056――神無月
――そりゃあ、ないよ………………エンダー君。
この世界に来てから今日まで、俺にしては頑張って来たつもりだよ。
戦火に巻き込まれた命の恩人の村を守って、龍族や仲間と協力して悪のエルダーエルスや死霊使いと戦って、安住の地を築き上げた。
君にとって大事な人であるモジュローやジェームズにも便宜を図ってきたんだぞ。
そもそも、俺はここまで必死に誰かの手助けするような人間じゃない。
自分さえ良ければ世界がどうなろうと、かまわない利己的な人間なんだぞ。
それが、辺境とはいえ領地を賜り、欠食児童にご飯と教育を与えて、公共環境を整え住民に仕事を与えるなど、繁栄を目指して統治をするとか、ゲンマの協力があるとはいえ、俺にとってはキャパシティ越えしてんだよ。
結構無理してるんだよ。
俺はただの売れない小説家――しがない三文文士に過ぎないんだ。
キミの代打で統治者をする身分じゃないんだよ。身の丈に合ってないんだ。
いやまぁ、自分のためにやってる面もあるさ。
一回り若返った上にイケメンになってチヤホヤされていい気分になったりもしたよ?
でもさぁ、エンダー君ちょっとキミ、ゲンマの事好き過ぎじゃない?
俺もアイツの事は嫌いじゃないし大事な友達だとは思ってる。
日頃世話にもなってるし何かと親身に相談に乗ってくれるし、いい奴だとは思ってるよ?
だからといってさぁ……いきなりこんなことしてもアイツ喜ばないだろ……。
大体、アイツ殺しても、そう簡単に死なないぞ。
魔剣で心臓貫いても死ななかったんだぞ。
普通それで死ぬだろ!
というかさぁ……前から気になってたけど……エンダー君、俺の事嫌いなの?
キミの家庭が不幸なのはしょうがないよ。
親族に頭がおかしいのがいるってのは、努力じゃどうにもならない。それは分かるよ。
やたら敵が多いのも立場上仕方ないってのは理解できる。
病気の件も仕方ないよ。生まれついての物だから、本人にはどうしようもないって。
だけどさぁ……キミがゲンマへ向けた愛情の一パーセントでもさぁ……俺にも分けてくれてもいいんじゃない?
これまで俺が頑張ってきた事に対する仕打ちがこれなの?
流石にあんまりじゃない?
何が悲しくて自分の身体に裏切られなきゃいけないんだよ……。
ねぇエンダー君、俺の話聞いてる?
黙ってないで、なんとか言ってくれよ。
なぁ……なぁ……なぁっ!!!
なんか、言ってくれよっ!!!
笑い事じゃないんだぞ!!!!!
――果てのない暗闇に落ち続ける俺のぼやきは誰にも聞こえない……。
・・――◆◇◆――・・
奈落の底に落ちつつある私の道化の嘆きを聞くものはいない……私以外には。
道化の身体は領事館の寝室に横たわっている。
あの凶事の後、すぐさまエリクサーが投与され外傷の応急処置をした。
しかし、彼の意識が戻る事はなかった。
彼は重傷者として母胎に二週間入れられ、難病も含めた治療が終わったが、その後も彼の意識は戻らなかった。
時は少し遡る。
・・――◆◇◆――・・
「これは……『猟犬の牙』、旧支配者の遺物で使い切りの武器です」
モジュローは凶器に使われた短剣をそう鑑定した。
「……どういう武器なんですか?」
道化の敬虔な信者である森川は尋ねる。
「『犠牲者の魂をタルタロスへと誘う』……との事です。この言葉通りの武器ならば、あの方の魂はこの世界を離れて、異界である地獄を彷徨っていると思われます」
モジュローの顔は悲痛に歪んだ。
「シングルトンは何が何でもゲンマ様を廃しようと考え、あの男にこの武器を渡して密かに術式を書き込み利用したのでしょう……あの方が身代わりになってしまったのは想定外の事故だと思われます」
「……うっ……く……うぅ……」
森川は内から沸き起こる苦悶に必死に耐えている。
彼は俯いて目を見開き思いつめた表情で言った。
「……どうしたら……どうしたら、先生のお側に行けますか……命を断てば……タルタロスとやらに赴けるのですか……!」
「お待ちください!森川様!まだ、あの方は亡くなっておりません!」
「しかし……!あれでは……あれでは……あまりにお労しい……」
「この件では同じ叡智の使徒である、ゲンマ様に考えがあるようです。どうか早まった事はなさらないでください……!」
小さな大魔導士はまるで自分に言い聞かせるかのように思いつめた青年を諭す。
感情が揺れ動いているのは誰もが同じようだ。
・・――◆◇◆――・・
アースガード自治区の重鎮達による討議によって、この地には結界が張られることとなった。
領主である道化が物言わぬ人形となって以降、世界情勢の不安定化を鑑みての処置だ。
この自治区のもう一人の領主である赤龍ゲンマは日課である瞑想の後、ぼんやりと窓の外を眺める。
人の気配を感じて振り返ると、そこに眷属であるイノが立っている。
「……ゲンマ様ぁ」
ゲンマは表情の抜け落ちた顔で彼女を見つめた。
イノの目から涙が溢れる。
「わ、私のせいなんですかぁ……」
彼女は嗚咽を堪えながら唇を嚙む。
「私の……せいで……領主様が……エルスが……滅茶苦茶に……」
普段は、あざといまでに無垢な美少女と評判の彼女だが、その端正な顔はぐちゃぐちゃに歪む。
こみ上げる嗚咽を堪えきれずに爆発しそうな感情のオーラを冷ややかに眺めるゲンマは平坦に答えた。
「誰のせいでもないよ」
彼は再び窓の外を見る。
「明らかに悪いのはシングルトンだけど……もう因果応報って感じだし……別に誰かのせいってのはないかな……強いていうなら」
溜息を一つ吐いて呟く。
「ボクのせいかな」
イノは立ったまま泣き続けた。
・・――◆◇◆――・・
彼らが第三メシア都市から自治区に帰って一週間ほど経った頃。
エルス共和国の都市ブレークの近くにある小都市ケースが、突如として戦火に包まれた。
この都市はブレークと並んで、エルダーエルス・シングルトンの支配圏にあり、彼の潜伏先の一つでもあった。
私の道化の狂信者でもあるレイア・ヴァレンタインは、彼が放った刺客によって崇拝対象が倒れた事を知るやいなや、すぐさま報復の行動を取った。
手に入れたばかりのホムンクルスの原液を使って旧支配者を復活させた彼女は彼らの力を利用してエルスの都市を攻撃する。
旧支配者に召喚された巨大な異形とレイアによってもたらされた近代兵器によって、エルスの都市は蹂躙された。
民衆は逃げ惑い、エルス族たちは防戦するも力なき者達を都市の外に逃すまでの時間稼ぎが関の山であった。
シングルトンは戦局の悪化を嗅ぎ取ると即座に逃亡し、敵と味方の不興を大いに買う。
もっとも、その恥辱に満ちた敵前逃亡はただの悪あがきでしかなかった……。
・・――◇――・・
「何余計な事してくれちゃってるかなぁ?」
旧支配者の遺物を再現した飛行体ブラックホークの内部。
美しくも残忍な女神であるレイアの足元にはボロ切れのように成り果てたシングルトンが転がっていた。
「龍族には手出し無用って言ったじゃなーい。対立するにも魔大陸制覇以降が最善って!特にゲンマなんて無害な甘ちゃんは放置でも十分でしょー?」
「……龍族の……排斥は、我がエルス族の悲願……ぐふっ!」
彼の脇腹にブーツのヒールが食い込む。
「はぁー……本当、エルス族って使えないわぁ。戦略よりも私怨を優先するなんて、それでも軍人なのぉ?」
レイアの嘲りに僅かに残った矜持が刺激されたのかキッと見返す。
「ゲンマへの復讐は……我らの悲願!……引いてはメシア誕生の為の礎……ぐぎぃ!」
彼の顔面に鋭い蹴りが炸裂した。
「それこそ馬鹿よ。メシア誕生には支配種族による人間への“無償の愛”こそが絶対条件だというのに」
シングルトンは目を見開いて驚く。
「この世界に人間へ無条件の無償の愛を注ぐ存在なんてさぁ、あの甘ったれた赤トカゲ以外にいると思ってるのぉ?アンタたちエルダーエルスなんて同胞への愛すらないってのに!目先の恨みで道を見失ったあげくアンチメシアになるなんて。ほーんと、バカよねぇーーー!」
「そんな……嘘だ……私のしたことは……」
「ふん。そんなことはどーでもいいのよ。この下らない世界もメシアも私の知ったこっちゃないしぃー」
シングルトンを見下ろす彼女の目が狂気に染まる。
「でも、私の大事な大事な大事な大事な大事な……何よりも、超愛してる先生を酷い目に合わせた。その罪だけで一億回殺しても足りないくらいよ」
「――ふひぃ」
彼女は彼の顔面を怒りに任せて踏みつける。
「どうせ、その薄汚い魂を姑息に分割してるんでしょ。安心して、この後メシア都市に移動して引きずり出してあ・げ・る」
満面の笑みを浮かべる狂った女神に、支配種族の男は根源的な恐怖を抱いた。
「あ……あれは事故だ!!予定外の!悪いのはゲンマ……ごふっ!!」
レイアは無言で蹴り続ける。
やがて、かつてエルダーエルスだった残骸は動かなくなり、辺りに沈黙が流れる。
「ねぇ、見てるんでしょ?」
彼女は不意にこちらを睨みつける。
「私、あなたのこと信頼してるのよ。まさかコレで終わりじゃないんでしょ?ねぇ?」
その眼差しには正気の欠片もない。
レイアは腹いせなのか、その後も関係ない他のエルスの都市も爆撃しながら移動を続けた。
ケース中央の大広場に立て掛けられた十字架に磔にされたシングルトンの無残な遺骸を残して。
・・――◆◇◆――・・
自治区の施設の一つ、自警団が管理する留置場の地下に重犯罪人を監禁する結界牢獄がある。
ゲンマとメンバー達がその檻の前に立っていた。
檻の中には、暗殺実行犯であるヒズこと氷頭三志郎が収容している。
私の道化が健在ならば、その身に刻まれた術式を簡単に解除出来たが、彼が目覚めぬ状況では、不自由な状態で隔離するより他はない。
彼は収容されて以来ずっと罪の意識に苦しみ眠れぬ日々を過ごしている。
部屋の隅で蹲る男には、傲慢で無神経な、無知であることを強さと履き違えた青年の面影はない。
鎧のように纏っていた虚勢が全て剥がれ、眼窩が落ち窪み衰弱していた。
「お、俺は……死刑……になるのか……」
彼は自分の手をジッと見ている。
その手にはいまだ生々しい感触が残っているのか、込み上がる悍ましさと闘っているようだ。
「君を罪に問う事はできないよ。支配種族に操られていた以上、君に責任能力があったとは認められない」
ゲンマは冷たい口調で突き放すように言った。
「君に掛かっている術式が判明次第、解除処置をしたら、王都での略式裁判にかけられるけど……それほど重い罪には問えないだろうね」
ゲンマの話す内容とは裏腹に、その口調は突き放した感情が薄い物だった。
「重く……ない……?」
ヒズの怯えは一層高まった。
「そんなはずじゃ……俺は……王族を、殺そうとしとして……人を……」
「まだ誰も死んでないよ」
ゲンマは苛立ちを隠そうともしない。
「とにかく、法律がそうなっているから、仕方ないんだ」
彼の背後にいるメンバー達は皆冷たい目でヒズを見ている。
その重圧は、罪の意識に苦しむ男に重くのしかかった。
「……そんな……それじゃ……罰が与えられなかったら……許されることもないじゃないか……俺は、この手に掛けてしまったんだ……救いの手を差し伸べてくれた人を……この手で……」
今、彼の脳裏には道化の最期の言葉が駆け巡っているのだろう。
彼の口から嗚咽とも悲鳴ともとれない、意味をなさない声が漏れ出て止まらなくなる。
その様を檻の外の者達は無表情で眺め続けた。
・・――◆◇◆――・・
領事館の地下会議室。
そこで、ゲンマとメンバー達はクーフリンと向かい合っている。
「で、単刀直入に聞くけど、君とレイアはどういう関係なの?」
ゲンマは挨拶抜きで口火を切った。
その口調は尋問のソレで、眼差しは険しい。
クーフリンは疲れた表情で息を吐いた。
「……妹だ」
「妹って……実の?そもそも君達はどこから来たの?」
クーフリンは遠くを見つめながら自らの生い立ちを話した。
・・――◇――・・
俺たちがどこで生まれたかは自分でも分からない。
物心ついた頃に東欧――異世界で戦火に巻き込まれ、俺と妹は孤児となり、底辺の世界を彷徨っていた。
貧民街でギリギリのその日暮らしをしていた俺たちは、ある日非合法組織に囚われ、人身売買によってロシアの秘密研究所に引き取られた。
そこでは人為的に超人を生み出す研究をしていた。
俺たちは最低限の教育と厳しい軍事訓練を施され、来たるべく実験の日に向けてモルモットとして生かされた。
そして、数年後、妹のレイアは実験の試験体として選ばれ超人化処置を受けることになる。
彼女は元々は、優しく大人しい少女だった……実験は成功したが、処置の過酷さに耐えきれず、人格が崩壊して発狂してしまった。
その後、俺にも超人化が行われたが、レイアの実験データを参考にした結果、無事に成功した。
彼女は治療によって日常生活が出来るレベルまで落ち着いたが、完全には治らなかった。
あの子が狂ってしまったのは俺のせいだ……。
だから、俺は、たった一人の、血の繋がった妹を、絶対に見放さないと誓ったんだ。
そして、俺たちは成人後、多国籍企業ヴァン・エンタープライズに潜入して各国の諜報活動をする密命を受け、世界に放たれた。
俺とレイアは瞬く間に幹部に上り詰め、ビジネスマンとして忙しい日々を過ごす。
そんなある日、雇い主である研究所が突如閉鎖され、俺たちはいきなり自由の身になった。
俺は降って湧いた幸運に喜んだが……今思うと、これが全ての始まりだったのかもしれん。
当時のレイアは奔放ではあったが、俺の目には普通の女性にしか見えなかった。
だから、完全に油断した。
彼女は内面では、残酷な世界を……運命を……決して許してはいなかったんだ。
その時期にレイアは秘密研究所にいた研究員達を集めて、極秘裏に禁忌を研究させていた。
古代に封印された儀式――神降ろしの儀式を。
・・――◇――・・
「カミ……?」
「異世界での上位存在の呼び名だ」
「そんなオカルトめいた研究が地球で実現したんですか?」
科学者であるデンはクーフリンの話に懐疑的だ。
「レイアが超常的な能力を身につけた事は確かだ。彼女は儀式によって研究員達を生贄に捧げ、神を降ろして、その身に宿した」
「彼女の目的は何?」
ゲンマは瞬きもせずに問いかけた。
「恐らく……旧支配者の復活と世界への復讐……この世界での活動はその足がかりだろう」
一同は息を飲んだ。
「そんな……」
モモは悲痛な顔で俯き唇を噛んだ。
「君が英雄を目指す理由は、この事に関係あるの?」
ゲンマの質問に彼は頷いた。
彼はインベントリから例の剣を取り出す。
「レイアを止めるのに……この剣がどうしても必要だ」
「その剣は何なんですか?」
森川は尋ねる。
「これは……“神殺しの剣”、研究員の生き残りから託された物だ」
メンバーは驚き彼の顔を凝視する。
「……まさか……あなたは……」
「俺は何が何でもレイアを止める」
クーフリンは覚悟を決めた表情で全員の視線を受け止めた。
「俺が命をかけて、妹を止める。それが、兄として俺が出来る最後の責任だ」
会議室に重い沈黙に包まれた。
・・――◆◇◆――・・
そして今、私の目の前に龍形態のゲンマがいる。
ここは、私の道化の書斎で、私は彼の弟であるデンの体を借りている。
「難しいな」
ゲンマは跪き、頭を垂れる。
『ボクに出来る事なら何でもします……だから……彼を……助けて欲しいんです……』
私は全能の神ではない。
「“猟犬”によって煉獄に堕とされた人間の魂は、余程の事がない限り現世に引き戻すのは困難な事だ。少なくとも世界の理に反する」
『“願い事”を使っても……無理な事ですか?』
私が道化に与えた褒美は今、ゲンマの手の内にある。
「理に反しない簡単な願いならば、すぐに出来る。しかし……」
私は窓の外を眺める。
「法則に逆らう程の願いは……心の奥底からの願いでなければ実現できない」
『ボクは心から願ってます!この魂を懸けてもいい!!』
私は跪くゲンマを見下ろした。
「いや、違う」
ゲンマは顔を上げて私を見る。
「お前が心から願う、本当の願いは、ただ彼が救われる事ではない。それはお前自身が良く分かっているはずだ」
私の指摘にゲンマはショックを受けた。
『……あ……ああ……そんな……そんなことって……』
私は狼狽る龍族を冷ややかに見る。
黄昏の書斎に重苦しい静寂に包まれた。
ゲンマは夕暮れの光を反射して、この場にそぐわない程に輝いている。
『一つお聞きしたいのですが……お館様にとって……カンナヅキはどういう存在なんですか……?』
彼はおずおずと私に質問した。
「半身だ」
私は即答した。
ゲンマはその言葉の意味をよく噛み締めているようだ。
『……では、ボクの願いは……願っても許されることなのでしょうか……』
私はこの問いに答える事が出来なかった。
時に運命はままならない……たとえ全知を持ってしても……。
・・――◆◇◆――・・
ゲンマが苦悩する中、メンバーは不安と戦っていた。
自治区に流れる時間は恐ろしいほど穏やかでありながら、人々の内側に潜む最悪の可能性は毒のように神経を弱らせている。
特に、異世界から来たメンバーたちは予期せぬ困難にどう立ち向かえばいいのか思い悩んでいた。
ジョイスを始めとした元プリムム村の者たちは日常の仕事に従事することで必死に平静を保とうと努力した。
森川は万策尽きて、ただ神に祈っていた。
神への信仰が途絶えた世界において、その振る舞いは周囲の人々には奇異な目で見られたが、その真摯な姿勢に心を打たれるものも多かった。
デンとジュンは寄り添ったまま、時が過ぎるのを待っている。
これまで、その知恵と勇気で難問を解決してきた二人は初めて壁にぶち当たった。
それは生まれて初めて痛感する無力感なのだろう。
この辛い経験が全能感に水を差すことによって、二人は少し大人に近づく。
モモは自分の中に渦巻く感情に翻弄されていた。
一人の男への思いに向き合うことを先延ばしてきたことに罪悪感を感じて。
忙しさを理由に曖昧さに逃げてきた事が、突然の不幸によって全てが後悔に塗り替えられる。
眠り続ける思い人は、彼女の記憶にあるよりずっと頼りなく、彼女は自分自身が彼より年上になっていた事にやっと気がつくのだった。
溢れる涙を堪えていると、その肩に白い手が差し伸べられる。
「……サリシスさん」
「大丈夫だよ。モモさん……カンナヅキは、きっと帰ってくるよ」
運命が定めたエンダー・ル・フィンの伴侶は優しく微笑む。
・・――◆◇◆――・・
ゲンマは何度目かの夜明けを眺めていた。
『結論は最初から出ているんだよね……』
彼は深く息を吐く。
『この事は……全部ボクの責任。だから……結果も全て引き受けなきゃね』
彼はようやく重い腰を上げて、自分の本当の願いに向き合った。
――彼は許してくれるだろうか。
友人龍ゲンマは、それだけが気がかりだった。




