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ミステリ作家の異世界日記――小説を書こう、異世界で  作者: 黒井影絵
第8章 歴史の交差点

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049――五感あるいは冬

 ――ファンダメンタル島奇譚。


 その短編小説の元となった公式文書の記録では『ファンダメンタル島連続殺人事件[未解決]』と名付けられている。

 十人の男女が塔に閉じ込められ互いに殺しあう事を謎の上位存在に強要された悲惨な事件だ。

 物語の鍵となっているのは、探索の参加者を募った主催者、アソートだろう。

 第一の犠牲者と記録されている彼が実際死んでいない事は生存者レイドの証言でも確定だ。

 アソートは旧支配者の遺跡を研究している考古学者で、地元の住民に『星辰の塔』と呼ばれる遺跡の見学ツアーを企画し、有志と共に足を踏み入れる。

 彼は、その塔を期間限定の特殊ダンジョンと推測していたが、謎の上位存在の介入によって、それ以上に危険なイベントに参加者を巻き込んでしまった。

 彼のその後の消息は第一犠牲者で公式記録が途絶えているので不明のままだ。


 その他の関係者は……

 マユイ。地元出身の冒険者で、『ファンダメンタル島奇譚』では主人公として扱われている生存者の一人だ。

 ヒナ。地元在住の少女でマユイたちの幼馴染。生存者の一人で小説ではヒロインとなりマユイと結ばれる。祭事では月の巫女の役を演じていた。

 ハロア。マユイのパーティー仲間。彼と同じく地元出身の冒険者で、第二の犠牲者。生存者の証言では発見時にはバラバラ死体だったらしい。

 トゥナ。観光客の男で第三の犠牲者。斬首死体で発見されるが、彼に関してはどういう素性なのか良くわからない。

 クオロ。富豪の観光客でアソートに資金援助をしていたパトロンだったようだ。第四の犠牲者。

 アラエ。クオロの愛人で彼と共に第四の犠牲者となる。

 ロゴス。アソートの友人で歴史研究家。最後のボス戦で命を落とす。『ファンダメンタル島奇譚』には登場しない。

 トム。冒険者でクオロに雇われた用心棒。最後のボス戦で活躍するも力尽きる。彼も小説には登場しない。

 そして、レイド。エルス族の謎の青年で生存者の一人。


 公式文書の記録と比較すると、あの巻物の作者は、概ねの筋書きは史実を辿りながらも最後のボス戦を全カットしてクライマックスを真犯人アソートとの対決シーンに置き換えたようだ。

 その大胆な翻案によって『ファンダメンタル奇譚』は短編でありながらミステリとして読み応えのある作品に仕上がっている。

 小説を書く、という事であれば、現段階で集めた資料でもそれなりの、百点満点で六十点くらいの完成度の物は書けるが、この件はお世話になったレイドの依頼である。その程度の小説にはしたくない思いがある。

 そうすると、最低限、現地の空気感をどうしても掴んでおきたい。

 となると、どうしても、一度は現地に赴く必要はある。



 去年の今頃を思い返すと、中立地帯のレベリングを終えて王都に到達した頃だろうか。

 当時のプリムム村は冬の結界によって陸の孤島と化していたが、現在は外壁のある自治区という事で、結界の有無に関してはこちらの裁量に任されている。

 自治区の要人と話し合った結果、結界は貼らないが、冬の間、住民が外壁の門を通じて自治区を出入りするのにギルドや役所の許可が必要として制限することにした。

 もっとも、自治区内に稼働している転移門があるので、外門から訪れる旅人はほとんどいない。しかも今は冬だ。


「まぁ、冬の間は大丈夫でしょ。だから、ゆっくりしてくれば?」

 嵐のように忙しかった自治区運営も冬季に入り余裕が見えた、この機会にまとまった休みを取って旅行に行く計画がメンバーから立ち上がった。

「ボクが留守番しているから、みんな羽を伸ばしてくるといいよ」

 ゲンマは珍しく自分から留守番役を買って出た。

 いつもなら強引に割り込んでくるのにどうした?

「ボクが付いて行ったら、また公式行事のオンパレードになるよ?それじゃ慰安旅行にならないでしょ」

 ……そうだった。去年のイベントラッシュの事を思い出した。

 当分の間、正装は御免被りたい。

 今年こそは寝正月を目指すのだ。


「では、参加者を募ってきましょう。希望者全員を一つにまとめて動かすのは万が一が起きた時に大変なので二班に分けますか」

 ここ最近、ずっと面倒な裏方を押し付けてしまった森川は嬉々として計画を立てている。

 なんかすまんな。

「私は、こういうのが好きでやってますので……所で、先生はメガロクオートに取材に行くのですか?」

「ああ。一度は行ってみたいと考えているが……」

「では、中立地帯班とクオート班で分けますか。王都やエルスにはいつでも行けますからね」


 周囲の人間に声をかけると、中立地帯でレベリングしたい者とクオート観光を希望する者が半々くらいだった。

 ナス子は中立地帯でのパワーレベリングに興味があるようだ。

「いつまでも皆さんに負んぶに抱っこじゃ申し訳ないですので……せめて冬の間にステータスくらい上げておきたいです……あのダンジョン、少し怖いですけど……」

「はーっはっはっはっ、俺が引率するから心配すな!」

 クロード先輩は今年もアリーナム・モヌメントでのパワーレベリングと闘技場のイベントで経験値とキャッシュの荒稼ぎをするようだ。

 中立地帯を希望したのは、ナス子、ヨネ子、エリノア、フォルミカ、エドガルス、デン、ジュン、といった面々だ。

 シモネムもパワーレベリングを希望したが……

「おめーはちょっと頭でっかちなんだよなぁ……素質も実力も十分あるが、経験と見識が圧倒的に足りてない。今は我武者らに修行するよりかは、少し諸国を巡った方が今後のためになるぞ」

「……はぁ」

 とクロード先輩に諭されて、渋々クオート観光組に回された。


 クオート組は、俺、テルさん、森川、シモネム、それとモモちゃんだ。

 サリシスは自治区に待機を希望した。冬季とはいえダンジョンが営業中である為、治療院は暇ではないらしい。

「二、三日だけでも中立地帯に来ないか?」

「んー……それくらいなら、なんとか……寂しいの?カンナヅキ」

 最近、お互い忙しいし、子供を迎える前に一度は旅行しておきたいんだがなぁ……。

「そうだね。これからもっと忙しくなるだろうし……でも、あのね……」

 彼女はそっと耳打ちした。

「……子供が出来て母胎院に迎えに行くまで、あんまり……しない方がいいよ。一度に何人も赤ちゃんが出来たら大変だし」

 どうやら、この世界に避妊という概念はないようだ……。

「それに、いい機会だから、モモさんと仲良くしてきたら?彼女、恋愛には奥手だからカンナヅキがもっとしっかりリードしないと、ってテルさんも言ってたよ」

 ……仲がいいのは結構だけど……修羅場になるよりかはいいんだけど……物分かりが良すぎて逆に怖いんだが。


 ジョイスは未訪のメガロクオートに若干の興味はあったようだが……

「結界が貼られない影響で行商隊が来る予定が増えたんだ、孫を迎えるまでに少しは稼いでおきたい。それに、ゲンマだけに留守番させる訳にはいかないしな」

「ジョイス、大好き!」

「どさくさに紛れてブレス吐かれたら堪ったもんじゃないからな」

「そんなことしないよ!……多分」

 メンバーの大半が不在だがゲンマもいるし、アイディとモジュローも待機してくれているので守りは万全だろう。



 俺たちは一旦、中立地帯の以前滞在したホテル・テントリュムモートスの最上階に宿泊した。

 初めて来るメンバーは規格外の豪華さに驚き、一度訪れた事のあるナス子とヨネ子も溜息をついた。

 ここは宿泊料が高額すぎて、実質的に龍族専用の別荘扱いになっている。

「本当にすごい贅沢な部屋ですよね……流石、王族御用達というか……」

 デンはダンジョン攻略の話をクロード先輩に念入りに聞いていた。

「新しいダンジョン!しかも高難易度!楽しみです!!」

 早くも期待で盛り上がっているが、対照的にジュンは憂いに満ちた溜息をついた。

「はぁ……お姉様と暫しの別れ……辛い……」

 ジュンは例によってデンの付き添い役らしい……気にしないで付いてくればいいのに。

「それが、ギルド長のデンスさんにお目付役を頼まれちゃったし……それに寝込んでた分のリハビリも必要だから仕方ないわ。せっかくだから高級リゾートを満喫するわよ」

 この大陸でここ以上の贅沢空間はそうないからな。

 ジュンは一応大富豪の令嬢だけあって、寛ぐ姿も様になっている。

 その横で庶民であるエリノアとフォルミカは部屋付きの執事が淹れた茶を緊張しながら飲んでいる。

「広すぎて、お……落ち着かない……」

「慣れますよ……きっと……ははは……」

 自慢じゃないが、俺は今だに慣れないぞ。



 俺たちは到着した日にエルス共和国から帰ってきたオルトとローラ嬢と合流した。

「もー、大変だったよ……」

 龍王国辺境の一青年であるオルトは、エルス国内でも有数の名家サメイション商会の令嬢と婚約するために、完全アウェーを覚悟して相手方の家を訪ねた。

 彼女の両親は実直で理知的なオルトの人となりを気に入ってくれたが、親戚や役員は令嬢を馬の骨に取られたのが面白くないのか当初は冷淡だったそうだ。

 しかし、オルトが手土産として黄金林檎の詰め合わせとエリクサー数本を進呈すると目の色を変え、さらに、アースガード自治区でエリクサーの安定量産を目指していると抱負を語ると、手のひらを返すように友好的になって予定を超えた連日の大歓待を受けたそうだ。

「ご両親に挨拶だけして、すぐに帰る予定だったのになぁ……」

「……無理でしょう。エルス商人が、この商機をスルーするなんてありえませんわ」

 オルトは当初は二日で帰ってくるつもりだったらしいが……流石に俺でも無理だろうな、と思っていた。

 案の定、留守を任されたヨネ子とエドとセツは大変だったようだ。

「私は三日後に自治区に戻る予定ですが……オルト様、よろしかったらカンナヅキ様と共にメガロクオートへ行ってみてはいかがかしら?」

「えっ!でも保留にしてる業務が溜まってるんじゃ?」

「それくらい何て事ないですわ。それが婚約の条件ですし。それに……」

 ローラ嬢はそういうと思わせぶりな目線でオルトを見つめた。

 二人はしばし見つめあい……オルトは明後日の方向を見て言った。

「あー……そうだね。これからメガロクオートとの取引もしなくちゃいけないし……事前の視察は必要かもね」

 微妙に不自然なやりとりに俺は首を傾げる。

「という事ですので……カンナヅキ様、オルト様をよろしくお願いしますね」

 ローラ嬢はそう言うとにっこり微笑んだ。



 その三日後、俺たちは予定通りに転移門を通じてメガロクオートに到着した。

「あまり、異世界に来たって感じはしませんねぇ……」

 森川は首都ショーサホロの様子を見てポツリと呟いたが、俺も同感だ。

 この都市はあまりにも現代的すぎる。

「へぇー、チキュウってこんな感じの街が普通なのかい?王都ともエモートとも雰囲気が全然違うね!」

 オルトは初めて訪れる都市に興奮気味で、眼に映るもの全てが珍しいようだ。

「この首都ショーサホロは元々只の平野であった土地に一から築き上げた歴史の新しい都市です。我々クオートの民の開拓精神の象徴とも言えるでしょう」

 案内人のジューベーはそう簡潔に解説する。

「旧支配者の遺物に頼らずに、これ程の都市を構築できるのか……クオート族と人間は」

 シモネムもオルト同様に周囲を凝視している。

「といっても、この街から一歩外に出れば、列強の辺境と変わらない景色が広がってますよ。これからみなさんをご案内するファンダメンタル島も同様です」

 そう。今回はファンダメンタル島にまずは行ってみるのが目的だ。

 例の事件は夏の祭事の出来事だったが、下調べは十分にしておきたい。

「治安はどうなんでしょうか?やっぱり辺境は危険ですか?」

 モモちゃんは心配げに聞いた。

「辺境でも警備ゴレムが巡回してますし、人間領域よりは遥かに安全ですよ。そもそも、このギルド幹部のソレガシが案内する以上、旅の道中の安全は保証しましょう」

 ジューベーは人形の顔でキリッっとして答えた。

「所で昼食は如何致すか?ファミレス?カレー?それとも、牛丼ですかな?」

 ……本当にここ異世界なのか?なんか調子狂うな。


 その後、森川とモモちゃんが牛丼屋かファミレスかで対立し、激しく言い争いになり、俺の必死の仲裁により行われたジャンケン三本勝負の結果、牛丼屋で決着がついた。



「もう思い残す事はない……」

 久方ぶりの牛丼を堪能した森川は恍惚とした表情でそう言った。

 たかがB級グルメで早まるなよ!

「ううう……オムライス食べたかったのにぃ」

 牛丼特盛を掻き込むテルさんを横目にしつつ、ジャンケンに負けたモモちゃんは悔しそうだ。

 それくらい俺が作ってやるぞ。とろとろふわふわの奴。

「やったー!チキンライス食べたいんですよー」

 そういえばメガロクオートならケチャップくらいありそうだな。

 醤油とかウスターソースがあるくらいだし。

 前回スーパーもどきを訪ねた時は何故かケチャップとマヨネーズは見当たらなかったんだよな。

「けちゃっぷ……はて?」

 しかし、尋ねてもジューベーは首を傾げている。

 そういえば、この世界は米がないんだよな……もしかしたらトマトも存在しないのかもしれない。

「……」

 俺が『トマト』と口をした瞬間ジューベーは沈黙し、俺たちの間に気まずい空気が流れた。

「あの……」

「申し訳ない……カンナヅキ先生……どうか、メガロクオートにいる間はみだりに“ト”から始まる言葉は口にされないようお願いします」

「えっ……えぇっ?」

「お願いします」

「……はい」

 その重々しい雰囲気に押されて、理由は聞けなかった。



 ショーサホロから転移門で海外沿いの都市に移動して、馬車に揺られてファンダメンタル島近くの港町パコダに到着した。


「これが……海……」

「何と広大な……」

 オルトとシモネムは初めて見る冬の海の荒々しさに絶句していた。

 鉛のように重苦しく分厚い雲の下の海は黒に近い深い青色で、寄せては返す波は力強く岸辺を激しく叩きつける、何度も何度も。

 この港町は龍大陸の南端に位置している。

 ここから船でさらに南下した所に目的地であるファンダメンタル島がある。

「船の予約は取ってますよ。少し天候が荒れてますが、まぁ、時間もかからないし大丈夫でしょう」

 ジューベーはテキパキと木製のチケットを配った。

「僕は船に乗るの初めてだけど……大丈夫かなぁ……」

 オルトは心配そうだ。そういえば、船酔いに効く魔法とかポーションってあるんだろうか。

「帰ったらナス子さんに聞いてみる?もっとも自治区では需要なさそうだけど」

 オルトはふふふと笑った。

「自治区ではないだろうけど、海運が盛んな地域ではあるかもな。それに船以外の乗り物にも効くなら酔いやすいモジュローも助かるかも……」

 俺たちがそんな会話をしている横で森川とシモネムは荒れ模様の海を見ながら、既に青い顔をしている。

「……絶対、船酔いしますね……賭けてもいいです」

「……船酔い、とは?」



 ファンダメンタル島行きの船は案の定、テーマパークのアトラクションのように荒ぶっていた。

 森川とシモネムはやっぱり船酔いして、シモネムは胃の中の物を吐き出した後、蒼白な顔で客室に横たわっていた。

 山育ちのオルトが意外と平気だったのは予想外だ。

「やっぱり、冒険者に向いているのかもな」

「そ、そうかな……」

 とはいうものの、船を降りた時、しばらく足がフラついていたのはしょうがないだろう。

 テルさんとジューベー以外、全員そうだったし。

「修行が足りてませんよ?皆様」

「ぐぐぐ……不覚……とんだ醜態を晒してしまった……不甲斐ない!」

 シモネムは無念そうだが……いや、無理だって。初見なんだし。

「うう……まだ足元が揺れてる……変な感じ」

 気丈でタフなモモちゃんも流石にお疲れのようだ。


 俺たちは宿屋に直行して、その日は早々に休むことにした。



 ファンダメンタル島は事前情報の通り、辺境の素朴な漁村だった。

 村の産業は小規模な古代から続く人力の漁業と、島のあちこちに残る、旧支配者時代の遺跡や祭事を利用した観光業が半々といった状態だ。

 冬の閑散期の今は観光業は休業中で、宿の主人には季節外れの観光客である俺たちは訝しげに思われた。

「はぁー龍王国から来なすったとか!物好きだねぇ、こんな何もない所にわざわざ!」

 宿屋の主人のシルルスは食事を運んできた時に呆れたように言った。

「ここは寂れた漁村なんでね。支配種族のクオート族様すら滅多に来ないような土地だよ。もっとも、海産物の鮮度に関しては首都のレストランにも負けてないがね!まぁ、沢山食べてってよ!」

 主人が自信を持っていうだけあって、俺は久しぶりに美味しい海産物をたらふく食べた。

 特にデカい海老の塩焼きや新鮮な刺身、採れたてのウニや牡蠣は漁村でしか味わえない味覚であり酒の肴にピッタリで、俺は気の置けない仲間との宴を楽しんだのだった。



 その夜、俺とテルさんはジューベーに内密にと前置きされて要人を紹介される。

「この村の長を務めております、セフィリアと申します」

 仲間が寝静まった頃、フード付きの外套を羽織った女性はそう名乗った。

 黒髪の年の頃二十代くらいで野生的な顔立ちの意志の強そうな人だ。

「この方が冒険者ギルドに依頼されたのです。謎の輩が森の奥地で怪しげな儀式を執り行っている気配があるので調査して欲しい、と」

 そういえば、晩餐会後のパーティでそんなこと言っていたな。

「森には魔獣が生息していて村民は近づくことはできません。人の行き来が少ない冬の間に何かを仕掛けられて、観光シーズンに事件でも起きたら大変なことになります。どうか、誰が何をしているのかだけでも調査をお願いします」

 正規の船便で訪れた季節外れの来客である俺たちでも住民に注目されていた。

 怪しげな魔術師が村人に見つからずに森の奥まで行けるものなのだろうか。

「恐らくですが、島の裏手に海につながっている洞窟がいくつかあるらしいです。そのどこかに秘密の港を作ったのかもしれません。現在、冒険者ギルドで人を使って調査している所です」

 ここは大事な取材先でもある。

 何かあったら協力しようと、俺は二人に約束してその日は眠りについた。



 しかし、その約束を果たす機会は訪れなかった。

 朝、食事を終えて村を散策していると、森の方から激しい爆発音が聞こえて来た。

 村中に緊張感が走り、村人は集会場に集い不安そうに怯えた。

 俺たちは宿屋で待機していると、ジューベーがやって来た。

「どうやら、森の奥に誰かが何かの施設を立てていたようですが……爆発で跡形も無く吹き飛んでいました」

「何が起きたんだ?」

「考えられるのは……何かの実験か儀式を行って失敗したか、もしくは我々の調査に気付いて証拠隠滅を図って逃亡したか、です。どちらにせよロクな話ではありません」

 タイミング的には後者なんだろう……冒険者ギルドも機密情報が漏れているのか。



 その後、現場に訪れると、確かに建物の骨組みの痕跡しか残っていなかった。

 周辺を探索している警備ゴレムと冒険者ギルドの調査員が数名いる。

「ジューベーさん、こんなものを見つけました」

 調査員が差し出したのは爆発の衝撃でひしゃげたバッジのような金属片で、この世界の文字で“RM”を形取った意匠だった。

「秘密結社が絡んでいるのか……」

「秘密結社?イフリードか?」

 俺がそう問うとジューベーは首を振った。

「これはその敵対組織である“リマインド”の紋章でしょう。旧支配者を崇拝している点ではイフリードと同じですが、秘密主義が強く、何がどう違うのかまでは把握できてません」

 秘密結社か……元同業者のウォクスなら知っているかな。

 自治区に帰ったら聞いてみよう。



 宿屋に帰る途中に小説の舞台となった“星辰の塔”に立ち寄った。

 想像していたより小さな建造物だったが、内部は上位存在が管理するダンジョンであることを考えると、外観から見て想定するものとは違うのだろう。

 長い年月を経た遺跡に相応しい風格を纏っているが経年劣化で装飾はボロボロになっている。

 正面の扉は事件以降開かれたことは無いらしい。


 俺は何気なく扉に刻まれた紋章に手を置いてみる、


 ――ゴォ――ン


 鐘の音のような幻聴が頭の中で鳴り響き、遠くから威厳のある声――誰かが語りかける声が聞こえたような気がした。


 ――『偉大なる系譜に連なる者よ、まだ来るべき時では無い』


「先生!!」

 テルさんの声でハッとした俺は我に帰った。

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ……」

 どうもスッキリしないな……。


 ここに来れば全てが分かる……なんて大それたことは思ってなかったが……結局謎が余計に増えてしまった。



 その後、俺たちは残りの日程を予定通り取材と観光で埋めた。


 もてなし好きの村人は健啖家のテルさんの食べっぷりを面白がり、珍しい郷土食をあれこれ持って来たおかげで、俺は魚介類を使った塩辛のような発酵食品や魚醤のような調味料を入手できた。

 独特の強烈な臭気にメンバーは辟易していたが、こういう珍味って慣れるとクセになるんだよな。

 森川とモモちゃんも久しぶりに仕事から離れて休暇旅行を存分に堪能していた。

 俺もみんなと釣りをしたり洞窟を探検したりと楽しい時間を過す。

 モモちゃんとの距離も以前より少しは縮まったと思う……多分。


「……自分は何と愚かだったのか……世界の広さも知らずに小さな世界に閉じこもることに満足していたのか……」

 シモネムはメガロクオート辺境の荒削りで広大な大地と初めて直に感じる大海原に感銘を受けたようだ。

「クロードセンパイのいう“見識”という言葉の意味を理解した気がする。魂は言葉にあらず、五感を使って世界を受け入れることも成長の糧である……マスター!自分はまた一つ学びを得ました!」

 真面目か!

 彼が遊びの精神を理解する日は何時になるやら……。


 こうして、冬の休暇を過ごした俺たちは自治区に帰還したのだった。


※村長の名前を変更しました。

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