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ミステリ作家の異世界日記――小説を書こう、異世界で  作者: 黒井影絵
第8章 歴史の交差点

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a015――コミットの冒険

 僕が冒険者になる前はどうしてたって?

 家にいたよ。親と一緒にお屋敷で暮らしてた。


 ふふ。良く人に『親の顔が見たい』って言われるけどさ、ツマラナイ普通のエルス族だよ。

 傲慢で頭が固くて鼻持ちならない……みんながイメージする通りの支配種族エルスの議員だった。

 今思い返せば、家にいた頃の僕はただいるだけの……人形みたいな子だったよ。

 髪を床に届くくらい長く伸ばした金髪を三つ編みにした大人しいお嬢様でさ、父親が話すことに『はい、お父様』って返事するだけの――そういう自動人形(オートマタ)ってあるよね。

 本当だよ?……そんなに信じられない?


 あの頃は、自分でも何考えてたのか不思議だけど、多分何も考えてなかったんだろうね。

 眼に映る物全てについて考える価値が無いっていうか……今なら、あの当時の全ては“退屈”の一言で片付くんだけどさ、なにせ、お屋敷の外のことを何も知らなかったから、“楽しい”とか“面白い”とか、想像も出来なかったんだ。


 僕はエルス共和国のホワイルって都市で生まれ育ったんだけど、ほんっとうに陰気な街でさー。

 古臭い石の建物を霧が囲んで厚い雲が蓋したみたいなモノクロの世界。

 よくあんな息苦しい場所で我慢してたなー。

 僕がおかしくなったのは、半分はあの街のせいだね。

 あんな所に何十年も閉じ込められてたら誰だってイカレちゃうよ。


 そういう所で僕は年頃になるまで家の中にいたんだ。

 エルス族の上流階級の女の子は大体政略の道具だからね。

 令嬢としての最低限の教育だけ施されて他はボーっとしてたよ。

 時が来たら親の決めた相手と婚姻契約する事は生まれる前から決まっていた、大きな石みたいに動かせない運命だった。

 僕は何もすることがなかったし、何かすることは誰も望んでいなかったんだ。



 それでね、ある日僕はお父様に屋根裏部屋に閉じ込められるんだ。


 理由はなんだったかなー?


 多分、例の『はい、お父様』の返事が小さかったか……それとも遅かったかだったかな?

 ともかく、親の機嫌が悪かったか、何か気に入らなかったかで、僕はお仕置きと称して屋根裏部屋に入れられたけど……当時でも不条理だし意味ないなーって思ったね。

 自分の部屋にいる時と同じく、何もする事がなかったし。

 普段より、ちょっと部屋が薄暗くて埃っぽいだけで、おとなしい人形だった僕には罰って感じじゃなかった。


 でも、その日の僕は流石に親の仕打ちを理不尽だと感じたからなのかな、辺りの箱を片っぱしから開けたんだ。

 その屋根裏部屋は不用品をとりあえず突っ込んで置く物置部屋みたいな所で、贈答品の粗品とか安っぽいガラクタっばっかだったよ。


 ところが、そんな箱の山の奥に、僕は宝物を見つけちゃったんだ。


 一際高級な装飾が施された小箱で、中には記憶水晶が付いた魔道具が恭しく収められていた。


 ――映像シミュラクラ。


 何処かの誰かが体験した“記憶”を封じ込めて、誰でも追体験できる旧支配者の遺物。


 普段の人形の僕だったら、絶対興味なんて持たないけど、その日の僕は遅れてきた反抗期だったからね。


 僕は恐る恐る魔道具を装着した。



 次の瞬間、僕は街角に立っていた。

 ここと同じ遺跡みたいな大都市で真夜中だった。

 何処か遠くで何かが崩れる地響きが時折伝わってくる。

 記録者は大人の男なのか目線は高く、周囲を見渡しながら、宛もなく彷徨っていた。建物は激しく損傷していて、石畳の路面には倒れている警吏がチラホラいたんだ。


 ――一体、何が起きたんだろうか……。


 恐ろしい予感に胸が苦しくなる。

 心臓は飛び跳ねるように鼓動を刻み、初めての動悸に耐えかねて息継ぎが辛くなった。


 ふいに、記録者の目線が旋回して、一点に釘付けになる。


 その時の光景は眼に焼き付いているよ。


 遺跡のような都市の高い建造物の合間に佇む――巨大な赤龍の姿。

 闇の中で全身が赤く輝き、特にその眼は怒りで真っ赤に燃え上がっていた。


 それが、僕が初めて見た赤龍ゲンマの姿だった。


『ああ……なんてことだ……』


 記録者の喘ぐような声が脳内に響く。


 ゲンマは口の端から白い蒸気を漂わせて都市を見渡していた。

 が、唐突に息を吸い込んで口を開いた瞬間、輝くブレスが街並みを破壊した。


 何千年も前からそこにあった建物が、不滅であると信じられていた石の塊が、信じられない高熱によって溶けていき、ゲンマの体当たりによって、あっけなく崩れ去っていた。


 それを見て、僕の中で何かが壊れた。


『なんという……こんなことが、おこりえるなんて……』


 僕はその時、完全に記録者と一体となっていた。


 僕らはただ、ゲンマが都市を蹂躙する所を呆然と眺めていた。


 旧支配者が建てたという栄光ある議事堂を、

 高さ二百パススの建国記念塔を、

 虚飾に満ちたエルダーエルスたちの彫像を、


 ゲンマは子供が積み木を崩すように、一瞬で破壊した。


 僕らは逃げ惑う生存者とは反対方向に歩みを進めた。


 赤龍の咆哮が辺りに響き渡る。

 その叫び声には、怒りと、苛立ちと……悲しみに満ちていた。


 僕らは殆ど走るようにゲンマに近づく。


 都市の中心地に近づくにつれて、倒れている死体の数は増えていった。


 そして、足を止めて、彼の全身を見た。


 オレンジ色のたてがみはエネルギーに満ちて波打ち、特徴的な一本角はまるで翡翠のようだった。

 鱗は一枚一枚が赤い宝石のようで、怒りに満ちた眼は太陽のように明るく燃え上がっていた。

 それは僕らが初めて見る……暴力的な“色彩”だった。


 僕らの動悸はさらに高まり、荒い息遣いと心臓の音は全身を揺さぶって、身体の芯が熱くなった。


『なんて……』


 僕らは熱情に煽られて内側から迸る言葉を抑えきれなかった。


『なんて……美しいんだ――!!』


 ――記録はそこで途切れ、僕の意識もそこで途絶えた。



 これが、僕が決定的にイカレちゃった原因だね。

 そう、僕がおかしくなったのは、半分はゲンマのせい。


 目が覚めた時には自室の寝台で、その時はもう今の僕だったね。

 人形の僕は、あの時死んだんだ……いや、元々生きてなかったのかな?

 ある意味、ゲンマに魂を吹き込まれたようなもんだね……でもそう言うと、彼すごく嫌がるんだ。どうして?


 起き上がった僕が最初に決意したのは、この家を出る事。


 僕はもう人形には戻れないって自覚しちゃったもんね。

 居ても立ってもいられなかったんだ。


 この世界は不滅でもモノクロでもないって知ってしまったから……もう後戻りはできないって思ったんだ。


 モノクロの世界で死んだ人形でいるより、色彩溢れる世界で生きたい。


 そして、少しでも、ゲンマに近づきたい……って、そんな思いに取り憑かれたんだ。



 そうして、強くなりたいと思った僕は冒険者になる道を選んだ。

 長かった髪を根元からバッサリと切り、冒険者ギルドに登録して、冒険者の下働きを始めた。

 魔術師ギルドは女の子は入れないから、強くなるには他に道はなかったんだ。仕方ないね。

 親は勿論カンカンに怒って『出てけ!』って僕を勘当したけど、二つ返事で家を出たら逆にポカーンとしてた。

 親はまだ僕のことを可愛い人形だと思ってたから、ちょっと脅せば言うことを聞くだろうって甘く見てたんだね。

 僕はその隙に、親の気が変わらない内に辺境まで逃げた。

 こうして僕の周囲の世界は少しづつ色付き始めたんだ。


 冒険者見習いの日々は楽しかったよ。

 先輩は厳しいけど親切だったし、友達もできてギルド職員とも良好な関係を築いていたからね。

 あのまま冒険者を続けていたら、僕も今頃はマトモな冒険者になれてたかも……なーんてね!

 でも穏やかな日常は長続きしなかった。



「……除名?」

「ああ……すまない」

 ある日、冒険者ギルド支部の職員に呼び出された僕は、身に覚えのない瑕疵で冒険者ギルドから追放を通告されちゃった。

「……はっきりいって酷い言い掛かりだが……エルダーエルスの名前を出されたら俺たちにはどうにもできない……ましてやあの、事なかれ主義の弱腰支部長が上にいるんじゃ覆せない……本当に申し訳ない」

 思ってた以上に父親は頭に来てたみたい。

 アイツ、持てるコネを総動員して嫌がらせしたってすぐにピンっときたよ。

「あんた、実家に戻るのか?」

「まさか!」

 僕は強くなりたいだけで、冒険者家業には未練はなかったね。

「冒険者ギルドがダメなら、人間領域に行ってみるよ。野生の武芸者に弟子入りするのもいいかもね」

 僕がこういうと、職員は顔を顰めた。

「それは止めた方がいい。今あんたが自由に振る舞えるのは基本憲章に守られているからだ。若い女の子が列強諸国の外側に出たら、“誰かさん”は余計に手段を選ばないだろう」

 この職員は僕の境遇に同情してくれたのか、普段から何かと親身になってくれたんだ。

「十分な力を付けるまでは誰かの庇護が絶対に必要だ。それには何かの組織に加入するのが手っ取り早い」

「じゃあ、どこかお勧めしてくれる?」

 僕がニッコリ笑って首を傾げると、彼は深い溜息を吐いた。

「……紹介状を書こう」



 その紹介状を持って次に加入したのはレンジャーギルド“黒い森番”……でもそれは表向きの顔。

 本業は裏の方で通称は“暗殺者ギルド”。意外だけど冒険者ギルドとは影で提携してたみたい。非公式だけどね。

 最初は頭のおかしいエルス族の家出令嬢に面食らったみたいだけど、強くなることに貪欲で仕事熱心な僕は首領に気に入られて、超居心地が良かったね!

 収入も良かったし、何より実戦経験を多く積めたのは有り難かったなー。

 冒険者ギルドじゃ中々、殺し合いの機会はないもんね。


 僕はやり手の先輩の指導でメキメキ実力を付けていった。

 二刀流を身につけたのも、その頃からかな。

 僕は腕利きのレンジャーとして一人前になったけど、やがて実力は伸び悩んで頭打ちになる。


「これ以上の強さを求めるなら……マギアの証が必要だね」

 首領はそういって肩に刻まれた術式を見せてくれた。

 赤い幾何学模様は薄闇の中、仄かに輝いていた。

「証なら何でもいいの?」

「そんなことはない。証をつける上位者が強ければ強いほど強力だ。それに当たり前だけど信用できる方である事が大事だよ。その方に生涯忠誠を誓えるほどにね」

「生涯かー。それはちょっと重くない?」

 彼女は薄く笑った。

「ありえざる力への第一歩になりえる物だ。それだけの価値はあるさ」


 それで、僕は首領の上位者と会ってみることにしたんだ。



 その上位者は“災厄の魔女”と呼ばれ恐れられている、魔法博士アイディだった。

 女でありながら賢者の父親の英才教育を受けて育ち、エルス族でも類を見ないくらい強力な魔術師だったけど、彼女の存在を魔術師ギルドは決して認めなかった。

 実際に会った彼女はエルス辺境の塔で世捨て人のように暮らす隠者で、ずーっと話ししててもニコリともしないムッツリお姉さんだった。

 今と変わらないね!


「やめといた方がいいわ」

 彼女にマギアの証を求めたところ、にべもなく断られた。

「僕の忠誠に価値がないってこと?」

 彼女の態度にちょっとムッとして喧嘩腰で尋ねた。

「そうではないです。むしろ逆」

 彼女はお茶を一口飲んで、カップの縁を指でなぞった。

「貴女の才能は私の手には余るの。私程度の魔術師の証を付けるのは勿体無いわ」

「そんなぁ……僕は今すぐにでも強くなりたいのに……」

 彼女は窓の外に目をやり、暫し物思いに耽った。

「ダメ元で心当たりに通知を出してみましょう……でも、あまり期待しないでちょうだい。あの御方は気まぐれですから」

 彼女はそう言ってお茶を飲み干して、僕らは別れた。



 アイディと会った後、しばらくギルドの仕事に専念してたけど、なんか目標を見失っちゃった感じがしてさ、せっかく色づいた世界に再びモノクロが侵食してきた。


 気分が落ちている時って運も悪くなるのかな。

 人生最大のピンチがやってきたんだ。


 任務で人間領域に出た時に手練れの集団に襲撃されたんだ。

 別のギルドの同業者にね。


「……大人しく捕まれ。依頼人には生きてさえいれば、何をしてもいいと言われている」

 どうやら、父親は余程、僕が自由に振舞っているのが気に入らないみたいだね。

 というより、半分意地になってるのかな。

 もっとも、タダで捕まる気はない僕は精一杯の抵抗をしたよ。


「《 エゴ・アル・ガウ 》!!」


 虎の子の自爆の巻物はこういう時に使おうと決めていたんだ。

 僕はあいつら全員を巻き込んで自分ごと吹き飛ばしてやった。

 再び不自由な生活をするくらいなら死んだほうがマシってね……まぁ、そのおかげで僕は瀕死になった訳だけど。


 朦朧とする意識でぼんやり星空を見て思ったのは、もうちょっと暴れたかったなーってのと……

「……ゲンマに会いたかったな……」

 ……そのまま僕は気を失ったんだ。



 目が覚めた時に最初に目に入ったのは、やっぱり星空だった。

 反射的に身を起こすと、怪我一つない状態で、夢でも見てるみたいでとっても不思議だった。


「無茶するねー、君って相当イカレてんな!」

 声のする方を見ると、知らない男が岩の上に座っていた。

 とんがり帽子を被ったマントを羽織った子供っぽい男で、藁みたいな髪に赤い肌の変な奴だった。お世辞にも美男子とはいえないね。

 手には先端に輪っかが幾つも付いた金属の杖を持っていて、動くたびにジャラジャラと音が鳴っている。

「もうちょっと粘ってくれたら、オイラが颯爽と助けに入ったのにぃ……まぁ、いいけど!」

「キミ……誰?」

「えー?アイディから話聞いてないかなー?」

「……え?」

 彼は立ち上がって月を背景にポーズを取って言った。


「オイラと契約して魔法少女になってよ!」


 ――シーーーン。


 僕は返答に困り、彼はポーズを取ったまま、沈黙が数十秒経った。


「……誰?」


「え、えええー……マジでアイディから聞いてないのー?」

 彼は、「あの娘、肝心な所で抜けてるんだよなぁ……」とかボヤいている。

 その後、僕はその男に肩を掴まれたと思ったら、どこかに転移する感覚に包まれて、一瞬で景色が切り替わった。



 転移した先は訪れたことがあるアイディの塔内部の居室で、彼女は寝間着姿でテーブルを前に焼き菓子を口一杯に頬張って食べていた。

 彼女は僕らを見ると目を見開いて焼き菓子を飲み込み、素早い動きで平伏した。

「――い、いと尊き御方!“神秘の管理者”、パレス・パビリオン様!」

「あー、そういうのいいから、楽にして」


 アイディは以前とは明らかに様子が違っていて、何というか……ハイテンションだった。

「神秘を司る上位存在なのですよ!この世界に魔術を授けて、多くの使徒によって遍く普及させた上に、旧支配者の祈りを聞きとげ、我々エルス族の始祖を創造した、尊い御方なのです!!」

 彼女は陶酔した目で虚空を見つめているが、その尊き御方は苦笑いを浮かべている。

「……パレスのハッカソン・イベントで急ごしらえしたんだけどねー……ここまで長続きするとは予想外だったけど……」

 彼は小声でなんか言ってたけど意味は分からなかったな。


「で、強いマギアの証が欲しいんだよね?」

 確かに、上位存在の証ならば申し分はないんだろうね。

 こんな機会が滅多にないってのは僕でも分かるよ。

「代償は何?」

 僕がそういうと彼は片眉を上げた。

「何の代償もないって事はないんでしょ?」

「君に頼みたい仕事はあるけどねー。でも基本的には一途に恋する女の子を応援したいんだ!」

「はぁー?」

「君、ゲンマに恋してるんだろ?」

 彼は両手でこっちを指差してニヤニヤする。


 ――恋……。


 確かにあの日の事を思い返すと胸がドキドキするけど……これって恋なのかな……?


「御方……流石にそれは、ちょっと違うような気がしますが……」

 アイディは真顔でツッコミを入れてた。

「いーのいーの。要は目標に向けて頑張ってる子を手助けしたいんだよ。そこは間違ってないだろ?」

「加護を与える対象の男女比が偏っているように見受けられますが……」

「気にしない気にしない!細かい事はいいんだよ!」


 結局、僕はこのよく分からないヘンテコな上位存在、パレス・パビリオンのマギアの証を受けて、彼の使徒となったんだ。


 何はともあれ、マギアの力さえ得てしまえばこっちの物。

 これによって僕の戦闘力を大幅に上げる準備が整ったんだ。



 それ以来、彼は度々僕の前に現れた。

 ほとんどはたわいない雑談だけど、僕の強化方針の相談は参考になったし、ガチな仕事も頼まれたりした。

 その仕事の線で僕は彼の紹介でエルダーエルスの一人と出会った。


 彼の名はフェサード。


 盲目の賢者で聖人君主みたいに崇められている潔癖な人。

 でもさー、オカシイと思わない?

 建国以来の上院議員なのに清廉な評判を維持してるって、逆に胡散臭くない?

 僕もさ、人形娘だったとはいえ、一応議員の令嬢だったからわかるけど。

 政治の世界に長くいたら絶対どこかで手を汚す必要があるんだよ。

 僕の考えでは、そういう潔癖を維持してる議員って、すごく頭が良いか、もしくは、すごく隠し事が上手いか、そのどちらかだね。

 で、実際に会ったフェサードはどっちのタイプかというと、“両方”って感じ。

 要するに油断ができない相手って事。


「最初にこれは、確認しておきたいが……」

 フェサードは閉ざされた目で僕を見た。

「君はゲンマの信奉者、なのか?」

 ……うーん、どうなんだろう。彼に会いたい気持ちは本物だけど……。

「信奉者……ってのはピンと来ないかな。御方は『恋してる』とか言ってたけど……それも違う気がするんだよねー。僕は単純に振り向いて欲しいだけ!」

 多分、彼に惹かれているのは、あの圧倒的な暴力の奔流そのもので、僕は少しでもアレに近づきたいんだと思う。

 それは恋とか信奉とは違うんじゃないかな。

「無謀であるな……だが、私は若者の願望はそのくらい身の程知らずな方が好ましく感じる」

 僕が他人にゲンマへの思いを打ち明けると大抵ドン引きされるんだけど、さっすが大物。言う事が違うねー。


 とまぁ、こんな感じで、お偉いさんに気に入られて、彼のエージェントみたいな仕事が増えたんだ。

 サメイション商会との連絡とか敵対している腐敗議員の淘汰の手助けとかね。

 その合間にも父が雇った刺客がシツコク襲撃してきたけど、マギアを手に入れてからは楽々撃退してたね。

 むしろ、良い訓練になったよ。

 でも少し経って、フェサードが気を利かせて、父を議員として失脚させ引退に追い込んでくれたんだ。

 その後、家督の後継者に田舎の領地に追いやられた挙句、幽閉状態で衰弱死したってさ。

 やっぱ、怖いよねーあの人。虫も殺せない顔して息を吸うみたいに謀りごとするんだもん。

 まぁ、父の死に様に何も感じない僕も大概だけどね。

 残念なことに、家族と一緒に暮らしてた間の僕は人形だった。

 人形は情なんて持ってないからさ、仕方ないでしょ?



 面倒臭い議員の父親が失脚して、冒険者ギルドの上層部が一掃されて、エルダーエルスにコネが出来た結果、僕は再び冒険者ギルドに加入する事が出来た。


 ある意味、僕の冒険者としての経歴はここから始まったんだ。


 僕はいつもソロで未踏ダンジョンを探索する無謀な冒険者として有名になった。

 ソロ専なのには一応理由があって僕が神秘の管理者から授かった加護の一つに“一匹狼”ってのがあって、一人でいた方がステータスが上がるんだよ。

 決して人付き合いが苦手とかそういうんじゃないからね!

 友達とか普通にいるし!


 そんな、ある日……ついに……ついに!

 長年の念願が叶う日が来たんだ!!


「やっほー!初めまして!」

「……誰?君??」

「僕はコミット!ずっと君に会いたかったんだぁー!」

「……はぁ?」

「ここで会ったのも良い機会だからさ!決闘しようか!!」

「なんでさっ!?」


 冒険者になってそれなりの年月がたったある日、ようやく冒険者のゲンマに会う事が出来たけど……彼ったらつれなくってさー、塩対応もいい所なんだよねー。

 あまりにあんまりだから、ちょっと意地悪したりすると、怒ったりはするけど……なんか子供を相手にするような、あしらわれ方なんだよねー。

 ……ムカつくなぁ。



 まぁ、それはいいんだよ、別に。

 本気で怒った彼に比べたら、今の僕はまだ生まれたてのヒヨコ同然だからね。

 でも、最近、彼に新しいお気に入りの子が出来て、やたら周りに見せつけてくるんだよねー。

 確かに面白そうな子だけどさー。

 能力面で僕とそれほど差があるようには見えないんだよ。

 強そうなマギアの証と恵まれたステータス。

 明確な違いがあるとしたら、それは“魔剣”の存在。

 彼は“黒の魔剣”の所有者ってこと。


 観察していたら分かるけど、ゲンマはこの魔剣を常に警戒しているし、それを扱っている彼に“敬意”のようなものを払っているんだ。


 ……ずるいなぁ。

 僕の方が先に知り合っているのに……。


 でも、これで新しい目標が出来たね!

 僕もいつか絶対“魔剣”を手に入れてみせる!

 そして、いつの日かゲンマに振り向いて貰うんだ!!



 今の話がどこまで本当だって?

 やだなー、ぜーんぶ本当のことだよ!

 あはは、そんなに信じられない?僕が大人しいお嬢様だったって。

 だったら全部嘘だと思ってもいいよ。

 だって僕だって自分でも信じられないもん。

 信じられるのは今この瞬間だけ。それでいいよ。

 僕が信じられるのは、死と隣り合わせの状況で命のやり取りをした時の研ぎ澄まされた瞬間だけだよ。

 それだけが、僕が生きてるって感じる、確かな実感なんだ。


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