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ミステリ作家の異世界日記――小説を書こう、異世界で  作者: 黒井影絵
第10章 勇者バトルロイヤル

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068――勇者対勇者(1)

「お二人はどういう切っ掛けで仲良くなったのでしょう?やはり物語のように最初から惹かれあった、とか?」


 俺とサリシスは、自治区の広場で記者の公開インタビューを受けている。

 王都から来た彼女はウィアの商会が発行しているフリーペーパーの副編集長で、茶色の縮毛に丸眼鏡と如何にも新進気鋭の突撃記者って印象だ。

「まぁ……自然にって感じでしょうか」

「うふふ」

 俺は少しハニカミながら言い、サリシスは少し照れくさそうだ。


 俺たちが取材される様子を村の人や観光客が遠巻きに見ている。

「エンダー先生は聖女様のどの辺りに惹かれましたか?」

 視界の隅で金髪のイケメンとミノリと同じ司祭服を着た少女の二人組の観光客が複雑な表情でこちらを睨みながら立っている。

「彼女が側にいると、とても心が落ち着くんです……自分にとって、何より大事な人です」

 俺がそう言うと、周囲の女性たちから『キャー!』と黄色い歓声があがる。

『地味なパッとしない女のくせに……どうせ、男の胃袋を掴んでるってパターンでしょ』

 司祭服の少女が小声で悪態を付いているのを俺の“地獄耳”はしっかり捉えた。

「ところで、先日当誌で発表された、エンダー先生考案のレシピ、アースガード風オムレツは大変好評でした!王都でも人気で今やお茶菓子の定番となったエルス菓子のプリンやスフレケーキも先生の発案だと伺いましたが、聖女様が一番お好きな先生の料理はなんですか?」

 オムレツ?……あー、だし巻き卵な。

 パティアがエッセイでレシピを書いたんだっけ。卵料理は鉄板だよな。

「カンナヅキが作る料理は、どれも美味しいけど、あたしが一番好きなのはハンバーグかな?そうそう、こないだの晩ご飯で出た、中にチーズが入ってるの!あれ、すっごく美味しかったー!ふふっ、思い出したら、また食べたくなっちゃった」

「ああ、今度作るよ」

 俺はサリシスの頭を撫でながらも内心では“野菜も食べろよ”と突っ込んでた。

 ため息混じりの歓声の中、ハンバーグに細切れにした野菜でも混ぜ込もうかと考えてると、

『お前が胃袋掴まれてるんかい!……本格的に意味わからん……!じゃあ、聖女なのに床上手で枕営業でもしてるんか?』

 司祭服の儚げな見た目とは裏腹なパンチの効いた失礼なツッコミに感心していると、記者の質問はさらに続く。

「ところで、聖女様はエンダー先生のどの辺りに惹かれましたか?美貌?高貴な血筋?それとも、やはり知性や才能でしょうか?」

 周囲はこの質問の答えが気になるのか、辺りは静まり返った。

 サリシスは普段通り、あっけらかんと答える。


「えー、だって、この人ちょっと目を離すと、すぐトラブルに巻き込まれて死にかけたり、寝たきりになっちゃうんだもん。とてもじゃないけど、放っておけないよー」


 あー……すごくサリシスらしい。

 この飾り気のない物言いが本当に好きだ。

 俺は彼女を抱きしめて頬ずりすると、何故か周囲のギャラリーから拍手が起こった。

『そんなのって、アリなの?……それ、割と致命的な欠点でしょ?……ダメだ、コイツ、宇宙人だ。理解不可能な病気の奴だよ……無理無理!』

 司祭服はどういう訳か衝撃を受けた様子で、横のイケメンは呆然と立ち尽くしている。

 何なんだ、こいつら。



「本日は取材に応じて頂いて、有難うございました、おかげで良い記事が書けそうです。これで次号も重版確実よ!」

 インタビューの後、握手を交わした記者はホクホク顔で王都に帰っていった。

 願わくば余計な脚色がされないことを祈るだけだ。

 俺たち二人の、これ以上の神格化はマジで精神的にキツイ。


 記者を見送ると、広場ではトラブルが発生していた。


 先ほどのインタビューの間、俺たちを睨んでいたあの金髪のイケメンとツッコミ司祭服がミノリに絡んでいたのだ。


「聖女様!貴方の騎士ナナヒ・カリーク・アングラード・ジュダイが、お迎えに参りました――ぐほへっっ!!」

 金髪碧眼な如何にも白馬の王子様風のイケメンの顔面に、容赦無くミノリの鉄拳が減り込んだ。

「きっしょいんじゃああぁぁぁ!!この脳みそお花畑がぁああぁぁぁ!!とっとと帰れ!帰れ!」

 ミノリの魂の叫びが広場にこだまする。

 あのツッコミ司祭服は倒れたイケメンに駆け寄った。

「ああ、ナナヒ様!しっかりして!!……なんて野蛮なのかしら!ミノリ様、あなたは、やっぱり偽聖女だわ!!」

 司祭服はイケメンを抱き起こして、ヨヨヨとしなだれかかるが、先ほどの下品なツッコミを耳にした後だと、白々しい事この上ない。

「聖女なんて柄じゃないしー、どーでもいいでーす!今の私は冒険者!冒険者ギルドの期待の新星っすよー!!」

 ミノリの吹っ切れたような素の物言いに二人は衝撃を受けてる。

『自分から認めるんかいっ……つーか何普通に生きてんねん!アンタ今頃、海の藻屑の筈やろ!』

 司祭服は安定のツッコミ力だ。何か聞き捨てならない事も聞こえた気もするが。

「ああ……聖女様に悪霊が取り憑いている、何とお労しい……!おのれぇ!!これも邪神の仕業だな!許せん!!」

 王子は激しく憤りながら訳の分からない事を宣ってる。

 ……なんでそうなる?ミノリは出会った当初からこんなんだったぞ。

 何でもかんでも邪神のせいにするな……あっ!あと、俺は邪神じゃないからな!


 ナナヒなる者は立ち上がるなり振り返り、背後にいる男に呼びかけた。

「カイセット殿!!聖女様から悪霊を追い出すのを手伝え!」

「……」

 しかし、呼びかけられた壮年の男は無言のままで……心無しかその眼差しは冷ややかだ。

「カイセット殿!!オッズに指示を!!」

「……悪霊を追い出すとは?」

 カイセットと呼ばれた彼は少々呆れているような口調だ。

「聖女様の玉体を傷つけるのは心痛いが止むを得ん……攻撃を!!」

「ナナヒ殿下……」

 カイセットは溜息混じりに言った。

「貴方は単に振られたんですよ……」

 どうやら、彼は常識人で一目見て状況を正確に把握したようだ。

「……は?な、何を言ってるんだ!聖女様は邪神の企てにより錯乱して正気を失っているだけだ!!」

 ナナヒは現実を許容することを拒んだようだ。

「ミノリ様とやらは至極正常ですよ……とにかく、都市内で決闘以外の市民同士の私闘は法によって禁じられている……貴方も研修で学んだだろう」

 カイセットなる人物は、現実を認識することを拒否している脳内お花畑の青年に諭すように言う。

「意味不明な下らない異国の法律など、どうでもいい!!」

 しかし、青年の脳内花畑は堅固な高い壁に囲まれているらしい。

「私はヤロージュダイ王国の未来の王だ!法を定めるのはこの私だ!!異国の異種族に法を押し付けられる謂れはない!!」

 なんか思ってたよりヤベー奴だった。こういう輩を国外に出すなよ……。

「ここは貴方の国じゃない、異国には異国の法がある。この国には階級はなく、人民全てが平等で自由意志に基づいて行動する権利が与えられている。貴方とて彼女に強制はできない」

「聖女様のような高貴な女性に、自由意志などという下劣な物は無い!聖女は世界の救済に身を捧げる崇高な存在なんだ!そこらの平民と同じ扱いをするな!!」

 そういえば、ここは異世界だったな……これくらい話が通じない、価値観が違う奴も中にはいるよなー……既に分かり合える気が全くしない。

「良い加減にしてくれ!貴方の身勝手な自己中心的な妄言には、これ以上付き合いきれん!もうウンザリだ!!」

 だが、同行者で魔大陸から来たと思われるカイセットなる人物も、このナナヒの言動に呆れ果てている所を見るに、魔大陸基準の感性でも彼は普通ではないようだ。


 二人の激しい口論が平行線の中、背後に控えていた前髪の長い男がスッとカイセットの隣に音も無く忍び寄って囁いた。

「コイツら殺しますか……マスター?」

 あ、コレGOサイン出たらマジで殺る気の奴だ。

 一応、止めた方がいいのかな。

 俺がそう考えていると、カイセットは鋭い目配せで制した。

「……まだ、待機だ。都市内での殺人行為は不味い。だが、相手の出方次第で無力化の後に拘束する」

「はっ!」

 前髪君は素早く背後に下がってその場に控えたが、剣の柄を握りしめ、いつでも二人に飛び掛かれる体勢を維持したままだ。

 ナナヒと司祭服はこのやりとりを聞いて、身の危険を感じたのか後ずさりしている。

「……どうやら、協力関係はここまでのようだ。残念だ、カイセット殿。ではさらばだ!」

 ナナヒは大見得を切ってマントを翻して踵を返した。同行のツッコミ司祭服は少し迷いがあるのかキョロキョロしている。

 彼女は意を決した風にカイセットに向かって口を開こうとするも……

「行くぞ!エミリ殿!!」

 ナナヒに呼びかけられた彼女は渋々その後を追う。

 二人は外門から自治区の外に出ていった。


「はぁー……やっと、あの二人から離れられた……」

 カイセットはドッと疲れが出たような顔で息を吐く。

「あの……バカ王子がご迷惑をおかけしたようで……あの人を追い払ってくれて助かりました」

 ミノリはカイセットに頭を下げると、彼も彼女に頭を下げた。

「いえ……こちらこそ、アレの言ってる事が正しいという万が一の可能性を否定できなかったばかりに、あの男を御せず不愉快な思いをさせて申し訳なかった……所で、ミノリ殿に折り入って相談があるのだが……」

「はい?なんでしょうか?」

「友人龍ゲンマ様がここに居られると伺ったのだが……お会いすることはできるだろうか?」

 ミノリは助けを求めるように、こっちを見た。



「イテレータの言ってる事はもっともだよ」


 カイセットは魔大陸のグランダス帝国皇帝の密使で、龍王ガーラへの謁見を目的にこの龍大陸にやって来たそうだ。

 しかし、魔大陸から来た先客の無法っぷりに宮廷はその門を閉ざした。

 困った彼は王都で情報を集め、このアースガード自治区に王弟のゲンマがいると知り、ダメ元で来てみたらしい。


 俺とゲンマは領事館の応接間で彼の要件を聞いた。


「龍族は大多数の人間の味方であって、特別な理由なしに少数の王族を贔屓にしないよ。どれ程歴史のある王族でも、人民の害にしかならないなら、排斥するのも吝かじゃ無い……既に実績もあるしね」

 俺たちがフィン王国の後継に地方領主のジェームズを指名した事は人間領域で大きな波紋を起こした。

 具体的には人間領域の平均税率が下がるなどの露骨な変化があった。


「しかし、既にベース帝国とは長きに渡る同盟関係と聞きましたが……?」

()()()五百年だけどね、それに対等な関係って訳じゃ無い。でも彼らはちゃんと人間領域を治めているから、今の所は目を掛けているけどね」

 龍族と人間の時間感覚にはかなりの隔たりがある。

 それに同盟と言ってもほぼほぼ帝国の土下座外交だったしなー……。

 もっとも、それで五世紀もの繁栄が手に入るなら、賢明な施政者ならば安い物と判断するだろう。

 スティーブはゲンマも評価する真っ当な帝王だ。

 魔大陸の皇帝はどれほどの男なんだろうか?


「正直な所、その帝国とか皇帝とかより……ボクは君の方に興味があるかな」

 ゲンマは瞳の虹彩を赤く輝かせながらカイセットを吟味している。

 彼は居心地悪そうに縮こまった。

「中々、いいスキルを持ってるね。それに、制限の多い魔大陸の育成システムなのに、良く鍛え上げられている……その努力は賞賛に値するよ」

 心なしかゲンマの目付きが獲物を見定めた捕食者のように見える。

 龍族の悪い癖が出たか。

「お、お褒めに預かり……光栄でございます……」

「特に鑑定スキルはすごいね。人間でここまでの使い手は見た事がない……そのスキルをボクに試してみて、どう思った?」

 カイセットは脂汗を流し平伏する。

「……そ、そのような恐れ多い事は……友人龍様がとてつもない御方であるのは……スキルを使わずとも理解できます……」

「ふふふ、それは残念だなー。君がどういう評価をするか、ちょっと楽しみだったのに。それにしても……皇帝はどういうつもりなんだろうねぇ?君のような有能な人材をこんな不確かで危険な任務に追いやるなんてさ」


 ゲンマの言葉に不意を突かれた彼は胸が詰まったのか、目を見開いたまま無言になった。

「王都でも困窮していたって聞いたよ。安宿に泊まり屋台で食事を買って済ませてたって。皇帝は十分な予算を与えてくれなかったのかい?国の進退に関わる重要な任務なのにさ」

「龍族の十分が如何程の物かは存じませんが、常識的な額は受け取ってました。ただ王都の物価が想定より高かったのと、個人的な習慣で倹約していただけです……それより、我々の事を……ここに訪れる前から、ご存知だったのですか?」

「君が取引した情報屋の中に龍族の配下がいてね。ボクらに興味があるらしいって話は事前に聞いているよ。ただ君達の目的が分からなくてね。接触してくるのを待ってたのさ」

「……そうだったのですか」

「ボクは心配なんだよねぇ……君がこのまま帝国に戻れたとして無事で済むのかな?って」

「…………」

「君は長い間、皇帝の代理人……懐刀として活動して来た……皇帝は引退を考える年齢となり、君の存在を持て余して……国家機密を多く握っている君の扱いをどうするか悩んでいる……ってのが、ボクの予想だけど」

 予想とか言ってるけど、何らかの手段で下調べをした上で言ってるんだろうな。

 カイセットは警戒の色を深めた。

「……何が仰りたいんで?」

「だから、心配なのさ。このまま帝国に帰って身の危険が絶対無いと言える?」

 カイセットは低く唸り、俯いて黙りこくった。

 心当たりが多々あるのだろう。


「その才能は失くすには惜しいね。ましてや、消えゆく国の道連れになるには……ちょっとね」

「グランダス帝国には未来はないと?」

「この状況で身内とクオート族相手に手こずるようじゃねー……彼らは狡猾で油断ができないけど、ちゃんとした契約さえ交わせば取引相手には誠実なのにさ。派閥闘争で新規の外部勢力を受け入れられない事情は理解できるけど、だからといって国内勢力を統一する決断が出来ないまま、別の外部勢力を国内に引き入れて、さらなる混乱を招こうとしている……龍族としてはクオート族の代わりに加護を与える旨味はないね。多分姉さんも同じ判断をするよ」

 魔大陸に関して、龍王国はクオート族の要請に応じる形で魔大陸における人間領域の防衛活動をするとの内容で条約がすでに結ばれている。

 ここで、龍王国が人間の国と個別に密約を交わせば後々国際問題になるだろう。

「一応、姉さんとの面談も予定に組んでおくけど、過度の期待はしないほうがいい。帝国のことはクオート族、もしくは冒険者ギルドに任せるより他はないと思うし、国民目線ではそれで何の問題もないよ……それよりも、君はもっと自分を大事にした方が良い」

 ゲンマにしてみれば、良く知らない内情がグダグダの国よりは、目の前にいる才能ある人間の方が魅力的なのだろう。

「お心遣い、有り難く存じあげます……」

「皇帝は随分報酬を出し惜しみしたようだけど、ボクは有能な眷属が功績を挙げれば、望みのものは出来る限り与えている。年棒でも領地でも……失望はさせないよ?」

 ゲンマは慈愛に満ちた微笑みを浮かべる……正直極めて胡散臭い。

「……少し、考えさせて頂きたい」

 人生の岐路に立たされた彼に龍族の甘い誘惑は抗いがたい引力があるのだろうが、この場はなんとか理性が勝ったようだ。



 後日、カイセットとガーラの閉鎖空間を使った謁見は密かに行われ、彼の使命はとりあえず達成できた。

 その結果に関してはゲンマの予想通りだったのだろう、カイセットは達観した表情で空を見つめていた。


 カイセットはゲンマとのやりとりで、これからの人生に思うところがあったのか、彼とその護衛で前髪君ことオッズの二人は帝国には帰らずに自治区に滞在することにしたらしい。


 口ではナナヒ達の暴走に責任を感じて、その動向を警戒するのが目的であると言っているが、食事時に真剣な表情で物思いに更けている様を見ると、故郷を捨ててゲンマの申し出を受けるかどうかを悩んでいるのだろう。


「グランダス帝国の内情は掴んでいるのか?」

 カイセットとの会話で随分踏み込んだ話をしていたのを怪訝に思った俺はゲンマに聞いた。

「オクルスが潜入しているからね。市井の声は一通り聞いているから、大筋の事情は把握してるよ。ただ、流石にオクルスでも中枢に入り込むのは難しいようでね。カイセット君に補佐して貰えたら助かるんだけどなーって話」


 ゲンマはニコニコしてご機嫌だ。

 もう既にカイセットを手中に収めたかのような雰囲気を出している。


 龍族ってこれだからな。



 ゲンマは自らカイセットに自治区の案内をして、彼をこの地に住まうメンバーや要人に引き合わせている。

 カイセットは豊かな自然に満ち溢れ、複数の種族が共存しているアースガードに感銘する。


「まさか、魔族が人間社会に溶け込んでいるとは……」

 魔族キマリスが熱心に清掃をしている様を見て驚いている。

 魔族が特権階級として闊歩している魔大陸の現状を考えると、魔族が一市民として扱われている龍王国は、それだけで驚異なのだろう。


 今日のカイセットは、ゲンマが農業試験場の定期視察をするのに付随して回っている。


 彼は黄金林檎の果樹園に度肝を抜かれ、沢山の魔物達がモモちゃんに対して従順に使役されている様に驚き、アイディの塔で冒険者ギルドの幹部達に邂逅するも世界最強クラスの猛者達の圧に武者震いした。


 そうして視察はバンが研修中の農場の方へ向かった。


「手作業での受粉よりも、アピスの方が結実の成功率が高いんです。それだけではなくて、アピスの巣箱を置いた畑の方が病害の抵抗力が高くて、収穫されたイチゴの糖度も高いんです!どうやら、彼女達は受粉の際にマギアによるバフを懸けているようなんですよ!」

 グノムやアピスをテイムしたバンは早速、未耕作の空き地に自分の畑を作った上に念密な記録を付けて、貴重なデータを蓄積させていた。

「へぇー、大したものだねぇ。順調で何より。姉さんもきっと喜ぶよ」

「はいっ!一日も早くガーラ様に献上したいです!」

 ゲンマに労われたバンは晴れやかな笑顔で労働の汗を拭う。

 その有様を見てカイセットは溜息を吐く。

「私も忠義に人生を捧げられれば幸せなのだろうな……もう少し若ければ……無謀にも忠誠にも潔く振り切れるのだが……」

 カイセットの表情は浮かない。

 その内面で、損得と善悪の天秤が激しく動いているのだろう。

 ゲンマはその内面を透かすようにジッと見ている。



 農業試験場から領事館に戻ると、ギルド幹部ジューベーがやってきた。

 普段の軽妙さが無く、少し重い雰囲気を纏っている。

「メガロクオート経由でゲンマ様に面会を求めている者がいるのですが……」

「どうしたの?ボクに会いたいって……偉い人か何か?」

「それが……魔大陸から来た勇者なのです……」

 彼の歯切れの悪さから察するに、どうやら面倒な人物――魔大陸からの来客が、また一人この自治区に訪れるらしい。

「彼は、メガロクオート傘下で同盟国のコモンセンシス共和国の冒険者なのですが……少し癖がある人物でして……」

 言い淀むジューベーを見て、俺は少し嫌な予感がしてで胸がモヤモヤした。


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