第6話 土曜の怪事件(ちょい短め)
「またか……」
刑事課の新井は、部下からの報告を聞いて嘆息した。
繁華街近くの交番前に、細身の男が転がされていたらしい。この街では頻繁に起きる怪事件である。
犯人は分かっている。正確には、犯人は分かっているが、犯人像は全く掴めていないといったところ。
転がされていた男は氷属性者。
男の衣服には直近の犯罪2件について記された四つ折りの用紙が仕込まれていて、先程までその内容に該当する防犯カメラの映像とのすり合わせが行われていた。
1人目の被害者は原因不明の昏睡で入院中。
2人目は被害に遭う直前で助け出されたと見られるが、昨晩の記憶が残っていない。
対して捕らえられた男は、一見して記憶に影響はないようだったが『"中途半端な魔法使い"の情報』と、『氷属性魔法の使い方』だけはさっぱり思い出せないようだった。
状況証拠のみほぼ完璧に揃えられたこの手口は、この街で見られる"中途半端な魔法使い"のものでまず間違いない。
彼は毎度『自身の情報』『氷属性魔法の使い方』そして『被害者の恐怖』を"凍結させている"のだと推察されている。
どういうトリックか街中のカメラ映像にも絶妙な編集を施しているのだから全く尻尾を掴めない。
魔力暴走により圧倒的な魔力を誇る氷属性者だが、それを幾度にもわたって捕獲するその手腕は、氷属性者による芸当と考えられる。
しかし、人格にまで影響を及ぼしうるその暴走の中にあって、治安維持活動をする特異性は、模倣犯の可能性を限りなくゼロにしていた。
そんな背景もあって、いつも"中途半端な魔法使い"の仕業ということでカタがつくのだ。
そんな彼、ないしは彼女への恐れからか、この地域での氷属性者による犯罪率はかなり低い。
世間では英雄視され、上層部でも功績を讃えるために探すか、野放しにして治安維持に利用するかなど様々な意見があるようだ。
先輩の大原なんかは「無理に探し出す必要も正体を明らかにする意義もないが、話を聞けるなら聞いてみたい」みたいなことを言っていた。
新井としても対応に困る案件であり、
(まぁ、正体が分かってた方が、いろいろ動きやすくはあるかな)
と考えるのだった。