第10話 そして、シーゼルガ王国へ
降り立った港町で一泊をした、翌朝。
港の方で、シーゼルガ王国の船を待っていた。
向かうシーセルガ王国も特殊な国であり、地下深く掘りながら領土を広げている。
到着するまでに、大事がなければ良いが――
「あ、あれじゃないですか?」
チアが指した所を見ると、確かにシーセルガ王国の旗をなびかせている船が見える。
「……お待たせいたしました、ベルゼーラ御一行。シーセルガ王国の外交師であります、ノントと申します。」
そう、一人が言った。
「よろしくお願いします」
皆は船に乗り込む。
そして、船は出港した。
「わざわざ、外交師の方が出迎えてくれるとは」
ベルゼーラがそう言うと、ノントは苦笑いした。
「今、手の空いているのは私しか居りませんので……」
「何かあったのです?」
メイリーが横から聞く。
「現在、リノーゼ症候群が多発していまして、外へ出られる人物が少ないのです」
ノントがそう返す。
「リノーゼ症候群って、なんですか?」
チアが小声で、アシラに聞く。
「強い光を浴びた時に、けいれんや失神を起こす症状の事だよ」
チアは、なるほどと頷く。
「妙な事に神殿近くから強い光が出ていて、それを見た人達が発症しているのです。その光が、徐々に広がっているのです」
そう、ノントは付け加える。
多分、これがシーセルガ王国の異変だろう。
今までの事をノントに一通り話すと、把握してくれたのか船のスピードを速めてくれた。
向かう途中で、船の無線が鳴った。
メーゼルガ王国の事もあり、ベルゼーラは嫌な気がしてならない。
『……こ、こちら国家剣士第2部隊のビルイです』
無線から、そう声がする。
「ビルイ、どうした」
ノントが返す。
『神殿から、神像が動き出したと報告がありました。そ、そして、動く度に……強い、ひ……光が……』
そこで無線が切れた。
「ビルイ……?ビルイ!?応答せよ!」
ノントが声を荒らげる。
「こりゃあ、本格的にまずいぞ……!」
▪▪▪
出港してから約1時間半、ようやくシーゼルガ王国に繋がる小さな島へ着いた。
建物があり、そこから地下へ進める階段がある。
「……ノント殿!」
警備担当の国家剣士が声をかける。
「ジラ、中の様子は?」
ノントが聞く。
「神像の止め方も分からず仕舞いで、被害が拡大しております」
ジラと呼ばれた剣士が、そう返す。
「腕に解放隊が仕組んだ、印があるはずです。それを削れば何とか……急ぎましょう」
ベルゼーラが言うと、皆は建物に入り階段を降りていった。
降り始めて5分で、大広間の方へ出た。
「……なんだ、これは!?」
住民達が何人も倒れており、介抱している人達でごった返している。
アシラは倒れている一人に駆け寄り、症状を診る。
「……これは、リノーゼ症候群でも中症の分類だ」
そう、アシラが呟く。
「アシラさん、どうすれば?」
メイリーが聞く。
「とりあえず、被害者の目元に何か布を当ててください。安静な体勢にしたら、中症までは治ります。それでも治らないような重症の患者が居れば、後で薬を投与します」
そう、アシラは返す。
(神像を探さないと……!)
ベルゼーラがそう思った時、壁が何者かに壊されたような大きな音がした。
振り向くと、神像が大広間に入り込もうとしている。
「……皆さーん!安全な奥地へ!避難を!」
事態を即座に把握したベルゼーラは、そう呼び掛ける。
アシラ達や被害を免れた住民は、被害者を抱えて避難する。
(一人で粗末しろってか)
剣を抜きながら、ベルゼーラはそう思う。
大広間は今までで動ける範囲が狭い。
それに、メイリーは被害者の介抱をしている。
「……ベルゼーラ殿、助太刀致す!」
声が聞こえた。
ベルゼーラがその方向へ向くと、国家剣士の格好をした人が剣を鞘から抜いている。
「ゼロンガーラ様!」
声の主は、シーゼルガ王国の国家剣士トップ、ゼロンガーラだ。
何度か、お目にかかった時がある。
神像が、ゼロンガーラの方へ向く。
「事情は先ほど、ノント殿がら聞いておる。私が引き付けます時に、ベルゼーラ殿は腕の印に傷を!」
その言葉に、ベルゼーラは頷く。
神像が腕を振りかざすと、ゼロンガーラは避けていく。
住民達を奥へ誘導しながら、ベルゼーラは腕に近づけるか試みる。
3発目の振りかざしたところで、神像が少し体制を崩す。
「今ですぞ、ベルゼーラ殿!」
「……了解!」
印のところへ飛び乗り、剣で傷を付ける。
そのまま、神像は動かなくなった。
……なんとか、被害を終わらせた。
▪▪▪
「皆、無事かの」
シーゼルガ王国の国王が、大広間へ来た。
ベルゼーラは、国王に向かって会釈をした。
国王は、ベルゼーラに手をかざすと神像の方を向いた。
「おお、神像を止められたのか」
「国王、神像はかの解放隊に操られていたと……」
ゼロンガーラが、国王へそう報告する。
「……そうか。ならば、一番危ないのは御ノ国 (他の国がナノゼルガ王国を呼ぶときの名) じゃろう。そろそろ、戻らないといかん刻のような気がするのぉ」
国王がそう言った瞬間、ジラが慌てた様子でやって来た。
「ベルゼーラ殿、電報員よりこちらを」
ベルゼーラは、電報紙を受けとる。
そこには、『王国の城 女王を人質にし 解放隊に占領されたり』と書かれていた。
血の気が引くのが分かった。
「……見せてみなされ」
そう言われ、ベルゼーラは国王に電報紙を渡す。
「ふむ……高速船を出すよう、ノントに申しておこう。被害者はこちらの医師で診るようにもするから、ベルゼーラ殿は国にすぐ戻るようにしなされ」
国王がそう言う。
「御ノ国は、ベルゼーラ殿しか救えない。どうか、頼みます」
そう、ゼロンガーラも言う。
「分かりました。今すぐ、船をお願いします」
▪▪▪
「……父上、お呼びでございますでしょうか」
「ああ、オリィか。アヤツらが、そろそろ此方へ戻ると偵察員から報告をな」
「そうですか」
「『最後の仕上げ』の前に、アヤツらには本格的に抹消をとな」
「……分かりました、俺とリズイルで仕留めます。絶対……に」




