第8話 第2の神殿へと向かう
ベルゼーラとタツヤ、アシラは神殿へと向かっていた。
2時間ほどの移動だが、足が速い馬で急いで向かっていた。
道中、休憩時にタツヤの無線機に無線が入る。
『タツヤさん、メイリーです』
メイリーからの無線だ。
「おう、メイリーか。どうした」
『チアちゃんを無事に保護致しました』
それを聞いた3人は安堵した。
「それだったら、神殿に近い港町に向かってくれ。神像の件が終わったらそっちに合流する」
タツヤが言う。
『分かりました。そちらもお気をつけて』
そうメイリーが返すと、無線が切れた。
「……無事で良かった」
ベルゼーラがそう呟く。
「なあ、その娘とベルゼーラはどういった間柄なんだ?」
タツヤがそう聞く。
ベルゼーラは、出会いを含め彼女のことを一通り話した。
……たが、彼女の親が戦地医術師で殉死したと話した時、タツヤは表情を曇らせた。
「どうした」
ベルゼーラがその表情を汲み取って聞いた。
「その娘の父親、反乱軍の戦争の時に俺を庇ってくれた医術師だ。名字を聞いて思い出したよ」
どうやら、怪我をした際に介抱をしている最中に反乱軍に襲われたとの事だった。
「……まさかだが、かつて命を救ってくれた恩人の娘子に出会えるだなんて思いもしなかったな」
タツヤはそう呟いた。
▪▪▪
その後、無事に神殿の方に向かうことが出来た。
「……なんか、緊張するな」
タツヤがそう呟く。
「道中でも伝えたが、神像に解放隊の印が刻まれている。俺が引き付けるから、タツヤはそれを狙ってくれ」
ベルゼーラが言うと、タツヤは頷いた。
3人は神殿に入った。
中央部分に神像がある。
アシラは神殿の入り口に待機し、ベルゼーラとタツヤは剣を鞘から抜いてそのまま進んでいく。
一定の所まで進んだ時、神像が動き始めた。
(やはり、あの印は)
ベルゼーラは、腕に刻まれた印を見て確信した。
トルゼルガの神像も、解放隊に操られている。
「……くそ、俺の方に攻撃してくる!」
タツヤが攻撃をかわしながら、そう言ってくる。
「そのまま、引き付けてくれ。俺が行く!」
ベルゼーラはそう言うと、印が刻まれている腕の方へ走る。
「……ッ!」
タツヤが足を挫いて、体勢を崩した。
神像は、タツヤに向かって殴り掛かる。
振り掛かったのが、ちょうど印が刻まれている腕の方だ。
(クソ、間に合え!)
ベルゼーラは腕に飛びかかり、印を削った。
そのままの体勢で、神像は止まった。
▫▫▫
「……すまんな」
挫いた方の足をアシラに介抱して貰いながら、タツヤはそう言う。
「謝ることはない。むしろ、俺の方が悪い……」
ベルゼーラがそう言うと、タツヤは首を横に降った。
「お前が来てくれなかったら、もっと惨劇は続いていたのかもしれない」
「よし、終わりました。軽い捻挫ですし、無理な動きをしなければ大丈夫ですよ」
アシラが、そう言う。
「……やはり、総合医術師なだけあるな。手際が良い」
タツヤがアシラにそう言う。
「いえ、これが僕の役目ですから」
「それじゃあ、港町に行こうか」
そうベルゼーラが言うと、二人は頷いた。
▪▪▪
神殿の近くにある港町、リーラ村。
そこの公園で、メイリーとチアは待っていた。
「……無事に、神殿に行けたのかな」
チアはそう呟く。
「大丈夫よ。ベルゼーラさんとタツヤさんは元国家剣士だし、怪我をしたってアシラさんが居るもの」
メイリーがそう言って励ます。
「ねえ、メイリーさん……どうして三人を信じられるんですか?」
「え?」
思いがけない質問で、メイリーは目を見開く。
「まあどうしてって言われたら、私は三人は必ずやってくれるって思っているからよ」
「そう、ですよね」
少し物悲しそうに、チアは言った。
「なんでこんな質問を?って、聞いちゃいけないかもしれないけれど」
チアは少し考えた後、
「……その、もしかしたら……私の目の前から、消えてしまいそうで……」
と、言った。
お母さんは病気で亡くなり、お父さんは殉職―――
そして、今の身寄りであるベルゼーラさんは、解放隊に狙われている。
『消えてしまいそう』、と思うのも無理は無い。
「その時は、私が付いて居るから。不安そうな顔をしちゃうと、ベルゼーラさんも心配しちゃうわよ。……ほら、約束」
そう言って、メイリーは小指を差し出した。
「そう……そう、ですよね。……約束」
チアも小指を出して、結んだ。
「チア、メイリー!待たせた」
その時、ベルゼーラの声が聞こえた。
二人が後ろを向くと、三人が揃っていた。
「……あれ、タツヤさん。足、大丈夫です?」
メイリーがそう言う。
「あ、ああ……大丈夫だ。少し挫いただけだ」
そうタツヤが返すと、メイリーは頷いた。
「メーゼルガ王国からの船の手配は、タツヤから向こうに話を通している。時間的に、もうすぐ来るみたいだ」
ベルゼーラが言う。
その時、汽笛が聞こえたと思うと、メーゼルガ王国の国旗を掲げた中型の船が停まった。
「あの船みたいですね」
アシラがそう呟く。
その船から、一人降りてきた。
こちらに気がついて、向かってくる。
「貴殿方がベルゼーラ御一行ですな。わたくし、メーゼルガ王国のミラージエ運航社、船長のトメゾウと申します」
「よろしく頼みます、トメゾウさん」
タツヤがそう言うと、トメゾウは頷く。
「さて、出港は如何なさいましょう」
そうトメゾウが聞く。
「……そうですね。もう日が傾いているので、明日の朝早くに出ましょう」
ベルゼーラがそう言う。
「分かり申した。宿泊船をご用意しましたので、うちの船で一泊してください。また、軽く事情をお伺いしましたので、代金はいただきません」
トメゾウが言うと、手荷物を船員に任せて船の中へ入っていく。
「それじゃあ、中へ入ろうか」
ベルゼーラが言うと、三人は頷く。
「じゃあ、俺は首都の方へ戻る。報告もしなければならないしな」
タツヤが言う。
「ありがとうな、タツヤ。お前が居てくれて良かったよ」
ベルゼーラがそう言うと、タツヤは首を横に振った。
「俺こそ、ベルゼーラとまた逢えて良かったよ」
二人は、拳を合わせた。
「気を付けてな、ベルゼーラ」
「おう」
▪▪▪
「……ジエラ殿」
宿の喫茶店に、とある国家剣士が入る。
「おう、レゾゥか」
レゾゥと呼ばれた人は、頷く。
「情報網によりますと……かのベルゼーラ一行が、無事に任務を遂行したとの事です」
「そうか。次はメーゼルガ王国だな」
「無事で居てくれれば、良いのですが」
レゾゥがそう呟く。
「ベルゼーラ殿は、教え子のデオロガの元部下で頭の良い奴じゃ。そこまで心配することは無いぞ」
「……そう、ですね。それでは僕は任務に戻ります」
レゾゥはそう残し、喫茶店を後にした。




