第12話 『明日』へ繋ぐ為に
次回は最終回になります。
「……これより、メイリー・シェントさんの緊急手術を執り行います」
そう、ロンゾンが言う。
「「お願いします」」
手術が始まった。
ロンゾンが主手術師 (主な手術を担当) として、アシラは副手術師 (手術のアシスト) で入っている。
「やや深めの傷と言ったが……臓器まで届いてはないな。体勢が悪かったら、危うく傷付いていた。彼女は幸運だぞ」
手術中、ロンゾンがそう言う。
「そう、ですね」
アシラが返す。
もう一つの『幸運』は、相手がこの一撃だけで済ました事だ。
何度も斬られたりでもしたら、手術どころの話では無かった。
――そして、手術を開始してから2時間。
「縫い付け、よし……メイリーさんの容態は」
ロンゾンが、もう一人の副手術師に聞く。
「数値に異常は無し、です」
そう副手術師が返す。
「……手術は終了だ。あとは、彼女の生命力に望みをだ」
そう、ロンゾンは言った。
▫▫▫
メイリーは、そのまま治療安静室に運ばれた。
アシラは、その部屋に入る。
大きな窓がある仕切りの向こうに、メイリーは眠っている。
「お疲れ様だな、アシラさん」
ロンゾンが話しかけた。
「……あ、はい」
「聞いた話だが、アシラさんは医術学校を主席で卒業したらしいな。道理で手術も順調に進んだよ」
ロンゾンが言う。
「いえ、ロンゾンさんの技術力があったからこそ、手術は無事に終わりました」
アシラがそう返すと、ロンゾンは微笑んだ。
「まあ、あとはさっきも言った通り、彼女の生命力に望みをかけることだ。それと、連れの女の子……チアさんと言ったかな。その子の様子を見に行ってくれないか。ここは、助手に任せるから」
「はい」
安静室を後にし、アシラは別室へ向かう。
面会者専用の泊まる部屋に居ると、聞いている。
その部屋に入ると、チアと助手の一人が椅子に座っていた。
「あ、アシラさん」
助手の人が気が付き、席を立つ。
「チアさんの様子は?」
「先ほど、ハーブティーを飲ませて、少し気持ちを落ち着かせたところです」
「そうですか。ロンゾンさんから、彼女を見るようにと言われたので」
そうアシラが言うと、助手は頷く。
「それでは、あとはよろしくお願いします」
助手は、部屋を出た。
「……アシラさん」
チアがアシラに声をかける。
「大丈夫?」
そうアシラは言うと、椅子に座る。
「……メ、メイリーお姉さん、は?」
「手術は成功したよ。あとは、メイリーさんの生命の強ささえあればだね」
そう返すと、チアは大粒の涙を流した。
「……見たくないモノを、見てしまったね」
アシラがそう言うと、チアの肩を優しく撫でた。
「辛いは分かるよ。今は、涙を流していいからね」
チアは、頷く。
(……あとは、仇を取ってください。ベルゼーラさん……!)
▪▪▪
メイリーの手術が行われた頃、ベルゼーラは首都の城近くにある国家剣士の駐在所に向かっていた。
(どうして、俺は動けなかっただろうか)
メイリーがやられた。
チアやアシラを守るため、では通用しないが……
―――今は、そう思っている暇はない。
足の早い馬を借り、1時間弱でその駐在所に着いた。
「……失礼するよ」
扉を開くと、国家剣士が何人か居たが、空気が張り詰めている。
「ベルゼーラ殿、ご無事でしたか」
剣士時代の後輩である、ワレーゼが話しかけた。
「大まかな事情は、電報で知っている。詳しい情報をと思って、来たのだ」
そう、ベルゼーラが言う。
「……それなら、私から説明致しましょう」
駐在所トップの、ニゾロが口を開いた。
話によれば、解放隊が城を包囲したのは今朝の日の出前だった。
城の周りを爆弾で爆破されたかと思うと、相手の騎馬隊が押し寄せてきた。
それから、明日の日の出にこの国を『解放隊のモノ』として手に入れると宣言したとの事だった。
「……なぜ、城警備の剣士はその事態を防げなかった」
内容を聞いたベルゼーラは、そうニゾロに聞く。
その時、ニゾロの表情が曇ったのをベルゼーラは見逃さなかった。
「もしや、今までこの国での『異変』が起きなかったから、城が狙われるのを想定はしていなかったのか」
ベルゼーラがそう言うと、ニゾロは頷く。
「少なからず、その気持ちがあったのは……ありました」
そうニゾロは呟く。
「……どうしますか、ベルゼーラ殿」
ワレーゼが聞く。
「女王の軟禁されている居場所さえ分かれば、突破して救う事が可能だが……」
「……女王が軟禁されているのは、城の地下です。彼らは『最後の仕上げ』を、女王に仕向けます」
出入口の方から、声が聞こえた。
皆が見ると、そこには解放隊のオリィが居た。
「お前は、解放隊のオリィではないか!どうしてここへ!」
ワレーゼが声を荒らげる。
「『償い』をしたくて、ベルゼーラさんの元を訪れたいと思ったところ、此処に居ると聞いて。……それともう、解放隊とは決別しました」
左腕の方の袖を捲ると、紋章の所に三本傷がある。
決別は『嘘』ではない、とベルゼーラは思った。
「その事情は後で聞くとして、先ほどの事を詳しく」
ベルゼーラが言うと、オリィは頷いた。
▫▫▫
『最後の仕上げ』、それはメルシェ女王の《身体》に、かつての邪神と言われたエルジェージャの魂を入れ込むと言うものです。
あの反乱で、前国王の首を取ったものの、国の政治に介入出来なかった為に『神像を操れば、国を掌握出来る』との試みをしようと動いておりました。
神像の『印』もそうですし、エルジェージャの甦りもそうです。
……ちなみに、エルジェージャの甦りに関しては、別の部隊が動いていたので、事情を把握していないのが現状です。
そして、現トップのボエルジーが仮釈放したのを期に、この計画を起こさせたのです。
▫▫▫
「それが、明日行われるのか」
ニゾロが言うと、オリィは頷く。
「……それで、女王に仕向けると言ったが、どうするつもりなのだ」
ベルゼーラが聞く。
「女王の足元に、魂の入った玉と鎖で繋がれているはず。そこから、魂を《身体》に入れるので、玉を削るか鎖を切れば防げます」
「分かった。それでは、突破口に関してはニゾロ氏を中心に剣士で話してください。中には俺とオリィが入ります」
皆は頷いた。
「……少し、いいか」
と、ベルゼーラはオリィに話しかける。
オリィは頷くと、そのまま駐在所の裏側へ出た。
「次期トップとして活動しているのを聞いていたが、どうして決別を考えたのか教えてくれないか」
そう、ベルゼーラは聞いた。
「分かりました。お話しします」
オリィは、自身の事や自分から見た解放隊、今回の件の事、そしてメイリーの事。
包み隠さず、話した。
「……この件が終わったら、裁きを受けます。どんな『償い』も受けるつもりではあります」
最後に、オリィはそう言った。
「俺から言えるのは、決別をしたから裁きの結果は少し軽くなるだろう。……まあそれでも、入っていた事実や今回の件も絡んでくる関係上、特別参考人 (重大事件の関係者) としての扱いは避けられん」
オリィは、頷く。
「それは、重々承知の上です」
「……あ、ベルゼーラさん」
剣士の一人が、話しかける。
「どうした?」
「電報員から、電報を」
電報紙を差し出した。
「ありがとう」
ベルゼーラがそう言うと、剣士は会釈をして去った。
差出人は、ロンゾンからだ。
内容は、『メイリーの手術は成功 あとは彼女の生命力のみ』と書いてある。
「……メイリーの手術、成功したようだ」
ベルゼーラがそう言うと、オリィは安堵した様子を見せた。
「さて、中へ戻ろうか」
二人は、駐在所の方へ戻っていった。
▪▪▪
その日、久しぶりに家へ帰った。
(ちなみに、チアは医術院の方に泊まっている)
コヨモさんが、定期的に掃除をしてくれていた。
挨拶だけしか済ませていなかったから、この件が終わったら料理を作ってあげよう。
明日の朝、諸国の異変を含めて、この件が終わりの刻を迎えようとしている。
国家剣士が総動員をかけて、衝突し……
俺とオリィが中へ入って、女王を救う。
(……あの時のように、失敗はしてはならん)
苦い想い出を胸に秘め、ベルゼーラは寝床に就いた。




