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ミステリ作家の異世界日記――小説を書こう、異世界で  作者: 黒井影絵
第10章 勇者バトルロイヤル

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066――龍王のお気に入り(2)

 カイセットとオッズが初めて出会ったのは、彼が任務で魔族領域近くの辺境を探索していた頃だった。


 遺跡近くの廃墟で秘密結社が怪しげな儀式を行っているとの情報の真偽を確認する、という内容だ。

 カイセットがその廃墟に駆けつけると現場には多数の死体が散乱しており、廃墟の地下室に描かれた魔法陣の中に唯一の生存者が倒れていた。

 気付薬を使うと彼は目覚めて、一言「マスターに……忠誠を……誓います……」と言い残して再び失神した。

 その生存者がオッズだ。

 残された資料は謎の言語で書かれていて解読出来ず、事件は迷宮入りとなった。


 オッズは自分の名前以外の記憶は無く、また如何なる隠蔽術式の影響か、カイセットの鑑定スキルでも素性を調べることはできなかった。


 皇帝配下の学者の推測では、彼は魔族配下によって召喚された転生勇者で、召喚儀式を不完全な状態で実行した結果、魔力が連鎖暴走して魔術師たちが全滅したのでは、とのことだった。


 その後、彼が強力な戦士で、尚且つカイセットに完全服従していることから、皇帝の計らいでオッズはカイセットの部下として配属される。

 以後二人は共に多くの国を巡り、時には死線を掻い潜り、数々の任務を成功させていった。


 ・・――◇――・・


 カイセットが過去に思いを寄せていると、オッズは突然剣を抜いて身構え臨戦態勢に入る。

 彼は咄嗟に周囲に気を巡らせると、周囲に魔獣の気配を複数察知して、警告を発する。

「魔獣の気配がする……それも、かなり強敵だ」

 ナナヒとエミリは青ざめて辺りをキョロキョロ見渡す。

 荒地の茂みから、毒を持つ魔獣バジリスクが三体現れた。

「行け、オッズ!状態異常攻撃に気をつけろ!無理はするな!」

 カイセットが指示を送るとオッズは残像を残してバジリスクの背後に回り込み、死角から一撃離脱で攻撃を加える。

 カイセットは振り返ってエミリに聞く。

「貴方は聖女だったな、状態異常回復は出来るか?せめて毒消しだけでも……」

 それがあるとないとでは、これからの作戦は変わってくる。カイセットはあまり期待をせずに尋ねた。

「そ、そんなの出来る訳ないでしょ!憶えるのにどれだけレベルが必要だと思ってるの!」

 彼女の聖女としての素質は並レベルな上に鍛錬もずっと怠ってきた。

 だからこそ、人より抜きん出る為に玉の輿に執着しているともいえる。

『それでも、ポーションや巻物くらい用意しておけ……自分に求められる役割も理解してないとは……使えん聖女だ』

 ため息と共に誰にも聞こえないボヤキを吐き出し、完全に足手まといな二人に指示を飛ばす。

「じゃあ、我々が足止めをしているから、さっさと逃げろ。その辺をウロつかれると迷惑だ」

 彼の物言いは他国とはいえ王族へ対する物としては不適切だったが、カイセットは、これ以上二人に最低限の体面すら取り繕う価値を見出せなくなっていた。

「か、かたじけない!カイセット殿!行くぞ、エミリ殿!」

 ナナヒはカイセットの言動を自分に都合よく解釈して、エミリの手を引いて駆け出した。

 カイセットは二人の事は頭から追い出し、オッズの戦闘を支援する。

 流石の彼でもバジリスク三体を一人で相手するのは厳しい。


 小一時間の戦闘で、何とか二人がかりで二体を仕留めて気が緩んだその時、悲鳴が響き渡る。

「いやあぁぁぁ――何なのよ!ここは!!」

 逃げた筈のナナヒとエミリは、さらに二体のバジリスクに追い立てられながら戻ってきた。

 カイセットは思わず顔を顰めて舌打ちをする。

「……なんなんだ!こいつらは!!」

 さらに、遭遇以降ずっとバジリスクに対処してきたオッズが毒の影響で動きが鈍くなりつつある。

 魔獣は舌なめずりしながらにじり寄ってきた。

「時間を掛け過ぎたか……まずい……」

 追い詰められた一行は万事休すかと思われたが……


「弓隊、前へ――攻撃!!」

 男の声が周囲に響き渡ると、どこからともなく矢の雨が魔獣に降り注ぎ、足止めした。

 その隙を逃さず、声は命令を続けた。

「魔術師、前へ――拘束せよ!」

「《 マグ・プーダ 》!!」

 オッズに襲いかかろうとしていたバジリスクは魔法の拘束を受け、その場に倒れ込む。

 オッズはその隙を逃さずに、魔獣にトドメを刺した。

 ナナヒとエミリを追いかけていたバジリスクは強力な新手の出現を目にして、身を翻し逃げ出した。


 カイセットは歩み寄ってきた援軍に礼を言う。

「助かりました……有難うございます」

 オッズは援軍所属の治療師に解毒と回復のエンチャントによる治療を受けている。

「お気になさるな、人間の救助活動は支配種族として当然の務めだ」

 カイセットが隊長らしき人物を良く見ると、彼の耳は長く尖っていて、整った顔に青白い肌の人間ではない種族で騎士のような格好をしていた。

「……支配、種族?」

「そうだ。私はエルス族の剣士アイサム。エルス共和国の都市エモートの自警団を任されている。この辺りでは見かけない顔だが……君らは人間領域から来たのか?」

 九死に一生を得たカイセットはようやく、この大陸で文明の一端に触れることが出来て、安堵と共に深い息を吐いた。


 カイセット一行が何とか列強諸国の都市に到達した頃、私の道化が治めるアースガード自治区にも、新たなる来客が訪れようとしていた。


 ・・――◆◇◆――・・


「研修?」

 俺が領事館の食堂で朝食を食べていると、ゲンマがガーラからの言付けを伝える。

「うん。魔大陸からの使者の中にテイマーがいてね、良さそうな人だったから姉さんがスカウトしたんだって」

「へぇー」

 モモちゃんのアイドルレッスンと言う名の鬼特訓によるテイマー育成計画は順調で、熱心に鍛錬しているイノもテイマークラス獲得に手応えを感じ、秒読み段階にあるようだ。

 とはいえ、今すぐにガーラが望むような人材を提供できる段階ではないので、魔大陸からのテイマー来訪は正に渡りに船といった所だろう。

「そのテイマーが今日、研修で自治区に来る予定なんだ」

「随分急だな……」

 モモちゃんのスケジュールが多忙を極めてヤバいってのに。

「全くだよ……姉さん、今まで口にしてなかったけど、内心ではかなりテイマーが羨ましかったみたいでね。で、それに関係して釘を刺されたんだけど……」

 ゲンマは急に言葉を言い淀んだ。ん、何だ?

「『私のテイマーだから取らないように』だって……」

「お……おう……」

 いきなりすごい独占欲だな。ちょっとドン引きだ。

 常識人だと思っていたが、ガーラもやはり所有する人や物に対して執着する龍族の性質は持っているようだ。



 王都からやってきたテイマーはバンと名乗る温和そうな小柄な青年だった。

 ゲンマからの事前情報では、彼も魔大陸で転生召喚されたホムンクルスらしい。

 ということは彼も地球で暮らした前世の記憶があるのか。

「初めまして、研修を受けにきましたバン・オーニワと申します!しばらくの間、よろしくお願いします!」

 彼は丁重な挨拶と共に綺麗な四十五度のお辞儀をする。

 社会人経験はそれなりにありそうだ。

「うん、よろしく。まぁ、こっちに来た早々ごめんね、慌ただしくって。姉さんが強引で困ったでしょ?」

「あ、いえ……そんな事は……」

 ゲンマが気遣うように声を掛けるとバンは何故か顔を赤らめて頭を掻いている。

「この自治区は立ち上がったばかりだから、あまり格式張らなくっていいよ。スタッフも若い子が多いから、すぐに馴染めるよ」

 ゲンマが人当たりの良い笑顔で、緊張気味の青年を和ませようとしていると、メンバー達が部屋に入ってきた。

「おはよーございます!先生、ゲンマさん!」

 モモちゃんのハキハキした声が心地いい。

「あ、おはよー。みんなにも紹介するね。こちらが、王都から来たテイマーのバンくん――」

 みんなの視線がバンに集まる――と、彼はモモちゃんを凝視していた。


 ただならぬ空気に、一同沈黙して緊張が走る。

 彼は絞り出すように声を発した。


「……え……あ……まさか……黒うさぎ、さん?」


 初対面の筈の人物から突然ハンドルネームを呼ばれ、びっくりしたモモちゃんは、

「はへっ?だ、誰?」

 と、間の抜けた声を上げると、彼女の後ろに控えていた森川がスッと前に出る。

「誰ですか?あなたは?」

「あああああああ?!も、森亭さんまで!!僕です!僕!“ちくわ大将軍”です!!」

「えっ?神無月了非公認ファンクラブナンバー五十八番の“ちくわ大将軍”さんですか?」

「そうです、そうです!いやーこんな所でお会いできるとは!奇遇ですねー!」


 ちょっと待て……またオフ会案件か!

 奇遇で済むレベルじゃないぞ!



 バンは地球で深夜残業の後、自宅に帰った以降の記憶がなく、目が覚めたらこの世界に召喚されていたとのことだ。

 地球では首都圏で一人暮らししていて、オフ会やイベントにはよく参加していたので、モモちゃんや森亭とも顔見知りだったらしい。


「伝説のマスターテイマーって、黒うさぎさんの事だったんですねー……それにしても、神無月先生までこちらに転生して新刊まで出してるなんて……」

 いや、俺は地球で死んだ訳じゃない……正直今は微妙な立場だが。

 それといつの間にかモモちゃんが伝説になってる件。


「魔大陸でもクオート族が俺の著作を行商しているらしいが……」

「本なんて贅沢品、庶民には買えっこないですよ!それに僕を召喚した国はクオート族を締め出してましたし……」

 工業で大量生産した商品を携えて大陸を縦断するクオート族の行商隊に対抗できる商人が魔大陸にいるとは思えないからな。

 国内経済を守るために出禁になったとしてもおかしくない。

「うわー……久しぶりの本だ……それも新作!!」

 バンは俺のサイン入り新刊に頬ずりした後、大事そうにインベントリに収めていた。

「君も、カンナヅキ君の信者なの?」

 ゲンマはニコニコしながら尋ねる。

「いえ、僕は少し齧っただけの一ファンです。信者なんて、そんな烏滸がましいです。まだ先生の著作は大体目を通したというだけでして……信者と名乗れるようなレベルでは、とてもとても……」

 彼は両手の平を顔の前で振りながら言ってるが……典型的なオタクの物言いだな。

 世間一般的には十分詳しいだろって奴だ、これ。

 うちの狂信者メンバーは彼の振る舞いに対して、ドヤ顔で満足そうに頷いている。



「所で、研修とは具体的には何をするのでしょうか?テイマーの能力で菜園の管理をするとは聞いているのですが、イメージがさっぱり湧かなくて……」

 バンは心配そうに聞いてきたが、本当に何の事前説明も受けてないようだ。

 ゲンマは安心させるように優しく言う。

「今日これから農業試験場の視察をしながら軽く説明するよ。それで概略は分かって貰えると思う。まぁ、最優先なのはレベリングだね。それも安全になる早で。君は戦闘は苦手って聞いてるけど、パワーレベリングするだけならここのダンジョンで十分だし、強力な助っ人もここには大勢いるから、心配しなくていいよ」


 その後、彼は農業試験場の視察に意欲的に参加した。

 地霊グノムが耕作する畑や黄金林檎を実らせるドルチェアルボラの聖域、それに何と言っても魔獣アピスが忙しく飛び交うイチゴ畑……。


「成る程……アピスというミツバチのような魔獣を使役するのにテイマーのクラスが必要なんですね。そして、作物の受粉作業をさせると……納得しました」

「そういう事。宮殿でもアピスの代用で人力、使い魔、魔法など、色々試したそうだけど……やはりアピスの力を借りるのが一番理に適ってるみたい。この辺は地球と大差ないわ」

 俺もゲンマも門外漢なので、詳しい話はジュンとモモちゃんに丸投げだ。

 バンは農業試験場での実験に多大な興味があるらしく、かなり突っ込んだ専門的な質問を投げかけてはジュンを感心させていた。

「流石ガーラ様に見込まれただけの事はあるようね。将来性は十分だわ」

 ジュンが褒めるとバンは頬を赤く染めて照れている。

「はい!龍王様のお役に立てるよう、早く一人前のテイマーになりたいです!」

 その様をみてゲンマがボソッと呟く。

「姉さんはしっかり人心掌握をしてるみたいだねー……これは引き抜くのは無理かな?」

 おい、ゲンマ。余計な火種を作るなよ。

 龍王ガーラとはこれからも協調していきたいんだからな。


 バンは視察の後、適当に組んだパーティでダンジョンに潜入して夕食前までレベリングをした。



「本当にこのままでいいんでしょうか……」


 あれから日数が経過して、研修は順調に進んでいる。

 彼はダンジョンでレベルを積み重ねて、無事にテイマーの最重要スキルである“お気に入り登録”を獲得した。

 彼のテイマーとしてのキャリアはここから始まると言っても過言ではない。

 先行しているキマリスの育成状況からも、テイマーにも個人差があることは判明している。

 彼の得意分野を見極めてから本人とガーラの意見を聞きつつ、さらなる育成計画を練っていく方針だ。

 彼の未来は明るい……筈なのに、何故か浮かない顔だ。


「龍王様は『テイマーは可能性の塊』と仰ってました……なのに、今だに単独で魔獣を倒す力を持ってない……僕はガーラ様のお役に立てるのでしょうか……」

 バンは前世で営業兼SEをしていたとの事でEDKの習得は早く、魔法適性も低くはない為、ダンジョンの中層くらいまでなら十分に通用するポテンシャルは有している。

 しかし武術の心得が全くないので、戦闘面ではまだまだ熟練者のサポートが必要な状態だ。

「気にしなくていいんじゃない?」

 ゲンマはそんな彼の葛藤をあっさり斬って捨てる。

「姉さんは気に入った人材に対して急いで成果を求めるような狭量な事はしないよ。それに……」

 ゲンマは言ってる途中で含みのある笑顔のまま沈黙する。

 ん?何か言いにくい事でもあるのか?

「……姉さん、今、イチゴの事しか考えてないと思うから……戦闘の事は完全に後回しでいいよ」

 何か聞き捨てならない事を言ってる気がする。

「えっ……えええ……?」

 バンは戸惑い気味に首を傾げている。

「あっ、今のは聞かなかったことにして。姉さんの希望としては宮殿の菜園を今以上に充実させ、そのノウハウを蓄積させることだね。今後、龍王国に誕生するテイマー達の為に基礎を構築するって感じ。でもまぁ、簡単な護身術くらいは習っても損はないかな?」

「では、座学を優先した方が良いと言う事ですか?」

「んー、君は現状、少し頑張りすぎだよ。姉さんはそんなにせっかちじゃないから。無理して体を壊したら元も子もないし。今は休息を優先した方がいいかもね」

 バンはゲンマのやんわりとした諭しに少し納得がいかない表情をした。

 そのやりとりを横から見ていたクロード先輩が口を挟む。

「確かに、テイマーは極めれば戦闘でも強力なクラスだ。しかし、自身の攻撃力はそれほど重要ではない。今後魔大陸で戦乱が起きれば難民の数も増加する可能性もある。ガーラはそれに備えて食料の安定した自給体制を整えたいんだろ。それは戦闘以上に重要な事だ。それに、てめーはホムンクルス種だ。人間種と違って寿命が長い、焦る理由は何一つねーぞ」

 彼がここに来てまだ間もないが、すぐに分かるほどに社畜体質の仕事人間なので、ゆっくりすると言う事自体が不慣れで落ち着かないのだろう。


 それにしてもイチゴか……何か甘い物でも差し入れしておいた方が良いのだろうか……。


 ・・――◆◇◆――・・


 私の道化が気苦労の多い龍王ガーラに何を差し入れするか考えている。

 女性に対してマメな気配りが出来るのに、頑なに自分が非モテの側であると確信しているのは、一体何の呪いなのか……。


 ――時間は少し巻き戻る。


「聖女ミノリ?知らないわねー」

 ここはエルス共和国の都市エモートにある、上院議員エルダーエルスのイテレータの館。

 アイサムに救助されたカイセットたちは彼女の詰問を受ける事になった。

「アイサムちゃーん、何か心当たりある?」

 彼女は傍に控えているアイサムに聞いた。

「いいえ。聖女と名乗る人物があの周辺に現れたとの報告はありません」

「だってさ」

「そんな……確かに、あの付近に転移した筈だ!」

「じゃあ、座標がズレたんじゃなーい?話を聞く限りだと随分大味で適当な儀式みたいだしー」

 ナナヒはガックリと落ち込んでいる。

 イテレータはカイセットとオッズを一瞥した。

「で、アンタらも、聖女だとかを探しにきたん?」

 カイセットは、目の前にいるエルダーエルスなる存在が鑑定スキルを使うまでもなく、上級魔族を上回る強者である事を肌で感じて心底畏怖していた。

「……いえ……我々は皇帝の命により龍王様への謁見を願おうと……」

「アンタらもかい……まったく、魔大陸の王族、龍王ガーラのこと舐め過ぎでしょ……悪いこと言わないから、助力を求めるなら龍族じゃなくってクオート族の方にしときなよ。あいつらガメツイからケツの毛まで毟られるだろうけどー、銀貨だけでカタが付く分マシでしょ。龍族はそんなに甘くないから、王だろうが皇帝だろうが無能は速攻でクビが飛ぶよ」

 イテレータは呆れたように親指で首を切る仕草をして苦笑する。

「それが……そうもいかないのです。こちらにも宗主国としての諸々の事情がありまして……」

 カイセットは苦しそうに弁明をする。

 実際それが出来たら苦労はしてない。

「まー、使者のアンタに言っても、しゃーないか」

 イテレータは一息置いて、現在の事情を説明する。

「今、列強諸国はアンタら魔大陸から来たおのぼり連中が仕出かしたおイタの対応に困っている所なのん。現状、エルス共和国としては龍王国と事を荒立てたくないんで、アンタらをそのまま国外に送り出す訳にはいかないんよ。だから、列強諸国に関する最低限の基礎知識を学ぶ研修を受けてもらうよ」

 ふざけた口調でありつつも有無を言わせない威圧を放つイテレータの物言いにカイセット達は平伏して従った。


 ・・――◇――・・


 圧迫会談から解放された一行は安堵の息を吐いた。

「何なんだ!あの無礼な女は!この国は道化師風情に政治を任せているのか!」

「身分は高いのでしょうけど、品位と王族に対する敬意というものが欠けておりますわ。きっと見た目同様に頭が悪いのでしょう」

 ナナヒ王子は外の空気を吸うなり威勢良く悪態を付き出し、エミリもそれに安易に同調した。

「見た目は何であれ、彼女はあなたの国の一つや二つ、簡単に滅ぼせる力を秘めている。仮にここで何か揉め事を起こしたとしても、我々は一切庇いだてはしないので、そのつもりで」

 カイセットのその一言で、文句たらたらだったナナヒとエミリは黙り込んだ。

「さて、我々はこれから、研修とやらを受けて龍王国に向かう予定だ。あなたがここの流儀がお気に召さないのであれば、メガロクオート経由で魔大陸に帰還する事をお勧めする。ヤロージュダイはクオート行商隊の巡回地でもある、王太子のあなたならばクオート族の大使館か領地に行けば本国への帰還は容易でしょう」

 ナナヒは苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。

 彼とて王族の端くれである。

 支配種族が魔族を上回る怪物だと肌で感じた彼は、内心では怖気づいていた。

 彼の中にほんの少しでも賢明さが残っていれば、ここで勇気ある撤退を選択する事が出来ただろう。


「ここまで来て引き返せる訳なかろう!この大陸で聖女様を捜索する足がかりが、やっと出来たというのに!」


 だが、彼はあまりにも長い間、甘やかされすぎた。

 辺境の小さな箱庭のような国は現実離れした夢に固執する王子を大人へと――実現不可能な夢を諦めるように、導けなかった。

 彼の父カリーク王は国を出た時点でナナヒを後継にする事を断念している。


 ナナヒが父の想いを知る事はない。

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