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地下牢にカツカツと響くヒールの音。
地下牢は光が差し込まないため暗く、灯りがないと暗闇他に包み込まれる。
カツっとヒールの音が1つの牢の前で止まる。
「…ルイ」
ローズマリーが中にいるルイを呼ぶが返事がない。
灯りを牢の方に向けると、隅の方で膝を抱えているルイがいた。
ルイは灯りに気付き、顔を上げるとローズマリーがいることに気が付いた。
「ローズマリー…」
「……ルイ、久しぶりね。少し痩せたんじゃないかしら?」
ローズマリーは灯りを持ったまま、牢の鉄格子まで近付いた。
ルイはゆっくりローズマリーの方に移動した。
鉄格子があるとはいえ、犯罪者と密接なため、少し離れたところに護衛が数名待機している。
「子どもたちも、こんな思いをしていたのかな…。可哀想なことしたな…。幽閉だって、父親に洗脳されていたから減刑だって。」
悲しそうに笑うルイ。ローズマリーもつられて悲しそうに微笑んだ。
「減刑だって。僕、子どもたちを殴ったよ。言葉でもたくさん酷いこと言ったのに、悪いことだと自覚してるのに……。どうして処刑してくれないんだ!」
ボロボロと涙を流しながらローズマリーに訴えたが、ローズマリーは鉄格子を掴んでいるルイの手をそっと包み込んだ。
「…ローズマリー?」
「ルイ。処刑をして欲しいと言ってる人に処刑をさせるわけないでしょ?自分の罪に向き合って反省しなさい。逃げるなんて許さないわ。」
ローズマリーの強気な言葉とは裏腹にローズマリーの瞳には涙が溜まっていた。
「…ごめん。」
ルイは初めてのローズマリーの涙を見た。
幼い頃からよく一緒にいたのに…。
ローズマリーの白い手も微かに震えていた。
「ルイ、ローズマリー・クロフォードは本日を以って、ルイ・ブルースとの婚約を破棄致します。承諾をいただけますか?」
ルイはコクリと頷いた。
「承諾します。」
ブルース侯爵はもう処刑されたので本人に告げることになった。そしてもうひとつ…
「ブルース侯爵領地は、私ローズマリー・クロフォード公爵令嬢の領地となります。王都と領地のブルース邸、使用人含め、私の管理下となります。ご了承ください。」
「わかった。」
ローズマリーは少しだけ安堵した表情をみせた。
「ただし、条件があるんだ。」
「条件?」
ローズマリーが不思議そうにしていると、ローズマリーの手の指先を取り唇を落とした。
ちゅっとリップ音が響いた。
「僕が世話した子ども達を、必ず連れ戻して。」
もとよりそのもりだったので、ローズマリーは力強く頷いた。
「もちろんよ。」
ルイは弱々しく笑ったが、瞳はずっとローズマリーを映していた。
「ローズマリー、僕は君を愛してる。」
ルイはまたローズマリーの指先に唇を落とした。
「ルイ、愛していたわ。」
その言葉を聞いて、ルイは笑った。
「過去形なんだね。」
ローズマリーは当たり前でしょう?と呟いた。
「それと、もうひとつ。」
ローズマリーは何かしら?と首を傾げた。ルイはその姿も瞳にやきつけているようだった。
「必ず幸せになって。」
ルイとローズマリーは見つめあった。
よく一緒にいたから、お互いの言わんとすること分かる。
愛してるからこそ、ローズマリーに幸せになってほしいこと。
それがどんな形でもいいから、ローズマリーが本人の思う形の幸せでいてくれればいいと。
そして、ルイは、自分の弱さのせいで子ども達にしたことの罪に向う決心がついた。
「クロフォード公爵、公爵夫人。」
アドルフとレイチェルはとても申し訳なさそうにローズマリーを見ていた。
「出ていくのだな…。」
「もちろんですわ。自分たちの保身に走り、貴族としての責任を放棄した方が自分の親だということがとても恥ずかしいですわ。幼い弟と妹のことが気掛りですが。私も領地を治める一人の貴族ですから、出ていくのも当然ですわ。」
ローズマリーは使用人に荷物を馬車に運ばせていた。
「もう、お義母様と呼んではくれないの?」
「あら?私は家族ではないのじゃなくて?私のことはどうでもよろしいのでしょう?」
レイチェルは、はっとして何も言えなくなった。あの発言は失言だったと…。
アドルフも何も言い返せないのか、言葉も出ていない。
「それでは、ごきげんよう。」
ローズマリーはにこやかに馬車に乗り込んだ。




