054――メシア都市
俺たちは天幕の中でカメラを装着した使い魔から送られる映像を見ている。
エルス共和国の北にある孤島に作られた都市を一望した。
眼下には碁盤の目のように街路を張り巡らせた都市がある。
ギルド長はスクリーンを指差して言う。
「これが、第三メシア都市だ」
第三ってことは第一と第二があるのかよ……面倒な。
「元々は一つだったのが、内部抗争で分裂したようですな」
オクルスが補足する。
「メシア都市はエルダーエルスを頂点に召喚者を中心に作られた実験都市ですが、その体制に不満を募らせた魔術師と元官僚が脱退して作ったそうです」
派閥魂は不滅って感じだな。仲良くやればいいものを。
「じゃあ、エルダーエルス・シングルトンはいないんだね?」
ゲンマは念を押すと、オクルスは深く頷いた。
「ええ、彼処に集まっているのはメシア都市内でも浮いている……はみ出し者連中なんで、危機的状況にあってもシングルトンも救援は出さないでしょう」
「はぁー、そういうところだぞ……だから、人望が無いんだろうに」
クロード先輩は呆れ気味に言った。
「おい、ちょっと待て、もう少し右だ右……なんてこった!!くそっ!!」
ギルド長は画面を見て、急に慌てだした。
画面には果樹園のようなモノが映っている。
「……トマト畑、しかも、あれは変異種だ……」
ギルド長の呟きに、冒険者ギルドの面々に緊張が走った。
「キャ―――――――%$#*&!」
特にジューベーは両手を頬に当て高周波な悲鳴をあげて固まった後、ピーガーヒョロロローとFAX送信音を発していた……何処に何を送信したんだ。
「何か……不味いのか?」
俺が恐る恐る尋ねると、ギルド長は額に手を添えて重々しく告げた。
「最悪、龍族の力を借りる必要がある……夏になるまでには対処しないと……」
一体トマトが何をしたっていうんだ……。
「ともかく、“アレ”だけでも、摘発理由には充分だ。全力で行くぞ」
ギルド長はそういうが、事情を知らない俺を含む龍王国の者は首を捻るだけだった。
「マジでトマトに何があったんだ……」
俺が呟くと、ジュンがため息を吐いた。
「何となく想像は付くけどね……」
彼女とデンは心なしかゲンナリしている。
「……大体ご想像の通りですよ。本当にあのイキリチート小僧共は面倒なことしてくださりやがりました。まぁ、クソエルスと違って反省はしている分まだ見所はありますが」
テルさんは微笑みながらボソッと小声で毒を吐いた。
□
今回は冒険者ギルドと龍王ガーラの要請で狂茶会メンバー全員でメシア都市攻略に参加している。
システムのエージェントであるチーム・アルスターも攻略部隊に参加している。
「都市戦だけだったら俺たちでも対処できるが、今回は異世界の人間による成果物を含んだ都市の攻略だ。異世界の道具や兵器の知識を持っている者がどうしても必要だ」
ギルド長の発言にデンは大きく頷く。
「敵の技術力がどれほどの物かは未知数ですが賢明です。それに戦力の逐次投入は愚策。リスクはありますが、人間領域の情勢が安定しているこの機会に全力で対処した方が良い……という事ですね?」
「そういうことだ。理解が早くて助かる」
「じゃあ、作戦ですが……もう、手っ取り早く空爆しちゃえば良いのでは?新作スペルカードでメテオストライクを改良した物があって、攻撃の威力と範囲が従来の二倍に……」
「いやいやいや、ちょっと待って、デンくん。一応、ボクの眷属のイノがいるんで、それは勘弁して欲しいんだけど……」
デンはニコニコしながら、物騒なスペルカードを振りかざしているのを、ゲンマが慌てて押しとどめる。
デンは片眉を上げた。
「ああ、そういえばそうでしたね……」
我が弟は心なしかガッカリしている。
「……ちっ」
森川は舌打ちしている。ドサクサに紛れて私怨を晴らすな。
「都市戦は俺たちで何とかする。あんた達は後方で参謀支援として待機していてくれ」
ギルド長は立ち上がりながらそう言った。
「分かりました。何かあったら連絡してください」
「まぁ、何も無いと思うがなー」
クロード先輩は顎をさすりながらそう言い、呆然としたままのジューベーを引っ張って去っていった。
□
冒険者ギルド幹部率いる攻略部隊は船に乗って港に接近し攻撃を加えると、すぐさま敵と交戦状態になった。
真夜中の奇襲に加えて、相手方警備隊の練度も士気も低く、大した抵抗もないまま、島の玄関口である港を差し押さえた。
その後、市街戦に突入するも、敵の首脳陣は形勢の不利を察知して、島の深部にある研究施設に逃げて強力な結界を貼って籠城した。
この上層部の所業に防衛していた警備隊は取り残される形となり、戦意を喪失して、あっさり投降。予想より大幅に早く都市攻略は七割方完了してしまったのだ。
以上の成り行きを見ていたメンバーは少し呆れ気味だ。
「イマイチやる気が感じられませんね。人間領域の雑兵の方が元気でしたよ」
「リーダーの資質……カリスマ性の違いでしょう。地球の科学者がいるとはいえ、才能を活かさなければ意味がありません。所詮はエルダーエルスに唆された烏合の衆です」
「あの人たちも先生の作品を読んで洞察力や推理力を鍛えていれば、悪い人たちに騙されなかったのに……そう思うとちょっと可哀想ですよね」
「お姉様の言う通りですわぁ!……それはさておき、彼ら遺伝子組み替えにも手を出してたのかしら?この世界でそんな冒涜的な研究をするなんてバカじゃないの?在来の環境を気遣えないなら死ねばいいのに。というかシメて来てもいいかしら?」
……メンバーは口々に好き勝手に自由な発言をしている。
見えないパラメータが勝手に上がっている感触があったが気のせいだろう。
スクリーンの中ではギルド幹部が結界を解除しようと調査をしていた。
□
俺たちはギルド長の招集を受けて、メシア都市の研究所の手前にある仮拠点に移動した。
「ここからは何が出てくるかわからん。万全の体制で突入したい」
俺とメンバーは後方で待機だが、事前に突入隊にバリア、特に物理防御を強めに貼っておく。
そうこうするうちに戦闘が始まった。
敵の攻撃はこちらの事前予想の通り、魔術師による魔法攻撃と現地で作成した銃火器による物が多く、彼らも激しく抵抗した。
デンは双眼鏡型の暗視スコープを覗いている。
「メインの武装は自動小銃のようですね。外見から察するにカラシニコフを参考にした現地産でしょうか。敵にもそれなりの人材がいるようです」
「しかし、彼らどうするつもりですかね?ここは孤島で転移の巻物で逃げるにも大陸は範囲外ですし、港は冒険者ギルドが制圧して海上は船が巡回してます。銃は強力な武器ですが、弾切れになったらお終いでしょう」
森川は無表情に銃撃戦を眺めている。
「本部に見捨てられているのか……それとも切り札でも持っているのか?」
俺が考えているとゲンマは首を振った。
「この島全部吹き飛ばすような手段があったとしても、どうにもならないでしょ?どうやっても逃げられないんだから」
□
その後も俺たちの推測通りの展開になった。
敵の首脳陣はメインの研究所から撤退してさらに奥地にある小さな研究所に篭った。
ギルドの面々が施設に突入する頃には、警備隊は弾切れとともに戦意を失って降伏した。
デンが持ってきた爆発物探知機によって迅速に周囲の安全が確保出来てギルド長は感謝している。
「助かった。スキルや魔術だけでは未知の脅威には対処しにくい。手助けがなかったら多数の犠牲が出ただろう」
「お安い御用です。科学を悪用する者の存在は私も許せませんから」
デンの返答にジュンは胡散臭い物を見る目で婚約者を見ている。
研究所には逃げ遅れた研究員が多数隠れていたが、彼らの多くは非戦闘員で脅威ではなかった。
その中に、地球からの召喚者であるヒズも含まれていた。
彼は警備隊の一員であったが、初めての本格的な軍事的な交戦に怖気付き、戦線を離脱して物置に隠れ、ギルド員に発見されるまで震えていたそうだ。
「何で異世界で実銃持って戦わなきゃいけないんだよ!!話が違う!!」
体育会系で脳筋のいじめっ子とはいえ、平和ボケの日本人だもんな。
軍事訓練なしで実戦投入は精神的にキツイものがあるだろう。
「あのパシオって奴もイかれてるし、研究員もこっちを見下してくるし……何なんだよ!異世界なんだろ!チートで無双ぐらいさせろよ!!」
無茶苦茶言ってるな。
「バズは仲間だと思ってたのに……さっさと嫁見つけて自分だけ幸せになりやがって……俺は……俺は……なんで俺は犯罪者なんだよぉ……」
怒鳴ってたかと思ったら恥も外聞もなく泣き喚きだした。
森川はそんな醜態を冷ややかな目で一瞥して、ギルド長と話をしているデンの側に向かった。
彼にとってエルスや中立地帯での出来事は完全に過去の話なのだろう。
俺個人としてはヒズは好きなタイプではない。
どちらかといえば嫌いな方だ。
地球でこの手の人間と会うことがあっても、概ね奴らは俺を無視をする。
奴らは上下関係を重視するあまりに人間に対する態度も序列によって決定する傾向がある。
自分より上の人間には媚びて甘い汁を吸おうとし、下の人間には自分より上にならないよう攻撃する。
そして、その上下関係の外側にいる俺のような自由業の人間は存在しないものとして扱う。
要するに自分とは文字通り住む世界が違うとして人間扱いすらしないのだ。
好きになりようがない。
ただ、人として、拗らせた男として同情する点はある。
それに、プロークシーやシングルトンと比べたら大した悪党でもない。
こいつが悪党なら官僚や王族を陥れた俺は大悪党だ。
横にいるゲンマを見ると、どう助け舟を出すか考えている気配がある。
目が合うと期待に満ちた目ニッコリ微笑んだ。
俺はため息をついてヒズに話しかけた。
「あのさぁ、そんなに重い罪にはならないと思うぞ。人殺しはしてないんだろ?」
俺が声をかけるとヒズはびっくりした顔で俺を見上げた。
「何らかの刑罰は受けるだろうけど……列強諸国の法なら反省する姿勢を見せれば更生の余地はあるとして人生をやり直す機会は与えられる」
ゲンマも横で頷いている。
「俺の知り合いに王都でホレウム商会を経営しているウィアって男がいるんだけど、事業が忙しくて人手不足らしい。営業の経験があるなら歓迎されると思う。やる気があるなら紹介するぞ?」
ヒズは真顔で暫し俺を見つめると、涙を拭って立ち上がった。
「……あ……あ……悪い……」
彼は泣き腫らした赤い顔で俯いた。
「申し出はありがたいが……俺は罪を清算してくる……」
ゲンマは満足げに何度も頷き、彼の肩に手を置いた。
「待っているよ」
ヒズは大人しく警吏に連行されて去っていった。
□
逃げ遅れた研究員への聞き取り調査で首脳陣が立てこもっている施設は関係者以外立ち入り禁止のセキュリティゾーンらしい。
証言ではパシオはイノをそこに監禁しているそうだ。
立て籠もっているのは首脳陣である研究員だけで戦闘員はいないらしい。
「俺たちは畑の方を見てくる……早めに封印だけでもしてこないとな……」
ギルド長は顔を顰めている。
「何で異世界の連中はトマトだのジャガイモだのを作りたがるんだ……」
ダグはボヤキ気味に零しているが、なんかスマンな。
「ジャガイモはないし、マヨネーズもない……残念だ」
クーフリンはがっかりしている。
ロシア人の食の好みは良く分からんな。
ギルド長はアルスターと共に菜園の方へ走っていった。
「じゃあ、ボクらは研究所の方に行こうか。みんな気をつけてね」
ゲンマはあっさり研究所の結界を解除して、正面玄関から入っていった。
俺たちはびっくりして後をついていく。
「大丈夫。敵意のある人間は近くに見当たらないよ」
エントランスには跪いた白衣の人間が数人いるだけだった。
「……抵抗はしません。どうか命だけは」
責任者らしき男は手を上げて降伏する。
「エルス族の女の子がここにいる筈だけど?」
ゲンマは男に尋ねた。
「元官僚と化学者が地下室に連れていきました……わ、我々は何も知りません!」
俺たちは彼らの身柄をゲンマの眷属に任せて地下室へと進んだ。
□
地下室への階段を降りると、通路の血溜まりの中に男が倒れていた。
白衣を着た男で背中に短刀を刺されて絶命していた。
「仲間割れか?」
「一体、何をしたいんですかね……」
――イヤァァァアアアア――!!
少女の甲高い悲鳴が、地下に響き渡った。
「イノだ!急ごう!!」
俺たちは声がした方角に駆け寄り、突き当りの扉を開いた。
そこは水槽が並ぶ実験施設で内部には不気味な肉塊が漂っている。
「……ホムンクルスだ」
ゲンマが呟く。
確か、クオート族の外装に使われている奴だったな。
肉塊に浮かぶ眼球の目線を無視しながら通路を進むと、一際大きな水槽が姿を現した。
その水槽には少女の……イノの姿をした何かがいた。
虚ろな目をした裸のエルス族の少女を模した何か。
それが複数体漂っていた。
彼女らは一斉にこちらを向く。
俺は異常な情景に一瞬正気を奪われかけた。
「いやぁあああー!!たーすーけーてーくーだーさーいー!!!」
イノの気の抜けた緊迫感のない悲鳴で、俺は辛うじて正気に返った。
悲鳴の元を見ると、イノは謎の装置の中で拘束されてジタバタしていた。
「良かったー。無事みたいだね!」
ゲンマはホッと安堵して彼女に近づこうとしたが、黒い人影が立ち塞がる。
「動くな」
その男は元官僚のポンス家のパシオだった。
手には小型拳銃が握られていて、銃口はこちらを狙っている。
「馬鹿な真似は止めて、イノを解放して」
ゲンマは真面目な声色で通告した。
「ふっ……例え龍族といえど、真の愛の前には無力だ!」
「愛とかどうでもいいから、ここから出してくださぁ〜い!!」
パシオは気取って見栄を切るがイノのコメントが一々落差が激しい。
「嫌がってるのに、愛もへったくれもないでしょ。もうどこにも逃げられないよ?」
ゲンマは槍を構える。
「愛を知らない哀れな存在が!」
パシオは両手を掲げて叫ぶ。
その目は狂気に輝いていた。
「完全な愛が手に入らなければ、作り出せばいいんだ!!ははははははははは!!」
高らかに彼は笑い、その背後から複数の人影が現れる。
ふらつきながら歩み寄るのはメイド服を着たイノ……の紛い物、青白い肌のホムンクルス達だった。
「……うわぁ……流石に引くわぁ」
「一人でも迷惑なのに……量産なんかしたら世界が滅びますよ……」
「どうせなら兄さんを増やせば新作が沢山読めるのに……」
「あ、それいいですねー!一家に一人先生がいれば世界が平和になります!」
メンバーはドサクサに紛れて何を言ってんだよ。
俺を無限増殖するな!
「それだけいるのなら、元のイノは必要ないんじゃない?」
ゲンマは流石に呆れている。
「はっ!イノの全ては僕の物だ!!誰にも渡すものか!!」
パシオは振り返って、本物のイノを見て驚愕する。
イノはゴブリン忍者たちによって拘束を解かれていた。
「はわわー、助かりましたぁ〜……あああー、ゲンマ様ぁ〜〜」
イノは猛スピードでゲンマに抱きついた。
ゲンマは彼女の頭を撫でている。
「あー、良かったね。じゃあ、帰ろうか」
「はぁい!」
「くっ!!人質を取るとは卑怯な!!龍族は汚い!!僕のイノを返せ!!」
この一言で破顔していたイノは真顔に戻り、パシオに向き合った。
「今なんて言いましたかぁー?」
眉を吊り上げたイノにパシオは微妙にたじろいだ。
「私が、誰の、ですってぇー?」
イノの普段よりオクターブ低い声に明らかに動揺している。
「前から思ってたんですけどぉー……」
イノは数秒溜めた後に言い放った。
「あなたって、ほんんっっとうに!キモチワルイですぅーー!!」
イノの身も蓋もない言葉はパシオの胸に突き刺さったようで、その整った顔面は
蒼白となる。
「何故だ……僕は……ただ、そのままの君が……いてくれるだけでいいのに……」
パシオの頬に涙が溢れる。
「そんなの時代遅れですぅ!!」
イノはパシオに指差して男の純情を一刀両断する。
「これからの女の子は成長して、さらに輝くんですぅ〜。ゲンマ様は褒めて伸ばしてくれる素晴らしいご主人様ですー!!」
イノはポーズを取ってクルクル回る。
「それに私だってアースガード自治区の女!ですぅ!!自分の身を自分で守った上で戦って愛する人をお守りするんですぅ!それが今の最先端なんですー!!」
そう言って、イノは呆然としているパシオの顔に右ストレートを綺麗に決め、パシオは吹き飛ばされた。
「これは誘拐してくれたお返しですぅ!」
パシオは目の前の出来事が信じられないという風だ。
「馬鹿な……イノは……僕のイノはこんな事しない!!」
お前はアイドルオタかよ!
「なーんとでもいえばいいですぅ!イノはレベルアップして今以上にキラキラのいい女になるんですー!!」
「うわぁぁああぁぁ!!」
パシオは錯乱して銃を構え、俺たちは身構えた。
しかし、異変が起きた。
彼の周囲にいたホムンクルスたちの様子に変化が現れた。
「せいちょう?」「さいせんたん?」「たたかう?」「かがやく?」「きらきら?」
「「「なにそれ?」」」
偽物のイノたちの目に怪しい輝きが宿り、彼女達はパシオをジッと見つめた。
「止めろ……君たちは……何もしなくていいんだ……ただ、黙っているだけで……」
パシオは予期せぬ変化に怯えて後ずさった。
「あいする?」「ほめて?」「れべるあっぷ?」「いいおんな?」「おかえし?」
ホムンクルスの一体がパシオを殴ると、他の偽イノもそれに倣い出した。
「止めろ!ぐっ!止めてくれ!!止めるんだ!……ぐえっ」
偽イノ達の攻撃はエスカレートしてパシオの顔は見る間に腫れ上がったが、彼は銃を手に持ったまま離さないので、俺たちは止める術が見当たらず困惑する。
彼女たちは戦う目的で作られていないせいか、攻撃する度にその身体はボロボロになっていったが、それでも攻撃の手を緩めることはない。
パシオは血まみれで止めるように懇願するが、やがて言葉を発することもなくなりされるがままになった。
やがて偽イノ達はケタケタ笑いながら崩壊して、ただの肉塊に戻っていく。
肉塊に埋もれたパシオは絶命していた。
□
『ホムンクルスだと?あいつら全くなにやってんだか……』
スマホで今あった事をメッセージで伝えると、ギルド長は次々に明らかになる問題点に頭痛が抑えきれないようだ。
俺は先程の惨劇で具合が悪くなり、テルさんに寄りかかっている。
「大丈夫ですか?先生」
……もう限界だった。気絶しなかったのが奇跡なレベルだ。
同行しているメンバーは心配そうに気遣ってくれるが……みんな俺より平気なのが解せない。
デンとジュンは地球で銃撃戦も体験しているし、生まれついての超人なので分かる。
森川はエルスで訓練を受けて特殊任務にも関わってきたのでまだ分かる。
でも、普通の女の子のモモちゃんが平然としてるのが解せぬ……。
「全然平気って訳でも無いですよー。少しエグいなーとは思いましたけど」
……女の子って強いな……。
「先生は繊細ですからねぇ」
テルさんはニコニコしながら慰めてくれた。
はぁー……テルさんはいいなぁ。
「調子悪いなら予定を切り上げて帰るかい?あとの始末は冒険者ギルドで何とかなるだろうし」
ゲンマはそう言った。
「……あー、少し休めば大丈夫だ。それにデン達の力もまだ必要だろう?仮拠点で横になってくる」
正直な所、今、船に乗ったら確実に戻しそうだ。
「分かった。でも、無理しないでね」
俺とテルさんが仮拠点に引き返そうと振り返ると、一人の女が帰り道に立っていた。
人間領域で見た仮面の女だった。
見慣れない人物に周囲が警戒して身構える。
女は不敵な笑みを浮かべて、顔を覆っている黒い蝶のような仮面を取った。
プラチナブロンドの美女で年の頃は二十代だろうか。
当然、初めて見る顔だ。
彼女が顔を晒すと、狼狽えた声が上がった。
「――レイア・ヴァレンタイン!!」
森川は確かにそう言った。




