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ミステリ作家の異世界日記――小説を書こう、異世界で  作者: 黒井影絵
――閑話集

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81/112

j001――ジョイスとゲンマ(1)出会い

 久しぶりに故郷の夢を見た。


 龍王国の辺境にある山に囲まれたプリムム村。


 初心者向けダンジョンと大森林が命綱の小さな村だ。


 夢の中では、親父はまだ元気に生きていて、おふくろは優しく微笑んでいた。


 俺が「将来は絶対冒険者になって英雄になるんだ!」と木刀を振ると、親父は笑いながら、

 『それじゃ、強くならないとな!』

 と言って、俺の頭を乱暴に撫でる。


 あの頃は貧しかったが、全てが輝いて見えた。


 夢から覚めた俺は寝台で溜息を吐く。


 俺は冒険者になったが、英雄でもなければ、強くもなかった。



 俺の名はプリムムのジョイス。

 十三歳の見習い冒険者だ。


 故郷の村は初心者向けダンジョンと大森林が命綱で、飢えることはないが退屈で寂れた村だった。


 実家は村で唯一の宿屋で、家族だけで、たまに来る冒険者向けに細々と営業していた。


 しかし、親父の死後、突然やってきた伯父に宿屋を乗っ取られ、俺とおふくろは肩身の狭い生活を余儀なくされた。


 俺達は離れに追いやられた上に伯父の家族に使用人のような扱いでコキ使われた。

 大人しいおふくろは黙って耐えていたが、俺は我慢ができずに村を飛び出し冒険者となった。


 一応、おふくろにも一緒に村を出よう、と呼びかけたが、寡黙だが極めて負けず嫌いという厄介な性格の持ち主である彼女は首を縦に振らなかった。

「それでは負けたことになる」

 そう、キッパリ言った。

「それに、あたしまでここを出たら、この宿屋を正式に手放したと行政に認定される。でも、あたしの意地にアンタまで付き合うことはない。道に外れた事をしなければ冒険者にでも何にでもなればいい。ただし!」

 俺の肩に両手を置いて言った。

「一人前になるまで、絶対に戻ってくるな。あたしはあたしで、アンタの分までここで戦っている。アンタもあたしの分まで頑張るんだ」



 村の外で生活をして初めて、故郷の村がそれなりに恵まれていた場所だと思い知る。

 辺境の静かな生活を退屈だと感じていた俺は、あんなしょぼくれた宿屋をわざわざ乗っ取るなんて、と思っていたが、都市での生活は時間刻みで忙しく、食べるものに困ったらダンジョンや大森林にいけば良い辺境とは大違いだ。


「都市の中じゃキャッシュがなかったら、何も出来ないもんな」

 俺は欠伸をかみ殺しながら服を着た後、インベントリから平パンを取り出して手早く朝食を済ませて職場に向かった。



 冒険者になれば、全てから自由になれると考えていた。

 ダンジョンに入ればレベルアップも簡単に出来て、都市の外への冒険の旅にすぐにでも取りかかれると、漠然と思っていた。

 勿論、世の中そんなに甘くない。


 故郷を飛び出し、都市で冒険者になり、そろそろ一年が経とうとしていたが、未だに俺は冒険者見習いのままで、ダンジョンの出入りすら不自由な状態だった。


「あ、ジョイスくん、おはよう」

「おはようございます」

 俺は、冒険者ギルド・スパピア支部を訪れて、顔見知りの職員カリダさんに頭を下げる。

「今日はね……午前中は洗濯業務か清掃業務、午後は伝令をお願いできるかな?」

「はい、では洗濯やってきます」

「ごめんね。いつも大変でしょう?」

「いえ、慣れてますから。それに力仕事だから、俺がやった方が早い」

「助かるわぁー。時間が余ったら、鍛錬所に行ってもいいよー」

「はい!」


 冒険者見習いを初めて痛感したのは、この世界は才能が無いものにはとことん厳しいという現実の壁だった。

 いかにシステムの恩恵が存在するとはいえ、魔法やスキルといった才能の有無は人の子の人生を大きく左右する。

 特に生き馬の目を抜く、自由競争が尊ばれる冒険者の世界では今更な現実だ。


 そして、俺には持って生まれ持った才能なんてなかった。


「才能が無いなら努力するしかない。それは分かってるんだがなぁ……」

 成人前の子供が冒険者見習いの段階でダンジョンに入るには、仲間の存在、それも年長の経験者の付き添いが必須とされているが、目立った才能も実績もない俺と組みたがる酔狂な冒険者はいなかった。

 その上、見知らぬ辺境から来た俺は都市の住民に人間領域から来た野蛮人のように扱われる事も少なくなく、明から様に侮蔑されることもままあった。

 要するに俺はこの都市で現在孤立している。

「せめて、同年代の友達でもいればな……」

 山のように積まれた洗濯物を素材ごとに分けながら無意識に呟く。

 独身の冒険者は多く、彼らの為に冒険者ギルドは有料で家事業務を見習いの収入源として斡旋している。

 洗濯は貰えるキャッシュは多いが、重労働で常に人手が足りない。

 俺は実家の家業で慣れていたが、都市では外注任せで自分の手で洗濯をした事がない人間は多い。

 ギルドの施設には洗濯用の魔道具が存在するが、素材によっては手洗いじゃないと生地を傷めてしまう。

「早くダンジョンに潜りたい……」

 俺は午前の仕事を黙々とこなし、その後、鍛錬所で指導役の冒険者に剣の指導を受けていると、あっという間に昼食の時間になった。



 濃い味付けで煮込んだ安い魔獣肉を平パンに載せた、いつもの昼食を腹に詰め込んだ俺は午後の伝令業務の為に街に出た。

 システムの通知は官僚達によって常に監視されていて、その内容は賄賂を積めば覗き見出来る、というのはその道に詳しい者には暗黙の了解となっており、内密のやり取りをするには封印された巻物を人力で受け渡しするしかない。

 ギルドに渡された巻物を指定の場所に全て届け終わり、これからの午後の過ごし方をぼんやり考えながら、歩いていた。


 小腹の空いた俺は屋台で串刺しの肉を買って食べようとした所、視線に気づく。

 俺より頭一つ小さい浮浪者のようなボロボロの格好の少年がニコニコしながらこっちを見ている。

 最近、この辺りに流れ着いた孤児らしき子供で冒険者界隈では密かに話題になっている。

 オレンジ色の髪で整った顔を見る限り、元は良家の子息か、その落とし胤か、と噂されていた。

 少年の額の上に角のようなものが生えていて、恐らく先祖返りで魔族や亜人の血が覚醒したのを不義を疑われて家の体面が傷つくと心配した家長が放逐したのでは?と囁かれている。

 ひどい話だが、過剰に見栄っ張りな上級官僚の家では偶にあるらしい。

 普通、そのように家族から追放された幼い子供は巡回している警吏が発見次第、龍の恵みの家と呼ばれる施設に連れて行き保護するようになっているが、この子はどうした訳か、その巡回を巧みに避けて都市内をぶらぶらと徘徊している。

 慈悲深い龍族の肝いりで運営する保護施設とはいえ、集団生活に馴染めない子供はどうしても存在する。

 多分、施設で嫌な思いをしたのだろう。


「お腹空いてんのか?」

 俺は腰をかがめて少年に目線を合わせて言った。

「んー?」

 彼は微笑みながら首を傾げる。

 俺は手に持った串を押し付けた。

「やるよ」

 晩飯まで我慢出来ない程の空腹ではない。

「いいのー?」

「ああ。食い物は食べれる時に食べておけ」

「ありがとー」

 少年の裏表のない笑顔を見て、久しぶりに暖かい気持ちになった。



「やっほー。ジョイス!」

 それ以来、少年とは挨拶を交わすくらいの仲になった。

「そういえば、お前、名前は?」

「ゲンマ!」

「えっ……?」

 龍王ガーラ様の弟君である叡智の友人龍様と同じ名前を付けた子供を放逐するような鬼畜な親がこの龍王国に存在すると知り気が滅入った。

 もっとも、上級官僚達の龍族への侮りや不敬は酒場や市場で噂になる程で、彼らならやりかねないと頷けるものがあるのも事実だ。


「ジョイスは今日もお仕事なのー?」

 最初に会った時はひもじい思いをしているかと思ったが、そう感じるのは俺だけではないらしく、屋台のオヤジや市場のオバちゃんも売れ残りの食べ物をこっそり与えているらしく、想像よりはひどい栄養状態ではないようだ。

「お手伝いするー?」

 少し話をすれば分かるが、コイツは驚く程、世間の常識を知らず、まるで長い間座敷牢に閉じ込められていたんじゃないかと心配するレベルで無知だった。

 時折、仕事中の俺に近寄ってきて、興味深そうに見物した後、自分もやってみたい!と、手伝いをせがんでくる。

 大抵の見習い冒険者がやりたがらない洗濯や下水掃除でも文句を言わずに黙々と作業する。



 ある日、その事がギルド職員に知られ、ゲンマ本人への聞き取りと周辺調査の結果、特例で冒険者見習いとしてギルドに登録した。

 幼い少年が治安が良くない地域を一人で徘徊していることを心配する真っ当な大人が何人かは居て、彼らが後ろ盾になってくれたおかげだ。

 ともかく、これで彼も地域社会の一員となった。


 正式な手続きの際、ゲンマに付き添った俺はカリダさんに「ジョイスくん、これからも面倒見てあげてね?」とニッコリ微笑まれる。

「なんで俺が……」

 俺が戸惑い気味に言うと、彼女は言った。

「冒険者はみんな兄弟よ?そして、良いお兄さん冒険者は弟冒険者の成長をちゃんと見守るものなの」

 ギルド会則には確かにそんな内容の文が書かれているが、それを意味がある、実効性のある規則と考えている冒険者は、俺の知る限りでは皆無だ。

「『我々は血の繋がっていない兄弟である』……ジョイスくん、この文は君たちが考えているよりも、ずっとずっと重い内容なんだよ。冒険者ギルドにおいて一番大事な前提、といっても過言ではないんだ」

 普段の勤務態度がユルめな印象だったカリダさんに真面目な顔で諭された俺は何も言えずに承諾した。


 そのまま、ゲンマは俺の後を付いてきて下積み作業に勤しんだ。

 普段は体を動かしつつも、心を無にして時間が過ぎ去るのを待つだけだった労働も、何をするにも楽しそうなゲンマと一緒だと、世界が少しづつ色付き始めた。


 登録後、ゲンマが初めてシステムを通じてキャッシュを受け取った時は本当に嬉しそうな顔で笑っていたのが印象的だった。



 それから、ゲンマと寝食を共にする生活が続いた。

「ジョイスの作った朝ご飯美味しい!」

 ゲンマは少し騒がしいが、弟みたいで憎めないヤツだ。

「ねぇねぇ、ボクらって、もう友達かなー?」

「はぁー?いいから、さっさと食えよ」

 ただ、眩いばかりに純真な表情で妙に距離感を詰めてくるのは、未だに慣れない……というより少し気恥ずかしい。


 ヤツは真綿が水を吸うように下積みの仕事と冒険者の基礎知識を身につけていく。

 そのお陰で、日常となってる労働に費やす時間が減り、鍛錬に使える時間が増えたのは非常に助かった。

 この調子だと、近いうちにギルド職員から見習い卒業のお墨付きが貰えそうだ。


 しかし、そうなると、次の問題はキャッシュの不足だ。

 当たり前だが、冒険の準備には金がかかる。

 それはダンジョン潜入でも同じ事。

 装備に道具にポーション……最低限必要な物ですら安価ではない。

 メンバーも二人だけじゃどうにもならない。

 新規メンバーも現状、募集をかけても招集に期待が出来ない以上、キャッシュで助っ人を雇う必要がある。

 念願の目標がすぐ側まで近づいているのに、思うように手が届かない状況に俺は焦りを感じていた。



「ジョイス、ちょっといいか?」

 俺は仕事帰り、高ランク冒険者のリムスに話しかけられる。

「実は手伝って欲しい仕事がある……倉の掃除なんだが、依頼主の都合で手続きしてる時間がなく、今すぐ現場に駆けつけないといけない。ギルドには後で報告することになるがいいか?」

 俺が怪訝な顔をすると、畳み掛けるようにリムスは言う。

「緊急の依頼なんでギルド報酬のキャッシュに加えて、ボーナスで銀貨も出すそうだ。悪い話じゃないだろ?」


 銀貨……。


 都市なら大抵の買い物はキャッシュで事足りるが、銀貨があれば蚤の市で人間領域と行き来している行商人から掘り出し物を相場より安く入手できる。


 だが、銀貨が手に入る機会はそう多くない。


 ダンジョンに入れない冒険者見習いの立場では、少し無理してでも挑戦したい。

「分かりました、リムスさん。引き受けるよ」

「本当か?助かる。じゃあ、これから案内する。付いてきてくれ」

 リムスの後を付いていこうとすると、後ろから腕を引っ張られた。

 思わず振り返ると、ゲンマが真顔で俺を睨み、顔を近づけて素早く耳打ちする。


「……あの人、嘘ついてる、付いて行っちゃダメ……!」


 俺は一瞬、躊躇い立ち止まるが……

「おい、ジョイス、早く行くぞ」

 リムスに急かされた俺はその手を振りほどく。

「もう、引き受けてしまった。用事を済ませたら、すぐ帰るから大丈夫だ。先に帰ってろ」

 俺は振り返らず、内心が騒ついているのを無視して、リムスの後を追った。



 ……。


 すぐ帰る……か。


「はぁー……なーに、寝言言ってんだ……俺」


 俺は薄暗い地下牢で溜息を吐きながら自嘲した。

 周囲からは啜り泣く声や助けを求める叫び声が聞こえてくる。


 あの後、リムスに連れられて中が真っ暗な倉に入った途端、刺激臭に包まれて即座に意識を失った。


 気がついたらこのザマだ。


「血の繋がった家族を捨てるような人間がいるなら、血の繋がってない兄弟を売り飛ばす輩もそりゃ普通にいるよなー……」


 ――人身売買。


 栄光ある龍王国でも社会の暗部は存在する。

 龍王国では人の子であるメシアに対して不敬であるとして、奴隷取引は忌むべきものとして禁止されているが、喉から手が出るほど銀貨が欲しい人間にとっては社会道徳程度は何の枷にもならない――俺のように。


 ギルド会則では、如何なる理由があろうと、事前に正規の手続きを経ずに依頼を引き受けるのは完全に自己責任であり、この状況は俺の自業自得だ。

 “怪しい”と思ったのに、欲に駆られてのこのこ付いていったのは単純にミス……それも取り返しのつかない致命的な失敗だ……。


「……あー……バカじゃないのか……俺……」

 地道に小さな努力を積み重ねてきたのに、少し欲を出したら、こうだ。

 脳裏に引き止めるゲンマの顔が浮かぶ……アイツのあんな真面目な表情、初めて見たのに……。

「まだ、家で待ってるのかな……」

 ここがどこだか分からないし、何故かシステムの通知も機能しない……こちらから助けを求める手段はないようだ。

「どうしよう……」

 周囲を見渡しても壁に窓すらなく、牢の鉄格子は強固だった。

 俺は初めて遭遇する絶体絶命のピンチに対して途方に暮れるしかなかった。



 牢の隅で膝を抱えている内に少しウトウトしていると、鉄格子を揺らす音がして、ハッとする。

 顔を上げると、牢の外にゲンマが立っていた。

「バカ、お前……どうして――!」

 ゲンマは手に持った鍵束で鉄格子を開けて、こっちに向かって手を振った。

「ジョイスー、助けに来たよー!」

 俺は慌てて外に出た。

「何してんだよ!危ないだろ!」

 違法な人身売買に関わっている連中だ。

 見つかったら、まず無事じゃ済まないだろう。

「いいから、早く脱出しようよ、急がないと!」

 ゲンマは駆け出して、手当たり次第に人が入っている牢の鍵を開けていった。

 捕まっていたのは俺と同じくらいの年齢の少年少女ばかりだった。

 さっきまで絶望に打ちひしがれて泣いていた彼らは、口々に喜びの声をあげ、今度は嬉し涙を溢れさせる。

「冒険者ギルドのお姉さんが、もうすぐ応援を連れて駆けつけてくるから、みんな早く出た方がいいよ!」

「カリダさんが?ここの見張りはどうしたんだ?」

「ここにくる途中で奴らがジョイスに使った薬を見つけたから、通風孔から流してやったんだ。今は全員眠ってるよー」

 ……コイツこんな大胆なことするんだ……。


 ともかく、窮地に陥っていた俺はゲンマの勇敢な行動で助かったのだ。



 その後、ゲンマと外に出ると、そこはスパピア郊外の再開発区域で、あの地下牢は廃墟を偽装した建物の地下室だったらしい。

 既に冒険者ギルドの職員達が、高ランク冒険者を指揮して昏睡しているならず者を次々に拘束して身柄を確保していた。


 それを見て、俺は安心からか、全身の力が抜け、その場に座り込んでしまった。


「ジョイスくん……それに、ゲンマくん……!」


 聞き覚えのある呼びかけに顔を上げると、険しい顔をしたカリダさんが腰に手を当てて立っていた。


 俺は、叱責を覚悟して青い顔で身を固くした。

 ゲンマが庇うように前に出る。


「あの……勝手なことをしちゃったってのはわかってるけど……でも、今日のところは……勘弁してください。明日、しっかり、叱られるから……だから!」

 必死に俺を守ろうとするゲンマに、自分が情けなくなり、不覚にも涙が込み上げてくる。

 カリダさんは俺たちの顔を見て……溜息を一つ吐いた。

「……そうね。今日の所は、ゆっくり休みなさい。その代わり!明日午後一でギルド支部に来ること!いいね?」

「「はい…… 」」

 その日は無言で帰宅して、泥のように眠った。



 一晩ぐっすり眠って、戦々恐々でギルド支部に訪れると、俺たちは二階の会議室に通された。

 既にカリダさんが待ち構えている。

 いつもは大雑把な態度で大らかに構えている彼女だが、今日は真顔だ。

「座って」

 俺は長時間の説教を覚悟して、緊張したまま椅子に腰掛ける。

 ゲンマは俺よりリラックスしてる……コイツ心臓に剛毛でも生えてるのか?


 カリダさんは難しい顔で無言で思い悩んでいる。

「はぁー……何から話せばいいのやら……」

「ごめんなさい……」

 俺は先んじて深々と頭を下げた。

「あー……謝罪を求めている訳じゃないの……これはギルド側の不手際でもあるから。その辺は今から、ちゃんと説明するから!」

 彼女は眉間を揉みながら慎重に言葉を紡ぐ。

「まず、結論から言うと……状況的にジョイスくんは完全に被害者なので、冒険者見習いとして減点はしません」

 これを聞いて、俺は安堵する。

 俺の軽率な行動で、今までの努力を全て水の泡にする所だった。

「ゲンマくんからの通知で聞きましたが、年長者であるリムスから強引に支援を要請されたとのこと。君の立場で断りを入れるのは困難でしたでしょう」

 どうやら、ゲンマは銀貨の件は伏せてくれたらしい。助かった……?

「ただ、“次”はありませんので気をつけてください。いいですね?」

 ……と、思ったら、意味深な目線で念押しされた……。

 俺は一瞬冷やっとし、重々しく頷いた。

 カリダさんは伏せ目がちになり、その表情は陰った。

「今回の件に関しては、冒険者ギルド運営がジョイスくんの対応を放置しすぎたせいでもあるの。君はちゃんと期待されているって伝えられなかったから……奴らに付け入る隙を与えてしまったのよね」

「え……?」

「人が嫌がる仕事を率先してこなして、地道な鍛錬もキチンと積んでいる……君が思っている以上にギルドは目を掛けてたんだよ?」

「そうなんですか?……でも、俺、才能とかないし……」

 俺が自信なさそうにいうと、カリダさんは微笑んだ。

「確かに何らかの才能があれば、早くレベルも上がるし、受けられる依頼の幅は広がる……でも、長く冒険者を続けていくにはスキルや才能だけでなく、もっと根源的な……地道な下準備をして依頼を確実に達成する……地に足のついた感覚が最も大事なんだよ。第一、本当に冒険者に向いてなかったら、もっと早めに別の仕事を紹介しているよ」

 カリダさんの話を聞いて、俺は今までの努力が無駄ではなかったと、少し、晴れやかな気分になった。

「見習い期間が終わったら、今後の育成について話し合いましょう。ジョイスくんはまだ成人前で若いんだから、焦らなくても大丈夫よ」

「良かったねー、ジョイス」

 ゲンマは呑気に俺の肩を叩いた。

「ああ、それと……ゲンマくーん?君にも言っておくことがあるんだー」

 カリダさんは凄みのある微笑みでゲンマを睨んだ。

「今回の事件の対処。とっても、適切でした!相手に気づかれないようにジョイスくんの後を尾行して賊のアジトを特定した後、ギルドに通知で連絡。応援を要請して本拠地に潜入。賊を無力化した後、捕らえられていた人たちを解放。冒険者の立ち振る舞いとしては文句の付けようがないねー」

 マジかよ……ゲンマ有能すぎるだろ……。

 ここで、カリダさんは一拍貯め、カッと目を見開いた。

「だ・け・ど!それは大人の場合!見習い以前の子供がこんな危ない真似しちゃダメ!どのタイミングでも敵に見つかってたら、どうしようもなかった!どんなに自信があっても、君は一旦引き返して大人の助けを呼ぶべきだった!」

 カリダさんはテーブルを拳で叩いて、珍しく激昂した。

「でも、それじゃ間に合わなかったよ。ジョイスも他の子供達も助けられなかった」

「今回は奇跡的に大成功したから良かったけど!功績に免じてお咎めはないけど!君も“次”は無いからね!!」

 彼女は頭痛を堪えるように頭を抑えた。

「はぁー……支部長は期待の新人現るって喜んでるけどさぁ……コレ、暴走した場合、どうすりゃいいのよ……ちゃんと考えて物言ってよねぇ……」

 カリダさんは何故か縋るような目で俺を見つめる。

「ジョイスくん……いざという時は頼んだわよ?」

 何をだよ……俺に頼まれても困るぞ……。

「良く分からないけど、これからもよろしくー」

 ゲンマは能天気にニコニコしていた。


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