れている』っていうものですか?」
チアが横から言う。
「ああ、その通り……これは裏があるかもしれん」
ベルゼーラはそう返した。
途中、休憩を挟みながら何とか首都の方へ着いた。
先に宿屋を予約し、そこに馬を預けた。
「まずは、国王へ謁見するか」
ベルゼーラが言うと、二人は頷いた。
城の方向へ向かう。
(………?)
街の大通りへ出た瞬間、ベルゼーラは嫌な気を捉えた。
国家剣士を退職した今でも、その勘が働くって事は……
「ベルゼーラさん?どうかしたんです?」
チアが言う。
ベルゼーラは、その言葉には応じず周りを見渡す。
その時、変に風を切る音が微かに聞こえた。
「………ッ!?二人共、伏せろ!」
チアとアシラはその言葉通り、直ぐに地面に伏せた。
そして、ベルゼーラは振り向き様に剣を鞘から抜き、剣の腹で矢を防いだ。
その後、嫌な気はしなくなった。
「あ、危なかった……流石、元剣士のベルゼーラさんですね」
アシラがそう呟く。
(……なぜ、我らが狙われるのか)
近くに落ちた矢を見ながら、ベルゼーラはそう思った。
もしかしたら、この件は本当に裏がある。
気を引き締めないといけない、とベルゼーラは思った。
▪▪▪
危ない場面もあったが、城へ着いた。
門番に事情を話すと、中へ入れて貰いそのまま謁見の間へ案内された。
5分した後、国王が入ってきた。
「わざわざ、ベルゼーラ殿がお越しなすって……」
国王は開口一番にそう言う。
「例の流れ星に関しては、メルシェ女王陛下より聞いています。我らは、どうしたら良いでしょう」
ベルゼーラは聞く。
「そう言う事であれば、神殿の方へ向かって欲しい。……実のところ、異変が起き始めたのは、神殿の近くにある村からなのです」
国王はそう返した。
どうやら、流れ星が起きた頃から『空気が薄くなる』という異変が報告されていた事。
エルゼルガ国民は空気圧の変化に敏感であるため、今その村に住んでいた住人は首都に避難してきていて、誰も神殿に行けていないとも伝えられた。
「なるほど。では明日……朝一に、その神殿へ向かいましょう」
ベルゼーラがそう言うと、国王は頷いた。
▪▪▪
3人は宿屋へ戻った。
「……神殿は、この国一番の高さを誇るイベルガ山の中腹にあるんですね」
地図を机に広げながら、アシラはそう言う。
「そうだ。行きは最短で行くが、途中危険な箇所があるから気を付けよう」
危険な箇所と言うのは、神殿の前にある『滑らせの崖』だ。
そこを通らず、遠回りで向かうのが安全策だろうが、今は時間が無い。
その時、窓から紅い光が差し込んだ。
3人が窓を覗き込むと、散々言われている『紅き流れ星』が流れていた。
「なんだか、新聞で見たときより色が濃くなっている。ちょっと薄気味悪いな、こんな流れ星」
ふとチアが呟く。
「チアの言う通りだな。……早く、解決してやらないと」
3人は就寝することにした。