第11話 国へ戻る
シーゼルガ王国の異変を終わらせたベルゼーラ一行は、ナノゼルガ王国へ急いで戻っていた。
その間……ベルゼーラはずっと、考えていた。
解放隊が、どうして女王を人質にして城へ閉じ籠ったのか。
その時、国家剣士はなぜその事態を防げなかったのか。
ナノゼルガ王国の神像は国王が兼ねている。
それが、今回の事の筋だと思うのだが―――
(とりあえず戻り次第、事情が分かる剣士に話を聞くしか無いのか)
情報が少ない分、聞いた時に対策を練ろう。
「……ベルゼーラさん」
ふと、チアが声をかけた。
「どうした、チア」
「これ、ベルゼーラさんに渡した方が良いと思って」
お守り石が入った、巾着袋を渡してきた。
「お父さんの形見だろう?チアが、きちんと持っていなさい」
「その、今回ばかりは気が気でなくて……」
チアはそう言うと、目に涙を浮かべて口唇を噛み締める。
「そうか、俺の事をそれほど大切にしているのか。分かった、受け取るよ。その代わり――」
「その代わり?」
「絶対、死なないからな」
そうベルゼーラが言うと、石が入った袋を受け取った。
▪▪▪
船は、海側に面した国境門へ着いた。
「私からも、どうかこの事態を無事に終わらせてください」
ノントがそう言う。
「ありがとう。気をつけて帰ってください」
ベルゼーラが返すと、ノントは頷いた。
そして、船は直ぐに来た方向に向かって出港した。
「とりあえず、首都に向かうとするか」
ベルゼーラが言うと、皆は頷く。
そして、門から街へ入った時だ。
「……!?」
ベルゼーラはまた、嫌な気を捉えた。
「……私達を狙ってるかもしれません」
そう、メイリーがベルゼーラに囁く。
彼女も、その嫌な気を捉えたようだ。
(……どこだ、どこから狙っている)
そうベルゼーラは思いながら、周りを見渡す。
(ここまで来ておいて、死ぬわけには……!)
▫▫▫
その時、メイリーは冷や汗をかいていた。
――この感じは、解放隊が狙っている時の気だ。
短剣を取り出し、辺りを見渡す。
そう遠い距離ではない。きっと、近くに……
ふと、人混みの中から、見たことのある顔が見えた。
(あれは、オリィ!)
マントのポケットに手を入れている。
で、その手が上がるのが見えた。
もしかして、私達に拳銃を向ける気じゃ――
(……だとしたら、私に出来るのは!)
メイリーは、走り出した。
「ベルゼーラさんに!ぜってぇ手を出してやるもんか!!」
そう言いながら、オリィに向けて短剣を投げる。
その短剣は、見事にポケットに入れていた手の腕に刺さる。
オリィはその短剣を抜くと、腕の傷をもう片方の手で押さえてしゃがみこむ。
ふと、オリィと目が合う。
その目は、なんだか私に訴えているような――
「メイリー!右側!」
ベルゼーラの声で、メイリーは我に返る。
右を見る。
そこにはオリィの手下のリズイルが短剣を片手に、近くへ寄っていた。
(……私としたことが!)
一瞬の気の緩みで、近くまで寄らせていた。
「よくもオリィ様を!」
リズイルが短剣を振りかざす。
避けようとした瞬間、脇腹に痛みが走る。
「イッ……」
メイリーは、脇を手で押さえながらしゃがむ。
血が流れ出ているのが、よく分かる。
それに、意識が朦朧になる。
その時一気に、周りの人混みが騒ぎ始める。
リズイルは、オリィの所に駆け寄るとその場を離れた。
▫▫▫
「メイリー!」
「メイリーさん!!」
三人はメイリーに駆け寄る。
「……す、すい、ません」
メイリーは、か細い声でそういう。
「無理に話しては駄目です。今から応急処置をして、医術院に運びますから!」
アシラが言う。
「大丈夫か」
誰かが、こちらに向かって話しかけた。
ベルゼーラが声の方を向くと、白衣を着た人が居る。
「俺はこの近くの医術院に所属している、ロンゾンです。怪我人が居ると聞いて、来ました」
そう彼が言う。
ベルゼーラが事の事情を少し話し、アシラが傷の状態を話す。
「……やや傷が深め、か。内臓を傷付けている可能性もあるので、手術をしましょう。もうそろそろ、助手達が担架を持ってきます」
ロンゾンが言う。
「すいません、この子も連れていっても良いですか。さっきの光景を目の前にして、気が動揺しています」
ベルゼーラが、そう聞く。
チアは、今にでも泣きそうだからだ。
「分かりました。手の空いている助手に、面倒を見させます」
「お願いします」
その時、助手の人達が担架を持ってきた。
そこにメイリーを乗せる。
「確か、アシラさんと言いましたな。オペを一緒に行いたいのですが、よろしいか」
ロンゾンが言う。
「はい、分かりました」
「……すいません、俺は寄る場所があります。そのまま、お願い出来ますか」
ベルゼーラが、最後にそう付け加えた。
「分かりました」
ロンゾンがそう返すと、ベルゼーラは頷いた。
▪▪▪
その頃、人気の無い場所では。
「……オリィ様、どうしてすぐ拳銃を出さなかったのです」
リズイルが、オリィの腕に包帯をしながら聞く。
「メイリーの剣の方が、早かったからだ」
そう返すと、リズイルは不満そうな顔をする。
「あのタイミングでは、こちらの方が早かったです」
実のところ、拳銃を取り出すのを戸惑っていたのだ。
なぜ戸惑っていたか、今になってようやく分かった。
かつて、メイリーが自分に言っていた事。
―――『護りたい者は誰か』、と言うもの。
それは、そう……メイリーの事だ。
血の分けあった姉弟では無かった。
それでも、仲は本当の家族以上のモノがあった。
解放隊が出来た頃、言っていた事を思い出した。
『何があっても、俺はメイリーを護るから』
だからこそ、あの時『言っている事が分かる』と彼女が言っていた。
どうして俺は、今まで忘れていたのだろう。
本当に護りたい者は、自分の手で護ると決意したのに――
「さて、包帯は巻き終わりました。本部にはどう報告しましょう」
リズイルがそう言う。
「……とりあえず、メイリーを負傷させた、痛手にはなるだろうと伝えてくれ」
「分かりました」
そうリズイルが返すと、無線で報告を入れる。
俺は……俺は。
もう、解放隊には居られない。
もう、無念で死んだ人達の血で穢れてはいけない。
――やっている事は、かつて自分の家族を殺した罪人と同じだ。
(……今からでも、『償い』は出来るだろうか)
そうオリィは思うと、懐から強化縄を取り出し、リズイルの所へ寄る。
「オリィ様……?」
リズイルが振り返ると同時に、オリィは鳩尾を殴り付ける。
一瞬動かなくなったリズイルの手足を、強化縄で巻き付ける。
「オ、オリィ……様……どう、して」
「……済まない、リズイル。俺はもう解放隊には戻らない」
そうオリィは言うと、リズイルをその場に残して去っていった。




