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ミステリ作家の異世界日記――小説を書こう、異世界で  作者: 黒井影絵
第8章 歴史の交差点

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a014――ヒーローチーム・アルスター〜ヒーローの苦悩

 ご機嫌よう。

 私はヒーローチーム・アルスターの一員、女魔術師のマッハ、ですわ。

 かつては上級官僚カタリ一族の令嬢として、花の王都を親の権力を使いドヤ顔ダブルピースでブイブイ言わせまくってたのも昔のこと、今は辺境の治安を守るシステムのエージェント。

 どんな小さな悪も見逃しませんことよ。


「頼む!見逃してくれ!!こ、この銀貨全部やる!!」

「んー、しょうがないにゃあ……ふぎゅ!!」

 悪党が差し出す銀貨の入った袋を受け取ろうとしたモリー様はリーダーの手刀を食らい、また悶絶されてますわ……懲りない方ですわね。

 でも、その欲望に忠実なガッツ、嫌いじゃないですわ。

「だから、真面目にやれっての!!俺たちはヒーローなんだぞ!!」



 辺境で鍛え上げられて、悪を成敗して弱者を助けるヒーロー業も板についてきました。

 それに伴って、仲間達との交流で深窓の令嬢だった私の乏しかった語彙(ボキャブラリー)が増えつつあるのも嬉しいですわ。

「ふ、ふぁっきゅー?さのばびーち?」

「そうそう。『御機嫌よう、今日は』って意味だ。中指立てつつ言うとなお良いぞ――いでっ!!」

「……いい加減な事を教えんな!」

 ダグ様にクオート流の挨拶をお尋ねした所、何故かリーダーの手刀の制裁を食らって悶絶してますわ。この人も本当に油断も隙もありませんわね。

「場所によっちゃ、これが挨拶みたいなもんだ!」

「頼むから真面目にやってくれ。彼女の役割を考えろ。民間人に喧嘩売ってどうする」

 パシオ様はどうも、あれからも精力的にお仕事をなさっているようで、官僚の令嬢令息が奴隷商人に拐かされる事件が頻発しております。

 私の主な仕事は彼らの救出の後方支援と、その後、被害者を列強諸国に送り届けるまでのケアとフォローを任されております。

 被害者の出身が龍王国でしたら、素の対話でも十分落ち着かせる事も出来ますが、最近は少数ながらエルスやクオートの方もお見受けするようになりました。

 同じ列強とはいえ、他所の国となれば常識や慣用句の細かな違いも出てきます。

 ヒーローとして民間人の信頼を得ることが肝要な任務において、コミュニケーション――社交は重要な能力と痛感しました。

「現状で十分だろ。言葉なんて意味が通じれば良いんだ」

「自分の役割を正しく捉えた上で能力を伸ばそうとするのは良い傾向だ。彼女の熱意はチームにとってプラスに作用している。もう少し親身になってくれ」

「けっ……お正しいことで」

 この人、何でこの仕事なさっているのでしょうかね……止むを得ない事情があるのでしょうけど……他にマシな方おられないんでしょうか?



 リーダーのクーフリン様は強いだけではなく、公平で面倒見もよく、理想の指導者って感じですわ。

 今のままでも十分、正義のヒーローは勤まって居られるのですが、最近は一人で思い悩んでいるのが気がかりです。

「俺は、まだまだだ……この程度では真のヒーローとはとても言えない……」

 どれだけ理想が高いのでしょうか……短い間ですが側から見ていても、文字通り超人的な活躍をなさっているのに。

「私の知る限りではクーフリン様より善良で気高い方はおりませんわ!私の目標です!」

 私はお世辞抜きの心からの言葉として言ったつもりでした……しかし、クーフリン様の表情に陰りがよぎり、彼の方はフッと笑いました。

「……俺は善良なんかじゃない」

 私はその言葉を謙虚さと捉えました、が、彼はそれを否定します。

「違うんだ」

 リーダーは私を見据えて言いました。

「忘れるな、俺たちは罪人だ。俺たちは三人とも取り返しのつかない悪を為した結果、ここにいる」

 私は返す言葉が出せませんでした。

「そして、俺の進む道の先にはそれ以上の……本当の大罪が待っている……それでも、俺は前に進まなくてはならないんだ」


 クーフリン様の進むべき道とは……その深い苦悩に、安易に他人を寄せ付けない……強い拒絶の色を確かに感じ取った私は、それ以上何も言えなくなりました。



 そんな私たちの悩みを無視して、システムのミッションは容赦無く課せられます。

 先日、私たちを陥れようとした、あの悪の魔術師が再び立ちふさがったのです。


「ふはははは、貴様のような付け焼き刃の女魔術師が、この熟練魔術師イアーゴ様に勝てるものか!」

 彼は以前同様に巻物で魔獣を召喚します。

「バジリスクに……ベヒーモスか。マッハ、バジリスクは任せた!」

「了解!」

「女一人で何ができる!行け!バジリスク、毒霧攻撃だ!」

 何とかの一つ覚えって奴ですわね、とっくに対策済みですわよ。

 私は一枚のカードを懐から取り出しました。

「《 スペルカード発動:マイティ・シールド 》!!」

「な、なに!?」

 バジリスクの毒ブレスは結界によって阻まれました。

 こうなると相手はただの中年男性です。

 鬼リーダーに鬼パワーレベリングと鬼鍛錬で鍛え上げられたシステムのエージェントの敵ではありません。

「《マグ・ チェラ 》!!」

 私は自身に速度上昇のエンチャントを用いて、イアーゴに一瞬で近づき、リーダー直伝の“サンボ”なる格闘術を叩き込みました。

「ぐぼふぉぉ――!!」

 一瞬で数発の打撃を急所に与えて意識を刈り取った事により、召喚された魔獣は消え去り、無事にミッションは完了しました。



「お役に立てたのなら、何よりです!」

 私はフォルミカ様にお礼を言うと彼女は自分の事のように喜んでくれました。

 先日の一件から、私たちは時々通知で待ち合わせをして、物資と情報の交換をしております。

 彼女の住む所にはシステムの御使様が常駐されていて、その方がエージェントである私の身元を保証してくださり、貴重なアイテムやポーションを多数融通して頂けて、大変助かりました。

 何より、同年代の女性との束の間の交流は、命のやり取りをする生活の私にとって掛け替えのない心の潤いとなりました。


 私たちは辺境の川のせせらぎを聞きながら日常の些事について……取り留めもない雑談を楽しんでおります。

「“真のヒーロー”って……なんでしょうね?」

 会話が途切れて沈黙が訪れた時に、私は気が緩んだのか心の奥に押し込めていた言葉がつい口から溢れてしまいました。

「ヒーローに本物とか偽物とかあるんですか?」

 フォルミカ様は首を傾げてます。

「……私にも良くわからないのです」

 ほんの数ヶ月前まで甘やかされた無知な小娘であった私に、そのような哲学的な問題を取り扱える訳がありません。

「私から見たら、マッハさんは立派なヒーローですよ。普通の人には悪に立ち向かうなんて、そんな勇気ないです」

 そう仰ってくれるのは大変嬉しいのですが……私の場合はそれしか進む道はなかった、というのが正解なんですよね……多分他のメンバーも同様でしょう。

 ……ちょっと、居た堪れない気分になります。

「でも、ジュン様が仰ってました!『昔の人曰く――気狂いのフリをしたら実際気狂いだし、悪党の真似をして悪事を重ねたら悪党になる、ならば善人のように善行を続けたら、その人は善人と何も違わない――つまり人間の本質は“行動”にある』って。だから、ヒーローとしての活動をずっと続けているマッハさんは行動する、事実上のヒーローですよ!」

 彼女のこの言葉に私は大変感銘を受けました。


 ――人間の本質は行動にある。


 特にこの言葉は座右の銘として心に刻みつけようと決意しました。

 彼女の目標である“ジュン様”という方はとても素晴らしい人のようです。



 そのような交流を日々重ねておりましたら、ある日の事、いつも明るい彼女の表情が若干陰っておりました。

「……どうかされたのですか?今日はお元気が無いようですが……」

「はぁ……もう、どうすればいいのか……」

 前向きで努力家な彼女が弱音を吐く程の悩みとは、一体どんな難問なのでしょうか?


 彼女に話を促して何とか事情を聞き取った私は『確かにこれは難局だわ……』と唸ってしまいました。

 コトは彼女が仲間と慰安と修行を兼ねて中立地帯に旅行にいったのが始まりです。


 中立地帯と言えば、大陸でも有数の高級リゾート地域で、王都にいた頃に知り合いが行ったと聞いたら、昔の私なら間違いなく嫉妬の炎を燃やして『むきー!』と歯ぎしりしたでしょう。

 もっとも、物の価値を知って慎ましい毎日を過ごす今となっては、そんな贅沢にキャッシュを使うのは勿体ないと即座に感じる分別が身に付いてしまいました。


 ……話を戻すと、彼女は旦那様と一緒にダンジョンでレベリングを行なった結果、二人のレベルの差が大きく引き離れてしまい、それ以降夫婦仲がギクシャクして、どうしていいのか分からないとのことです。

「私はこの辺境の地に連れてきてくれた旦那様に感謝をしてますし、末長く良い夫婦関係を維持したいのですが……最近、仕事も不調のようなのに、会話も少なく、避けられることが増えて……困っているんです」


 ……

 …………

 ………………


 ……これは由々しき事態ですわ。


 私の意識は大官僚の令嬢、カタリのイーリスであった頃に束の間、戻りました。

 その当時、王都のお屋敷では親戚のおば様方が毎日のように身内だけのお茶会を開き、身の回りの噂話や些細な人生相談等で暇を潰していたものです。

 婚約前、暇を持て余していた私も、その集まりに良く加わったものです。


 ――『そういう時は、女の方から歩み寄るしかないのよ……癪だけどね』


 遠縁の夫人が結婚後に片手間で始めた事業が予想以上に成功し、配偶者の収入を大きく超えてから夫婦関係が上手くいかなくなったという悩みを聞いた伯母様は溜息交じりに言いました。


 ――『だから結局ね、貴女が、今後どうしたいかってことよ。このまま意地の張り合いを続けて別れるか契約だけの関係でいるか、それとも恥も外聞もかなぐり捨てて女として縋り付くか……全ては貴女次第なの。向こうが折れてくれる事には期待しないことね。そんな気遣いが出来る男だったら、ここまで抉れないもの』


 離縁と結婚を何度も繰り返した伯母様は半ば諦め気味に助言なさってました。

 ――その時のお茶会の会話が私の脳裏に鮮明に想起します。


「フォルミカ様」

「は、はい」

「フォルミカ様は旦那様と夫婦関係を続けたいのですね?」

「はい!」

「その為なら何でもする、と」

「……何でも……によりますね。それが王都に戻るとかだったら私は別れます。それはプロポーズされた時も言いました。それとジュン様を目標にするのを辞めるのも嫌です……あの方は私が初めて見た“輝き”なんです」

 彼女は余程、王都に良い感情が無いようです。

 もっとも私も今更あそこに帰りたいかと聞かれたら……思いっきり渋りますね。

 今となっては何故あれほど、あの場所に留まる事に執着していたのか不思議なくらいです。

「分かりました……いいですか、フォルミカ様。旦那様は今、男としての自信を喪失して成長が伸び悩み落ち込んでいるのです。この状況をこのまま放置すればするほど事態は悪化していくでしょう。手を打つならば早ければ早い方がいいです」

「解決する手段があるのですか!」

「あります。でも、それにはフォルミカ様の、旦那様への愛と勇気が問われます」

「頑張ります!どうすればいいのですか?」

 私は深く息を吸って彼女の目を見て言いました。

「全力で………………甘えるのです!」

「……はぁ?」

 彼女は呆けた顔で硬直してしまいました。

「え……えーと、ど、ど、どのように?」

「幼女が父親に接するように甘えるのです。とにかく、愛している、あなたがいなければ生きていけないと!無邪気に、明るく、勢い大事です!」

「……それだけ、ですか?なんか、こう、仕事やレベリングの技術的なアドバイスとか……」

「この場合、実務に関する話題は禁句です。それは事前に合意しておいた方が良いでしょう。今は相手の自尊心を回復させる事が先決です」

「は、はぁー……それは旦那様の側にいる間ずっと……ですか?」

「支障があるなら、夜の間、二人っきりでいる間だけでも、そうしてください。とにかく、貴女から歩み寄ることが肝要です」

「わ、私に出来るでしょうか……私みたいな女に甘えられて……う、嬉しいものでしょうか?」

「そこは自信を持って!フォルミカ様なら大丈夫です!あなたのような可憐な方に頼られて不快になるような殿方はいません、私が保証しますわ!」

「は、はぁー……」

 彼女は顔を真っ赤にさせて俯きました。


 私は何とかフォルミカ様を励まし褒め倒し、精一杯そのか弱い背中を後押ししました。

 ……後は彼女の頑張り次第です。


 ちなみに余談ですが、遠縁の相談者の方は、勇気を出すのが遅すぎて、上手くいきませんでした。

 彼女が歩み寄った時には手遅れで、配偶者は外に愛人を作っていました。

 当然、相手方有責で契約不履行につき離縁です。

 機会というのは、いつまでもは待っていてくれないものです。

 ただ、その後に取引先で出会った方と再婚して良い家庭を築けたのが救いでしょうか。


 その日の夜、フォルミカ様がこの難しい局面を無事に乗り越える事をシステムの女神様にお祈りしました。



 後日、彼女と待ち合わせた時に、駆け寄ってくる表情が輝いていたのを見て、私はホッとしました。

 正直気が気ではなかったですわ。


「有難うございます!上手くいきました」

 私が助言した後で、周囲の信用できる女性の協力を受け、万全の態勢で事にあたり、無事に夫婦生活の危機を脱出したとのこと。

 その後、彼は人が変わったようにレベリングと仕事を精力的にこなして、今ではフォルミカ様より高レベルになったそうです。

 旦那様の性格によっては拗れてしまう事を心配していたましたが、どうやら“ちょろい”方のようで、ほっとしましたわ。

「良かったですわね、フォルミカ様」

「はい!それで、これはお礼です」

 彼女から綺麗にリボンをつけられた袋を受け取り中を見ると……これはドレス……でしょうか?

 光沢のある真紅の生地に黒いフリルやレースがふんだんに使われた贅沢で大胆な意匠です。

 王都でもここまでの逸品は簡単に入手できないでしょう。

「ダンジョンのレアドロップアイテムなんですけど、私よりマッハさんの方が似合いそうなので、どうかと……」

 カタリのイーリスでしたら、目を血走らせて『色違いはないですの?!全部欲しいですわ!』と詰め寄ったでしょう。

「ありがとう、とっても素敵ですわ」

 私はニッコリ微笑んでインベントリに納めました。

 今後、着る機会あるかしら……まぁ、人生何が起きるか分かりませんものね……。

「あ、それと……これ、お菓子です。良かったら、ヒーローの皆さんで召し上がってください」

 お菓子――!!

 私は、くわっ!と目を見開いて差し出された箱を即座に両手で受け取りました。



「ふわぁぁぁぁ……お久しぶりのお菓子ぃ……」

「この辺境でチョコレートだと……それに中に入ってるのは……酒か……かなり強い酒だな……これだけを集めて飲みてぇ……」

 私がフォルミカ様から頂いたお菓子をメンバーにも振る舞うと、二人とも甘味に飢えていたのか、陶酔した目で虚空を見ています。

 “ちょこれえと”、なる甘味は初めて口にしますが、一口味わってすぐに高級品と分かる味わいです。

 更にその内部には伝説の蜜酒(ネクタル)を思わせる酒精が入っており、強烈な甘味は微かな苦味とあいまって奥深い境地へと私を誘いました。

「これは……“ボンボン”か?懐かしい」

 博識なリーダーは味わった事があるようです。

 この方は一体如何なる出自の方なんでしょうか?

 救出された方は影でどこぞの王族の落胤なのではと噂しておりましたが……。



 謎多きリーダーは今日も夕日を見ながら苦悩してます。


 ――『俺の進む道の先にはそれ以上の……本当の大罪が待っている』


 その言葉に拒絶の色を含ませるのは、無関係の者を過酷な運命に巻き込みたくないという意思の表れでしょう。


 自分の立場や力量を考えても、ここで事情を無理に聞き出すのは筋違いの……場合によっては迷惑で足を引っ張る事態になりかねない……それは理解しています。


 ……でも、

 …………それでも、


 ――『人間の本質は行動』


 この言葉が私の心を掻き立てるのです。


 私がリーダーに比べれば、取るに足らない無能な存在であることは分かっています。

 それでも、ここでリーダーの苦悩を見て見ぬ振りをしていたら……私の存在は無能以下の――心を持たない動く死体と同じではないか――そんな内なる声を肯定することになります。


 私は勇気を振り絞り、一歩前に足を踏み出しました。


「クーフリン様!」

 私が呼びかけると、リーダーは振り返りました。

 夕日に照らされた端正な顔に暫しの間、見惚れました。

「この前、仰っていた『真のヒーロー』とは一体何の事ですか?」

 私がそう問うと、彼は少し困った顔をしまして、答えました。

「“クラス”だ」

「クラス?」

「そうだ。俺はどうしても“英雄”のクラスを得る必要がある。しかし、それを得るための条件が分からない。ヒーローとしての活動をしていれば何か掴めるのではないかと考えていたが……未だに近づけた気がしない……八方塞がりだ」

 ……考えていたのとは違う予想外の返答に戸惑います。

「あんたがそれを知っているとは思えないが……」

 リーダーは自嘲気味にフッと微笑みました。

「確かに……私は知りません」

 彼は目を閉じて頷きました。

 普通の人間は、特殊な職業でもない限りクラスの事は気にも留めません。

「でも……それなら、知っていそうな方に助力を願ってはいかがでしょうか?」

 リーダーはハッとして顔を上げて私を見つめました。

「この近くに、最近できたアースガード自治区という場所があります。そこは赤龍族のゲンマ様が統治されていると聞きました。龍王国建立以来、友人龍として人間を見守ってきた御方です。何か知っているかもしれません」

「簡単に面会できるとは思えないが……?」

「行ってみないと分かりません!」

 私の勢いに押されたリーダーは微かにたじろぎました。

「それに、その地には冒険者ギルドの幹部が在留しているそうです。多くの冒険者の育成に長年携わってきた方々なら、何らかの情報をもっているかもしれません!私の知り合いが彼らから手ほどきを受けてレベリングをしたと仰ってました!その伝手を頼って先延ばしにしている休暇も兼ねて訪ねてみても良いのではないでしょうか!」

「わ、分かった、分かったから……少し落ち着いてくれ!」

 気がつくと、私は勢い余ってリーダーに接近しすぎてしまいました。

 彼は上半身を大きく仰け反らせて、今にも倒れそうです。

「……す、すみません」

 私が赤面しつつ後ずさりすると、リーダーは、ようやく心からの微笑みを浮かべました。



 リーダーが休暇でアースガード自治区に行くことを告げると、二人は大喜びしました。

「うわーい、休暇だよぉ〜久しぶりの休暇だー、わしょーいわしょーい」

「はぁー、辺境とはいえ、久しぶりの列強の文明世界だ……命の洗濯でもするかぁ」

 今まで二人はどういう生活を過ごしてきたのでしょうか……。

「システムの御使が常駐している地だ、羽目を外しすぎるなよ」

「はぁーい」「へいへい」


 私はリーダーが停滞して苦悩しているのを見かねて勢いで後押しする形になってしまいました。


 ……。


 人間の本質は行動……私は今日、一つの行動を起こしましたが、これが将来どう転ぼうとも……後に責任として返ってくるのでしょう。


 恐らく私がどういう行動を選択しようとも、後悔する事は避けられない予感はあります。

 ならば……私の贖罪を助けてくれた、あの方の……その罪の一端だけでも背負えれば……それがどれほど重い罪であっても……。



 アースガード自治区への移動を明日に控えた私は天幕の中、就寝の準備をしていると、モリー様が顔を覗かせました。

「どうかされましたか?」

「まーちゃん……」

 彼女は俯いて小刻みに震えてます。

 私はすわっ、何事かと身構えました。

 彼女は両肩を抱きつつ、顔を上げて迫真の表情で私に訴えかけました。

「今日、ちょっと寒くない?!いや、ちょっとじゃなくて、マジ寒くなーい!?」

 ……確かに。

 冬の季節真っ只中の今時分に野宿をするのは、冷静に考えると普通にどうかしています。

 私もかなり染まってきたのでしょうか……。

「一緒に寝ますか?モリー様」

「うん!!」


 こうして私たちは同じ毛布に包まって朝まで寒さを凌ぎました。

「まーちゃん……あたたかーい……スヤァ」

 彼女の無邪気な寝顔を見ながら、私も早く寝ようと考えます。

「悩んでてもしょうがないですね……明日のことは明日考えましょう」

 私は目を閉じて風の音を聞きながら眠りの世界に身を任せました。


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