『子供』
夢を見た。
小さな、それこそ赤ん坊と呼ぶような子供が、森の中の開けた場所に一人、寝転がっている。
子供の周りに、保護者と呼べる者は見当たらず、ただ放置されていた。
寝転がっている子供の上空から、私は、「可哀想に」と呟いたりしながら、ただただ地上を眺めている。
子供は笑うわけでもなく、泣くわけでもなく、よく見えぬ筈の眼で、私の眼をじっと見詰めていた。
この時の私の心に、抱き上げてあげようなどの温かい気持ちや、子供への関心は、塵ほどなかったが、子供があまりにも熱心に私の眼を見詰めてくるので、子供に対して少しの興味が湧いた。
ただ、興味と言っても、子供の行く末を見届けるかと思う程度であったが。
どれくらい観察していたのだろう、正確な時間は測ってないが、途方もない時間が経った気がした。
私が知る限り、その間、子供が感情を露わにしたことは一度たりともなかった。
泣くも笑うも、怒るのも、何もない、ただの無。
私は、そんな子供を見て、何故か不気味だとは思わなかった。
逆に、ますます子供への興味が湧いてきたのだ。
子供は瞬きもせず、感情すら読み取れない眼を私に向けている。
それから少しして、ふと、気がついた。
子供の周りを一匹の鷹が飛んでいるのだ。
鷹は、獲物を必ず仕留めると言うかのような姿で、滑空している。
この子供はどうするのかと、私が他人事のように見ていると、鷹が遂に動いた。
鷹は子供めがけて一直線に進み、そして、鷹の爪が、子供を包んでいる衣服を掴んだかと思った瞬間、鷹は消えてしまっていた。
私が目を離した訳でも、更に言えば、瞬きすらしていないのだが、鷹は忽然と姿を消していた。
私は、もしかしたら今までの鷹は、私の暇という感情から作った幻影だったのかもしれないと、自分自身を無理矢理納得させ、また、子供の眼を見詰めた。
心なしか、子供の表情が少し和らいだように見えた。
また少しすると、今度は野良犬が、子供の周りを彷徨いていた。
野良犬の眼は爛々としており、今にも子供に飛びかかりそうであった。
いや、私が気付いた瞬間に子供に飛びかかっていた。
だが、先程の幻影鷹同様、飛びかかった瞬間に、忽然と姿を消した。
私が目を擦っても、何をしても、野良犬の姿はない。
野良犬のいた場所を見ると、無感情であった子供が笑って、先と同じように寝転がっていた。