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傷の具合も良くなったので、ローズマリーは領地に戻り本格的に仕事に戻りだした。
ひとつ気になる点があったため、それを解消するためにある人物を呼んでいた。
「お呼び立てして申し訳ありませんわ。クロフォード公爵。」
父親であるアドルフ・クロフォード公爵がローズマリーの領地にある邸を訪れたのだ。
応接室では親子だというのに、重苦しい雰囲気が流れていた。
「ローズマリー、話とは?」
沈黙を破ったのはアドルフだった。ローズマリーはひと呼吸置いた。
「王妃様に余計なことを吹き込んだのは貴方ですか?」
ローズマリーの中でずっと引っかかっていたのだ。
確かに傷があると変に噂をされる。だが、王妃が考えたことなら国王に先に話を通し、二人で説得にあたるはず。婚約の時もふたりできたぐらいだから…。
「余計なこととは?」
「私の傷についてです。」
アドルフはフッと笑った。
「あぁ、そのことか。余計なことではない。どちらにせよ、婚約は破棄するつもりであったのなら、誰もが納得できる理由ができただろう?」
傷痕があるので婚約は無かったことに…という理由は今でも古い考えの貴族は持っている。
「ですが、レオナルド様は納得するでしょうか?」
「ローズマリーはレオナルド殿下のことをどう思っているんだ?誰もが納得できる理由と言ったが、お前は真っ先に殿下がでてきた。で、どうなんだ?」
アドルフは真っ直ぐにローズマリーをみつめた。
「……好意は持っています。」
「殿下のことを考え、早々に身を引いたほうがいい。ブルースの件もあり、身体に傷痕がある令嬢など、王家の嫁としては相応しくないからな。」
ローズマリーは何も言えずに、ぎゅっと歯を食いしばった。
そんな姿を見るのは初めてなので、アドルフも少し面を食らった。
「レオナルド殿下の事を第一に考え、どう行動したらいいのかは自分でわかっているな?」
「……わかっていますわ。」
アドルフはソファから立ち上がり応接室の扉に向かった。
「今日は帰るが、公爵家の人間として恥じない行動をしろ。」
「……公爵、その言葉、そのままお返ししますわ。」
ローズマリーはアドルフを見ることもなく、言葉だけを投げかけた。
「ローズマリー様、公爵はお帰りになりました。」
窓際で外を眺めていたローズマリーにアリアが声をかけた。
「そうね。」
どことなくローズマリーに覇気がない。
「公爵は一体何を考えているのかしらね?」
だいたいは想像はつくけれど、想像はあくまでも想像だ。
「あの人なりの気遣いなのかしら?」
ローズマリーはアリアに問いかけるが、アリアには公爵が何を考えているのか検討もつかない。
「ローズマリー様はどうお考えなのですか?」
「…そうね。」
ローズマリーはまた窓の外を眺めた。
「正直な所、分からないわ。ただ、私のような存在は、疎ましいでしょうね。色々な意味で。」
ローズマリーは陽が傾きだした空をぼんやりと眺めていた。




