第13話 未来(あした)を照らせ
翌朝。
大事な日に食べる『ティーロ (鶏の蒸し料理) 』を食べ、支度をする。
「この服を着るのも、だいぶ久しぶりだな」
国家剣士の制服を着ながら、ベルゼーラは呟く。
剥奪をされてから、もう着ないと思っていた。
(……よし、準備は良いな)
そう思った時、窓が何かで揺れる音がした。
ベルゼーラが外を見ると、メイリーの供であるモチが外に居た。
「……モチ!」
ベルゼーラが外へ出て言うと、モチは鼻を押し当て喉を鳴らす。
鼻が他の動物よりも利くと聞いたが、それでも指笛無しで居場所を見つけるのは凄いことだ。
改めて、モチを見上げる。
何か、やり遂げたい眼をしているように見える。
「もしかして、主人……メイリーの仇をしたいのか」
そう言うと、モチは眼を見開いた。
『その通りだ』、と言わんばかりだ。
「よし、分かった。俺と共に行こう!」
▪▪▪
日の出時刻が近くなる。
途中でオリィと合流し、モチの背に乗って城へ向かっていた。
前方に、剣士の騎馬隊が見えてきた。
「……いよいよ、ですね」
オリィが言うと、ベルゼーラは頷いた。
城前で相手が剣士の騎馬隊を見つけ、攻撃にかかる。
そして、ベルゼーラはニトベラ (ボルベイの上位爆弾) を取り出して、城前へ落として爆発させる。
(これで多少は、相手を引き止められる!)
二人は、城の中庭へ降り立った。
そして、城の壁にある背の半分程の板を開ける。
中には、下へ続いている階段があり、地下の隠し扉に続いている。
「よし、入るぞ」
オリィは頷き、二人は中へ入っていった。
▫▫▫
階段を降り始めて5分ほど、ようやく地下の部屋に着いた。
そこは現在使われていない、大広間だ。
部屋の奥地に、ボエルジーとメルシェ女王の姿が見える。
二人は柱の影に隠れて、少し様子を伺う。
オリィの言う通り、メルシェ女王の足元には玉と鎖が繋がれている。
「ボエルジー様、大変です!剣士の騎馬隊と衝突しています!」
部下が、そうボエルジーに報告を入れる。
「……まあ、よい。もう始めるからな」
そうボエルジーが言うと、リモコンらしき物を手に取る。
「リズイルは表へ戻れ」
リズイルと呼ばれた人物は、頷いた。
「オリィ、あのリモコンを拳銃で狙えるか」
「分かりました」
すぐさま拳銃を取り出すと、リモコンに向かってトリガーを引いた。
弾が、見事に当たる。
「……誰だ!」
ボエルジーは声を荒らげる。
「彼は、任せてください」
オリィはそう言うと、駆け出した。
「オリィ!」
ボエルジーが驚く様子を見せた瞬間、縄で巻き付けられる。
「お父様……いいえ、ボエルジー!もうこの下らない事はもう止めに!」
オリィはそう言う。
「下らない……?この見事な計画を、下らないだと?もう遅いわぁ!」
ボエルジーがそう言うと、謎のオーラをまといながらメルシェ女王が動き始めた。
(まさか、あのリモコンはフェイク!?……早く止めなければ!)
ベルゼーラは急いで、メルシェ女王に近づく。
『朕は、兄を殺したそなたが憎い!』
そう言ったかと思うと、ボエルジーの方に攻撃を仕向け始めた。
(……もしや、自分自身の憎しみと混じりあったのか!)
そうベルゼーラが思う。
「オリィ!どうにか引き付けてくれ」
ベルゼーラが言うと、オリィは頷く。
オリィが何とか対処をしているうちに、玉を削ろう。
(今だ!)
そう思い剣を振りかざすと、玉が削れた。
中から、エルジェージャの魂が抜け出した。
「やったか」
そう、呟いた瞬間―――
勢いよく、メルシェ女王の身体に入り込んだ。
憎しみが強く、魂が直接入り込んだようだ。
『そなたが……そなたが……!』
メルシェ女王は近くにあった短剣を拾い、ボエルジーに向かう。
「た、た、助けてくれ!」
ボエルジーは、弱々しい声で言う。
『お前を!許さない!』
メルシェ女王は、短剣を振りだした。
(………最後の、手段だ)
ベルゼーラは、ボエルジーの前に立ちはだかった。
腕で剣を塞ぐ。
その腕から、血が流れるのが分かる。
『………ど、うし、て』
メルシェ女王が、そう言う。
「女王陛下が、それほど憎いのは十分分かると、俺は思っています。が、その憎しみを直接作ったのはボエルジーではない。この、俺です」
『……そこを、どいて』
メルシェ女王が言うと、ベルゼーラは首を横に振る。
「憎しみに呑まれては、女王陛下失格だと思います。過去の苦しみを受けるのも、人の定めと兄上から言われていましたでしょう……!目を!覚ましてくださいませ!」
▫▫▫
――ベルゼーラ殿の言う通りさ。
(……この声、お兄様……)
ベルゼーラの後ろに、ぼんやりと兄――ネスラ――の姿が見える。
――済まないね、メルシェ。苦しい想いをずっとさせて。
(お兄様が謝る事じゃ、無いです!)
――そうか。それじゃあ兄から最後のお願いだ。
(……?)
ネスラがこちらへやって来る。
――もう、憎しみと苦しみから、さよならしなさい。前を向いて、頑張りなさい。
そう言ったかと思うと、抱きしめた。
……もう、兄はこの世に居ないはずなのに、温もりを感じる。
――エルジェージャ、もう妹を解放させておくれ。
▫▫▫
「……お兄様!逝かないで!」
メルシェ女王は、そう叫んだ。
(嫌なオーラが無くなった)
ベルゼーラは、そう思った。
「………」
メルシェ女王は、呆然と立ち尽くしている。
ベルゼーラは、腕に刺さった剣を引き抜く。
「……お兄様が、見えた」
と、メルシェ女王はベルゼーラに向かって言った。
『憎しみと苦しみから、さよならしなさい』と言った事。
エルジェージャに対して、自分を解放させて欲しいと言った事。
そしてその言葉を最後に、兄の気配が無くなり、エルジェージャの力が抜けた。
……と、メルシェ女王は話した。
(そうか。兄が妹を救った、のか)
ベルゼーラがそう思うと、剣士がぞろぞろと広間へ集まってきた。
ボエルジーは、その場で剣士に逮捕された。
解放隊から決別したオリィも、参考人として一緒に連れていかれた。
「大丈夫ですか、ベルゼーラ殿。その怪我……!」
ワレーゼが話しかける。
「……あ、ああ。大丈夫、だ。それよりも、女王の方を頼む」
腕を押さえながら、そうベルゼーラは言う。
「しかし……!」
「ベルゼーラさん!」
この声は、アシラだ。
「どうして、ここへ?」
ベルゼーラが聞く。
「ロンゾンさんから、『アシラはベルゼーラさんの所へ向かえ』って言われたんです。……剣士の方、ここは任せてください」
アシラがそう言うと、ワレーゼは頷いた。
アシラが介抱している間、ベルゼーラは事の一部始終を話した。
「ベルゼーラさんって、無茶な事しますよね」
アシラは、そう言う。
「剣士の時代から、多少の無茶はしてきたつもりだよ」
ベルゼーラはそう返す。
が、アシラは苦笑いをする。
「だからと言って、剣を腕で防ぐのは駄目ですって」
「……そうだな」
「よし、これで一応処置は完了です。あとで医術院で精密検査をしましょう。深い傷だと不味いので」
アシラがそう言うと、ベルゼーラは頷いた。
▪▪▪
そして、外へ出た。
日が高く昇っている。
解放隊の残党は、国家剣士に任しておいた。
「……ベルゼーラ殿」
門から出ようとした時、メルシェ女王が話しかける。
「女王陛下?大丈夫なのですか」
ベルゼーラがそう言うと、メルシェ女王は頷く。
「改めて、この世界を救ってくれてありがとう。……そして、済まなかった。いくら憎しみに囚われ、エルジェージャに操られていたからといって、そなたを傷付けてしまった事に対しては謝らなければ」
ベルゼーラは首を横に振る。
「兄上を救えなかった身です。……そして、今回の件は、こちらがやれることをやっただけですから」
「お互い様、ですわね」
メルシェ女王が言うと、ベルゼーラは頷いた。
「それでは、失礼します」
ベルゼーラは城を去っていった。
▪▪▪
こうして、世界を混乱の渦に陥れた『異変』はこれで終わった。




