071――乱戦!バトルロイヤル(1)
「皆さんには今から殺し合いをしてもらいます」
俺がそう宣告すると、荒野に立ち尽くす面々の大半は絶望の表情を浮かべた。
まぁ、無理もない。
背後ではミノリが小声で「やっぱり邪神じゃないすかー、やだー」とか、ふざけて言ってるがスルーする。
俺は打ち合わせした通りのセリフを読んでいるだけのただの傀儡だ……。
「君達を、このアースガードに悪意を持って攻め込んだ者を、生かして返す義理は本来は無い……しかし、神族としてこの世界に降臨した挨拶代わりに、俺が主催する“ゲーム”にプレイヤーとして参加してもらうのも一興と思ってな。では、ルールの説明をしよう」
奴らが現在立っているのは、デンが密かに計画し製作していた新ダンジョンの内部。
この世界では類のないバトルロイヤル型のダンジョンだ。
デン、システム、冒険者ギルド執行部との共同製作で、この前の会議の時には既にフィン王国の死刑囚を使ったテストプレイまで済ませていたという。
兼ねてより大規模なβテストをしたいと考えていたデンにとって、この一連の騒動は、むしろ好都合であったようだ。
列強諸国で人権を無視していい文字通りの人柱が大量に手に入る機会なんて、そうそうないからな。
「これから、プレイヤーである君達は、その場所から特設のバトルステージに移動し、制限時間まで生き残りをかけて勇敢に戦ってもらう。細かいルールはステージごとに異なるので、戦いが始まる前にまた改めて説明しよう。概ねの勝利条件は共通で、ゲーム終了まで生存勝利を目指し、より多くの得点を稼ぐことだ……ただし」
俺は荒野の群衆を見渡した。
「プレイヤーの行動は全てシステムを通して記録され、ゲーム中に特定のアイテムを得たり、他の参加プレイヤーをキルすると得点が加算され、順位が付けられる。仮に最後まで生存したとしても、ただ逃げ惑うだけで低ポイントの腰抜けだった場合、問答無用で足切りして退場となる可能性もある、そのつもりで自分にあった戦術を考えておくんだな」
魔大陸の勇者連中は顔面蒼白で今にも泣きそうな顔で震えている。
「ステージは第三ステージ+αまで用意している。優勝者は全てのステージを通した合計ポイントで決定するので、最初のステージで死んで退場したとしてもめげずに健闘して欲しい」
『ふざけんなよ!この野郎!!一回死んだらそれで終わりだろ!何が健闘だ!!』
そうイキリ立ったのは、ポップアップした情報によると、エントリーナンバー1番のオチュードという男だ。
元気があってよろしい。そうこなくっちゃ。
「何か考え違いをしてるようだが……君達が今立っているその空間は俺が作り上げた領域だ。生きるも死ぬも全てが、この俺のコントロール下に置かれている。たとえステージ内で死亡したとしても、次のステージを開始する前に復活させてやる。だから心置きなく殺し合いをするがいい」
『……なん……だと』
オチュードは絶句している。
本当はデンが作ってコントロールしてんだけどな。
現状、プレイヤーの死亡フラグはダンジョンの設定で切ってあるので、ゲームプレイ中に何らかの理由で死んだら、初期リスポーン地点である、この荒野――“ロビー”に転送されるだけだ。
だが、まだ子供のデンを十分な経験を積ませる前に、残酷な世界の矢面に立たせるわけにはいかない。
それに今更俺が『邪神じゃないです』と言っても素直に『そうですか』と応じる連中じゃない。
アースガード自治区のためなら邪神のロールプレイでも何でもやってやる。
俺の言葉を聞いた勇者達は信じがたいという表情をして、中にはその場にへたり込んで泣き出す奴まで出始めた。
……何しに来たんだよ、おまえら。
俺の大事な大事なマイホームはアイテム取り放題のボーナスステージじゃないんだぞ。
しかし、奴らにはやる気を出してもらう必要がある。
「もっとも……全くの無償だと欲深な君達には張り合いもないだろう。よって順位が上位の者には、それ相当の、命がけの戦いに値するような賞品を与えよう」
俺の言葉に俯いていた奴らが一斉に顔を上げる……現金な奴らだ。
「たとえば……銀貨や希少金属」
俺はインベントリから大量の銀貨とインゴットを取り出して、ばら撒く。
「たとえば……エンチャント付与済みのヒヒイロカネ製の剣」
さらに一振りの剣を取り出し、鞘から剣を抜く。
クーフリン達がダンジョン捜索のついでに掘り当てたアーティファクトだ。
その刀身の輝きに戦士たちは目の色を変える。
「たとえば……強力な魔術を込めたカードの詰め合わせ……用いるにはMPが必要だが、これだけあれば大軍を相手にするのも不可能ではないだろう」
最も実際に渡すのは型落ちした威力抑えめのカードで、話を盛ってはいるが魔大陸や人間領域限定なら、強力な武器になるのは間違いない。
「おっと、忘れてはいけない、これを欲しがらない奴はいないだろう。万能の霊薬、エリクサーだ」
俺が美しい意匠の小瓶を掲げると連中は先程とは打って変わり、ギラギラした目を見開いて、こちらを見ている。
ようやく本気でやる気をだしてくれたようだ。
人間は報酬の奴隷だ。
飴と鞭はいつだって有用だな。
『いやっほぉーーっ!俺はやってやるぞー!!』
お通夜のような雰囲気だった魔大陸連中とは裏腹に人間領域の蛮族達は運動会の小学生男子のように、ずっと大盛り上がりで、はしゃいでいた。
『最っ高のお祭りじゃねーか!ここに来て正解だったな!』
『褒美がなくったって、勇敢に戦って勝ってやらぁ!俺は腰抜けじゃねぇー!!!』
『おう、腑抜けどもを蹴散らして、命と勝利をパレス・コロシアム様に捧げようぜ!』
彼らは、ある意味通常運転で、この場に限れば、潔い野蛮さはむしろ好ましいとすら感じる。
魔大陸の勇者達は、そんな彼らを信じられないという風に見ているが、一度湧き上がった欲望には逆らえない様で、仲間達と真剣な表情で何やら話し合ってる。
魔族達も同様で、野蛮人の言動に顔を顰めるも、魔大陸の現支配者のプライドにかけても負けられない戦いである事を悟ったのか、覚悟を決めた顔をしている。
実にいい流れだ。
「また、審査員特別賞も用意しているので、入賞圏外の者にも豪華賞品を得られるチャンスはある。低レベルの者も腐らず全力で戦って欲しい……では、早速第一ステージの開始だ。ルールの説明をしよう」
□
第一ステージはよくある感じのバトルロイヤルゲームだ。
バトルフィールドのランダムな地点に転移した後、バラまかれているアイテムを拾い集め、徐々に狭くなっていくフィールドを他のプレイヤーのキルを狙いつつ、生き残りをかけて上手いこと立ち回るゲームだ。
また、前世でこの手のゲームをやった経験がある転生者が有利すぎるだろうとの配慮から、このステージは魔大陸の人間、人間領域の戦士、魔族でグループ分けして、それぞれ別のフィールドで戦う形式となっている。
そして、練習ステージも兼ているということで、同チーム内ならフレンドリーファイアはオフだ。
つまり、仲間との連携も重要となっている。
それと、今回はシステムの計らいで、ゲーム進行中は全員に仮アカウントを発行した際、一時的なインベントリを与えてるが、その中身はステージを終了する毎に初期化される仕組みだ。
敵性MOBや他のプレイヤーをキルすると、経験値が得られ、レベルが上がっていくが、死亡するとそのステージで得た経験値の半分が没収された状態でリスポーンする。
生存ボーナス点は全ステージを通して高めに設定してある上に、長期的にみても弱体化に繋がるので、死亡するのは得策ではない。
「第一ステージのポイントの加点は、プレイヤーのキルに千点。記念コインの取得に二百点。そして、制限時間まで死なずに生還で一万点が付与される。まずはゲームの雰囲気に慣れる事を優先するがいい」
バトルフィールドへ転移まで秒読み段階に入り、プレイヤー達は自然に身構える。
「3……2……1……ゲームスタート!!」
俺の合図と共にデンがタブレット上のゲーム開始ボタンを押した。
荒野の戦士達は次々に転送処理され、各々の戦いの場へと散って行く。
第一ステージのフィールドは列強諸国の辺境で良く見かける、山に囲まれた平原の中にある自然豊かな牧歌的な雰囲気の小さな村だ。
建物やアイテムの配置はランダムなようで、プレイヤーはここで死闘を繰り広げるのだ。
「さぁ、アースガード自治区主催・第一回バトルロイヤル大会、その名も“勇者杯”が開始されました。実況は私、システム管理者テル・ムーサと、解説には魔大陸出身で人物鑑定のスペシャリスト、カイセット・ライブディクさんにお越し頂きました。本日はよろしくお願いします」
「はい、初めての仕事ですが、よろしくお願いします」
「さて、目の前のスクリーンに展開されているのは三つのバトルフィールド。これは正に戦いのワンダーランドと呼ぶに相応しい舞台でしょう。カイセットさんの予想ではどの勢力が有利と思われますか?」
「現時点では何とも言えませんね。素の能力では魔族が圧倒的に有利ですが、事前情報によると、転生勇者側はこの形式の試合に造詣が深い可能性があるとの事。フィールド内で手に入るアイテムによっては、十分勝機はあるかと。また、人間領域の戦士達も、ざっと見る限り、こうした命のやり取りに関する経験では引けを取っておりませんね。本当にこの勝負、どう転ぶか分かりません」
「有難うございます。ではまず、魔族フィールドに注目しましょう。突然の事態で戸惑うも、すぐに身を隠す辺りは彼らも戦い慣れてるようですね、カイセットさん」
「ええ、試合の流れから考えるに、この開始直後が、もっとも無防備な瞬間ですから。この場をやり過ごすためにも、ここは隠密一択でしょう」
「しかし、無情にも時間経過でフィールドは狭まっていきます」
「周囲を警戒しながら、攻撃される前に使えるアイテムを集める……序盤はそのように動かざるを得ないでしょう。魔族ならば、魔術の心得は当然持っている筈ですが、フィールドで手に入るアイテムの性能が分からない以上、下手な動きは出来ません」
「なるほど。プライドの高さに定評のある魔族ですが、ゲームの本質を素早く掴む知性もちゃんと持っている、ということですね」
テルさん……?
テルさんとカイセットの二人はおもむろに、会議用テーブルを前にパイプ椅子に腰掛けて、マイクに向かって実況中継を始めた。
……君達、何をやってるんだ……?
「では、次に魔大陸人間部のフィールドの様子を見てみましょう」
「これは……」
「どうやら、動きが二極化しているようです。形振り構わずアイテム集めを優先して派手に動くグループと、魔族同様隠密に徹しているグループに分かれましたね、カイセットさん」
「これが、経験の差というものでしょうか。もっとも、このフィールドの多すぎる参加人数を考えると、限りあるアイテムの確保を焦る気持ちは分かります。しかし、生存する事が重要である以上、リスクが伴う行動であります……ん?」
「おぉーっとぉ?動きがありました!ピックアップトラックで最前線に飛び出したのは、エントリーナンバー1番オチュード選手率いる傭兵団一派です!」
「操縦しているのは……アレは……ナナヒ王子でしょうか?」
「そうですね。トラックを操っているのはエントリーナンバー2番、ナナヒ選手です。どうやら、騎乗スキルを駆使して操縦しているようです。トラックの荷台から武装したチームメイトが銃を乱射しております!」
「リスクを取ってアイテム集めをした結果、策が当たったようですね。特に、あの……夥しい弾を放出している武器が危険です、アレを喰らったら魔族でも一溜まりもないでしょう」
「はい、トラック後部の荷台からマシンガンを乱射しているのは、エントリーナンバー3番、エミリ選手です。現在のキル数は十、二十……三十キル達成です!……おや?何か叫んでいるようです」
『バトロワがナンボのもんじゃーい!!全員タマ取ったるわっ!死ねっ!死ねっっ!くたばれーーー!!』
「彼女……聖女だった筈ですが……もう、聖女としての外面を取り繕うの辞めたんですかねぇ……?」
「いい武器を手にして、気が大きくなったんでしょうか?それにしても、化けの皮が剥がれるの、ちょっと早すぎな気もしますが……彼らは、このまま勝ち逃げ出来ますかね?カイセットさん」
「そうですね、序盤の賭けに勝てたのは豪運と言っても過言ではないですが、少し悪目立ちしすぎているように思えます」
「おや、彼らはステージの中心地を陣取って周囲を無差別に銃撃し続けてます。このまま時間切れまで持ちこたえられるでしょうか?!」
「作戦としては悪くありませんが、まだ時間切れまでには余裕がありま……あっ!」
「おおっとー!眉間に一発喰らってエミリ選手、吹っ飛んだーー!!」
『エミリ――!!!』
「咄嗟に駆け寄るオチュード選手!しかし、エミリ選手ヘッドショットにより即退場!戦場に咲いた毒薔薇・自称聖女のエミリ選手、敢え無く散ったー!ロビーにて復活となります!!残念でしたっ!」
「今の攻撃はどこから来たんでしょうか?」
「記録によると、今の一撃はエントリーナンバー106番リツ選手による、狙撃用ライフルによる長距離射撃だったようです」
「こういう事が起こり得るから、集団戦で目立ち過ぎるのは得策ではないんです」
「一応、対物理用の防御結界を展開はしていたようですが、元々の耐久値が低かった上に、多数の攻撃にさらされた結果、紙装甲だったようです。まさに張子の虎!」
「緊急時にこそ普段の鍛錬の成果が顕現します。といっても、今更言っても遅いんですが……」
「まぁ、エミリ選手、生存勝利はなりませんでしたが、大量キルで一歩リード!今後の活躍に期待です。対するリツ選手も複数のチームに指示を飛ばし、崩れた前線に攻め込ませ、オチュード選手率いる傭兵団に白兵戦を仕掛けてます」
「リツ選手の冷静な采配が光りますね。ステータスでは優勝候補といってもいいですが、慎重さが足を引張っているのか、本人にはポイントが入ってないようです。彼も今後に期待しましょう」
「完全に乱戦状態にもつれ込んだ所で、制限時間終了となりました!参加人数二百十四名中生存者九十五名に生存勝利ボーナスポイントが入ります!ここまでの感想、どうですか?カイセットさん」
「中々見応えのある試合でした。予想より生存者が多かったのは意外です。極限状態とはいえ、各チームのリーダーが冷静に対処した結果でしょうか」
「この体制がどこまで維持出来るか見物ですね」
だから、何やってんだよ……君達は。
「では、最後に人間領域の戦士達のフィールドの様子は……」
「なんでしょうか、これは……ほぼ全員飛び道具無しで戦ってますが……使い方が分からないんでしょうか?」
「いえ……事前にスタッフによる説明があった筈ですが……ロビーにいる退場した選手に話を伺ってみましょう、インタビュアーのコミットさーん!」
テルさんが呼びかけると、目の前のスクリーンに荒野でマイクを持って笑顔で立っているコミットが現れた。
『はーい!コミットでーす!ロビーには退場した選手がどんどん詰め掛けてるよー!では、早速、選手達に話を聞くね!ねぇ、そこの君ー、初めての試合、どうだったー?楽しかったー??』
『きぃぃぃー!!くやしいいぃぃぃー!!!撃ったやつ誰よぉぉぉ!いい調子だったのにぃぃぃ!!あたしのマシンガン返してよぉぉぉ!うあああぁあああぁっぁぁーー!!!』
『あー、この子はいいや……なんか面倒臭そう……あっ、そこの君ー、君は人間領域の選手かなー?』
『ふんっ!我こそが人間世界随一の蛮勇を誇る戦士、ハンス様だ』
『えー、でも君キルされたからここにいるんだよねー?』
『はっ!無礼な耳長め!我々真の戦士は戦って死ぬ事を恐れてはいない。寧ろそれ以上勇敢に戦えない事を嘆く、よく覚えておけ』
『いいねいいねー、僕は好きだよー、そういうの!ところで、何で銃器を使わなかったのー?』
『我々は、生きるか死ぬかの瀬戸際で全力を尽くす魂の戦いを尊んでいるのであって、殺しの数だけを誇っているのではない!戦いの礼儀を弁えた者同士で、あのような安易な殺戮だけを目的とした卑怯な道具を用いることは名誉を損なう行いである。しかし、我々は蛮勇を誇る戦士ではあるが決して愚かではない。節度なき理不尽な戦いを仕掛けてくる者達は、人間以下の存在として容赦無く対処していく、覚悟しておけ!』
『うんうん。この後も頑張ってねー、ありがとーハンスさん!――という訳で、みんな、まだまだ殺る気満々って感じだよー。現場からは以上でーす!』
『はい。有難うございました。第二ステージも楽しみですね!カイセットさん』
『ええ』
だから、君たち一体何してるんだよ……カイセットまで一緒になって……あなたは貴重な常識人枠だと思っていたのだが……。
「私も、突然役割を振られて……一体何が何だか……」
カイセットは困惑の表情を浮かべて戸惑っている。
「申し分のない解説者振りでしたよ?今後の実況でもよろしくお願いしますね」
テルさんはニコニコ顔でご満悦だ。
それにしても良くこの無茶振りに対して咄嗟に対応できるな。
ゲンマが将来有望な人材として欲しがるだけはある。
「そこを感心されても……私は何を期待されているんですか」
この自治区、俺一人じゃツッコミが追いつかないんだよ。
□
全てのフィールドで第一ステージを終了し、スコアの自動集計により、現在のランキングが確定した。
上位五位は以下の通りだ。
01 傭兵団リーダー・オチュード
02 魔族リーダー・セアル
03 聖女・エミリ
04 勇者・カケル
05 戦士・ライアン
04が魔大陸の転生者で05は人間領域の戦士だ。
リーダーの場合、配下が得たスコアの何%かが得られるらしく、結果として彼らが生存ボーナスと合わせて上位になった。
第一ステージは出身によってフィールドを分けた為、参加した人数が多かった魔大陸の転生者が大いに有利であったが、これからは全員一つのフィールドでスコアを争ってもらう。
こちらとしても、手を変え品を変え、彼らを飽きさせない戦いを仕掛ける予定だ。




