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ミステリ作家の異世界日記――小説を書こう、異世界で  作者: 黒井影絵
第10章 勇者バトルロイヤル

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065――龍王のお気に入り(1)

 俺はこの世界に来てから、多くの著作を世に送り出してきた。

 そして、ついに、本格長編ミステリの新作『魔狼城の断絶』を発表した!


 ……が、


「やはり、後日に発表された“冒険探偵ラビット・ピーチ”シリーズの新エピソード『暴走列車大爆破!』の方が好評で売れてますね……」

 王都から訪れたホレウム商会のウィアは言いにくそうに報告する。

 冒険探偵ラビット・ピーチとは、龍王国を舞台にした勧善懲悪の冒険活劇で悪役(ヴィラン)相手のアクションと毎回登場するゲストヒロイン達とのロマンスがメインの大衆向け作品だ。

 しかも、この作品の商業的成功を受けて、他の出版社もこの路線の後追い小説を雨後の筍のように出しまくり、今大陸全土で冒険活劇物の大ブームが起きている。


 ……まぁ、そういうものだよな。

 マジョリティは軽いエンタメを求めているってのはよく知っている。

 忙しい日々の中、好き好んで貴重な余暇を消費してまで頭を使いたくないって心理は理解できる。

 だが、それでも俺は声を大にして言いたい。


 ――俺の小説(ミステリ)を読め。


 俺が言いたいことはそれだけだ。

 褒め称えろとは言わない。

 喝采せよ、とまでは言わない。

 読後の感想が罵詈雑言でもいい。


 とにかく読んでくれ。


 それだけだ。


「いやまー、私は本好きだから、読みましたけど……あの鈍器をこの世界の一般ピーポーに勧める度胸はないかなー。枕に最適ってヤツですよ」

 ミノリは二日酔いなのか青い顔で机に突っ伏してる。

「あ、そうそう、ヤロージュダイ王国の公爵令嬢シオリちゃんが先生のファンっすよ!でも、魔大陸で庶民層狙いは厳しいっすね。そもそも識字率自体が低いっすから」

 列強諸国ではシステムの恩恵で文盲はほぼいないが、それ以外の領域における文明レベルはだいたい中世並のようだ。

「なるほど、何らかの教育改革が必要ということか。それでも龍大陸同様に公用語が“コモン”一つだけってだけでも有難いが……それにしてもさぁ、話変わるけど……お前酒癖悪過ぎだろ」

「いやー、面目ないっす……」


 自治区外の野良ダンジョンからアルスターと冒険者ギルドからなる合同チームがジローのパワーレベリングから帰ってきて、ウィアの歓迎会も兼ねて宴会を催したところ、ミノリはまたしても泥酔をやらかしてジローに延々絡み続けた。

「せっかく真面目に好感度稼いでいたのが全部台無しだろ、あれじゃ……」

「うわーうわー、ごめんなさいごめんなさい……ああああああ……」

 ミノリは頭をテーブルにガンガン打ち付けている。

 どうやら、彼女はへべれけになってる間の出来事をしっかり覚えているタイプの酔っ払いらしい。

「つーか、普通に告白しろよ……何やってんだよ……嫌われてる訳じゃないんだから、素直になれよ」

 向こうにも好意があるようなのに何やってんだか。

「してるんですよ!これでも!あの人、手強過ぎですよ!アラサーオタク喪女には難易度高過ぎっす!!」


 個人の色恋に関しては、あまり介入するつもりはないが、事前にさりげなくジロー本人にミノリをどう思うか聞いたところ……


 ――『今は修行に専念したい。ミノリさんの思いには、きちんと応えたいが、俺が勇者として一人前にならなければ、彼女のような素晴らしい聖女の隣には立てない』


 ……とのことだった。

 ……真面目か!

 俺の眷属、俺より真面目すぎだろ……。


「いやー本当に素敵っすよ、見た目も中身も私の好みド真ん中どストライクで……あのモブよりギリ主人公って感じの地味顔に不器用で誠実な人柄……たまらんですたい!」

 知るか、リア充めが。顔が緩みまくってるぞ。

「可愛い嫁を二人も確保している超絶イケメンに言われたくないっすねぇ……」

 そうは言うが、俺も転移する前は散々だったぞ。

 顔出し生配信のコメント欄では毎回『人殺しの目』『殺人コック』『インテリヤクザ』等と言われ続け……

「前世の顔面話は止めましょうや……こっちも無傷じゃ済まないので……」

「お、おう……そうだな……」

 お互い、心の傷を広げる前に非モテ主張は痛み分けにしておこう。


 ・・――◆◇◆――・・


 私の道化が若者の恋の行方に勝手にやきもきしているが……他人の心配をしてる場合か、と若干もやもやする。

 アレの鈍感さは、ジローと大差がないように見えるのだが……いや、この分野に関しては私も意見が言える立場ではなかった。


 さて、ここは魔大陸のグランダス帝国の属国の一つ、ザマイ・マサラ王国。


 帝国が秘密裏に使者を送ったという情報は宮廷に潜伏中の密偵を通じて諸国に伝播し、人間領域の上層部に……特に王族会に激震が走った。

 動揺した帝国配下の旧体制側諸国の中でまだ地力のある国は形振り構わずに、クオート族と直接交渉を開始した。

 また別の国の王は家督を後継に譲り、逃げるように人類解放連盟の加入国に亡命して以後二度と祖国を顧みなかった。

 しかし、そのような堅実な動きを示した国は二割ほどで、半数の国は現実逃避して何の策も講じなかった。

 そして、残りの国は帝国に後追いする形だが、転送儀式によって龍王国に使者を送ることにしたのだが……。


「栄光ある我が国の為に、尊い犠牲となってくれ!勇士バン・オーニワ殿!」

 転移陣を前に、騎士団長は涙ながらに熱弁を振るうが、陣の中央に拘束されて転がっているバン本人は絶望の余り無表情だ。

 周囲の騎士たちや転生勇者とその仲間たちは底意地の悪い笑みを隠そうともしていない。


 バンは召喚儀式によって呼ばれた地球からの転生者であったが彼のクラス、テイマーは、ここ魔大陸では外れクラスとして扱われ、彼も召喚された日からずっと冷遇されてきた。

 パワーレベリングもクラス替えもない世界でのレアクラスの扱いは不遇としか言いようがない。

 それでも、獣に好かれやすい自身の性質を生かして、独自に富裕層の騎獣やペットのケアビジネスを地道に行ってきて、それなりに信頼を得てきた矢先に騎士団によって強引に拉致されて此処にいる。


 王の意向で龍王国へ使者を送る事は決定したものの、志願者が誰もいない結果、不遇職であるテイマーのバンに貧乏クジが押し付けられたのだ。


 『あんまりだ――!!』


 本人の意向を無視した蛮行に、バンは声にならない抗議の叫びを挙げるが、転移陣は無情に輝き、彼は問答無用で新世界へと送り込まれた。


 ・・――◇――・・


 彼が転送された先は……龍王国王都にある市民の憩いの場である公園中央の噴水の真上だった。


 ――ザッパーン


 拘束状態のバンは水しぶきをあげて噴水の中に落ちたまま、身動き出来ずに途方に暮れた。

 時間はちょうど昼時で、その場にいた人々は、突如降って湧いた小柄な青年を遠巻きに眺める。


「……何だアレ?」

「……あー、アレじゃないか?魔大陸とかからの……」

「……今、騒動になってる奴か!……あの狼藉者が、こんな王都の真ん中にまで現れるとは……」

「……あらいやだわ、急に暴れたらどうしましょう?」

「……でも、アイツならず者には見えないぞ……?」


 人々はヒソヒソ声で何事か話し合っているが、バンには何のことだかさっぱりのようだ。

「……た、たすけて……」

 バンは絞り出すように小声で呟いた。


「よぉ、兄ちゃん、大丈夫かー?」

 さざめきの中、すぐ側で屋台を営んでいる元冒険者の男が駆け寄ってバンを助け起こすと、ハッとした周囲の人々も近寄って手を貸し出した。

 バンは噴水の外に運ばれた後に拘束は解かれて、彼は手渡されたタオルで頭を拭いた。

「あ……有難うございます……」

「いいって、いいって。なんか知らんが災難に巻き込まれたっぽいなー。今、警吏が来るから、タコヤキでも食べて待ってなー」

「えっ……たこ焼き……?」

 バンは手渡された食べ物をジッと見つめた。

「本当にたこ焼きだ……」

「これは美味いぞー。この商売、最近始めたんだけど、ここも同業が増えて激戦区でなー。もっと郊外の住宅地かスパピアに移動しようか迷ってるんだわ。ま、いいから、焼きたてのうちに食べなー」

「は、はぁ……うっ……美味しい……!」

 彼が夢中でタコヤキを食べていると、都市警備の警吏がやってきて、バンに詰所への同行を促し、彼は大人しく着いていった。


 ・・――◇――・・


 詰所でのバンの取り調べは恙無く進んだ。


 調査官の質問に答える間に、彼も龍王国の現状をさりげなく聞き出した。

 現在、龍王国には魔大陸からの来訪者が押し寄せてきて、関係各所はその対応に追われている。

 特に龍王ガーラとの謁見は希望者が多すぎて数を絞っていたが、無礼千万な使者も少なくなく、先日など『勝負だ!龍王!!』と言って突然襲いかかる者まで現れた。

 幸い大事はなかったが、あまりの不敬行為の数々に遺憾の意を表明した当局は、当分の間龍王ガーラへの謁見は全面中止と決定したそうだ。


「……ってことは龍王様とは謁見は出来ないという事ですか」

「そうなりますな……ガーラ様は元々多忙な雲の上の御方ですし……」

 彼は簡単に龍王に会う事が出来るとは考えてなかったようだが、これからの生活を考えて、憂鬱になったのか溜息を吐いた。

 魔大陸に転生して以来、真面目に頑張って働き、生活がやっと安定して来ただけに落胆も大きかった。

「これからどうしよう……」

「まぁまぁ、亡命手続きをして新規アカウントを取れば列強諸国の住民として行政の保護を受けられますよ」

 調査官は事情聴取の結果、見るからに気弱な善人の彼がここに来た経緯があまりに酷かったので同情してしまったようだ。

「治療院に行けば難民や無宿者相手の炊き出しや保護も行なっているので、宿が取れなかったら行ってみては……?」

「あ、そういうのがあるんですね……有難うございます。まずは役所で亡命手続きをしてきます……」

「それがいいと思います。この龍王国は本当に住みやすい良い国ですから、真面目な働き手は何時でも大歓迎ですよ」

 ここに転移してから短い時間ではあったが、街の様子や人々の表情からも、この国が自由で活気があるのはすぐに分かった。

 そんな和やかな会話をしていると、取調室に別の調査官が血相を変えて飛び込んできた。

「バンという今日来た亡命者はまだいるか!!」

「まだここにいますが……どうしましたか?」

 息を切らせた同僚に調査官は驚いて訪ねた。

「い、今、き、き、宮殿から使いが来て……亡命者のバン・オーニワという青年を連れてくるようにと……」

 バンと調査官は顔を見合わせた。


 ・・――◇――・・


 その後、バンは訳も分からず豪華な馬車に乗せられ、王族が住まう宮殿へと運ばれた。

 如何なる理由で連行されているのかと、宮殿からの使いに事情を尋ねても――

「やんごとなき御方が是非お会いしたいと仰られております」

 ――と、しか言わない。

 高位の貴人のように見える使者だが、彼も詳しい話は聞かされてないようだ。


 バンはここに来る前に龍王は予見の能力を持っている絶対的権力者と担当官に聞いていたが……身に覚えのない罪で罰せられるのだけは勘弁してほしいと切に願っている。


 馬車は吸い込まれるように宮殿へと入り、馬車を降りた彼は使者の案内で奥の方へと進んでいった。


 ・・――◇――・・


 通された部屋はアンティーク調の家具が並ぶロココ調の豪華な応接間だった。

 バンが使者とともに部屋に入り、使者がバンを紹介しようと息を吸った途端、誰かが、ものすごいスピードで駆け寄って、バンの手を取って両手で握った。


「其方が私のテイマーだな!!」


 バンは目を見開いて目の前の人物を凝視する。


 そこにいたのは、金赤色の見事な巻き毛の絶世の美女であった。

 大きな緑の瞳は宝石のように爛々と輝き、身を包んでいる華奢な衣装はやや露出過多だが下品ではなく、むしろその人外じみた美を際立たせていた。

 なにより額の上に生えている一本角が人ならぬ者であることを主張している。

 バンは魔大陸での仕事では頻繁に見目麗しい貴族と対面していたが、それでもここまでの美形にはお目に掛かった事はなかった。


「ガーラ様……客人が戸惑われてます。自重してください」

 彼女の背後から不揃いの二本の角が生えた制服を着た少女が歩み寄り、嗜めるように諌めた。

「えっ……ガーラ様?……では、あなた様が龍王様で……!?」

 それまでイメージしていた龍王像と懸け離れていたのかバンは驚きで口をパクパクしている。

「そうだ!この私こそ、龍王ガーラである!ささっ、奥へ来るがいい、其方とはじっくり話がしたい!当然、無礼講だ!」

 バンは訳も分からず応接間のソファに導かれて腰掛け、そのすぐ隣にガーラが座った。

 彼は間近で輝くガーラの美貌と胸の谷間に赤面している。

 会話が始まる前から、バンはガーラから発せられる“王者の威光”に圧倒され完全に飲まれていた。


「さっそく本題なのだが……私はずっとテイマーのクラスを持つ者を探していたのだ!」

「テイマー……をですか?」

「そうだ……現在、この龍王国にはマスターテイマーが一人存在して、多大なる功績を挙げている。しかし、この大陸では他のテイマーが見つからなくてな……一応、訓練でテイマークラスを獲得できないか研究中なのだが、どうにも時間がかかりそうで困っていたのだ。どうだ?今後、特に予定がないのならば、この私、龍王ガーラに仕えてみないか?今なら待遇も年棒も望みのままだぞ!」

「そ……それは大変、魅力的なお話ですが……何故、テイマーの私なのでしょうか?こちらの世界に召喚されてから、ずっと外れクラスと呼ばれ続けたので全くピンとこないのですが……」

 バンが俯き加減で恐縮してる様を見て、ガーラは深いため息を吐いた。

「はぁー……嘆かわしい……テイマーは可能性の塊であるのに……まぁ、それはいい。私が其方にやって欲しい仕事は、主に宮殿内の菜園管理だ」

「菜園……庭師、ですか?それがテイマーとどう関係が?」

 バンには郊外に庭付きの家を購入してガーデニングと家庭菜園を思う存分に楽しみたいという前世からの夢があり、畑と庭造りに関する知識はそれなりに蓄えていた。

 なので思わず、前のめりになった。

「うむうむ。それに関しては言葉では伝わりにくいと思うのでな、まずは研修を受けて欲しいのだ」

 勇士として召喚されたにも関わらず、温厚な性格で荒っぽいことが苦手な青年にとって、龍王自らスカウトする庭師の仕事は、これ以上にない好条件の申し出であるのは明らかだ。

「私の弟が治めている領地の農業試験場でテイマーの能力を有効活用した実験を多々行なっている。その成果の幾つかを、この宮殿内でも再現して、ゆくゆくは全国に広めていきたいのだ!」

 バンの目に映る、龍王ガーラの姿は輝かんばかりの王威を身にまとい、自然と彼の言葉には王の中の王への崇拝の念が満ち溢れる。

「そ、そのような大役が自分に務まるか分かりませんが……研修期間があるのならば、まずはそれに全力で取り組みたいと思います!」

 彼の返答にガーラは満面の笑みを浮かせた。

 その笑顔の破壊力とガーラが常時発揮しているパッシブスキル“王者の威光”によって、ザマイ・マサラ王国の使者としての使命は、バンの頭から完全に消えて無くなったのだ。


 ・・――◆◇◆――・・


 不遇なテイマーが幸せな邂逅をする一方、魔大陸のグランダス帝国から転移してきたナナヒ王子一行は不協和音を奏でながら、龍大陸を彷徨っている。


 彼ら四人の思惑は全く噛み合ってなかった。


 皇帝の密命を抱えたカイセットとしては、不安材料でしかないナナヒとエミリとは適当なタイミングで別れたいと考えていて、向こうもカイセットを隠密風情と侮り、早く自由に行動したい風であった。

 しかし、広大な龍大陸では、中々人里らしき場所が見つからない。

 しかも、途中で遭遇した魔獣は彼らが思ってた以上に手強く、戦闘慣れしてない二人は別行動することに難色を示し始めた。

「こんな物騒な場所とは聞いてなかった……ここに置き去りにされては困る!」

「そ、そうですわ!騎士様とは、か弱い女性をお守りするものでしょう?」

「私の任務は護衛ではないのだが……とにかく、早急に都市部に到達する必要がある。話はそれからだ」


 帝国周辺国の貴族の四男として生まれたカイセットは皇帝の代理人として、その手足となり命がけで活動してきた有能な人物だが、中でも鑑定スキルに基づく人物評価には定評があり、その眼力は鋭い観察力も相まって非常に高い。

 そんな優れた人物眼を持つ彼であるが故に、口を開けば『聖女様をお守りする騎士となりたい』と言うナナヒにはウンザリしていた。


 彼の能力は絶望的な程、戦士に向いてなかった。


 ステータスを見れば彼が日頃から地道な鍛錬を怠っているのは明らかで、しかもスキルは農業系の物に偏っている上に王族としての座学ですら手を抜いている。

 怠惰な王族は特に珍しい存在ではなく一般的には非難する程の瑕疵ではないが、彼自身が現実を認めず、かといってそれを乗り越えるための努力もせず、今日まで己に都合の良い空想に浸って生きてきたであろう振る舞いに対してカイセットは嫌悪していた。

「素質がないなら、人の何倍もの努力が必要であるのに……」

 至極真っ当な大人の意見だ。全くもって御尤もである。

 それだけに酷く……滑稽だ。

 その手の正論は当人のプライドを貫通する事は決して、ない。


 カイセットはふと、隣に立っている相棒、オッズを見る。

 彼はくすんだボサボサの金髪と褐色の肌の青年だ。

 前髪は手入れもなく無造作に伸ばされ、その死んだ魚のような目を覆っている。


 彼は普段は努力どころか自発的な行動は何もしてない。

 放っておくと、食事をして寝るだけの何の情熱もない生ける屍のような男だ。


 しかし、いざ戦闘となると凄まじい強さで他の存在を圧倒する。

 カイセットと彼との付き合いは長いが、それでも、この男が何を考え何が楽しみで生きているのか、彼にはさっぱり分からない。

 その気になれば、その武力でいくらでも出世できそうなモノだが、如何せんこの男は怠惰で覇気が……いや、人間らしい欲と感情自体が欠けていた。

 あのエミリとかいう自称聖女が猫をかぶって彼にしなだれ掛かるが、まるで蝿を払うように素気無くあしらっている。


「人生とは理不尽なまでに不公平だ……」

 その言葉は、長い期間多くの国を渡り歩き様々な人間と関わってきた彼が人生で得た真理の一つだ。


 ・・――◆◇◆――・・


 様々な思いを胸に抱き、魔大陸の戦士たちが運命に導かれて龍大陸に集結する中、勇者としての名声をほしいままにしているリツが取り巻きと共にメガロクオートに入国する。


「ようこそいらっしゃいました、勇者リツ様。メガロクオートへようこそ」

 クオート族の外交官は案内役として一行へ一礼した。

「今日から皆さんをご案内します、ミュラと申します。以後お見知りおきを」

 リツの周囲は一般的なクオート族女性特有な人形のような風貌の可憐な案内人に浮き足立ったが、リツは分かりやすい監視役の存在に苦笑した。

「皆さんは、魔大陸から初めて列強諸国にお越しになりました。つきましては、自由行動の前に列強諸国で行動する上での重要な決まりや約束事についての研修を受けていただきます」

「我々はここに住むとはまだ決めてないが……」

「それでも、です。ここは魔大陸とは違い、強大な力を持った支配種族が法とメシア論に従い、絶対的権力で人類を治めております。特に基本憲章は人間にとって身を守る盾でもあります。どうかご理解のほどをお願い申し上げます」

 同行している政府高官の話では最近、魔大陸からの使者が龍大陸各地で暴れているとのことで、これもその影響の余波なのだろうとリツは予測した。

「分かりました。お互いの良き親善の為にも必要な情報を得る機会は歓迎します」

 リツは、早くパワーレベリングしたいという思いが透けて見えつつも、それに蓋をして、これが正解だろうという無難な受け答えをして微笑んだ。


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