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長田桂陣 短編集

私、愛人がほしいわ。人選をして頂戴

作者: 長田佳陣

「私、セックスするわ。人選をして頂戴」


 陸軍の執務室。突然、美貌の司令官が宣言をした。

 彼女はまだ士官学校を出たばかり。書類を書きながら突然の宣言だった。


 その宣言を聞かされたのは、同期で学校を出た副官の男だ。


「理由をお伺いしても?」


 副官が紅茶の用意を始めながら理由を聞いた。


「いくつかあるのよ。第一に私は社交界の惚れた腫れたといった事に現を抜かす気がないわ」


「次に軍人として侮られないためね」


「それから、敗戦時。敵兵に私の初めての男という栄誉を与える気はないわ」


「それに、司令官たるもの、愛人の一人も居たほうが箔がつくというものでしょう?」


 副官は入れ終わったお茶を…自分で飲んだ。


「とはいえ、誰でもよいわけではないのよ。あの司令官の初物は自分だなどと吹聴しない人物。あとは野心があるのは構わないけど、伯爵家に頼りっきりのヒモでは困るわ」


 紅茶の香りを楽しんでから、静かに問う。


「愛人にしたい人物が居るのですか?」


 しかし、回答は副官の予想を斜め上に超えた。


「貴方に人選を任せます」


「恋人でしょう?ご自分でお選びになってはいかがですか?」


「あなた、適材適所って言葉はご存じよね?私はこれまで政治的な見地でしか男性を見たことがなかったの。それに貴族で殿方の知人など士官学校の同期くらいなものよ。そこで私は閃いたわ。私より優秀なあなたに任せます」


「司令は首席で卒業しておられます。私のほうが優秀などとは思いませんが?」


「最終考査直前まであなたが首席だったじゃない。それに、最後の模擬戦。確かに私は勝ったけれども私の率いる陣営には現役の軍人が何人も紛れていたのよ」


「それに気づいた司令は、彼らを最大限に有効活用して私に圧勝されましたね」


「当然よ。戦力は有効活用しなくてはね。例え、お父様の差し金であっても」


「その、お父上。元帥閣下に知れたら大変ではありませんか?」


「あら。もちろん、相談したわ」


 副官は紅茶を吹き出しそうになった。


「相談されたのですか?」


「そうよ。当家は家族で隠し事はしないの」


「閣下はなんと?」


「貴方に任せるのが良いと言われたわ」


「…」



「例の件、人選が出来ました」


 数日後、通常業務の合間をみて副官が報告をした。


「貴方がそんな曖昧な言い回しをするなんて珍しいわね。軍においては曖昧さは命取りよ。ハッキリと言いなさい」


「…司令のセックス相手の人選が出来ました」


「ご苦労さま、帰ったら目を通すわ。そこに置いてちょうだい」



 翌日。


「如何でしたか?いえ、セックス相手の人選リストは如何でしたか?」


「そうね…なんかこう、ピンとこなかったわ」


 司令は不満そうだ。


「ヴェッカー卿はいかがですか?尊敬に値する軍人です。奥様に先立たれ今は恋人もいません」


「その人物が貴方のオススメなのね?」


「はい。司令の愛人として申し分ない人物です」


「いいわ、貴方に任せます。コンタクトを取ってちょうだい」



 同日、夕刻。

 軍、統合本部。


「閣下」


 30代半ばの美丈夫が統合本部長である元帥を呼び止めた。


「おぉ、ヴェッカーではないか。久しいな。どうした?」


「ご息女の事で、お耳に入れたいことがありまして」


 美丈夫は昼間のことを元帥に話した。


「ははは、愛人になれと来たか。さて、貴官なら申し分ないが。なんと応えた?」


「お断りさせていただきました」


「なんだ?俺の娘では不満か?」


「ご冗談を。知っていて楽しんでおられるのでしょう?あの副官から、懇切丁寧な打診とそのメリットをプレゼンされましたよ」


「あの若造は優秀だからな、さぞ魅力的なプレゼンだったろう?」


「トンデモない」


 美丈夫は昼間の、あの若い士官を思い出して肩をすくめた。


「代わりにあの副官が敵になるのでは割に合いませんよ」


「当然だ。それほどの男だから娘のそばに置いている」


「ならばなぜ、このような事態になっているのです?」


「それが不思議でならん。俺はハッキリと認めているんだがな」



 翌朝、執務室。


「ねぇ、私の出した条件に当てはまる人物が一人。リストに無いのは何故?」


「心当たりがありませんが?でしたら、直接交渉されてみては?」


「そうね。…やっぱり嫌だわ」


 副官は彼用の小さなデスクで仕事をしていた。その書類整理の手を止めて振り返り、司令を見つめた。


「嫌なんですか?」


「だって、初めてって痛いのでしょう?醜態は見せたくないわ」


「必ずしもそうとは限らないと聞いていますよ。それに、上手くやる手立てもあるそうです」


 司令もサインをする手を止めて、両手を顔に添えて頬を膨らませた。


「それも問題だわ。上手くやられたらやられたで、今度は痴態を晒すことになるのよ?」


「相手も経験がなければ醜態と痴態を晒すのでは?」


「経験無いのかしら?」


「…」


「だったら、弱みを握れるわね」


「お父上は何と?」


「同じことの繰り返しよ。貴方に全部任せなさいって」


「さようでございますか」


終わり

お読み頂きありがとうございます。


名もない二人ですが幸せでありますように。

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☆『【完結】昼は黒騎士を従える魔王城、夜は黒騎士の後宮【短編】』
― 新着の感想 ―
[良い点] おしゃれ!! [気になる点] 無し! [一言] とても好みです!!
[良い点] 面白かったです!!連載版も読ませて頂きます!
2020/04/25 16:39 たまごどーふ
[良い点] 細かい部分の妄想を膨らませる余地が多分に有って、それでいて読んでいて引き込まれる会話文。素晴らしいと思います。 シンプルなものって難しいじゃないですか。 続き読んできます。
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