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アリアの傷は思ったより浅かったが、数日は安静に過ごすようにと指示された。
だが、ローズマリーを守れなかった事もあり酷く落ち込んでいる。
そちらの方が気掛かりだ。
ローズマリーは、レオナルドの寝室の隣の部屋に運んだ。
何かあればすぐレオナルドが飛んでいけるようにとの配慮で。
ローズマリーの傷は命に別状はないが痕が残るだろうと言われ、働き過ぎもあり疲れもかなり溜まっていたようで、今はぐっすりと眠っている。
ローズマリーがぐっすりと眠っている横でレオナルドがローズマリーに付きっきりの状態だ。
そんな中、扉をノックするコンコンという音が聞こえ、ゆっくりと扉が開いた。
「…レオナルド、ちょっといいかしら?」
王妃がゆっくりと部屋に入ってきた。
「母上、用件ならここで聞く。」
王妃は侍女に扉を閉めるように指示をし、扉が完全に閉まったのを確認してから、ゆっくりと口を開いた。
「…ローズマリーさんとの婚約はなかったことにしましょう。」
「はぁ?」
いきなり思ってもいない一言が飛んできた。
婚約は両親が強くお願いして条件付きで成立した。
最初は破棄することしか考えていなかったか…今は破棄などしたくない。
したところで、もう一度、婚約し直すつもりではいるが…。
「レオナルド、貴方は王子として立派になりました。だから…」
「嫌だ。婚約破棄はしない。もし仮にされてもまた婚約します。俺はローズマリーしか考えられない。」
レオナルドは寝ているローズマリーの手をきゅっと握った。
「他の令嬢を探しましょう。陛下にも私から伝えます。」
「ローズマリー以外考えられません!」
「レオナルド!ローズマリーさんは今までの綺麗なローズマリーさんじゃないのよ?!身体には消えない傷痕があるのよ!それでもいいの?」
王妃は少し興奮気味だ。
そのせいなのか、レオナルドの瞳を真っ直ぐ見ずに逸らしていた。
「母上の本音はそれですか。傷痕は俺を守ってくれた証です。母上は傷痕を恥だと思ってるでしょうが、俺には誇りにしか思えません。そして、母上みたいな人からローズマリーを守るのが俺の役目だ。」
レオナルドは真っ直ぐ王妃の瞳を見た。
「ここから、出ていってくれませんか。今は貴女の顔を見たくない。」
王妃は何も言えないまま、ゆっくりと部屋をあとにした。
「ごめん。」
レオナルドは寝ているローズマリーの頭を謝りながら撫でた。
すると、勢い良くローズマリーの紅い瞳がパッチリと開いた。
「レオナルド様、王妃様の言う通りですわ。」
ローズマリーは身体を起こそうとしたが、レオナルドが慌てて止めた。
「起きてたのか?」
「えぇ。王妃様が入ってきたあたりで。」
「ごめん。母上があんな事を言って。」
レオナルドは頭を下げた。
「仕方がないことですわ。今後、言われのない噂がたつでしょうから。」
「噂?」
「胸元が開いたドレスを着れば傷痕が見えます。その傷をみて変な噂をしたり、変な憶測をする輩もいます。レオナルド様にもご迷惑がかかりますわ。女性にとって傷痕は致命傷です。」
レオナルドは言葉が出なかった。
「ですが、先程のレオナルド様のお言葉はとても嬉しかったです。誇りだと思っていただけるなんて光栄ですわ。私はその言葉だけで充分です。」
レオナルドはぎゅっと手を握った。
「レオナルド様、王妃様の言う通り婚約を解消いたしましょう?それが貴方の為にもなりますわ。」
ローズマリーは悲しそうに微笑んだ。




