072――乱戦!バトルロイヤル(2)
第二ステージはアスレチック要素を盛り込んだ構成になっている。
空中に浮かんだ通路状のフィールドで、落ちないように気をつけながら、障害物を避けつつゴールを目指して進んでいくゲームとなっている。
最初から最後まで殺し合いのみだと、逆に中だるみしそうだから、こういう頭を使わないゲームも必要だろうとのコンセプトで作られたステージだ。
しかし、デザインしたのは、鬼畜さに定評のあるデンだ。
けっして楽にはクリアできない。
しかも、事前のテストプレイをコミットに依頼したのだが、易々と初見クリアしたのを見て、難易度をさらに上げようとしたのを、ギルド幹部が必死の説得で思いとどまらせたという経緯があったらしい。
本当に、もう……どうしてこう……俺の弟は加減というモノを知らないのか……。
「えー?ゲームって歯応えが有った方が面白いでしょう?」
当の本人のデンは真顔で言うが、歯応えしかないゲームは一般人にとっては拷問に等しいんだぞ。
世の中ドMは多数派じゃないんだからな。
「第二ステージのポイントの加点は、プレイヤーのキルに二百点。記念コインの取得に二千点。そして、制限時間まで死なずに生還で5千点、さらにゴールまで到達した者には順位に応じたポイントが付与される。このステージではプレイヤーの身体性能が問われることになるだろう」
このステージではプレイヤーキルの点数を抑えているので、殺し合いは起きないと予想されるが、それ以前に構成的に多分そんなヒマはないだろう。
それほど、ギミックが多様なステージになっている。
「3……2……1……ゲームスタート!!」
□
ランキング順位に従って、次々にプレイヤーが転送されていく。
彼らは戸惑いつつも、指し示されたルートに沿って走り出した。
ステージは雲の上に浮かぶ巨大なリボンのような通路で、落ちたら一溜まりもない高度のようだ。
「はい、第二ステージ始まりました。実況は第一ステージに引き続きまして、テル・ムーサがお送りします。解説はカイセットさんです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「さて、第二ステージは前ステージとは趣向が変わりましたが、どうでしょうか?カイセットさん」
「配点から考えるに、プレイヤーのキルよりゴールを目指す事を優先すべきなのは間違いないですが、そうは簡単には行かないのでしょうね。身体性能は個人差が大きいですから、各人の戦略次第ですかね……プレイヤーのエントリーが概ね済んだようですが……おや?何かトラブルでしょうか?」
「おやおやー?第一ステージで大暴れしていたエミリ選手の元に他チームの人間が殺到して……担ぎ上げられてぇー……おおっとー?通路から外に放り投げられたーー!!これは一体どういうことだー???」
『エミリ――!!』『え……え、エミリ殿ぉ!?』
「ああー……これは……どうやら、彼女は憎悪を溜め込みすぎたようですねぇ」
「えっ?……憎悪……ですか?」
「ええ。人間相手の戦いにおいて、特有の現象です。お互いが節度を持ってフェアな態度で戦っている限りは、まだ理性に基づいた判断で行動しますが、憎悪が閾値を超えると、理性よりも感情が優って損得を超えた行動に走りがちなんです。あの罵倒しながらの無差別乱射の奇襲は、余程他のプレイヤーの怒りを買ったようです」
「な、なるほどー……プレイヤーによる私刑……自治範囲での自浄作用という訳ですか……」
「そういう事です。魔物相手の戦いにはない、対人戦特有の現象です」
「となると、第一ステージにおいて銃火器を敢えて用いなかった人間領域の戦士たちの方が結果としては賢明だった、ということになりますね?」
「そうなりますな。もっとも彼らは計算した上でやってるというよりは、長年、戦士として生き抜いた結果、体に染み付いた不文律でしょうが……何が吉となるかわからないものです」
「さぁ、フィールドでは魔族と人間領域の戦士たちが続々と先を急いで、通路を走る傍ら、スタート地点でオチュード選手と勇者一行との間で小競り合いが発生しております。試合中である事を忘れたかー??」
「現時点でランキングトップではありますが、勝者の奢りが見えてきました。コレはいけません」
「おおっとー!ここで、突然スタート地点に頭上から巨大な鉄球がプレイヤー目掛けて転がってきた!!」
「運営による動かない選手対策でしょうか?このゲームの製作者はプレイヤーを怠けさせる気は全くないようですね」
「乱闘していた選手は正気を取り戻したのか、慌ててコースを走り出しましたー!思わぬハンデを負ったオチュード一行!どうなる?!さて、一方先頭集団は現在魔族たちの独走状態となってます!どうやら、選手は二つに分岐するコースを選択しなければならないようですね、カイセットさん」
「はい、一方は近道ですが空中で移動する足場を渡るコースと、もう片方は入り組んだ迷路状になっている遠回りコースですね」
「近道コースは足場から落ちたら地面に向かって真っ逆さまでそのままリタイア、という訳です。魔族たちは近道の方を選んでおりますが、それでも何人か足を踏み外して落下してます!人間領域の戦士たちも半数は遠回りコースを全速力で走り、半数は近道コースに挑戦してますが……やはりギミックに苦戦して、どんどん人が落下してます!」
「やはりこのステージは魔族の独壇場になりそうですが……おや?」
「おおっとー?突然、謎の光が輝いた?何だこれはー!?」
『【騎獣召喚】!ファルコーーン!!』
「少女の呼びかけに応じるように、輝きから天馬ペガススが現れたー!!」
『飛んで!!ファルコン号!!』
「天翔ける白いペガススに乗って、空に飛び立ったのは、エントリーナンバー35番のクックロココ選手です!おおっと?さらに新たな輝きがー!!」
『【騎獣召喚】……ララ……来て……!』
「さらなる輝きから現れたのは飛竜!クックロココ選手に続いて、騎獣を呼び出したのはエントリーナンバー36番のクーデルラ選手です!」
『【騎獣召喚】!!ムーちゃーん!!出番だよ〜!』
「二人を追うようにエントリーナンバー37番ヤン・デルシア選手も、騎獣であるモア鳥を呼び出して、移動する足場を軽やかに飛び移ってます!」
「モア鳥は飛べない巨鳥ですが、動きは俊敏で空中で一定時間滞空可能なので、このようなギミックに対しても有利に進められます」
「ヤン・デルシア選手操る騎獣はそのジャンプ力を生かしてタイミング良く足場を踏み、後少しでクリア……ああーっと、移動スピードの速い足場への着地に失敗したー?!」
『きゃーーっ!』
『あぶなーい!――クーデルラさんっ!!』
『うん……ララ、お願い!!』
「おおーっ!!足場への着地を失敗して奈落に落ちるかと思われたヤン・デルシア選手、クーデルラ選手が騎乗する飛竜が差し出した尻尾を足場にジャンプ!コースに復帰したーー!!」
『ありがと〜、クーデルラちゃーん!』
『……貸しにしとくから』
「殺伐としたバトロワ空間に現れた可憐な少女達の友情にアースガード自治区領主も思わずほっこりです!」
テルさん……それは言わんでいい。
でも、俺もゲンマも和んだのは事実だ。
「いいフォローです。この第二ステージは空を移動できる彼女達が制したと言っても過言ではないでしょう」
「この様子を見た他の選手は遠回りコースに回ってます。やはり、急がば回れということでしょうか?」
「生存勝利でもポイントが入る以上、無理して危険な難所に挑む理由はないでしょう」
「しかし、後半のギミックに選手は悪戦苦闘しております!回転する三段重ねの鉄棒の向こうに出口があるギミックに何人もの選手が弾き飛ばされてるー!」
「棒の回転するスピードがそれぞれ異なるのが、また嫌らしい仕掛けですねぇ……」
「そんな高難度のギミックの数々を騎獣で上から楽々通過した三人娘が上位を独占してゴール!その手前では他の選手達が上下にバウンドする鉄のゴレム群の下を掻い潜るギミックに苦しんでます!」
『何だアレは!!空飛ぶ騎獣はズルいだろ!!!』
『そ、そうだ、そうだ!!』
「たまらず、他の選手から不平のブーイングが起きてますが……ただいま、入りました審査員のコメントによると、このゲームは無制限試合ということで、“OK”だそうです。ただ、次回があればレギュレーションは再考の余地有り、との見解でした」
「前代未聞のイベントという事で、プレイヤーも運営側も手探り状態のようですね」
「それは止むなしでしょう、三人娘に続くように、魔族チームも続々ゴール!!今回のステージ、いかがでしたか?カイセットさん」
「身体性能が勝敗を決めるとの予想でしたが、思わぬ番狂わせがありました。こういう切り札は完全に想定外でした」
「そうですね。では、上位入りを果たした選手にお話を伺ってみましょう、コミットさーん」
『はーい、コミットでーす。じゃあ、一位でゴールしたクックロココ選手に話を聞くよー。一位おめでとー!君はどこから来たのかなー?』
『あっ、ありがとうございます、私はザマイ・マサラ王国から来た第三王女クックロココ・セラ・メエイ・マサラと申します』
『へー、王女様がまた何で、こんな辺境に来たのかなっ?』
『はいっ!実は……我が国で行方不明となったバン・オーニワという方をずっと捜索していた過程で、彼がこちらの龍王国にいると知り、駆けつけたのです!』
『へー、そうなんだー!で?そのバン君とはどういう関係なのー?ねぇねぇ?』
『っ!……そ、そんな……関係なんて……私はただ……ずっと、お慕い申して……』
『そこまで……姫様、抜け駆けは禁止……!』
『そーだよー、チャンスは平等って協定でしょー!』
『あ、君たちは、クーデルラ選手とヤン・デルシア選手だね!へぇ〜……君たちもバン君が狙いなのー?』
『……そうです』『そーだよ〜!』
『ちょ、ちょっと、お待ちになって!クーデルラさんは、あのキマリスとかいう魔族の方にのぼせ上がってましたよね?行商人から絵姿を買い漁っているのを見ましたわよ?』
『アレは…………別腹……!』
『はぁ?!』
『“推し”と“配偶者”は……別の、概念……!』
『まぁー!そんなの…………不純ですわーっっっ!!』
『えー、でも、姫様も領主のエンダー様の絵姿を買ってニヤニヤしてたよねぇ〜?』
『そ!そんな事、今言わなくっても!!そういう貴方だって、ゲンマ様がかっこいいって――!!』
スクリーンの向こうでは少女達が激しい言い争いをしている……。
友情どこ行った――!!!
あと、オルトは行商人に何を卸してるんだよ……。
『……あー、こちらからは以上でーす!』
『あっ!はーい、有難うございましたー、コミットさん』
おい、無理に切り上げんな。
それにしても、大人しそうな顔して隅に置けないな、バン君は。
瞬く間に龍王ガーラにお気に入り登録されてるし、実はジゴロだったりするのか?
「ふぅーん……実際、あの娘達とはどういう関係なの?」
ゲンマはニヤニヤしながらバンに尋ねる。
「へっ???クックロココさん達ですか?……顧客……でしたが、何か……?」
「顧客……」
「はいっ!お得意様でした」
思ってたより反応が平熱だな。
「じゃあ、バン君はさー、姉さんのことはどう思ってるのー?」
「えっ……ガーラ様ですか……!」
バンは、顔を赤く染めて俯いた。
「ガーラ様は……僕にとって……何よりも……大事な御方ですっ!!」
彼はそう言って、ボーとした目で虚空を見ている。
んー、そういえば、彼は前世で二十代後半の好青年だったと聞くし、十代の女の子より、綺麗目のお姉さんの方が好みなのか?
「そそそそそんなことは、ガ……龍王様はお仕えする主君であって……そそそそんな、好みなんて……おおお恐れ多くて……」
そういうバンの顔はトマトのように真っ赤だった。
「これは重症だねー……もう引き抜きは完全に無理かもしれないなぁ……」
ゲンマは首を振りながら呟いた。
お前、いい加減に諦めろよ。
□
第二ステージを終了し、スコアの自動集計により、現在のランキングが確定した。
上位五位は以下の通りだ。
01 魔族リーダー・セアル
02 姫騎士・クックロココ
03 傭兵団リーダー・オチュード
04 魔導師・クーデルラ
05 勇者・カケル
アスレチックレースを制した三人娘が追い上げるも、第一ステージで得点を稼いだ上に手堅くゴールと上位入賞を果たした魔族リーダー・セアルが一位に収まった。
といっても、一位と二位の点差は五千点。
まだまだ展開は読めない。
オチュード達は何とか生存勝利は達成するが、多数の妨害に阻まれ、ゴールまで辿り着けなかった。
それでも、第一ステージでの貯金があったおかげで、まだ上位に残っている。
ここで――想定の範囲内だが――ランキング上位と下位の差が著しく激しい。
「今の状態のまま第三ステージに進めても、逆転不可能という事でプレイヤーのモチベーションが保てませんね」
デンは“ロビー”の様子を見ながら、そう分析する。
「ここは予定通りボーナスステージを開催しましょう」
ボーナスステージはプレイヤー総出で対処する防衛ゲーム的レイド戦だ。
プレイヤー側は拠点に設置されたコアを守り、集団で襲いかかる魔物群を全滅させるべく全力で迎撃するゲームだ。
「上位者の取得ポイントを抑えておけば、前ステージで即退場したプレイヤーにも大量得点獲得のチャンスがあります」
何とか第三ステージまでやる気を維持してもらわないと困るからな。
「そういえば、あの勇者リツはどうしてるの?」
ゲンマはデンに尋ねている。
何故か先日面会した勇者のリツがプレイヤーとして参加してんだよな。
模範的な優等生振りが鼻に付くキャラなのに、無法者に混じって何してるんだか。
「彼はランキングのピッタリ中間に位置してます。見える能力値から考えると間違いなく意図的に力をセーブして自分の順位を調整してますね」
「へぇー。どういうつもりなんだろうか?決闘で負けた腹いせで報復を考えてる?にしては随分大人しいね」
「これは推測ですが……彼はゲンマさんと兄さんに面識があるんですよね?」
ゲンマは頷いた。
「恐らく、こちらの意図を測りかねてるんじゃないかな。何の目的もなくこんな露悪的で悪趣味なゲームをする人物とは考えられない、と」
だとしたら、随分俺たちを買い被ってるな。
はっきり言って半分は悪ノリで開催したイベントだぞ。
少なくとも音楽フェスをやる必要は全くなかった。
アレは完全にノリと勢いで急遽決まった。
「まぁ、ライブイベントで吟遊詩人の方達も広く周知出来て喜んでましたし、イノさんとキマリスさん、二人のファンも大分増えたそうですよ。ブロマイドの売れ行きもかなりの物だって」
あのライブで戦意を喪失して戦線を離脱した者達も少数ではあったが出てきたので全くの無意味なイベントでもなかったようだ。
単純に歌の力に感動した者と、文化レベルの高さで、こちらの文明度を察した者との二通りいたが……無駄な犠牲を生まなかったのは良かった。完全に結果論だが。
「彼は“正解”に辿り着くと思う?」
「無理でしょう。私たちの意図に気付ける存在があの中にいるとは思えません」
そーなんだよなー。
彼らの手持ちの情報のみで考えて辿り着ける真相ではないんだよなー。
このイベントはハッキリ言って酷い“茶番”だ。
それだけに巻き込まれた連中は――たとえ悪人だとしても――御愁傷様とか言いようがない。




