j003――ジョイスとゲンマ(3)彷徨える亡霊
あの野外任務以来、ジュリとはよく顔を合わせるようになった。
歳が近いということもあり、ギルド内の軽作業や鍛錬などで同じ班で行動する機会は多かった。
「勝負だ!ゲンマ!!」
「えー?!」
彼女は相当負けず嫌いな性格らしく、棒術の稽古でゲンマに軽くあしらわれたのが余程気に障ったようで、稽古で顔を合わせる度に挑戦している。
「今日こそ、一本取ってやるからな!」
「ははは」
また、ゲンマもゲンマで、絶対に手を抜くことはない上に、指南しているつもりなのか、単に煽ってるだけなのか軽口で余裕ぶっている。
「あはは、そんな攻撃じゃ、蝿が止まっちゃうよー。大振りの挙動が多すぎ!」
「五月蝿い!この!ちょこまかと……!!」
「もっと、周囲にも気を配らなきゃ!ほーら、足元がお留守だよ、っと!」
「きゃ……っ!!」
ひたすら力任せに棒を振り回すジュリだったが、最小限の動きで攻撃を避けるゲンマの冷静な足払いであっけなく尻餅をつく。
「いえー!勝ったよー、ジョイスー!」
「むきー!」
ジュリは文字通り地団駄を踏んで悔しがっている。
「いつか絶対勝ってやるからな!!」
「ははは。また遊んでねー!」
それにしても、強いな、コイツ。
■
そんな穏やかな日々がしばらく続いていたが……ある日の野外活動で、不穏な事件が起きた。
「ジュリさんが消えた?」
この、スパピア郊外の森に来るのも何度目かだが、採集中にジュリが行方不明となった。
「今日は他の冒険者パーティが森に来る予定もないですし……道から外れて迷子になったのでしょうか……ともかく、手分けして探しましょう」
ヴァリエさんは仲間の冒険者に指示を飛ばす。
「君たちはそこの休憩所で待機していてください――いいですね?」
彼は俺と……前科のあるゲンマに念を押して、慌ただしく去っていった。
「いいか、ゲンマ。ちゃんと言われた通り、俺たちは――」
俺はゲンマに話しかけながら振り向くと、彼はそこに居らず、少し離れた茂みを掻き分け森の奥へと走り去る後ろ姿が目に飛び込んだ。
「――ちょっ!待て!ゲンマ!!」
俺は慌てて、その後を追いかけた。
□
ゲンマの走る速度は速く、まるで背中に羽が生えているかのように追い風に乗って突き進み、俺は着いていくのが精一杯だった。
森を抜けた岩場に出た辺りで、彼は唐突に岩に身を隠した。
その視線の先には洞窟がある。
「ゲンマ――!」
なんとか追いついた俺は彼の肩を掴む。
「勝手に行動しちゃダメだろ!指示に従わなきゃ……!」
振り返ったゲンマを見て俺は絶句する。
「それじゃ間に合わない」
その顔は恐ろしく冷たく、無表情だった。
「あの子はリムスと一緒に洞窟に入っていった。多分、無理やり連れ去られた」
ゲンマの真剣な眼差しに圧倒された俺は言葉が出なかった。
「ジュリはボクの友達だ。友達は一度でも死んでしまうと、二度と取り返しがつかない」
ゲンマは洞窟の入り口に目線を戻す。
「恐らく、あの洞窟の奥には入り組んだ通路がある。ここから先は危険だ。ジョイスは指示通り休憩所に戻ったほうがいい」
ゲンマはそういって、洞窟に向かおうとする。
「待て――俺も行く!」
ゲンマは足を止めて、俺に何か言おうとしたが、必死に遮った。
「俺だって、ジュリの友達だ!」
「……!」
「それにカリダさんに『ゲンマから目を離すな』と言われている。だから、これは命令違反ではない!……止めたって、着いていくからな!」
ゲンマは暫く俺の顔を見つめた後、深い息を吐いた。
□
洞窟に侵入後、ゲンマはまるで、目的地が分かっているかのように、どんどん奥へと進む。
「どこにいるのか分かるのか?」
「……しっ」
俺が尋ねると、ゲンマは口に人差し指を当て、細い通路のような洞穴を無言のまま忍び足で壁沿いに這う。
俺もそれに倣って、後に付いていった。
一本道を進み続けると、ゲンマは足を止める。
その先は広めの空間で、奥に祭壇のような物が設置しており、ジュリはそこに鎖で繋がれて拘束されて、ぐったりしている。
「人の気配はあるけど……姿は見えない」
ゲンマは辺りを見渡して言う。
「罠か?」
「その可能性は高いね――だから、ボクが行くよ」
ゲンマは矢のように素早く祭壇の間に飛び込んだ。
「ジュリ!」
ゲンマが大声で呼びかけるとジュリは目を開けて顔を上げる。
「ゲンマ――来ちゃダメ!!」
ジュリが叫ぶ。
ゲンマが足を止めると、部屋の隅から何かが飛んできた。
「ゲンマ!!」
俺が咄嗟にゲンマに飛びかかって地面に伏せると、頭上で魔法が爆発する。
「目障りなガキどもが!!」
声のする方をみると、若干やつれたリムスが立っていた。
「優秀だろうが、何だろうが、これで終わりだ!死ね!!」
彼は壁に埋め込まれたトラップに拳を叩き込む。
俺たちは身構えるも、突然、硬い岩の地面が消失し、そのまま奈落の底へと落ちていった。
□
――終わった。
俺は覚悟を決めて、目を閉じて地面に衝突する衝撃を待った――が、それは訪れなかった。
目を開けると俺はゆっくりと下に降りている途中だった。
背中を引っ張られている感触に気がつき振り返ると、ゲンマが俺の服を掴み、足をバタバタさせながら宙に浮いている。
「えっ……?」
「んーんんー……もうダメ……限界!」
後少し、という所で力尽きたゲンマと俺は重力の支配下に囚われ地面に激突した。
「あたた……大丈夫?ジョイス!」
「いてて……い、生きてる……」
俺はゲンマをマジマジと見つめた。
「お前……空飛べたのか……?」
「うん……黙っててゴメン」
「あのなぁ……いや、それは言わなくて正解か。誰が聞いているか、分からないもんな……」
「カリダさんも、そう言ってた。スキルの話は誰にもしない方がいいって」
流石に年長者に釘を刺されてるか。
飛行スキルは、かなりレアな部類に属する。
違法な奴隷商人の標的になってもおかしくはない。
それにしてもここはどこだ……?
ゲンマは斜め上の虚空に視線を定めて固まっている。
「どうした?」
「ジュリが逃げ出したみたい。リムスが追いかけている」
……なんで分かるんだよ。
もう、いちいち突っ込まないぞ。
「じゃあ、早く上に上がらないとな」
「うん」
俺達は立ち上がろうと腰を上げた所で、洞窟内に靴音が響く。
「誰か……来る?」
足音がゆっくりと近づいてくる。
俺達は音がする方角を凝視した。
洞穴の通路から現れたのは、一人の男だ。
「子供がこんな所で何をしている?」
現れたのは黒いロングコートに身を包んだ二十歳前後の青年だった。
灰赤色の髪に淡い青色の瞳の整った顔立ちを持った長身の美丈夫で、この辺りでは見かけない人間だ。
「友達を探していたら、悪者に上から落とされたんです……あなたは?」
俺がそういうと、彼は眉を上げて顎に手を当てた。
「私は冒険者のジェニス。休暇を利用して、この洞窟を調査していた。友達というのは……そこの子かな?」
彼はゲンマの方に目線をやりつつ尋ねた。
「いえ……ジュリっていう女の子です。今は元冒険者のリムスって男から逃げてるそうです」
「ジュリがここに来ているのか?」
俺は奇妙な縁に驚いて声を上げた。
「彼女をご存知ですか?」
「ああ。王都支部で手助けしたことがある。そうか……“事件”に巻き込まれてしまったのか……ともかく、急いで上に登ろう。話はそれからだ」
俺は頷いて、さっきからずっと静かなゲンマを見ると、彼はジェニスさんの顔を見て固まっていた。
「ゲンマ?おい、行くぞ!ジュリを助けるんだろ?」
俺が肩を揺さぶると、ハッとして俺の顔をみて何度も頷いた。
□
ジェニスさんが手に持った羊皮紙に記された洞窟の地図を見ながら移動する傍、彼の話に聞き入ってた。
彼はダンジョンの探索が趣味で、冒険者としての任務がない時でも自主的に未踏地帯の調査をしているという、生粋の冒険者だった。
洞窟の地図とゲンマが持つ謎のスキルを合わせて、ジュリの現在地を割り出し、ジェニスさんは次に移動するべき経路を導き出す。
……俺、何の役にも立ってないな……。
落ち込む俺の顔を、ゲンマは心配そうに覗き込む。
「ジョイス、大丈夫?具合悪いの?」
「……いや、俺は足を引っ張ってばかりだな……って」
さっきだって、俺が部屋に飛び込まなければ、ゲンマはトラップを回避してリムスを捕えられたかもしれない。
「そんなことない!ジョイスがいなければ、魔法でやられてたよ!」
ゲンマは必死に声を上げる。
「そうだけど……俺は平凡な人間だ……俺と関わらなければ、お前は冒険者としてもっと成り上がれるのに……」
「ジョイス」
ゲンマは俺の目を見ていう。
「ボクは冒険者になりたいんじゃない、君と冒険の旅をしたいんだ」
俺は息を飲んだ。
「君が隣にいないなら、ボクは冒険者にはならないよ。これは理屈じゃないんだ」
……だから、何でそこまでして俺にこだわるんだ。
肝心要な部分がどうにも腑に落ちない。
「その辺の話は今は後回しだな。そろそろ、標的に遭遇する」
空気を読まない人間らしいジェニスは俺の情けない葛藤ごと話をあっさり切って捨てた。
□
その空間は洞窟の中とは思えない円形の部屋だった。
壁も床も人工物とみられるタイルが張り巡らされて、壁にはご丁寧にも松明が掲げられ、部屋を薄ぼんやりと照らしている。
反対側の入り口から、走る足音が近づいてきた。
息切れしているジュリが入ってくるなり倒れ込む。
「ジュリ!」
俺たちは彼女に駆け寄った。
「はぁ、はぁ……ジョイス、ゲンマ……無事で……良かった」
彼女は微かに涙ぐんだ目を喜びで細めた。
普段の固まった仏頂面が崩れて、泣き笑いの表情のまま頬に涙が伝う。
「大丈夫か?ジュリ」
ジェニスは跪いてジュリを気遣った。
「ジェニスさん……!!」
くしゃくしゃになりかけた彼女の顔は、急いで拭った涙とともにキリッと引き締まった。
「元冒険者のリムスがこっちに来ます!あいつ、ここの洞窟に妙に詳しいです!気をつけて!」
俺達は武器を抜いて身構えた。
リムスが部屋に入ってくると、俺達に加えて、ジェニスさんがいることにかなり驚いていた。
「何で他に人がいる?!ここは隠蔽された廃ダンジョンだぞ!!」
「ほう、ここがかつてはダンジョンだった事を知っているのか。その情報をどこで手に入れた?」
ジェニスさんの問いかけに、リムスは押し黙り、こちらを睨みつける。
「まぁ、だいたいの予想はつくが……秘密結社か?」
リムスはジェニスさんの意味深な言葉に、一瞬動揺の色を見せた。
「ふんっ、ここは“かつて”ダンジョンだったんじゃない、今も、ダンジョンだ!」
そういうと、リムスはインベントリから大きめの魔石を取り出した。
「必要なエネルギーを注ぎ込めば、休眠状態から覚醒するはずだ!そうすれば、俺がこのダンジョンの主と認められる!――ハハハハハハ!!」
リムスの顔は狂気に歪み、高笑いをする。
「これは、困ったな」
ジェニスさんは呟くが、淡々とした口調なせいか、危機感が湧かない。
「ダンジョンって、そんな仕組みだっけ?……このオジサン誰かに騙されてない?」
ゲンマは首を傾げている。
「その可能性は高いな」
ジェニスさんは頷いている。
「あのー……早く、あの人を何とかした方がいいんじゃないですか?」
ジュリは真っ当なツッコミを入れた。
「そうだな――リムス、無駄な抵抗は止めるんだ」
「うるせぇーー!!」
ジェニスの呼びかけを無視して、リムスは魔石を床に叩きつけた。
魔石は光を放ち、ゆっくりと解けるように床に沈む。
周囲に張り巡らされたタイルの隙間から怪しい紫色の光が漏れ出し、天井から黒い瘴気が漂い始めた。
「この部屋はダンジョンボスの間だ!ガキと冒険者一人じゃ太刀打ち出来まい!」
黒い瘴気を纏った何か……亡霊のような存在が部屋の中央に降り立った。
「ハハハハハ!我が下僕よ!!あいつらをやっつけろ!!」
リムスは高笑いしながら、俺達を指差す。
しかし、亡霊は、一際大きな声を上げて喚くリムスを不快げに一瞥して、黒い瘴気を鞭のように伸ばしてリムスを締め上げた。
「ぐっ!何をする!!」
宙に浮いたリムスは何度も壁に叩きつけられ、放り投げられた頃には明らかに絶命していた。
亡霊は死して尚もリムスに攻撃を与えている。
「どうしよう……死霊対策なんてしてないぞ……」
ダンジョンボスだったら、相当高位の死霊だろう。
そういう敵は通常の武器では傷付けることすら出来ない。
この状況はかなりヤバイ。
「どうやら、アレを倒さないとこの部屋から出られないようだ」
確かに、入ってきた入り口はボスの出現とともに全て閉ざされてしまった。
しかし、ジェニスさんは特に焦った様子もない。
「でも、おかしい……ここのボスは土のゴレムだった筈だ。それに、あれはどう見ても中位の死霊……何らかのバグか、それともイレギュラーが起きたか」
ジェニスさんはブツブツいいながら思案している。
「まぁ、それはいい。ジュリ」
「はい!」
ジュリはジェニスさんの呼びかけに手を上げて応えた。
ジェニスさんはインベントリから巻物を取り出して彼女に手渡した。
「この呪文を詠唱してくれ」
ゲンマはジュリに渡された巻物を横から覗き込む。
「あなたは使えないんですか?」
「ああ。私は魔法もスキルも使えないんだ」
俺はその言葉に驚愕した。
それが本当ならば、この人は文字通り身一つで、未踏のダンジョンかもしれない空間を彷徨っていたことになる。
常識的には考えられない無謀な行為だ。
「この巻物は聖属性ですね……使えないことは無いですが、あたしの適正からは少し外れているので、詠唱と発動に時間がかかります」
呪文を記した巻物は使い切りアイテムとはいえ、習得してない強力な魔法を使用出来る貴重なアイテムだが、その分リスクも存在する。
魔術師達は概ね通常よりも多くのMPを消費するか、詠唱に時間をかけるかで解決している。
「時間稼ぎなら何とかする。ゲンマ、ジョイス、君たちの力を貸してくれ」
俺とゲンマは覚悟を決めて頷いた。
リムスの遺骸を甚振るのに飽きた死霊は、臨戦態勢を整えた俺達を次の犠牲者に定めたようだ。
こちらを睨みつける亡霊の周囲に瘴気が複数本、触手のように蠢いている。
「ジュリは私が守る。君たちは瘴気を引きつけてくれ」
ジェニスさんの指示を受けて、俺とゲンマは左右に散った。
「いいか、決して一箇所に留まるな。それと、常に蛇行を心がけるんだ」
ジュリは呪文の詠唱を始める。
ジェニスさんは、両手で持ったカタナでジュリへの攻撃を全て捌いている。
俺は言われた通り、ジグザグに走り、紙一重で瘴気から逃れ続けた。
一度でも捕まったら、おしまいだ。
ゲンマは空中を自由に飛来し、俺より多くの瘴気を引きつけている。
時折、亡霊を小馬鹿にするような挑発を交えているため、敵は次第にゲンマへの攻撃に比重を増やしていった。
「やーい。負け犬〜落ちこぼれ!悔しかったら、捕まえてみろ〜」
ゲンマは空中で子供みたいな……いや、実際子供なんだが!幼稚な挑発で亡霊を煽った。
すると、亡霊は明らかに激昂し、全ての瘴気をゲンマに差し向ける。
見る限り、そこから抜け出す死角は存在しなかった。
「――ゲンマー!!!」
俺は思わず、宙に手を伸ばして絶叫した。
「《 サン・フラジット 》!!」
瘴気がゲンマを捕らえかける直前、ジュリの詠唱が終わり、その周囲に魔法陣が展開される。
光の魔法陣は部屋全体に広がり、亡霊を浄化する。
――オオオオォォォォォ……!!!
ダンジョンに囚われていた哀れな亡霊は怨嗟の声を上げてこの世から消滅した。
□
その後、俺達はジェニスさんの案内で無事に洞窟の外に出られた。
俺は洞窟がダンジョン化している事を恐れたが、実際は来た時と同様、只の洞窟のままだった。
「流石に、あの程度の魔石のエネルギーではダンジョン全体を復活させる事は出来なかったようだな。推察するに、復旧出来たのはあの部屋の機能の一部と、部屋に取り憑いていた亡霊を目覚めさせる事だけだったのだろう」
ジェニスさんは、そう推理していた。
外に出た時、そこには冒険者ギルドから来た捜索隊が待ち構えていた。
ここに来る途中でジェニスさんが通知で連絡したようだ。
「ゲーンーマーくーん?」
「ジョイスさん……じっくりお話を聞かせてもらいましょうか?」
当然のようにコメカミに青筋を立てたカリダさんとヴァリエさんが仁王立ちをしている。
俺とゲンマはその場に正座して小一時間説教されることになった。
「あのね!今回は運良くジェニスさんっていう腕利きの冒険者がたまたま居合わせたから助かったけど!こんな幸運滅多に無いからね!普通だったら酷い目に遭ってたよ!……ちょっと聞いてるの?ゲンマくん!」
「あの!あたしのせいなんです!あたしがアイツに捕まったから……みんなに迷惑かけて……!」
「俺が悪いんです!俺が余計な事をしたから、事態が面倒になって……!」
ゲンマへの叱責を慌てて俺とジュリは庇いだてた。
「お願いだから二人は黙ってて――」
「ボクは譲らないよ」
ゲンマはキッパリと言い放った。
「友達の命と規則なら、友達を優先する。これだけは絶対に譲らないから」
ゲンマの堂々とした姿勢に誰も異を唱えられなかった。
「そうだな……安全を重視して計画を立て規則を守り任務を遂行する。それは模範的な行いだろう――だが、それは官僚の正しさだ」
ジェニスさんは言った。
「冒険者とは、その存在自体が無謀の極まりだ。だから、そこを責めるのはお門違いというものだ。しかし……」
ジェニスさんは跪いてゲンマと目線を合わせた。
「無謀さの代償は自らの命だ。君が友達に死んでほしく無いと願うように、君の周囲の人間も同じ事を君自身に願っている……その事を忘れてはならない」
ゲンマは真顔でジェニスさんの言葉を噛みしめる。
「はい……良く分かりました」
そして、ギルドの職員に向けて頭を下げた。
「ご心配おかけしました、ごめんなさい」
当事者のゲンマが素直に謝罪したため、年長者もそれ以上何も言えず、疲れた顔で頷くしかなかった。
ジェニスさんはその後一人で街に戻っていったが、ジュリはその後ろ姿をジッと見つめながら呟いた。
「あの方が幹部になってくれたらいいのに……」
その呟きにゲンマは笑顔で頷いた。
俺も異論は無いが……それでも、あの人が隣に居ても、とても遠くにいるように感じてしまうのは何故だろうか……。
□
俺とゲンマはギルドの馬車に乗せられ、帰路の途中ずっと無言だった。
「なぁ、ゲンマ」
俺は意を決して口を開いた。
「俺なりに考えたんだが……やっぱり、お前とは友達にはなれない」
「そんな……」
ゲンマは目に見えて落胆の表情を浮かべた。
俺の中では、友達とは対等の関係であるべきだと常日頃思っている。
今の俺の実力では到底ゲンマには敵いそうにない。
どう言い繕っても、俺の存在はゲンマにとって負担でしかないだろう。
その状況でゲンマを只の友達だと考え続けることは、俺のちっぽけな自尊心にとって耐え難いものだった。
理由は分からないが……彼が何故か俺を必要としてくれていると、感じていてもだ。
「でも……お前とは一緒に協力して命がけで敵と戦った……だから……“仲間”だとは思う」
「えっ……」
ゲンマは俯いていた顔を跳ね上げた。
「俺も……ジェニスさんのような立派な冒険者を目指して頑張るつもりだ。いつか、俺が一人前の冒険者になるまで……仲間として協力してくれないか、ゲンマ」
ゲンマに関わって以来、自分なりに考えて出した結論だ。
これ以上の妥協やごまかしは俺には出来ない。
実力差があり、今後も余計な問題に進んで巻き込まれようとするゲンマとは深入りする前に拒絶する方が賢明な選択なのだとは思うが……
――『ボクは冒険者になりたいんじゃない、君と冒険の旅をしたいんだ』
ゲンマのこの言葉に、何故か、“救い”を求めるニュアンスを嗅ぎ取ってしまった――自分でも馬鹿げていると思うが――それを無視することは出来なかったのだ。
俺はゲンマに右手を差し出し、彼はその手をジッと見ている。
数秒後に、ゲンマはその手を取った。
「うん、いいよ」
ゲンマは俺の手を握って満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう。ジョイス」




